勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~   作:わんた

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約束しましたよね

 体内の魔力を使い切り枯渇して死んだと思ったのだが、運良く目覚めることができた。だが魔力の流れが悪くなってしまったようなので、しばらくは休まないと行けないだろう。その間に光属性の適性をあげる訓練をするか。

 

 ベッドの上にいるみたいなので、上半身を起こす。魔力以外は異常なさそうだ。

 

「ポルン様ーーーーーっ!!」

 

 起きた瞬間、トエーリエに泣きながら抱きつかれてしまった。首が絞まる。助けて欲しいと思っていると、ヴァリィやベラトリックス、テレサ、アイラにも同じことをされてしまう。

 

 随分と、みんなを心配させてしまったらしい。

 

 少し悪いことをしたなと思うが、敵が汚染獣だったんだから仕方がないと諦めてもらおう。

 

 みんなが落ち着いてから、バドロフ子爵がどうなったか聞いてみると、寝ている間にすべて片付いていたから驚きだ。しかも特殊な個体に操られていたとの話も聞いているので、知らない間に世界の危機が訪れているのではないかと心配している。樹海に行く前にやることが増えてしまったようだ。

 

 バドロフ子爵は仲介人が残した証拠を使って追い詰めようと思っていたのだが、そんなもの必要なく、汚染獣を悪用した国家転覆罪が適用されて即刻領地と財産が没収されたらしい。一族は処刑済みで王家は被害を受けたヴォルデンク家に多額の支援をすると決定したとのこと。

 

 話を聞いたときは、あり得ないほど手厚い対応だと思ったのだが、メルベルが手を回したと聞いて納得した。内政干渉したのだろう。例え張りぼてだったとしても、勇者がいる国というのは、そのぐらいの影響力を持てるのだ。

 

 * * *

 

 目を覚まして翌日。昼過ぎぐらいに来客があった。顔を見ると自然と眉間にシワが寄ってしまうが、こればっかりは仕方がない。相手が人間に化けた汚染獣――メルベルだったのだから。

 

 今日はちゃんと人間らしく服を着ているようで、腕を組んでご立腹だとアピールしている。汚染獣のくせに、さまになっているじゃないか。

 

「私との契約を無視して死にかけた感想を聞かせてもらえるかしら?」

 

 病み上がりの俺はベッドの上で横になっている。

 

 メルベルの追求から逃げられそうにない。

 

「可愛い女の子が助けを求めてきたんだから仕方ないだろ」

「バカ言わないで! 仕方なくないわよ! 遊んでないで、さっさと樹海に行きなさいっ!」

「うるさい! 女遊びぐらいさせろ!」

「契約を守った後ならいくらでも遊んで良いわ!」

「後じゃダメなんだ。先にさせろ! 卒業したいんだよ!」

「何それ。意味が分からないわ……」

 

 頭痛を覚えたのか、メルベルは片手で頭を押さえた。

 

 汚染獣ごときに人間の心の機微がわかってたまるか。理解できないのが当然だろ。

 

「契約した内容は守る。樹海には行く。ただ少し時間をもらう。それだけの話だ。簡単だろ?」

「…………ふぅ。仕方がないわね」

 

 不死生を持つ存在だから、時間にルーズで先延ばしの提案は受け入れると思っていた。狙い通りの反応に内心、笑いが止まらない。何をしても死ぬことがない存在は、物事を深く考えずに決断してくれるから助かる。

 

「なら、さっさと女遊びをしなさい」

 

 パチンと指を弾くとドアが開いた。

 

 ん? なんだ? なぜ、ベラトリックスが部屋に入ってきた……?

 

「約束しましたよね。いっぱい甘えさせてもらいます」

「だからって、服を脱ぐな!」

「大丈夫です。すぐに終わりますから」

 

 正気を失った目をしている。言葉では止まりそうにない。助けを求めるようにして周囲を見ると、タイミング良くトエーリエとヴァリィが室内に入ってきた。手には花束があるので見舞いに来てくれたのだろう……え、なんで二人とも服を脱ごうと!?

 

「抜け駆けはいけません」

「ポルン様、ここの書類にサインしてください。そうすれば私を自由にできますよ」

 

 トエーリエが差し出したのは婚姻届だった。新婦側には三人の名前が書かれていて、俺がサインすれば婚姻が成立してしまう。なぜ元仲間と結婚しなければいけない!? 勇者をクビになった俺と結婚するなんて、家族とか納得しないだろ!

 

「さぁ! ポルン様、覚悟を決めてください!」

 

 ずんと、下着姿になった三人が近づいてきた。

 

「あらあら、モテていいわね。これですぐに樹海へ行けそうよ」

 

 俺は責任を取りたくないから娼婦と遊びたかったんだ。

 

 結婚なんてするわけないだろ!

 

 こうなったら逃げるしかない。三人に向けて毛布を投げてから、ベッドの横に立てかけている槍を持って窓をブチ割る。三階の高さから落下しているが、動かしにくくなった魔力で身体能力を強化し、無傷で着地する。

 

 すぐに立ち上がり中庭を走り出して中庭に行くと、アイラが紅茶を飲んでいた。

 

「ポルン様、もうよろしいのですか?」

 

 何も言わずに去るのは彼女に悪い気がして、無視することもできたが立ち止まる。

 

「回復したので旅に出ようかと」

「やはり行ってしまわれるのですね」

 

 出て行くことは予想できていたみたいだ。悲しそうにしながらも、どこか納得しているように見えた。

 

 カップをテーブルに置くとアイラは立ち上がり頭を下げる。

 

「ヴォルデンク家が存続しているのはポルン様のお力があったからこそです。このご恩は絶対に忘れません。もし今後困るようなことがあれば必ず力になると、当主としてお約束いたします」

 

 代理が抜けているのは、アイラの父親は昨晩、目覚めることなく死亡したからだ。

 

 葬儀が終われば新当主として家を盛り上げていかなければいけない。忙しい日々を過ごすことになるだろう。

 

「私もアイラ様と同じことを誓いましょう。また困るようなことがあれば遠慮なく頼ってください。生きている限り、友人として駆けつけます」

「汚染獣の問題でなくても?」

 

 こくりとうなずく。

 

 屋敷の方を向くと、服を着直したベラトリックスたちが窓から飛び降りようとする姿が見えた。

 

「何かあれば光教会に伝言を残してください。それでは!」

 

 ウィンクしてから立ち去っていく。

 

 後ろから「ありがとうございます。勇者様」と聞こえたが、俺はもう勇者じゃないと否定する時間はなかった。

 

 ベラトリックスに追いつかれないよう、全力で走り続ける。どこまでも。

 

 




2章が終わりました。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
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