The New American Dream   作:古魚

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第二九話 狐の帰還

8月19日、パリ。

 

 連合軍の進撃が着実に進む中のフランス、その中心であるパリに、大量の機甲師団と機械化歩兵師団を含む軍団が入城した。

 軍団の先頭を走るのは、まだ戦線に投入されていなかった《ティーガーⅡ》の試作車輛《VK.45.03(H)》、通称《ティーガーX型》。

 そこから降りて来るのは、険しい顔をしたロンメル陸軍上級大将。

 

 そう、西海岸の狐は帰って来たのだ。

 

「よくぞ戻ってこられました、ロンメル閣下」

 

 現地指揮官を務めていた、オルト・ホーランド大佐が、ナチス式敬礼でロンメルを迎えた。

 

「今は時間が惜しい、作戦司令部に案内してくれ。歩きながら、現状を聞こう」

 

 ロンメルの言うように、ホーランド大佐はロンメルを案内しながら、現状を伝えると、じわじわとロンメルの顔に皺が寄っていた。

 司令部に付くなりロンメルは地図を広げ、持ってきた車輌たちの資料を置く。

 

「話を聞く限り、敵の総兵力は200万近い。これを海に押し出すのはかなり無理がある……なんとかして自ら撤退するような状況を作り出さなければ……」

 

 少し考えた後、ロンメルは意を決したようにガウゼを呼ぶ。

 

「ガウゼ! ベルリンにいる総統に至急電話を繋げ!」

「はっ!」

 

 数分後、受話器をもって、ガウゼがロンメルのもとへ戻って来た。

 

「おおロンメル、パリへ到着したようだな。どうだ、英米の連中を押し返すことは出来そうか?」

 

 ヒトラーはロンメルのことを絶対的に信頼していた。西海岸にロンメルがついたと言うだけで、勝機が見えたと喜ぶほどだ。

 

「は、親愛なる総統閣下。上陸してきた敵勢力はおよそ200万ほど、正直に言って、この状態で押し返すのは非常に困難です」

「ふむ、しかし私に電話をかけて来たということは、何か案があるのだろう?」

「はい、単刀直入に申し上げます。海軍の温存を止め、全勢力を持ってイギリス海峡の制海権奪取、通称破壊を実施していただき、マジノ線を一部解体、その資材を至急パリへ運んでほしいのです」

 

 電話の先で、ヒトラーが大きく笑い声を上げる。

 

「なるほど、パリ周辺に要塞を立てて守備し、通商破壊で200万の兵力を干上がらせるわけだ……しかし海軍の勝算は正直言って薄いと思うぞ? 敵にはロイヤルネイビーの残党、アメリカ海軍の主力艦隊が二つもいるのいだからな」

「承知しております。ですので先に、空軍にて湾港攻撃を実施、主力艦等に損害を与えます」

「なるほど、ならばロンメル、お前の指揮下の航空隊だけでなく、空軍にも協力させよう。ゲーリングに私から言っておく」

「それは非常に助かります。これで航空隊は、全滅覚悟の突入をする必要がなくなりそうです」

 

 ロンメルはガウゼに視線で合図を送ると、ガウゼは頷き、作戦司令部の地図上に駒を並べ始めた。

 

「ロンメル、お前は運がいい。実を言うと、マジノ線の解体はすでに進めていてな、後二日もすれば完了する見込みだ。すぐにお前の案を実行できると思うぞ」

「は、感謝申し上げます。それでは私は、具体的な作戦立案がありますので、この辺で失礼いたします」

「うむ。頼む」

 

 静かに受話器を置くと、ロンメルはすぐに地図の駒を手に取った。

 

「各部隊の指揮官を呼べ! 作戦を説明する!」

「「「はっ!」」」

 

 8月21日、連合軍は進撃を続け、遂にパリ付近にまで戦線を押し上げた。だがそこで、どうしようもない絶望に襲われるのだった。

 

「全滅……だと?」

 

 ドイツへの攻勢の全体指揮を取っている、アイゼンハワー元帥の下に、衝撃の報告が入って来た。

 

「パリへ攻撃を仕掛けた、4個機甲師団、2個歩兵師団は……全滅しました。帰還できたのは、装甲車に乗って退避できた、一個中隊ほどだけです」

「何たることだ……!」

 

 ロンメル指揮下の下、パリの市街地は丸ごと要塞化され、一度攻め入れば、突破も退避もできず、《ティーガー》たちに蹂躙される、連合軍の墓場と化していた。

 偵察機を飛ばしても対空陣地に撃墜され、斥候を送っても帰ってこれない。おかげでろくにその全容を掴むことすらできていなかった。

 

