勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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そのお言葉、信じます

「私は侮辱をしたつもりはございません。忠言として受け止めていただけばと」

「毎晩、兵士たちと屋敷内で賭場を開いているお前が忠言だと?」

 

 穂先を少し前に出してロイドの喉元にピタリと付く。

 

「ぐっ」

 

 殺意が伝わったようで口を閉じた。

 

 これで戯れ言を聞かなくて済む。

 

「改めてお伝えしますが、捕らえた二人は鞭打ちをした後、十年ほど牢で過ごしてもらいます。また余罪が多ければ処刑になるでしょう。よろしいですね?」

 

 裁く権利は領主にある。従士ごときに許可を取る必要はないのだが、あえてロイドに認めさせることによって共犯みたいな意識を植え付けるのが目的だろう。

 

 やるな。

 

 めざましい活躍に感動すら覚える。

 

 この調子なら、ロイドは先ほどのような態度をとれないだろう。喉に突きつけていた槍を引いて話せるようにする。

 

「わかった……いや、わかりました」

 

 口調が気にいらなかったので睨みつけると、焦りながら言い換えた。

 

 心をへし折ってやったが不穏分子なのは変わらない。さっさと排除するべきだろう。

 

「よろしい。それでは二人の処分はそのように進めます。次は他の者について、です」

「どういうことでしょうか?」

 

 部下を生け贄にすることで逃げ切れると思ったようだが、それは甘いぞ。アイラは不正をただすためにお前を呼び出したのだ。

 

 この場に来た時点で逃げるなんてできない。

 

「先ほど私の護衛が言ったとおりロイドは賭場を開いていますよね? 我が家では禁止しているのに、なぜされているのですか?」

「…………」

「黙っていたらわかりません。答えてください」

 

 汗が浮かび、目がせわしく動いている。追い詰められているように見てた。

 

 逆上すれば俺に殺されるかもしれないと思い、大人しい。

 

「言ったら私はどうなりますか?」

「内容次第……と言いたいのですが、ロイドは長年仕えていた功績があるので正直に話せば不問とします」

 

 このタイミングで甘い囁きをした。

 

 抗いがたい魅力を感じたことだろう。

 

「何があってもですか?」

「もちろん。約束しましょう。あなたが知っているすべてをしゃべってください」

「……そのお言葉、信じますからね」

 

 ふぅと息を吐いて、ロイドはデスクから離れて直立する。

 

「我々が賭場を始めたのはルビー鉱山によってヴォルデンク男爵のお金使いが荒くなってからでした。領内は潤っているのに我々の給金は上がらない。その不満が積み重なって、気晴らしに始めたんです。最初は銅貨一枚、二枚という少額で始めたのですが、みんな熱中してしまい次第に掛け金が上がっていき、兵の中には支払い切れない者が出てきました。今回捕まえられた二人は数ヶ月分の給金と匹敵する借金を背負ってましたね」

 

 だから領民から飯をタダで食べようとしたのか。

 

 ロイドの説明に納得してしまった。

 

「領民に暴力を振るい、物を奪うような兵は他にもいますか?」

「いえ、アイツらだけです。他はまだ、一線は越えておりません」

「よかった……後で裏付けは取りますが、ロイドの言葉を信じましょう」

 

 賭け事だけであれば内々で処理できる。

 

 不幸中の幸いだと思ってアイラは安堵したのだろう。

 

「他に知っていることは?」

「賄賂ですね。金さえ払ってもらえば情報を話すヤツは多いかと」

「ロイドも?」

「私にも従士としてのプライドはあります。やっておりません」

 

 嘘だな。メイドからの情報でロイドも情報を売っていることは把握している。

 

 この場に及んで保身に走りやがったか。

 

「でしたら、本日中に賄賂を受け取った兵を報告してください。内容次第ですが鞭打ちの罰だけで終わらせてあげましょう」

 

 きっとロイドは泥沼に引っかかった気分でいるだろう。

 

 自ら動いて、部下の不正を報告する憎まれ役にならなければいけないのだから。

 

「そこまでするのですか?」

「ええ。当然です。処刑されないだけ温情をかけてもらったと思って欲しいですね」

 

 にっこりと微笑んでいるアイラは、第三者で有る俺ですら恐怖を覚えるほどだ。

 

 人の上に立つ者だけのオーラがあり、ロイドは格の違いを感じていることだろう。

 

「すぐにまとめて報告いたします」

「待ってますからね。早めにお願いしますよ」

「かしこまりました」

 

 慌てて背を向けるとロイドは部屋から出ていった。

 

 ドアが閉まり足音は遠ざかっていく。

 

「あ~~~~。怖かった!」

 

 急に力が抜けたようで、デスクにもたれかかった。

 

 俺を見ていて訴えているような目をしている。口に出されなくても求めていることは分かった。

 

