The New American Dream   作:古魚

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第六幕 二つの太陽編
第三八話 拡大する中国


 時間は、未だノルマンディー上陸から日が浅い、1942年9月10日まで遡る。

 この日ようやく、日本内戦の講和会議が開かれ、正式に戦いは終結したのだが、その講和内容に、日米は強い遺憾の念を露わにしている。

 

「日本の北陸、台湾、朝鮮を中国領土に編入など、ふざけているのか!」

 

 臨時日本国首相の片山哲が、机を強く叩いて怒鳴る。

 

「首相、止めましょう。今ここで怒っても、何もいいことはありません」

 

 外務大臣の幣原喜重郎がそう宥める。

 

「しかし、こう黙って見ているという訳にもいきませんな……」

 

 陸軍大臣となった栗林忠道大将が、大陸の地図を見つめながら話す。

 

「我々日本の勢力が弱まったため、相対的に力を強めています。満州、台湾の返還はいざ知れず、朝鮮まで自国領土に組み込むとは……」

 

 中華民国は、日中戦争に対する対抗として、抗日民族統一戦線なる陣営を打ち立て、軍閥達をまとめ、日本に抵抗してきた。しかしその抵抗対象が居なくなった今、その陣営はすでに形骸化している。

 中華民国指導者の蒋介石は、第二次北伐ならぬ、中国統一戦争を開始する旨を世界に発信している。

 

「今は、耐えましょう。我が国の主力艦隊が欧州におり、国内も内戦から復帰できていない今は、まだ」

 

 海軍大臣となった小沢治三郎大将は、苦い顔をしながらそのように呟く。

 実際、今の日本はとても戦争を行えるような状態になく、それでも無理して欧州の戦線へ海軍と兵の派遣を行っている。とても中華と事を構えることは出来なかった。

 

 しかし、そうも言っていられない状態へと、時間が進むにつれて変化して行く。

 

 

 

 1943年、12月15日、ドイツがかつての国境線まで押し戻されて苦戦するころ、アジアにも新たな動きがあった。

 

「何? 中国がモンゴル、チベット、新疆ウイグルへ戦争工作をしている?」

 

 ブランドの元へ、ハルからそんな報告がなされる。ブランドの顔は険しい。

 

「はい、潜入調査をしている日米両スパイがそのような情報を入手しました」

「日本の対応は?」

「はい、批判の声明を出す予定の用です。それによる国民からの声が強かった場合、北陸奪還を行う用意もあると。それについて、アメリカの後ろ盾を求めています」

 

 日本はこの時、ある程度国内の様子が安定してきため、本格的に北陸の奪還について思案を巡らせていた。中国が国際世論から非難を浴びる可能性のあるこのタイミングこそ好機と思い、こうしてアメリカに根回しを行った。

 

「日本もなかなか狡猾な手を使うようになったな……まあ、成長したと言うことか」

 

 ブランドは席に深く腰掛け考えを巡らせる。

 

 (欧州戦線の決着は44年の春にはつくはず、万が一大規模に日中が衝突することになっても、援護はできるか……)

 

「ハル、北陸奪還の戦争で、日中が再度全面衝突する可能性はあるか?」

「無いとは言えません。ただ、日本は大陸に再び進出する力はありませんし、中国もチベット、ウイグル、モンゴルの三つに、日本を加えたくはないでしょう。モンゴルを叩けば、弱っているとは言え、ソ連が出て来る可能性もりますから」

 

 その言葉に、ブランドは大きく頷いた。

 

「よし、なら日本に伝えてくれ、後ろ盾を約束すると。それから、現在の状況について記者会見も開く、セッティングを頼む」

「了解しました」

 

 そうして、その日の夜ブランドは力強い言葉で中国を非難した。

 

「中国は今や、アジア各国に野心を持ち、心を入れ替えた日本にすら魔の手を伸ばしている。このような行動は到底許容することができない。まるで、かれらはアジアのナチスのようだ」

 

 この会見の様子は世界中にも報じられ、瞬く間に、世界では中国へと疑念の目が向けられるようになった。これは、アメリカが世界のリーダー的存在であることを裏付ける出来事でもあった。