「元帥殿! 大変です!」

「今度は何だ!」

「輸送船団が大量の《Uボート》により甚大な被害が!」

 

 これまたロンメルの指示通り、海軍が総出撃を開始。その手始めとして、これまで温存されて来た新型Uボートを含む通商破壊戦隊が港より出航、輸送船団、及びその護衛艦隊に被害を与え始めた。

 

 これに対し、ハルゼーとキングは主力艦隊の空母陣も護衛に参加させた。しかし、あまりも《Uボート》の数が多すぎた。200万の兵力を飢えさせるわけにはいかないため、少し強引にでも輸送を行い、その護衛をした結果……。

 

 

 

「右舷雷跡!」

「面舵一杯! 急げ!」

「左舷、正面にも雷跡! 総数12!」

 

 大きな艦体を振り始めた空母の元へ、数十本にもなる魚雷が殺到する。

 

「ダメだ! 総員最上甲板! 最上甲板へ退避!」

 

 その数秒後、空母を囲うように水柱が起立する。その数9。

 

「《レンジャー》に続いて《ホーネット》までも沈むと言うのか……。戦艦群も、決して軽微な損害ではないと言うのに……」

 

 ホーネット艦長がそうぼやく。

 

「艦長も早く退避を!」

 

 

 陸海からの猛撃を受け、連合軍の艦隊は無視できない損害を負うことになった。

 

 連合海軍の損害 (主要艦艇)

米軍 戦艦《ネバダ》《オクラホマ》《ニューヨーク》 撃沈

     《アリゾナ》《ウェストバージニア》 大破

   空母《レンジャー》《ホーネット》 撃沈

英軍 戦艦《ロドニー》 撃沈

     《キングジョージV世》 大破

   空母《フォーミダブル》 撃沈

     《イラストリアス》 大破

 

というありさまで、新型戦艦や空母が追加され、肥大化したドイツ海軍に対して正面から挑むことは出来なかった。

 

 泣く泣く連合艦隊海軍は艦隊の保全に努め、一時イギリス海峡を退避、中型艦以下の護衛艦艇と少数の輸送船での補給を行うことにした。

 アイゼンハワーはその輸送状況を見て、やむなく兵の引き上げを確定。半数の兵力はイギリスへ退避させることに決定した。

 

  ロンメルの作戦が成功したことは、誰が見ても明らかであった。

 

 また、スターリングラウド、モスクワを奪還された東部戦線だったが、フリードリヒ・オルブリヒト大将が到着、グデーリアン指揮下の機甲師団も合流したことでレニングラード、キエフは死守することに成功した。

 西部戦線と同じく主要都市を防衛拠点とし、キエフを流れるドニエプル川に沿って守備陣を引いたことから、通称ドニエプルラインと呼ばれるようになる防衛線で反転攻勢の時期を窺うこととなった。

 

 

8月22日、ホワイトハウス。

 

「――というのが、現状の欧州の状況です」

 

 スティムソンがそう報告を終えると、ブランドは険しい顔つきで、息を吐く。

 

「芳しくないな……」

「はい、歩兵の撤退時に関しては、主力艦隊も護衛に付け、人命第一で行動する予定です」

 

 少し考えた後、ちらりとカレンダーを見たブランドは、思い出したように聞く。

 

「現在の状態で、補給はどれくらいもつ?」

「ざっと1ヵ月」

 

 その言葉を聞くと一転、ブランドの口角が吊り上がる。

 

「スティムソン、どうやら兵を引き上げる必要はなさそうだぞ」

「……はい?」

 

 そう言ったブランドは、机の上の受話器を取る。

 

「フランク、彼らは後どれほどで到着する?」

 

 その行動を不思議そうに見つめるスティムソン。

 

「そうか、後2週間ちょっとか……石油と鉄はいくらでも出すから、出来るだけ早く駆けつけるよう頼んでおいてくれ」

 

 満足げに受話器を置いたブランドは、スティムソンへ向き直る。

 

「スティムソン陸軍長官」

「はっ」

「アイゼンハワー元帥に連絡。兵力を引き上げる必要はなし、現状を維持し援軍が来るまで戦線を維持。2週間待てば、潤沢な物資と強力な援軍が東の国から到着するだろう」

 

 その言葉に、スティムソンはハッとする。

 

「まさか、彼らの海軍を?」

「そうだ、弱ったロイヤルネイビー、損害を受けている我ら合衆国海軍を凌ぐ大戦力を持ち、練度もおそらく我らより上である侍たちを呼んでおいたのさ」

 

 9月5日、ブリストル海峡。

 

 この日、重厚な汽笛を鳴らしながら、新たな海軍が港へ入港した。

 

 その艦立ちのマストに翻るのは―――

                         ――――旭日旗。

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