The New American Dream   作:古魚

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第二五話 独ソ大激戦

 時間は少し遡る……。

 

 1941年9月1日、日本の内戦が長い睨みあいを続け、停滞期に入っていた頃、欧州でも一大転換点を迎えていた。

 

「ソビエトに喧嘩を売った? 正気か?」

 

 西側の防衛を任されていたエルヴィン・ロンメルは、衝撃の電報に、持っていた報告書を落としてしまう。

 真っ青な顔で、手を震わせながら、その場に片膝をつく。

 

「閣下!」

 

 慌てて補佐官がロンメルを支える。

 

「大丈夫だ……しかし、総統閣下は正気なのか?」

 

 改めて見返す電報には、『ソビエトへの攻勢を開始する。後任の者への引継ぎが完了次第、東部戦線へ移動、攻勢に加担せよ』と記されていた。

 

「これで、転戦命令は二度目ですね……しかも、その先はあのソビエト……」

 

 ロンメル補佐官、アルフレート・ガウゼは、ロンメルがアフリカに居た頃からの補佐官であり、ロンメルを敬愛する一人であった。

 

 ロンメルは開戦当時、フランス攻勢に参加していたが、その腕を見込まれ中将へ昇級、アフリカ戦線へと投入された。しかしイタリアの勢いが凄まじく、エジプトが陥落すると、ドイツはアフリカ戦線から撤退。

 同時に、ロンメル指揮下の部隊も、西方の防衛、つまり連合国からの上陸防御に回されていた。

 

 おかげで、三度に渡るイギリス軍の上陸作戦を完膚なきまでに叩きのめしてきたわけだが、ここに来て、東の国へヒトラーは喧嘩を売ってしまった。

 その相手こそ、ソビエト社会主義共和国連邦。腐った納屋などとヒトラーは言っていたが、ロンメルは知っていた。

 

「あのアメリカに次ぐバケモノに陸上から喧嘩を売るなど、ナポレオンの愚行を繰り返すことと変わりないぞ……」

 

 ソビエトがもつ強大な生産力、湧き出て来る歩兵の人海戦術、一つでも対応を誤れば、ドイツは瞬く間に陥落する。

 ロンメルはそう危機感を募らせながら、西部戦線を後にした。

 

 

 

9月20日。

 

「それで、こんな状況になったと……」

 

 ロンメルがイラついているのは、誰が見ても一目瞭然だった。

 

 と言うのも、ロンメルが東部戦線南方集団に合流した時にはすでに、ドイツは初期攻勢に失敗し、ソビエトから逆侵攻を受けていた。

 本来の計画では、既にキエフを陥落させているはずだと言うのに、逆にポーランド領一帯をソビエトに奪われている。一体どんな計画だったのかとロンメルが作戦に目を通すと、そこに書かれていたのは雑に書かれた侵攻ルートと戦略ばかりで、計画とは到底言えるようなものでは無かった。

 

 そんなずさんな計画を誰が立てたのかと問い詰め、ポーランドの支配を任されていた親衛隊トップのハインリヒ・ヒムラーだと教えられたロンメルは、さらに激昂した。

 

「軍事に詳しくもないオカルティズム愛好者が口を出すからこういうことになるんだ! 余計なことばかりしやがって!」

「閣下、おやめください! SS(親衛隊)に聞かれでもしたら、閣下のお命が危ぶまれます」

 

 ガウゼにそう宥められ、大きく深呼吸すると、ロンメルは「すまない、取り乱した」と言って、冷静さを取り戻す。

 

「なってしまった物は仕方がない、ここからどう巻き返すかだが……」

 

 戦略地図を見つめながら、ロンメルはしばらく黙り込む。

 

「戦力差は大きいが……敵に機甲師団は見られないのか?」

「それは私より……」

 

 ガウゼは、自身の後ろに立っていた男を前に出す。

 

「私は第16歩兵師団所属のリード大尉であります。ロンメル閣下ご到着前より戦線にいた身から申しますと、敵に機甲師団らしき戦車集団は今の所見えておりません」

「そうか……前線配備に間に合っていないのか、それとも後ろに隠してるのか……」

 

