勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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楽しみにしています

 死なれてしまったが、笛があれば手がかりになる。漁ろうとして手を伸ばすと男の死体はドロドロと溶けてしまった。身につけていた武具なども同じだ。笛も残ってないだろう。負けたら証拠を隠滅するような仕込みをされていたのか。

 

「うっ」

 

 グロテスクな見た目だったこともあり、アイラが目をそらした。臭いもきつい。

 

 俺とベラトリックスは肉が溶けるような死体は何度も見たことがある。しかも一体や二体ではない。村や町の住民全員だったこともある。だから嫌でも慣れてしまい、この程度じゃ動揺するような人らしい精神は失っていた。

 

 鉱山にいる敵は全滅させたと思うが調査は必要だ。倒れている兵を蹴り起こす。

 

「後処理は兵に任せて、我々は他の場所を確認しに行きましょう」

 

 意識を取り戻したばかりである二人の兵が同時に俺を見た。命令を撤回してほしそうな顔をしているが、何を言われても変えるつもりはない。

 

 戦いで役に立たなかったのだから、そのぐらいはしてもらわないと困る。報酬分の働きを期待しているぞ。

 

「では、そうしましょうか」

 

 溶けてしまった死体から早く離れたいのか、アイラはベラトリックスを連れて部屋を出て行ってしまった。

 

「後で戻ってくる。それまでに終わらすんだ。頼んだぞ」

 

 激励のために兵の肩に手を置いてから、俺も後に続いて出ると坑道を歩く。

 

「ポルン様」

「なんでしょう?」

「先ほどの敵は汚染獣でしたよね。瘴気をばらまいていて……」

「浄化されたと」

「はい」

 

 汚染獣との戦闘でアイラは俺が勇者だと気づいたのだろう。確信が持てないのは、今までの行動がおかしいからだ。

 

 森の中を一人で歩き、汚染獣と戦わず、ヴォルデンク家の手伝いばかりしているなんて、勇者らしくない行動だ。人類の切り札との出会い方としては異例中の異例。魔物を狩る冒険者や雇い主を探している兵と言われた方が納得できる。

 

「今まであえて身分は明かしていませんでしたが……知りたいですか?」

 

 アイラは俺の顔をじーと見ながら悩み、ゆっくりと口を開く。

 

「止めておきます」

「どうしてですか?」

「隠す理由があると思ったからです。私はポルン様が自らの意思で言ってくれるのを待つことにします」

 

 なんともまぁ、控えめな態度だ。俺はこういった女性に弱い。教えてあげてあげたくなってしまうが、もう勇者ではない。光属性を持っているただの一般人である。個人として動いているだけなので、求められないのであれば自ら名乗る必要はないだろう。

 

「その時が来たら教えますね」

「楽しみにしています」

 

 会話が終わって無言となる。

 

 足音だけが坑内に響き、敵が現れることなく順調に進む。

 

 奥にたどり着くと鉱夫たちが倒れていた。ツルハシが手にあるので作業中に倒れたのだろう。

 

 生死を確認するため首を触る。脈はない。ルビー鉱山に関わる人間は徹底的に殺すという意思を感じた。

 

「死んでますね。瘴気にやられたみたいです」

 

 笛で呼ぶまで汚染獣は、ここにいて監視していたのだろう。体は温かいので俺たちが来るまで、いたぶっていたのかもしれない。改めて消滅させて良かったと思う。

 

「…………」

 

 目を閉じたアイラは鉱夫たちの冥福を祈っていた。

 

「死体の処理も兵たちに任せたいので休憩所まで持っていきましょう。ベラトリックス、頼めるか?」

「お任せ下さい」

 

 ポンと胸を叩いてから魔法を使う。

 

『フロート』

 

 魔法が発動した。死体が、ふわりと腰ぐらいの高さまで浮かぶ。

 

 来た道を戻って休憩所に入って床に置く。兵たちに処理を頼むと信じられないというような目で見ていたが、放置してすぐに出る。

 

 分岐点にまで戻って左の道を選ぶ。地図に書いてあったとおり、しばらく進むと行き止まりだった。誰もいない。また戻って最後まで残していた真ん中の通路へ行く。

 

 一体奥に何がいるのだろうか。槍を握る手に力を入れて、先頭を進む。

 

 何度か曲がって奥に付くと荷台だけがあって、地面にはルビーの原石と思われる石がいくつか転がっていた。炭夫がいても良さそうなのだが死体すらないが、瘴気は残っていた。残り香にしては濃い。中型以上の強さをもつ汚染獣がいた可能性は高い。

 

「瘴気が残っているので、ここにも汚染獣がいたようですね」

「では、ポルン様が戦った個体は、鉱夫たちが死んでいた場所にいたのですよね?」

「ええ、間違いありません。ですから、ここにいたのは別の個体です」

 

 結局のところ分かることと言えば、他にも汚染獣がヴォルデンク領内にいる、ということだろう。バドロフ子爵が操っているのであれば、どこかで暴れているはず。小型ぐらいまでならヴァリィやテレサの弓があれば倒せるが、メルベル宰相のように特別な汚染獣がいたら話は変わる。

 

 俺がいなければ間違いなく全滅してしまうのだ。

 

「ヴァリィたちに汚染獣の存在を伝えたい。使い魔を放ってくれ」

「わかりました」

 

 ベラトリックスが魔法を使うと、クリスタルで作られた鳥を産みだした。ルビー鉱山での出来事を羊皮紙に書いてまとめると、足に着けて放つ。

 

 もし村の方も襲撃されたとしても不意打ちは避けられるだろう。

 

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