【悲報】10年間ツンデレだと思っていた幼馴染に本当に嫌われていた   作:島流しの民

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白ワンピは正義

 

 さて、状況を少し整理してみよう。

 俺の目の前には数人の男に囲まれた秋葉先輩がいる。どうやら俺には気づいていないようで、涙目のまま俯いている。

 

 彼女を囲んでいるのは少しチャラチャラした大学生らしき人間たち。もし知らない人間なら申し訳ないが見てみぬふりをしていたところだが、知り合い、しかも俺が迷惑をかけてしまっている相手だ。このまま無視するわけにはいかない。

 

 俺はなけなしの勇気を振り絞り、秋葉先輩の元へと向かった。

 

 近づいていくと、秋葉先輩に話しかけている男たちの声が聞こえてくる。これがまあ笑っちゃうくらいテンプレなナンパ文句である。いいじゃんちょっとくらいとか、暇なんでしょ? みたいなオリジナリティのかけらもないナンパの言葉に、俺は少しうんざりしてしまった。関係ない俺でさえうんざりしているということは、当事者の秋葉先輩はどうなっているのだろうか。

 

「あー、すみません秋葉先輩。お待たせしました」

 

 先輩を囲んでいる男たちの間に割り込んで、秋葉先輩の手を握る。手を握られた際に、秋葉先輩の肩がびくりと跳ねた。

 

「えっ?」

「ごめんなさい、バスが遅れちゃって。あれ、どうしたんですか? この人たち」

 

 なるべく自然な演技で男たちを見る。いきなり現れた俺に、彼らは目を丸くしている。

 それは秋葉先輩も同じだったようで、驚いた表情でこちらを見たまま固まってしまっている。

 

「えっと……知り合い?」

 

 どうやらナンパ男たちの方が先に混乱が解けたらしい。秋葉先輩にそんなことを聞いてきた。だが秋葉先輩は手を握られたことがよほどショックだったのかいまだに固まっている。そんな反応されるとは思っていなかったので俺もちょっとショックである。

 

「はい! 一緒に買い物する予定だったんですけど、俺が遅れちゃって。ですよね?」

「えっ、あっはい!」

 

 秋葉先輩の代わりに答える。俺の問いに目が覚めたらしい秋葉先輩が大げさに頷く。

 

「じゃあ、そういうことで! いきましょう、先輩」

 

 そう言って、何か言われる前に秋葉先輩の腕をぐいと引っ張ってナンパ男たちの輪から抜け出した。

 後ろから何か声が聞こえるが完全無視。俺たちはショッピングモールの中に入っていった。

 

 

 ▼

 

 

「さすがにショッピングモールの中にまでは入ってこないですね」

「あ、ありがとう……」

 

 ショッピングモールの中に逃げ込んだ俺たちは、空調の涼しい風を浴びながら一息つく。

 

「大丈夫でした?」

「う、うん……ありがとうね」

 

 ナンパがそれほどまでに怖かったのか、秋葉先輩は若干涙目である。許せん、ナンパ男共。

 俺が怒りに震えていると、秋葉先輩がおずおずと口を開いた。

 

「あの、手を……」

「え、あ、すみません」

 

 急いで手を離す。あれ、もしかして俺に手掴まれてたから涙目になったとかそんな感じ? だとしたら俺は死ぬが? 

 今度は自分自身のキモさに震える。今秋葉先輩が叫んだら俺は捕まるだろうな。豚箱に入れられる前に涼夏に会いてえなあ……。

 冤罪(冤罪とも言い切れないが)に震えている俺のことに気づいていない秋葉先輩はゆっくり呼吸を整えている。

 今日の秋葉先輩のファッションは肩の出ている白のワンピースに黄色いサンダルという、男なら誰もが好きなファッションを身にまとっている(俺調べ)。うーん、控えめに言って500点満点。

 俺の視線が気になるのか、秋葉先輩は微かに首を傾げた。少し気まずくなり、適当な話題をなげかける。

 

「今日は誰かと遊ぶんですか?」

 

 言ってから気づいたが、なんかこのセリフめちゃくちゃキモイな。誰と遊ぼうが俺は関係ないだろ。いかん、涼夏以外の異性とまともに喋ったことのない弊害がここで出てくるとは。

 あ、けど全校生徒に話したから、一応お喋りの経験値は高いのか? まあ今思えばあれは会話じゃなくて大きな独り言を女性に聞かせていたようなもんだったが。あれ、なんか涙が出てきたぞ? 

 

 秋葉先輩はにこやかな笑顔でこちらを見た。あら可愛らしい笑顔。心のささくれが癒される魔法の笑顔である。俺の笑顔だったらささくれに消毒液をかけるような笑顔になっちゃうんだろうな。

 

「ううん、特に用はなかったけど、散歩してただけ。榎本くんは買い物?」

「はい。なんか参考書でも買おうかなって」

 

 俺の言葉に目を輝かせる秋葉先輩。最初会ったときは困り顔しか浮かばない顔なんだと思っていたが、仲良くなるにつれてだんだんと先輩の表情筋が柔らかくなっているような気がする。特に最近は表情が豊かなので見ているだけで楽しい。

 

「そうなんだ! 私オススメの参考書あるから、教えるよ!」

 

 オススメノサンコウショ? なんでこの人いきなり外国語喋り出したんだ? 

 まさかとは思うが日本語じゃないよな。参考書にオススメもクソもあるわけないもんな。あんなの開いて閉じてを繰り返すだけの置物だろ。

 

 いやまあ、おすすめとやらを教えてくれるならそれを断る理由もない。俺は秋葉先輩の後ろをすごすごとついていくことにした。

 

 俺の前を歩いていた秋葉先輩は、不意にこちらを振り向いた。ふわりと広がったワンピースの裾から健康的で白い脹脛が少しだけ見えた。

 

「私、後輩に参考書オススメするの憧れだったんだ! 叶って嬉しい!」

「……良かったですね」

 

 にこやかな先輩を傷つけないために俺も嬉しそうな表情を浮かべたが内心はドン引きである。この人何に憧れてたんだよ。

 しかしまあ、暑さのせいで少し火照った顔に浮かぶ先輩の笑顔は、なかなか悪いものではなかった。

 

 

 それこそ、涼夏一筋だと心に決めた俺が少しドキッとしてしまうくらいに。

 

 

 

 これは浮気ではない……はず!

 

 

 

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