 ロンメルの呟きに、リード大尉は姿勢を正して進言する。

 

「僭越ながら申し上げますと、敵機甲師団はそれほど数が多くなく、その全てを攻勢に向けているのだと思われます」

「大尉、閣下に向かって意見など!」

 

 ガウゼは止めようとするが、興味を持ったのか、ロンメルは続けるように促す。

 

「よい、その根拠を教えてくれ」

「はっ。敵機甲師団の報告は、南方や北方などには見えませんが、実際に突出して侵攻を続ける中央には多く見られます」

 

 地図を指さしながら、リード大尉は説明する。

 

「ソビエトは人海戦術を好み、物量で押しつぶす侵攻をドクトリンとしていると聞いたことがあります。ので、中央に戦力を集中し、一挙にベルリンまで侵攻する算段で、現存する機甲師団を中央へ送っている。よって、本来守備すべき側面に、戦車が足りていない物と推測されます」

 

 言い終えると、リード大尉は一歩下がり、ロンメルの反応を待つ。

 

「ふむ、良い読みだ。私もその考えには同感だ……あと考えるべきは、ソビエトの生産力がいつピークを向かえるかというところ……。40年からの動きを見ると、ピークを向かえるのは……42年12月から翌年1月あたりと言った所か……」

  

 ロンメルがしばらくぶつぶつと独り言を呟くと、大きく頷き、顔を上げた。

 

「リード大尉、君の助言のおかげで、ボルシェビキたちを轢き殺せそうだ」

「は、閣下のお役に立てたのなら、この上ない光栄であります!」

「君のいる第16師団も使って、すぐに攻勢をかける。その攻勢が成功したら、君の戦果を上へ報告しよう。だから、死ぬんじゃないぞ」

 

 穏やかな顔でロンメルはそう笑いかけると、リード大尉は声を張り上げ敬礼する。

 

「はっ! 失礼します!」

 

 ガウゼと二人きりになったロンメルは、すぐに電話へと手を伸ばした。

 

「私だ、ロンメルだ。ああそうだ、南方軍団の……グデーリアン上級大将を頼む」

 

 しばらく待つと、電話先の声が変わった。

 

「ロンメルだな」

「そうだ、ソ連への反撃についてだ――」

 

 さっそく要件を言おうとしたロンメルの言葉を遮って、ハインツ・グデーリアンは言う。

 

「まて、言わずとも分かる。わざわざ俺に電話を掛けるぐらいだ、お得意の電撃をやりたいんだろ?」

「流石だな、戦車将軍」

「当然だ、北方でも機甲師団の動きは確認できていない。なんだったら、こっちはフィンランドの雪山部隊が今か今かと出撃を待ち望んでいる電話がかかってきている、いつでも行けるぞ」

 

 さすが名将と言うべきであろうか、ソビエトの戦線を任された二人の上級大将は、全く同じ結論に行きついていた。

 

「補給路を厚くする暇はない。最小限の機甲師団で、そっちはレニングラードを目指してくれ、こちらはキエフを目指す。その後、中央に向かって進軍、合流を目指そう」

「はは、あのレニングラードを最小限の機甲師団で、か」

「無茶か?」

「まさか、もっと無茶な命令を国から受けているんだ、これくらいはやって見せるさ」

 

 皮肉交じりのグデーリアンの言葉に苦笑しながら、ロンメルは最後に付け加えた。

 

「南方は明後日にでも攻勢を開始する。合流を楽しみにしている」

「ああ、こっちもだ」

 

 

 

9月22日。

 

 この日、ドイツの大反攻が始まった。

 北方からはグデーリアン率いる2個機甲師団とフィンランドの先鋭歩兵師団が、南方からはロンメル率いる4個機甲師団が猛撃を開始した。

 しかしソビエトは、この猛撃の弱点である補給線の脆さをすぐに理解し、そこへ攻撃を仕掛けた。

 

「報告します! 第2中隊壊滅! 応援の要請が来ています!」

「予備歩兵大隊を送れ!」

「第5大隊より電報、敵機甲師団出現!」

「第14野砲連隊に応援を要請しろ、何が何でも突破させるな!」

 