 

 1944年1月5日、正月明けの今日、日本の新生陸軍7個師団は、小銃を握り、国境線へと集結していた。

 

「アメリカからの賛同を得られた今、我々を咎めるものは誰もいない! 中華民国には既に電報が送られている。よって、諸君らの行為は新たな戦争を始める愚行ではなく、我ら固有の土地を取り返す、儀に則った行動である!」

 

 師団長が力強く激励を送る。

 

「諸君らには、恐れることなく、この戦いを勝ち抜くことを要請する!」

「「「「応!」」」」

 

 その返事は、大地を揺らす。

 

「これより、北陸奪還作戦を開始する! 各員、進め!」

 

 日本は、国内で高ぶっていた対中感情を使い、中華民国へ宣戦布告、通称北陸戦争が始まった。

 これに対し、中国は北陸にいた兵で対抗しようとするが、日本内戦を勝ち抜いた猛者たちの練度、並びに本土を取り返さんとする覇気に圧倒され、ものの5日間で北陸は完全に日本に占領される形となった。

 

 そんな勢いを見た中華民国は、日本へ講和を打診。北陸から撤兵するから大陸へ攻め入ることは辞めてくれ、そのような内容だった。

 もちろん、日本は大陸へ進出する野心もなければ、そんな力も残っていないため、その講和に応じた。

 

 結果、北陸戦争はたったの5日間で幕を閉じ、後世では、あまりにも日本が簡単に勝利したこの出来事を、北陸5日間演習と呼ぶようになった。

 

 しかし、中華民国は北陸の返還に応じなかった。というのも、中華民国が提示したのはあくまで撤兵であり、北陸に軍隊を置くことを止めるに過ぎないと言い張ったのだ。そのため、北陸は再び中華民国の領土となり、国境には警察と言いながら戦車と機関銃を装備する兵が張り付く形に終わった。

 

 日本は、再度戦争をする構えを見せたが、ブランドが「冷静になれ、ここで下手に大陸に行けば、相手の思うつぼだ」と日本を宥めたため、一度この話はここで終わることとなった。

 

 

 

 そして44年6月8日、衝撃的な知らせがブランドの下へ届いた。

 

『チベット、モンゴル、ウイグルを占領。続けて、インドシナ半島、ビルマ、タイ、マレーシア、ネパール、インドにも戦争工作の予兆あり』

 

「……まさかここまでとは」

 

 ブランドは頭を抱える。ソファーには副大統領のウォレスもいた。

 

「もう、アジア全域を手中に収めるつもりなのでしょう。かつての清や漢の時代のように、世界の中心に返り咲こうとしているのかもしれません」

「いつまでたっても中世の思考が抜けない奴らだ……」

 

 悪態をつくブランド。せっかく欧州戦線の決着がつきそうだと言うのに、新たに炎を振りまいている存在が現れれば、このような態度も納得だろう。

 

「日本と言う大国がいたから、中国はあの程度にとどまっていただけであり、その抑えが無くなった今、中国は生半可な力では収まらなくなってしまったな……日本を民主化する前に、日中戦争を上手く終わらせてやる方法を探った方が良かったのかもしれないな」

 

 ため息をつくブランドに、ウォレスは提案する。

 

「やはり、中国を抑えられるのは、同じアジア人であり隣国の日本なのではないでしょうか?」

「と言うと?」

「何らかの形で日本が完全に再興し、力を握ったなら、アジアの覇権国家となって貰えば、丸く収まるのではないでしょうか? まあ、その覇権国家争いは、日中で間違いなく衝突してしまうでしょうが……」

 

 その提案に、ブランドは目をぱちくりさせ、頭をかく。

 

「いや、まさか君からそんな言葉が出るとは驚きだ」

「別に私は、日本が嫌いな訳ではありませんから」

 

 ブランドは、思考を巡らせる。日本を中心としたアジアの秩序を創る。それは、ブランドも理想とする形態ではあった。

 この案は使えるかもしれない。そう考えたブランドは、さっそく、イギリスなどの首相達に、電報を送るのだった……。

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