勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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私は仕事や家より、友人と好きな男を選ぶ(ヴァリィ視点)

 ポルン様の命令によって私とトエーリエ、テレサは、ヴォルデンク領で最も重要だとされている村に来ていた。目の前には収穫間近の黄金の小麦畑が広がっている。風が吹くと揺れていて見ているだけで気持ちが安らぐ。

 

 同行している兵は五名ほど。数は少ないけど町の警備もしなければいけないので、この数が限界だった。その代わりにアイラ様の雇った冒険者が十人居るので、魔物や野盗が襲ってきても村の被害をゼロにしたまま迎撃できる体制は取れている。被害を無視して勝つだけならもっと大規模な敵でも対処は可能だ。

 

「どうしてポルン様は、あんな小娘を守ろうとしているの?」

 

 表面上は普通に見えるトエーリエだが、内心ではアイラに対して怒っている。ポルン様を奪われたとでも思っているのだろう。実際の所、私もそれに近い感情を持っている気持ちは分かる。

 

「さぁ、どうしてだろうね。あれほど汚染獣を憎んでいたのに、なぜ人との争いに首を突っ込むのか……自由になったんだから、好きなことをすればいいのに……」

「それはダメです」

 

 心が震え上がりそうになる声で私の声を遮った。

 

 仲間だというのに殺意のこもった目で見ている。

 

「私たち以外の女性には手を出させません」

 

 ポルン様が望むのであれば女遊びぐらいなら目をつぶっても良いと考えていたけど、ベラトリックスとトエーリエは絶対に許さない方針だ。

 

 その執念は恐ろしい。

 

 相手の居場所が分かる呪いや、下心をもって接しようとした女性に嫌われる呪いを愛する相手にかけるほどである。しかも巧妙に隠しているので発見しにくく、ベラトリックスも協力して解呪が難しい仕組みにしていると言っていた。

 

 普通そこまでやる? と思ったけど、下手に刺激したらさらに暴走しそうだったので何も言えなかった。

 

「わかっているよ。私はトエーリエやベラトリックスの考えを尊重する」

「なら良いんです」

 

 ようやくトエーリエの殺気が収まった。

 

「だけど、ずっとこのままってわけにはいかないだろ? どうするつもりだ?」

「…………」

 

 本人は隠しているみたいだけど、ポルン様は汚染獣が住む樹海へ入っていき、命尽きるまで戦うつもりだとわかっている。

 

 今はそうなる前の思い出作り……という名の世直しをしているに過ぎず、平和な家庭を築いて生涯を共に過ごすなんて夢は実現しない。

 

 それをわかってしまっているから、トエーリエは黙ったまま現実逃避して答えないのだろう。

 

「はぁ。まったく、昔から変わらないな」

 

 肩に腕を回して密着する。

 

「家のことは忘れて、ポルン様の後を追ってみんなで思い出作りしよう。家庭を築くのは難しくても子供ぐらいは作れるよ」

「良いの? ヴァリィは部下もいる立場ですよ?」

「メルベル宰相が新しい団長を見つけてくれるさ。私は仕事や家より、友人と好きな男を選ぶ」

 

 国を出てポルン様を追いかけながら将来についてずっと考えていた。

 

 今は休暇というかたちで処理してもらっているが、あと数ヶ月でそれも終わる。国に戻れば親が決めた相手と婚約しなければ行けず、私の未来は決まってしまうのだ。もし自分らしく生きるのであれば、今が最後のチャンス。これを逃せば好きではない男との結婚は避けられない。

 

 家のために生きるか? 自分のために生きるか?

 

 結局のところ私は友人の影響を受けて、後者を選んだのだった。

 

「家の方はどうするのですか? 跡継ぎは貴方しかいないのですよ」

「親戚の子供を養子にすれば解決だよ。私よりトエーリエはどうするつもり?」

「自分の気持ちに従うって、今決めました。私はポルン様の子供を産み、育てます」

 

 本人の意思をまるっと無視した発言だけど、きっと最後は受け入れてくれるだろうから問題はない……はず。泣き落とし作戦でもしよう。

 

「それはいいね。ベラトリックスも賛同してくれるだろうし、三人で子供を身ごもるのも楽しそうだ」

「ふふ。いいですね。賑やかな家庭になりそうです」

 

 子供が生まれたら、ポルン様の考えが変わるかもしれない。そういった期待もあって、私たちは明るい未来になるよう祈りながら笑っていた。

 

 これからもずっと一緒に――と、このタイミングで幸せな妄想を破壊する匂いがした。

 

「ヴァリィ!」

「わかってる! 近くに汚染獣がいるっ!」

 

 うっすらとだけど、魂までも腐り落ちてしまいそうな空気が村に漂ってきた。

 

 まだ距離はありそうだけど、間違いなく汚染獣がいる。

 

「テレサはどこだ?」

 

 対汚染獣の武器を持っているのは彼女だけ。戦うにしても逃げるにしても協力してもらわなければ困る。

 

 周囲を見渡していると村にある小さな櫓の中にいた。私たちよりも早く察知したみたいで弓を構えて麦畑の向こう側を見ている。

 

 私たちはどうするべきか。一緒に戦うことは難しい。村人を避難させるか?

 

「使い魔が来ました。ポルン様からの連絡みたいです!」

 

 クリスタルで作られた鳥がトエーリエの肩に止まった。足に付いている羊皮紙を取って中を見ていると顔が険しくなった。

 

「ルビー鉱山の方にも汚染獣が出ていたらしいです。アレを操る道具があるみたいですよ」

「ポルン様が言うのなら本当なんだろうな……信じられない」

「それなら人の言葉を使う汚染獣も同じです。現実を受け止めましょう」

 

 その指摘はごもっともだ。少し前まで王国内に不死身の汚染獣がいるなんて思いもしなかった。

 

 私たちが知っていることはごく一部でしかない。その事実に気づいているからこそ、すんなりと納得できた。

 

「使い魔に汚染獣が近づいていることを伝えたから、ポルン様はこっちに来てくれるはずです。それまで私たちにできることをしましょう」

「そうだな」

 

 先ずは村人たちの安全が優先だ。

 

 危険を知らせて守りを固めるため、私たちは夜遅くまで奔走した。

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