勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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おっと、そこまでです

 たった一人で奮闘していたヴァリィの居場所はすぐにわかった。あまりにも危機的な状況だったので、村の守りを忘れて全力で飛び込み、光属性の魔力を放出して村の中にいた汚染獣はすべて消し去っている。

 

 ヴァリィの汚染された体は元に戻っているが、戦っている最中に受けたケガは残っている。抱きかかえると急いで村長の家に入り、トエーリエに回復してもらった。

 

「これからどうされるのですか?」

 

 一緒に村まで来たアイラが不安そうな顔をして聞いてきた。顔色が悪く怯えているようにも見える。生きた心地がしていないのだろう。

 

「そうですね……」

 

 しばらくすれば、村の外にいる汚染獣が入ってくるはず。早めに手は打っておきたいが、テレサは魔力切れで倒れて動けない。ヴァリィはしばらく休ませてあげたいし、ベラトリックスは護衛としての役割が残っている。自由に動けるのは俺ぐらいだ。

 

 だからといって俺が外に出てしまえば、ここが襲われたとき助けられない。人間が操っているのであれば組織的な動きをすることも考えられるため、隙を見せたら手痛い攻撃を受けてしまう。他の村や町の状況も気になるが、今は守りの姿勢は崩さない方が良いと判断した。

 

「村に残った食料をかき集めましょう。井戸の水も浄化すれば飲めるようになるので、今の状況が続いてもしばらくは持ちます」

「浄化とは光属性でするんですよね? やはりポルン様は……」

「おっと、そこまでです」

 

 人差し指をアイラの唇に付けると、耳まで真っ赤になった。

 

「詮索はダメです」

「ひゃい」

 

 かんでしまったようだが、ちゃんと返事してくれたので分かってくれただろう。

 

 ベラトリックスやトエーリエだけではなく、横になっているテレサやヴァリィからも冷たい目で見られてしまったが、もう勇者じゃないんだからこのぐらいの遊びは気にしないで欲しい。

 

「では、行ってきます」

 

 槍を持つと逃げるようにして村長の家を出る。

 

 災害用に村が保存していた食料庫へ向かって歩く。

 

 汚染獣の姿はない。平和に見えるが村の外には数え切れないほどの汚染獣が潜んでいるだろう。その証拠として、収穫間近だった小麦は枯れてしまい、土壌はひどく汚染されている。戦いが終わった後に浄化しなければ、この地は数十年ほど人が住めなくなるだろう。

 

 倉庫に入ると干し肉や豆、麦などがあった。塩もあるので、しばらくは食事に困らないだろう。

 

 近くにあった荷台へ食料を乗せると村長の家に向かう。その途中で空が暗くなった。見上げると溶けかけている肉――極小の汚染獣がひとかたまりになって落ちてきているところだった。光属性で浄化させているが、表面にいる個体が消えるだけで中心部は残ったままだ。何もしなければ直撃してしまう。

 

 荷台を手放すと槍を構え、光属性を付与し、腰をひねり穂先を空に向けた。

 

「その程度で俺に勝てると思うなよ」

 

 ほどよく力を抜いて投擲すると、槍は汚染獣の塊に直撃、中心まで進むと止まる。外と内側から光属性による浄化が行われ、着地する前に消え去った。

 

 空中に残った槍が落ちてくるので掴み取る。

 

 先ほどの攻撃は俺を狙ったものだった。操っている人間が近くに居るかもしれないと周囲を見るが、誰もいない。櫓や家の屋根、井戸の裏側を見ても同じだ。とすると残りは……また空を見上げる。鳥が村を旋回していた。同じ場所を動き回っていて不自然である。

 

 使い魔と視界を共有して村の中を監視していたのか。

 

 俺が気づいたことを察知したようで鳥が逃げようとする。

 

「させるかッ!」

 

 近くに落ちている石を拾って、身体能力を強化しながら投げる。進行方向を予測しなければいけなく難易度は高かったのだが、運良く羽に当たった。

 

 クルクルと回転しながら鳥は落下して地面に衝突した。ベラトリックスであれば、あれから手がかりを見つけることもできるだろう。

 

 荷台を引きながら使い魔を回収して村長の家の玄関前に戻る。

 

「おかえりなさい。大丈夫でしたか?」

 

 出迎えてくれたのはトエーリエだ。ケガがないか体を触って確認している。おっと、股間はダメだ。手でガードして接触を防いだ。

 

「汚染獣に襲われたが撃退して、これを手に入れた」

 

 本物の鷲のように見える、捕まえたばかりの鳥型使い魔を渡す。

 

「俺は食料を置いてくるから、ベラトリックスに使い手の情報を探れないか頼んでおいてくれ」

「わかりました」

 

 ちょっと不満そうだったが、使い魔を持ってトエーリエは家の中へ入っていった。

 

 裏手にある倉庫へ荷台を放置すると井戸に立ち寄る。女性たちが壺や樽、桶などを持って集まっていた。ご婦人から子供まで年齢は様々だ。

 

「すぐに浄化しますね」

「ありがとうございます。勇……」

「俺は勇者じゃありません。それ以上は、言っちゃダメです」

 

 ちゃんと否定しておかないとな。

 

 そこら辺に落ちている石を拾うと強めに光属性を付与して井戸に投げ入れる。これで浄化は完了だ。新たに汚染水が湧き出ても、石の力によって即座に綺麗な水へ変わるだろう。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

 許可を出すと女性たちが水をくみ上げていく。これで食料と飲み水の問題は解決だ。

 

 敵の情報が手に入るまでしばらく待機するとしよう。

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