勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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できれば本体も確認したいけど(ヴァリィ視点)

 翌日の早朝。村はまだ無事だけど空気の汚染は強くなっている。

 

 いつ襲われても不思議ではない。雇った冒険者は逃げ出してしまった。兵とトエーリエ、テレサは村人を守るために残り、私は汚染獣を操作している人がいないか探すため、村から離れて瘴気が濃い方向を探している。

 

 結構な時間歩き回っているけど場所は特定できない。薄く広げて隠れているようで、知能の高さを感じる。

 

 さすがに大型、それも特殊な個体ではないと思うけど、中型ぐらいの危険度はありそう。

 

 不意を突かれたら瘴気によって体が汚染されて腐ってしまうから、派手に動きたくはない。少しでも多くの情報をポルン様に渡すためにも生きて帰らなければいけないのだ。

 

 小麦畑の真ん中に作られた道路を歩く。

 

 左右には成長しきった小麦があって見通しは悪かった。

 

 もし畑の中に隠れてたら見つけるのは困難で、不意を突かれるかもしれない。

 

 村に引き返した方がいいかな?

 

 いえ、それはダメ。やっぱり戦う前に汚染獣の情報を集めないと。見た目だけでも分かれば攻撃手段は予想できる。せめてそのぐらいは把握しておきたかった。

 

「こっちに女がいたぞ!」

 

 小麦畑から見慣れない兵が飛び出てきた。槍を構えて私を見ている。

 

「バドロフ子爵の手下?」

 

 返答の代わりに穂先が迫ってきた。正確に顔を狙っているけど、あまりにも遅い。汚染獣を警戒して魔力で身体能力を上げていた私からすれば止まっているようにも感じた。

 

 首を傾けて避けると柄を握る。

 

「クソッ! 離せ!」

 

 敵が槍を引こうとしているけど、びくともしない。力の差は歴然としていた。

 

「汚染獣が近くにいるかもしれない。早めに逃げなさい」

「見え透いた嘘をつきやがって。俺は欺されないぞ。女は一人だけだ! 早く助けに来い!」

 

 瘴気が薄いから私の言葉を信じてくれなかった。

 

 汚染獣が操作できることを知らない時点で、この男は捨て駒だというのは確定している。仲間が集まったらまとめて処分しよう。

 

「おい! 早く来いよ!!」

 

 焦りながら大声を上げているようだけど仲間は一人も来ない。敵もおかしいと感じているようで、挙動不審になっている。

 

「まさか、お前が殺したのか……」

「ううん。出会ったのは貴方が初めて。ねぇ、お仲間って何人いるの?」

「教えるわけないだろ!」

 

 槍を諦めた男は手を離すと後ろに下がり、腰にぶら下がっていた剣を抜いた。

 

 切っ先は震えている。仲間が来ないから心細いのかな。練度が低い。私の騎士団には絶対、入れないレベルだ。

 

「汚染獣の放つ瘴気が空気に含まれているから、この辺が臭いんだけど気づいてる?」

「…………」

「この近くには私しかいない。そして私は貴方の仲間には出会ってない。近くに潜んでいる汚染獣に殺されたと思えないかな?」

「…………村人を殺すだけの簡単な仕事なんだ。汚染獣みたいな化け物がいるなんてありえない」

 

 現実を直視したくないみたいで言葉では否定しているけど、震えがさらに大きくなっているのに気づいた。心のどこかでは、私の言ったことが正しいと思っているんでしょう。

 

 一歩前に出ると男は二歩下がる。

 

 心は完全に折れているみたい。逃げ出さないのは背中を見せるのが怖いから?

 

 だとしたら隙を見せてあげ……危ない!

 

 急に近くで殺気が膨れ上がったので後ろに大きく跳躍した。私が先ほどまで立っていたところに、ベチャりと溶けかけた肉が落ちる。

 

 それ単体が生きているかのようにうごめいていて、ゆっくりだけどこちらに近づいている。

 

「汚染獣の一部……やっぱりいたんだ」

 

 敵の男に声をかけようと思って見ると、複数の溶けかけた肉にとりつかれ、倒れていた。

 

 最初に口と鼻を塞がれたのが致命傷だったみたいで、意識を失っている。体からは白い煙が上がっていて肉が見えていた。捕食しているみたい。

 

 囲まれたら私も同じ運命をたどる。

 

 さらに後ろに下がって距離を取る。麦畑から次々と汚染獣の一部だと思われる溶けかけた肉が出てきて、男に群がる。私だけで処理できる量を超えていた。

 

「できれば本体も確認したいけど」

 

 様子を見ていても出てこない。瘴気の濃さも変わってないので近くにはいないと感じた。

 

 村まで戻ろうかな。

 

 ん? 男を捕食していた汚染獣が大きくなっている。見間違いじゃない。あれは食べて成長しているんだ。

 

「村や町にはいったらマズイね。とりあえずこの場にいるのだけでも消そうか」

 

 剣に魔力を流し込むと刀身を中心として半透明の巨大なハンマーが作られた。魔力を物質化させる私の特技だ。切っても殺せそうにないので、叩き潰す武器を作った。

 

 両腕をあげると、ハンマーを勢いよく振り下ろす。

 

 敵の男ごと溶けた肉片を潰した。

 

 魔力を解除して剣に戻して様子を見る。

 

 ピクリ。

 

 溶けた肉片が動いた。

 

 あぁ……これは物理じゃダメなタイプだ。魔法はどうだろう。炎で焼けば倒せるかもしれないけど、もし耐性があったら光属性持ちしか処理できない。

 

 どちらも私はできないことなので村に戻ろう。

 

 間に合うなら村人全員を避難させる。そうしないと、溶けかけた肉が大きくなって倒すのが難しくなってしまう。

 

 背を向けると全力で走る。

 

 村に戻ると最悪な光景が広がっていた。数え切れないほどの溶けかけた肉が襲撃していたのだ。

 

 村長の家に立てこもりながらテレサやトエーリエが戦っているけど、数が多くて後手に回っている。

 

 光の弓は強力だけど、魔力を多く消費するので物量で来られると対処できない。

 

 こうなったら無事な村人だけでも助けて撤退するしかないけど……囲まれているから難しいかも。

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