勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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色々と教えてください!

「ルビーの鉱山を発見されたんですか。それはすごい。領地が豊かになって良かったですね」

 

 無知を装い褒めてみると、案の定、アイラの表情は暗くなった。

 

「私も同じように思っていました。これでみんな豊かな生活ができる、と。実際その通りになりましたが、失ったものも大きかったんです」

「何かあったのでしょうか?」

 

 ためらうように口を小さく開き、すぐに閉じてからしばらくして、アイラは話し出す。

 

「お金があると聞きつけた悪い人たちが集まってきたんです。最初は町で発生する暴力事件や窃盗が増えて治安が少し悪くなった程度でしたが、次第に誘拐や殺人など重い犯罪も起こるようになり、衛兵を総動員しても一向に良くなりませんでした。さらに悪いことは続き、お母様は病によって半年前に死んでしまい、お父様は横暴な性格になり、不要な贅沢をするようになりました」

 

 田舎の貧乏男爵であれば、衛兵なんてほとんどいなかっただろう。重大事件に対する知見も少なかっただろうし、採用を強化してもすぐには対応できなかったはずだ。

 

 さらに母親が死に、金の力によって父が血迷ってしまったと。

 

 貧乏人が大金を手にすると不幸になるという童話があったが、貴族社会でも同じようなことが起こるんだな。

 

「そんなとき、とある貴族が助力すると言っていただけて、お父様は面倒事が解決するならと受け入れてしまいました。騎士を派遣していただき領内の治安は改善したんですが……」

「裏があったんですね」

 

 うなずくとアイラは口を開く。

 

 きっと止まらなくなったんだろう。誰かに言って楽になりたい。そんな感情が伝わってくる。

 

「今度は鉱山が襲われるようになったんです。警備を配置してもすぐに裏をかかれてしまい、被害は非常に大きく採掘が完全に止まってしまいました」

「それでまた、他貴族に助けを求めたんですか?」

「提案はされましたが、鉱山の一部利権をよこせと言われたので断りました」

 

 そのぐらいの判断力は残っていたらしい。

 

「それからしばらくして、私は誘拐され……」

「ここにいると」

「はい。実家には、脅迫メッセージが届いていると思います」

「もしくは、事情は聞いた、助けるから報酬として鉱山の一部利権をよこせと言っているかもしれませんね」

 

 脅迫しているなんて言ってしまったら、ヴォルデンク家を狙っている貴族の立場は悪くなる。王家が介入して裁いてくるかもしれない。

 

 であれば、あくまでも善意の第三者として接した方が都合は良い。

 

 そうすれば怪しくても誰も罰せられない。

 

「その可能性もありますね。ポルンさんのおかげで脅す以外にも方法はいくつか思い浮かびました。ありがとうございます」

「ただの偶然です。思いつきですよ」

「そういうことにしておきますね」

 

 隠していたことを吐き出してスッキリしたのだろう。先ほどよりも声が柔らかい。

 

 少しは信用を獲得できたとみていいはずだ。

 

 よい雰囲気のまま、黙って干し肉をかじる。唾液で柔らかくして飲み込むと、アイラが見ていることに気づいた。

 

 唇を尖らせて不満ですとアピールしている。

 

 子供っぽい仕草に口元が緩んでしまった。

 

「私は自分のことを話したんですから、ポルンさんも何か教えて下さいませんか。黙ったままはズルいです」

 

 なんとも可愛らしい理由で拗ねていたようだ。

 

 今まで周りにいなかったタイプなので面白い。断っても空気が悪くなるだけなので、誤魔化しながらもっと信用してもらえるよう、面白エピソードを話そう。

 

「これは失礼しました。アイラ様が楽しめそうな話しあったかなぁ……」

「なんでも良いんです! お仕事とか、何が好きなのかとか、色々と教えてください!」

 

 目をキラキラさせて俺の話を楽しみにしているみたいだ。

 

 期待に応えられるよう頑張るか。人よりも多く冒険をしてきたのでネタは多い。一晩程度なら語り続けられるだろう。

 

「では、たいした話ではありませんが、魔物退治をして村を守ったときの話でもしましょうか」

 

 汚染獣を魔物に置き換えて、数々の村や町を守ってきたことを臨場感たっぷりに教えると、アイラは手を握りながら静かに聞いてくれた。

 

 争いとは無縁だったようで楽しんでくれているようだ。

 

 俺が知っている貴族どもなら平民の話なんて聞こうともしなかったので、意外な反応である。

 

 素直な性格なのは、あまり贅沢な生活をしてこなかったからだろうか。

 

 楽しくなってしまったので、戦い以外にも宿にいた男どもと飲み比べして倒れた話やスラム街で暗殺者に襲われたことまで話してしまった。

 

 気がつけば夜が深まり、アイラの目は半分閉じている状態になっている。

 

 話したりないが終わりだな。

 

「今日はここまでにしましょうか。明日も早いので寝ましょう」

 

 返事をする力も残ってないのだろうか。こくんと頷くと固い地面の上で横になった。

 

 すぐに寝てしまったようで、静かな寝息を立てている。

 

 自分がつけているフード付きのローブを地面に敷くと、アイラを持ち上げて上にのせる。多少はマシな寝心地になったことだろう。

 

 俺も眠くなってきたが夜番をするため横にはなれない。

 

 洞窟の周辺に罠を仕掛け、体が冷えないよう焚き火を続けながら、短い睡眠を何度か繰り返して体力を回復させる。

 

 勇者時代は寝ないで戦い続けることも多かったので、この程度の休憩でも体調は崩れない。明日以降も問題なく魔物と戦うパフォーマンスは維持できる。

 

 * * *

 

 心配していた追跡者の存在もなく、無事に夜が明けた。

 

 早めに移動したいため、まだ寝ているアイラの体をゆるする。

 

「ベレッサ、もうちょっと寝かせて~」

 

 と寝言をいってから、がばっと起き上がった。

 

 俺をメイドか何かと勘違いしたことで顔を真っ赤にしている。

 

「おはようございます。明るいうちに移動しましょうか」

「は、はい」

 

 気づかいできる男なので先ほどのことには触れず、荷物をしまって背負い袋と槍を持つ。

 

 一緒に洞窟から出て森の外を目指すことにした。

 

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