 補給線を守っていたのは僅かな歩兵師団のみであり、普通であればすぐにでも押しつぶされてしまう。しかし、今回は特別であった。

 

「今俺たちが耐えることで、あの西海岸の狐と呼ばれるロンメル将軍が、戦車将軍と呼ばれるグデーリアン将軍がソビエトを打ち倒してくれる! へばるな! 死んでもこの補給線を守り通せ!」

「「「「Jawohl!(了解!)」」」」

 

 二人の名将の作戦に参加できるという名誉、ソビエトに一矢報いれるという高揚感から、現場の歩兵たちの士気は有頂天を突く勢いであった。

 手製の爆薬や火炎瓶を巧みに使いながら、歩兵たちは《BT7》を撃破し、《T-34》を足止めした。その抵抗は恐ろしい物があり。手足をもがれながらも、手榴弾のピンを口で抜き、這って敵へ接近、自爆する兵が出るほどであった。

 

 その光景は北方補給路、南方補給路双方で見られ、後にこの補給路は、独ソ両兵士の大量の血が流れたため、『赤黒い道』と呼ばれるようになった。

 

 侵攻が始まって1週間、29日には、ロンメルの部隊はキエフを攻略し、グデーリアンの部隊は、レニングラードを包囲していた。

 

「フィンランド軍の先鋭歩兵は本当に頼りになるな……正直想像以上だ」

「はい、厳しい環境下でも一切士気が下がることなく、巧みな戦闘技術で間違いなくソビエトを疲弊させています。流石、冬戦争でソビエトから自国を守った兵士です」

 

 機甲師団はレニングラードに到着するまでにかなり疲弊し、グデーリアン自身もすぐに落とせるとは思っていなかった。だが、想定以上にフィンランドからの応援が役に立ち、包囲を完成させた。

 

「最悪、どんなに時間がかかったとしても、10月末までにはここを落とすぞ、さもないと、冬が来る」

「そのことですが……」

 

 グデーリアンの補佐官が一通の手紙を差し出した。

 

「これは、マンネルヘイム将軍からか……」

「はい、何でも、レニングラードをよこして欲しいとか」

「なにぃ?」

 

 元々、フィンランドはドイツからソビエトへ宣戦布告するよう要請されていたが、断り続けていた。しかし、いざドイツが独ソ戦を開始すると、フィンランドがドイツに協力しているとソ連が言い始め、ソ連はフィンランドにも宣戦布告、継続戦争が始まった。

 

 それを利用し、ドイツはフィンランドと軍事同盟を締結。ドイツは積極的な軍事支援は要請しない代わりに、フィンランドはソビエトの領土を奪わないという密約を結んでいた。

 いたのだが……。

 

「レニングラードをフィンランドだけで落とすから、戦後はレニングラード周辺の土地をフィンランドに割譲してほしいと……また凄いことを言い出したな」

「ですが、ライセンス生産された『四号戦車』を擁する、フィンランド唯一の機甲師団が出撃し、あのシモ・ヘイヘのいる歩兵部隊も動いているとか……フィンランドは本気だと思います」

「総統閣下が許してくれるかだな……」

「そこを見込んで、将軍に手紙をよこしたのでは? 将軍の意見は、総統閣下も聞いてくれると有名ですから」

 

 そんな補佐官の言葉に、グデーリアンは苦笑い。どうしたものかと少し考え、総統閣下に電報を送ることにした。

 

『親愛なる総統閣下へ。今現在我らはモスクワ陥落に向けて進んでいますが、大きな障壁にぶつかっています。それはレニングラードです。――――ですので、ここをフィンランド軍に任せ、その報酬にここ一帯の土地をフィンランドに与えると言うのは如何でしょうか。軍事的防衛の観点から見ても、北は雪に慣れている友邦に任せるのが得策だと思います。ぜひご一考お願いします』

 

 電報の返事が来た10月2日。この日グデーリアンは部隊の再編を終え、ロンメルと合流すべく行動を開始、フィンランド軍にレニングラードを任せ、グデーリアン指揮下の機甲師団は、南下を始めた。

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