【悲報】10年間ツンデレだと思っていた幼馴染に本当に嫌われていた   作:島流しの民

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彼女は紫陽花のように

 

 

 涼夏に関する良くない噂が流れてから、既に3日が経った。

 こういうゴシップは往々にして人々の注目を集めるものなのだが、その予想通り噂は広まっていき、今や校内じゃ聞いたことがない人はいないレベルのものになってしまっていた。

 その時に撮られた画像とやらも流れてきたのだが、まあこれが笑っちゃうくらい俺と涼夏なのだ。残念なことに、俺は横顔しか映っていないので、ぱっと見涼夏と全身黒ずくめ+マスク+サングラスのヤバいやつのツーショットである。そりゃ変な噂も流れるわ、てなもんである。

 噂は尾鰭やら背鰭やら様々な要素を付け加えていき、最終的には「二宮さんって毎週男の人を誘惑してイカガワシイことしてるんだって……」レベルの妄想にまで行っているなんて話も聞いた。流石に話が飛躍しすぎていたのでその噂は広まることもなくすぐに消えたが、全員が涼夏を見る目が変わってしまったのは事実であった。

 

 

 

 この三日間、涼夏に話しかける生徒はほとんどいなかった。誰もが腫物みたいに彼女を扱い、今までは割と話しかけていた女子生徒までも、まるで話しかけたら自分にも火の粉が降ってくると思っているかのように、露骨に彼女を避け始めたのだ。

 彼女たちの間にあるのは義務的な会話だけ。それも会話が終わると逃げるようにどこかへ行く徹底ぶり。

 本当に、見ていて気分の悪くなるものである。

 

 表面的には、涼夏には何の変化もないように見える。いつものようにちょっとぶっきらぼうにも思える表情で、いつものように美しい。けど、幼馴染の俺からしたら、やはりいつもと同じように見える表情でもその中に寂しさが見え隠れしているような気がしてならない。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、涼夏を何とか助けようの会だ」

「なんだいきなり」

 

 俺の言葉に胡散臭そうな目を向ける智と知己。久々の定例会は、俺が知己から例の噂のことを聞いた校舎裏で開かれた。

 

「君たちも涼夏に関するけしからん噂については知っているはずだ」

「そりゃまあな。あんな気分の悪いもん、知りたくなくても耳には入る」

「けどだからといって今の僕らに何かできることがあるってわけでもないし」

 

 焼きそばパンをほおばりながら知己が言う。ぼんやりしているようでこいつは案外現実的なのだ。

 

「手始めに噂を流したやつをタコ殴りでいいか?」

「ダメだろ」

「ていうか、ここまで大きくなったら誰が発信元かなんてわかりっこないよ」

 

 それもそうだ。この噂流したの誰? と聞いても素直に答えてくれるわけなんてないだろう。

 うぐぐと唸っていると、予鈴が鳴った。あまりいつまでも駄弁っているわけにもいかない。

 

「とにかく今は噂が消えるのを待つくらいしか彰にできることはないと思うよ」

「まあ、だよなあ。別にこの件で二宮さんに更に嫌われたとかはないんだろ?」

「それはないけど……」

「なら、大丈夫じゃね? お前が特別に何かする必要はないだろ」

 

 そう結論付けて、二人は去っていく。俺は菓子パンのゴミをビニール袋に放り込みながらため息を吐いた。

 

 

 教室に戻ると、一人で座っている涼夏の背中が見える。誰もが彼女を触れてはいけない人間のような扱いをする。いっそのこと、今すぐ俺が行って涼夏の無罪を強調したいくらいだったが、そんなことをしたところで「そうだったんだ」と再び涼夏に友人ができるわけもないし、もしかするとさらに違う噂が流れてしまう可能性まで出てくる。

 

 今俺が出来る唯一のことは「何もしないこと」。

 涼夏に嫌われていると自覚したときも、俺ができたことといえば、彼女から離れて時間に解決してもらうことだった。

 本当に、何もできない自分が腹立たしい。

 

 

 ▽

 

 

 自分の弱さを嘆いても他人に対して怒っても時間は平等に過ぎる。

 既に放課後だった。

 

 靴を履き昇降口から出ると、蒸し暑さに体を包まれる。視界の端に花壇の中で咲き誇る紫陽花が見えた。その紫色の美しい花弁は小さな花壇の中で見事に咲き誇っている。ただ、俺はその窮屈さを好きになれなかった。

 

 校庭を抜けて校門を出る。俺はバス停に行かなければならないので、大体の生徒たちとは反対方向に歩き出す。ちらほらと同じ方向へ歩く生徒も見かけるが、大抵は帰りに寄り道をする生徒たちで、すぐに近くのファストフード店なんかに吸い込まれていった。

 雲が重く立ち込めて、もう嫌な暗さが街に立ち込めている。

 

 

 この一連の噂は、俺と凉夏の関係を壊すほどのものではないと、智は言った。俺もそれに同意した。

 

 

 だがそれは、必ずしも全てが正しいというわけではなかった。

 

 歩いて行くと、バス停が見えてくる。そこに、彼女の姿もあった。

 紫陽花のように美しく光る髪。その窮屈さに心が痛む。バスを待つ人のためにアスファルトの上に描かれた待機列は、さながら彼女を閉じ込める花壇だった。

 

「や」

 

 こちらに振り向いて、明るい声で挨拶をする彼女。俺は何も言えず、ただ手を挙げた。

 

 そう、皮肉なことに、凉夏に関する悪い噂は俺たちの関係を壊すどころか、さらに近づけるものになっていたのだった。

 

 

 




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