【悲報】10年間ツンデレだと思っていた幼馴染に本当に嫌われていた   作:島流しの民

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何歳になっても好きな子の前でカッコつける男の子でいたいよね

 

 いきなりの出来事に、俺と涼夏は動けなくなる。

 

 廊下の一番奥、何よりも濃い闇が密集している場所のあたりを何かがふらふらと動いて消えた。

 いや、消えたのではない。目を凝らして見てみると、廊下の奥にあるトイレの中に吸い込まれるように入っていったのだ。

 

 見間違えや気のせいなんかではなく、はっきりと見えた。

 涼夏を見ると、彼女も固まった表情のまま俺を見ていた。

 

「今の、見た?」

「見間違いじゃなければ」

 

 

 そうは言ったが、俺だけならまだしも涼夏も見ていたのだ。見間違いであるはずがない。

 

「人だった?」

「そこまでは……なんかぼんやりと白い姿だけ見えたような」

「どうする……?」

「ど、どうするって……危ないから帰った方がいいんじゃないの?」

 

 涼夏の言うことは全くもってその通りである。実際俺も今すぐ踵を返して帰りたい気分である。

 一応、生徒会室に入り中にいる秋葉さんに尋ねてみる。

 

「あのー秋葉先輩、すみません」

「んー?」

 

 夏休みも近くなったことである程度すっきりした生徒会室の中で、秋葉さんは開いたファイルと睨めっこをしていた。

 

「えーっと、なんか向こうの女子トイレに入る人影みたいなのが見えたんですけど……」

「人影? 誰かいたの?」

「一瞬だったんであんまり見えなかったんですけど、ぼんやりした人影みたいでした」

「うーん、見間違えとかじゃなく?」

「そうだったら嬉しいんですけど、多分違うと思います。涼夏も見たらしいですし」

 

 俺の横に立つ涼夏がこくこくと頷く。秋葉さんはこちらを一瞥し、そうなんだと軽く答えた。この人全く怖がってないな。幽霊とか信じてないのか? いや、俺も信じてはないけど。幽霊なんか絶対いないから怖がる必要なんて皆無なんだけどね。

 

「榎本くん、確認してくる?」

「丁重にお断りします」

 

 幽霊なんかいないけどね。なんかしらんが今はトイレに行く気分じゃないんだよな、うん。

 俺の言葉に、秋葉さんはファイルをパタンと閉じた。

 

「じゃあ私が確認してくるから、二人はここで待ってて」

 

 この人の心臓は鉄か何かで出来てんのか? 幽霊じゃなかったとしても普通にこんな暗い中一人で校舎のトイレなんか行きたくないだろ。あ、いや幽霊なんかいないけどね。

 しかし代わりに行ってくれるというならありがたい。ありがたく涼夏とここでまっておくことにしよう。

 

 じゃあ、お願いします。この一言を言おうとした瞬間、俺は横から視線を感じた。涼夏の視線だった。

 涼夏は、じっと何かを言いたげな目でこちらを見ている。なんだ、その目は何を言おうとしてるんだ。

 

 そこで俺はハッと気づく。今の俺、めちゃくちゃ格好悪くね? いくら年上だったとしても、秋葉さんだって女性だ。男である俺が見間違えかもしれない(いや、絶対見間違いである、多分)人影ひとつでビビり散らかして女性に確認に行かせるなんて、流石に人間としてヤバすぎる。この涼夏の視線も「そこは男らしく自分で行くって言えよ」的なやつだろ。やばい、好感度がぐんぐん減っていっている。俺を見る視線もどんどんと冷たくなっているような──それは元々か。

 

 いや、なんにせよここは俺が行くべきだ。

 椅子から立ちあがろうとしている秋葉さんに、俺は勇気を振り絞って言った。

 

「や、やっぱり俺が行きますよ。秋葉さんは書類探しといてください」

「そう?」

「え?」

 

 俺の言葉に、秋葉さんと涼夏が声を上げる。あれ、なんで涼夏も反応してんの? あれ、何そのびっくりした顔。俺に行けって言いたかったんじゃなかったの? あれ、もしかして俺また何かやっちゃいました? 

 

 しかし声を出してしまった手前、今更「あ、やっぱり無理っス」とは言えない。ええい、腹を括るしかない! 

 

「じゃ、じゃあ行ってきます……」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 生徒会室のドアに手をかけた俺に声が投げかけられる。声の主は涼夏だった。

 涼夏は、不安に瞳を揺らしながら、じっとこちらを見つめている。

 

「だ、大丈夫なの?」

「……まあ、大丈夫だろ」

 

 嘘。本当は大丈夫じゃない。けど、涼夏の前で情けない姿を見せるわけにはいかない──と思ったが、もう十分に見せてしまっていた。これ以上情けない姿を見せるわけにはいかないにしておこう。

 俺の言葉を聞いても涼夏の表情は不安げなままだ。

 

「……けど、怖いの苦手でしょ?」

 

 まあそうではあるんだけど、涼夏に言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。まあ小さな頃から情けない姿ばかり見せていると、このような評価になってもしょうがないのかもしれない。

 

「そりゃ得意ってわけじゃないけど……まあ大丈夫だって」

「やっぱり私が行こうか?」

 

 俺たちの会話を聞いた秋葉さんの一言。この人の辞書には恐怖心という言葉はないようだ。

 

「いや、大丈夫です。女性に行かせるわけには行かないんで、秋葉先輩はここで待っててください」

 

 ばしっと格好良く決める俺。これで俺に対する評価が著しく低い涼夏も少しは見直してくれるはずだ。

 俺の言葉に秋葉さんは目を丸くした。どうやらこの人も俺のことをビビりだと思ってたっぽいな。

 

「ありがとう。じゃあ、お願いね」

 

 暫しの間可愛らしい顔を見せていた秋葉さんだったが、すぐににっこりと可愛らしい顔を見せてくれた。どっちも可愛らしいな? 

 

 秋葉さんの可愛らしい顔を見て少し勇気が出たので、その勢いで生徒会室を出る──つもりだったのだが、その前に俺の腕を涼夏ががしっと掴んだ。その瞳にはいまだに不安そうな色が見える。

 俺を引き留めた涼夏は、じっと俺の顔を見つめたまま、意を決したように口を開いた。

 

「わ、私も、ついていくわ」

「…………なんで?」

 

 

 

 なんで? 

 

 

 

 

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