「領主代理として素晴らしい対応をされたと思います」

「本当ですか!?」

 

 がばっと勢いよく立ち上がった。

 

 犬の尻尾があったら大きく振っていることだろう。

 

「もちろんです。ロイドの扱いは完璧でした。使用人たちはどうしますか?」

「毒殺を図ったメイドは予定通り代理を処刑して重罪の兵だけを鞭打ちにする姿をみれば、二度とやろうとは思わないでしょう。ポルンさんはどう思います?」

 

 温い気もするが、処罰の対象が多くなれば内部がガタガタになってしまう。立て直しに時間がかかり、その隙を狙われてしまう。

 

 妥協、という意味では良い判断だと思えた。

 

「罰の与え方は賛成です。後は飴も与えないといけませんがどうします?」

「とりあえず全員の給金を倍にします。また労働環境も見直しましょう。人が足りてないようであれば新たに雇います」

 

 ここまですれば、心を入れ替える人も多いだろう。

 

 もし何も変わらないヤツがいたら、牢にぶち込めば良い。ちゃんと前に進んでる。そういう実感があった。

 

 

 

 その日の夜、ロイドは情報を流していた兵について報告してきた。

 

 メイドの話と照らし合わせても内容は正しいと思って良いだろう。本人を除いては、な。

 

 温情を無視したロイドは再び不正をする可能性が高い。頭が腐ったままであれば人を入れ替えても無駄だ。俺がこの地を去れば、また本性をむき出しにしてアイラを脅そうとするか、もしくはヴォルデンク男爵が回復した後、手を組んで不正をすることも考えられる。

 

 処刑を終わらせた後、彼にも相応の罰を下そうと思っていた。

 

 * * *

 

 ロイドは町で、やけ酒を飲んで夜道を歩いている。人にぶつかりながら帰路についているようだ。

 

 俺は離れた距離で監視をしていると、道ばたで薄着の女性を見かけると声をかけた。

 

「お嬢ちゃん、綺麗じゃねぇか。いくらだ?」

「銀貨五枚」

「ふーん。相場より高ぇが、その顔なら納得だ。払ってやるから俺の要求はすべて受け入れろよ」

「もちろんです」

 

 妖艶な笑みを浮かべた女性は、腕を絡めてロイドと誰もいない路地裏に入っていった。俺も後を付いていく。

 

 細く分岐の多い道を進み、行き止まりに着いた。

 

 物陰に隠れて様子をうかがう。

 

「先ずは口からお願いしようか」

 

 カチャカチャと音をながらしながら下半身を露出しようとしている。

 

「あら、せっかちなんですね」

 

 女性はロイドの胸を軽く押して距離をとった。

 

「何をする?」

「まずは私の体をじっくり見てくれませんか」

 

 言いながら服に手をかける。

 

 胸元が少し見えた。

 

「いいだろう」

 

 腕を組んで眺める体勢を取った。

 

 そろそろいいだろう。このタイミングで忍び寄るとロイドが振り向いたので、槍を喉に突き刺す。

 

「ガハッ、ゴホッォ、ゴボッ」

 

 血が混じった咳をしながら、俺の姿を見て目を大きく見開いていた。

 

「お前……嘘を……」

「約束したのはアイラ様だ。保身のために仲間を売り、嘘をついたお前を許すつもりはない」

「ク……ソが……」

 

 恨むような目をしながら抵抗出来ず力尽きてしまう。

 

 槍を回転させ肉をえぐりながら引き抜くと地面に倒れた。

 

 自らの罪を告白して反省していれば見逃していたんだけどな……。

 

「ポルン様、お役に立てましたか?」

 

 ロイドを誘った女――トエーリエが服の乱れを直しながら声をかけてきた。

 

「ああ。助かったよ」

「お力になれて嬉しいです」

 

 怖い思いをしたのだろう。抱きついてきた。

 

「こんなことに関わらせてすまなかった」

「今さらですよ。私たちはいつもこうして、邪魔な罪人たちを消してきたじゃないですか」

 

 汚染獣がいると都合の良い人間というのも一定存在する。そいつらが権力を持っている場合は、勇者として活動する俺を邪魔者扱いすることも多かった。時には暗殺者を仕向けてくることもあって、俺たちは常に人とも戦ってきたのだ。

 

 今回はその延長線上……というと少し違うかもしれないが、邪魔者を消すという点においては同じだろう。

 

 汚れ役に関わらせてしまった贖罪代わりに、トエーリエの背中へ手を回して強く抱きしめた。

 

「この死体はどうします?」

「小銭を奪って放置だ。物取りの犯行か、不正を報告されて恨んだ兵の仕業だとして処理されるだろう」

 

 実はアイラも今回のことは伝えてあるので、犯人は見つからずに終わるんだけどな。

 

 領地のために手を汚す。

 

 それすらできるほど領主代理として成長を続けていた。

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