勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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近づいてはいけません!

「くそッ。こんな場所にどうして上位の魔法使いが……」

 

 四肢を魔力で作られた槍に貫かれたというのにまだ立っている。

 

 恐るべき胆力だ。大きな利権を手に入れようと画策していたのだから当然かもしれないが、バドロフ子爵の部下にも優秀な人材はいたんだなと驚く。

 

「攻撃されるのが分かっているんだから準備したんだよ」

「貴族の小娘にそんなことできるわけないだろッ!」

 

 誘拐される前まで令嬢として大切に育てられ、貴族の汚い部分を隠されながら育ってきたアイラのことを考えれば、仲介人が侮ってしまっても誰も責められない。俺だって立場が向こう側なら同じ判断をしていた。

 

 今まで領地を運営していた男爵は毒で衰弱していることから、ルビー鉱山の利権獲得だけじゃなく乗っ取りすらできるかもしれない。そんな計画を描いても不思議ではなかった。

 

「できたんだよ。現実を受け入れろ」

 

 だが計画通りには進まない。アイラは誘拐された途中に俺と出会った。

 

 それで運命が変わったのだ。

 

「クソ……ッ」

 

 血が流れ続けて力が抜けたのか、仲介人は膝をついた。

 

 反撃する力は残っていないだろう。

 

 兵を連れてたアイラが家から出てきて近づいてくる。

 

 その瞬間、仲介人が笑った。

 

 血が流れ出ている腕を腰に付けているポーチに入れたのだ。殺気が膨れ上がる。何かする気だ。

 

「アイラ様! 近づいてはいけません!」

 

 警告したのと同時にベラトリックスが壁に開けた穴から飛び降り、アイラの前で防御魔法の『障壁』を使った。

 

 カチリと音がなる。

 

 俺は持っている槍を投擲して仲介人の額を貫く。

 

 即死だ。力が抜けて仰向けに倒れるが安心はできない。ポーチに突っ込んでいた手が外に出ると、黒い球体が地面に転がる。あれは爆発の魔法が封じ込められている魔道具だ。

 

 スイッチを押すだけで起動する。

 

 本来なら爆発まで十秒ぐらいのタイムラグがあるのだが、自決用に改造されていたみたいで時間が短縮されているようだ。発見と同時に起動した。

 

 熱風と金属片が周囲を襲う。

 

 ベラトリックスの『障壁』に守られている兵とアイラは無事だが、俺はまともに攻撃を受けて吹き飛んでしまう。

 

「ガハッ」

 

 家の壁に当たり血を吐き出した。腕で顔を守っているので即死はしていないが、至近距離だったこともあって革鎧を貫通して全身に金属片が突き刺さり、重傷を負っている。全身が痛い。

 

「ポルン様っっ!!」

 

 爆風は一瞬で過ぎ去り、すぐさま周囲が安全になると、ベラトリックスが駆け寄ってきた。

 

「俺は大丈夫だ」

 

 汚染獣との戦いで何度も死にかけたことはある。この程度のケガだって一度や二度じゃない。痛みには慣れているので笑顔を作って安心させる。

 

「それよりも良くアイラ様を守ってくれた」

 

 指示すら出してないのに優先順位を誤ることがなかった。

 

 改めて頼もしい仲間だと感じる。

 

「当たり前ですっ! 酷いケガをしているんですから黙っててください! 早く治しましょう!」

 

 涙を流しながら俺の口に回復用のポーションをつける。

 

「苦いから……」

「子供みたいなこと言わないでくださいっ! トエーリエに叱ってもらいますよ!」

 

 それは嫌だな。彼女は怒ると本当に怖いんだ。

 

 両方の頬を押されて口が開く。無理やり喉に流し込まれ、仕方なく飲み込む。

 

 非常に苦い。吐き出したくなるが、気合いで耐える。

 

 すぐに効果を発揮してくれたようで、肉が盛り上がって体内にめり込んでいた金属片が排出され、傷口が塞がっていく。失われた血も少しは戻ってきたようで、貧血のような症状は改善した。痛みも引いている。

 

「助かった」

 

 服や鎧はボロボロになってしまったが全員生きている。作戦は半分以上、成功したと思って良いだろう。

 

 だが、仲介人が死んでしまったのは痛い。バドロフ子爵につながる手がかりの一つが消えてしまったからな。

 

 ただ、優秀な手駒を減らしたことには変わりないので、トータルで見れば利益の方が大きいだろう。

 

「大丈夫ですか……っ?」

 

 アイラが駆け寄ってきたので手を振って元気だと答えるけど、気づいてくれなかったようだ。飛びついて抱きつこうとする。

 

「まだ仕事中です」

 

 それをベラトリックスが間に入って邪魔してしまった。

 

 抱きついて欲しかった俺は、こっそりと残念に思ってしまうが、貴族の令嬢に手を出して良いことはない。トラブルを未然に防いだと考えることにしよう。

 

「この後はどうしますか?」

 

 仲介人の死体は肉片になってしまっているので、所持品の調査どころか人相の確認も不可能である。

 

 確固たる証拠は手に入れた羊皮紙ぐらいか。

 

 後は室内に何か残ってないか調査するだけだが……不正をしていた兵たちには任せられない。

 

「俺は部屋の中を調査します」

 

 質問してしたアイラに予定を告げると兵を見る。

 

「誰も入ってこないよう周囲を警備だ」

「はっ!」

 

 兵は侵入しようとした住民に声をかけ、離れるように指示を出し始めた。

 

 暴力を振るわないのは、見せしめに牢へぶち込んだ兵の影響があってだろう。少しは心を入れ替えてくれたようだ。

 

「私も一緒に探します」

「危険があるかもしれませんよ?」

「覚悟の上です」

 

 どうしようかと悩んでベラトリックスを見る。

 

「魔法的な罠であれば私が感知できます。ポーションもまだ残ってますし、同行されても大丈夫かと思いますよ」

 

 防御魔法を使えば爆発みたいな攻撃は防げる。人手が不足しているのでアイラの提案はありがたいし、受け入れても良いか。

 

「わかりました。三人で家の中を捜索しましょう」

 

 

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