勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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逃げないでください

「お久しぶりです。ポルン様」

 

 にこやかに挨拶しているだけなのに、強敵と対峙しているような圧を感じた。

 

 再会したばかりなのに少し怒っている。俺は何かマズイことをしてしまったのだろうか? 思い当たることがないので謝ることすらできない。

 

 黙っていると、先にアイラが反応した。

 

「……様? ポルンさんって実は偉い人なんです?」

「いや、そいういうわけじゃ……」

「あなたは、誰ですか?」

「彼女は……アイラ・ヴォルデンク様と言って……」

「へぇ、貴族の方なんですね。ふーーん」

 

 トエーリエとアイラの間に挟まれて冷や汗をかきながら名前を教えたが、状況は悪化しているように感じている。

 

 何が危険なのか、といわれれば具体的なことは分からない。言葉にできないからこそ恐ろしいのだ。

 

「ベラトリックスから聞いてないのか?」

「ああ、そういえば、なんか言ってた気がします」

 

 使い魔にヴォルデンク家の令嬢を守っているということを伝えていて良かった。ようやくトエーリエからの圧が弱まった気がする。

 

 とはいえ、なくなったわけじゃないが。

 

「えーと、お二人はお知り合いか何かで?」

 

 一人、事情が全く飲み込めてないアイラは戸惑っている。説明しないと。

 

「彼女はトエーリエ。回復魔法のエキスパートで俺の仲間です。例の問題については何も知りませんが、言えば必ず助けてくれるでしょう」

「この前言っていたお仲間の人……女性だったんですね」

 

 一瞬だけ表情が暗くなったがすぐに戻った。気のせいだったのだろうか。

 

 簡単な説明だったが納得してくれたようで、数歩前に進んでトエーリエの前に立つ。

 

 お互いに目を離さない。笑顔ではあるのだが、どこか嘘っぽさも感じ、何とも言えない緊張感が発生している。

 

「初めまして。ポルンさんには、色々とお世話になりました。この町の領主の娘、アイラ・ヴォルデンクです」

「ご丁寧にありがとうございます。私のことはトエーリエとお呼びください。ポルン様とは何年も一緒に旅をしてきた仲間、と思っていただければ幸いです」

 

 この場では家名まで名乗らなかった。

 

 他国の貴族ともめるため、トエーリエの判断は正しい。素性をすべて話す必要は無いのだ。

 

「何年も一緒に行動された割には、なんだか距離のある呼び方をされているのですね」

「それほどの立場ですから。何も知らないアイラ様が羨ましいですわ」

「でしたら、教えて頂けないでしょうか。ポルンさんのことを」

「身内になれば自然と教えてもらえますよ」

「あらそうなんですね。でしたら、すぐにでも事情を言ってもらえそうです。よかった」

 

 挨拶が終わってお互いに味方だと分かったはずなのに、ピリピリとした空気が続いている。

 

 近くを通りかかった人たちが怯えて距離を取るぐらいわかりやすい。

 

 町の治安を俺たちが乱してどうするんだよ……。

 

 トエーリエはともかくアイラまで、ああなってしまう理由は思い浮かばないが、落ち着いてもらわなければ困る。

 

「そこまで。これからしばらく一緒に活動するんだから仲良くするように」

 

 二人の間に立って肩に手を置く。

 

 文句の一つでも言われる覚悟をしていたが、トエーリエは引いてくれた。

 

「今回はポルン様の顔を立てることにしましょう。で、何をしに二人で歩いていたんですか?」

「光教会に用があったんだよ」

「どうしてです?」

 

 元勇者だと身分を隠して行動しているのは、トエーリエも知っていることだ。光教会なんて用はないはずなのに、なぜ行こうとするのか。

 

 そういった疑問が浮かんでいるんだろう。

 

「俺が呪われてないか確認したくて、な」

 

 言った途端、トエーリエは目を細めた。

 

「どうしてそう思われたので?」

「いや、その、なんとなく、かな……?」

 

 エロイベントが上手くいかないから調べたいとは言えず、あははと笑いながら誤魔化す。

 

 眉にシワが寄って、疑うような目つきになった。

 

「本当ですか? 何か変なことがあると思うきっかけがあったのではありませんか」

「いや、そんなことはない。ほら、トエーリエたちと別れてからしばらくたっただろ? 医者に健康を見てもらう感じで、呪われてないか調べようと思っただけなんだよ。理由なんてそんなもんで、差し迫った危機があるわけじゃない」

 

 ちょっと早口だったが、すらすらと言い訳をしてみた。

 

 さらにシワが深くなって顔が近づいてくる。

 

 じっと見つめられてき気まずい。

 

 耐えきれずに目をそらしてしまった。

 

「逃げないでください」

「逃げてない」

「だったら私を見てください」

 

 仕方なく視線をトエーリエに戻す。

 

「…………いいでしょう」

 

 顔が離れた。

 

 ようやく一息つける。

 

「呪われてないかは、私が確認します」

 

 聖女とまで呼ばれた彼女は、呪いに関する知識も豊富だ。解呪した姿を何度も見ているし、他人に任せるより安心できる。

 

「それじゃ頼んで良いか」

「もちろん。【アナライズ】」

 

 解析するための魔法が発動された。俺の中に何かが入ってくるよう感じがする。これを弾き出せば抵抗成功となり、何も情報は得られない。

 

 今回は味方であるトエーリエが使ったので素直に受け入れる。

 

「健康そのものですね。呪いの気配はありません。大丈夫ですよ。この私が保証いたします」

「本当か? すごく弱いけど何かあるって事はないのか?」

「ありません」

 

 短く、冷たい声で言われてしまった。寒気がするほどだ。これ以上触れるな、そんな雰囲気を発している。

 

 プライドを傷つけてしまったかな?

 

 また空気が悪くなっても嫌なので、ここは引き下がるか。

 

「わかった。調査助かった」

「ポルン様のためであれば、このぐらい何度でもしますよ」

 

 ここでようやく笑顔になってくれた。

 

 ほっとする。

 

 

 

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