勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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勇者を辞めても善行を続けていたんですね!

「俺は旅に出るんだよ。あっちに行け」

「嫌です」

 

 ベラトリックスの長い髪がふわりと浮かんだ。周囲にある小石がカタカタと揺れているし、魔力のコントロールが甘くなっているみたいだ。

 

 魔女と呼ばれるほど高い魔力をこの場で爆発されたら、被害がどこまで大きくなるか予想できない。

 

 最悪、王都が吹っ飛ぶぞッ!!

 

 だからといって同行の許可を出してしまえば本当に付いてくる。それは避けたい。俺は女遊びがしたくて溜まっているものが爆発しそうなのだ。今も下半身がうずいて――。

 

「あ、あ、あ、あの!」

 

 声をかけられたので思考を中断して顔を上げる。

 

 薄汚れた服を着た少女がいた。

 

 スラム街の住民か? このエリアにいるなんて珍しい。周囲から注目を浴びている。

 

「昨日はありがとうございました」

 

 ばっと勢いよく頭を下げた。

 

 見覚えがない顔なのに、なんでお礼を言われたのか分からない。戸惑っていると少女が勢いよく話し出す。

 

「昨日いただいたお金で薬が買えました! これでお母さんも良くなると思います!」

 

 ……んんッ!? ああ! 娼館に入れず、ワインボトルと一緒に銀貨を渡した少女か! 薄暗かったので顔までは覚えてなかった。

 

 気まぐれでやっただけなので礼なんていらないのだが。

 

 余裕なんてないはずなのに律儀な性格をしている。

 

「さすがポルン様! 勇者を辞めても善行を続けていたんですね!」

「おい! 馬鹿!」

 

 慌ててベラトリックスの口を塞いだが遅かった。

 

 周囲が俺の正体に気づいてしまう。

 

「勇者だって? ……たしかにあの顔は見たことあるぞ」

「俺もだ! この前、スラム街で炊き出ししてた姿見たから間違いない」

「代替わりしたという噂は聞いていたが本当だったのか?」

「見返りを求めずに行動するなんて、本当に素敵な方なのね」

「立場ではなく、その心のあり方が勇者なんだろう」

「なにそれ! すてき!」

 

 やばい、やばい、やばい!!

 

 クビになっても持ち上げられているぞ!!

 

 このままじゃ聖人として扱われてしまう!

 

 娼館の出禁が延長されるじゃないかッ!!

 

 誤解を解かなければ!

 

「私は分かってましたよ。本当に高潔な精神を持っているって」

 

 嬉しそうにしているベラトリックスが少女に硬貨の入った袋を渡した。

 

「薬が足りなければこれを使ってください。もし誰かに奪い取られてしまったら聖女トエーリエに頼ってもらえればと。今回のことを伝えればきっと力になってくれますよ」

「ありがとうございます……っ!!!!」

 

 感動で涙を流しながら少女が、また頭を下げた。

 

 周囲は拍手している。中には銀貨を渡す者が出るほどの熱狂だ。

 

 勇者だったとき以上に高潔なことをしていると勘違いされている……。

 

 今回のことは王都を中心に大きな町ぐらいまでは、すぐに噂が広がるだろう。

 

 新勇者に目障りだと思われて女遊びどころじゃなくなるかもしれない。排除される前に逃げ出してやる。

 

 誰も俺のことを知らない場所に行こう。

 

 うん、よし、国外への脱出だ!

 

「では一緒に行きましょうか」

 

 ベラトリックスが蛇のように腕を絡めてきた。力が強く引き剥がせない。

 

 焦っていて存在を忘れていたよ……。

 

 逃亡計画は一瞬にして頓挫してしまった。

 

 いつの間にか乗合馬車が停留所に止まっていて、引っ張られながら入ってしまう。他の客も乗り込んできて逃げ出す隙はない。

 

 仕方なく座席に腰を下ろす。

 

「俺は自由に生きる」

「知ってますよ。私と田舎でゆっくり過ごしましょう。ポルン様と一緒ならどんな生活でも楽しいです」

 

 いやいやいや、そんな笑顔で言われても困るぞ。

 

 自然な風を装っているが、俺の意見をまるっと無視しやがって!

 

 せっかく勇者の肩書きがなくなったのに監視役が付くと遊び回れない。

 

 戦闘能力はベラトリックスの方が高いので力尽くも難しいだろう。少し考え……現状の打開を一時的に諦めた。

 

 これはただ撤退ではない。戦略的な撤退なのである!

 

「好きにしろ。だがもう俺は勇者ではない。ベラトリックスの小言は聞かないぞ?」

 

 パーティメンバーは仲間でもあり、監視役でもあった。

 

 人としての道を踏み外そうとしたら警告される。言うことを聞かなければ国王にまで報告が行って相応の処罰が下る。

 

 その中で最も悲惨だったのは、勇者が村娘を襲った罰として去勢されたことだろう。

 

 その話を聞いた日に、勇者である間は絶対パーティメンバーの助言は無視しないと決めたものだ。懐かしい。

 

「うるさいことを言っていたのは最初だけですよ。すぐに理想の勇者様になられたので、むしろ私たちが勉強させてもらうことの方が多かったんです」

 

 未使用のまま息子を殺されたくないんだから当然だろッ!!

 

 ろくな教育を受けてないクソガキが、良識ある大人のフリができるまで必死に勉強したんだよ。

 

「これからは違う。勇者だった頃の俺を期待していたら失望するぞ」

「そんなことありませんよ。絶対に」

 

 悪行なんてしないと信じているのか……?

 

 ベラトリックスとは十歳からの付き合いだが未だに何を考えているのかわからない。

 

 裏で何をしているのか調べようとしたこともあったが、隠形の魔法を使われて見失ってしまった。

 

 光属性は汚染獣によって毒や呪いを放つようになった場所を浄化する力しかないので、勇者は何でもできるわけじゃないんだ。幸いなことに俺は槍の扱いが上手かったので戦いでは活躍していたが、それでも騎士団長のヴァリィより劣る。冒険者と同じぐらいの強さしかない。

 

 俺が特別だったのは勇者という立場と光属性、この二つだけなんだよ。

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