この作品は私の友人、歌い手〈ルミー〉を主人公にした小説です。なお、見切り発車ですので、続くかは不明です。

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夢の中へ

序章 ゆめのなかへ

 

「〜〜〜〜〜~♩」

 

 最後のフレーズを歌い終わり、録音を止める。

 

「ふぅ、けっこう良い感じだな」

 

 何回もリテイクをしたが、先程録ったのが一番の出来だろう。

 

「音源と録音を合わせて、絵もつけて…」

 

 PCを操作して動画になるよう仕上げていく。

 

「よし!サムネも音も大丈夫だな。それじゃ投稿!」

 

 マウスを左クリックして、YouTubeのチャンネルにアップロードを完了する。

 

「今回こそは再生数150回くらい、いってほしいな」

 

 歌い手〈ルミー〉の活動場所は主にX(旧Twitter)とYouTube。

 前者はこの前フォロワー千人を達成。今も着々と増えている。一方でYouTubeの方はチャンネル登録者が五十人にもいかず、再生数も百か、そこそこ止まり。

 

「勉強もあるし、そんなに多く投稿できるわけじゃないから仕方ないけど……」

 

 少し落ち込んでしまうのは、致し方ないことだろう。

 誰かに認められたい、必要とされたいという欲求。俗に言う承認欲求は、人間なら誰しもが持ち合わせる欲だ。

 

「ま、今日はこれくらいで切り上げて寝よう。今は何時……あっ」

 

 少し首を回転させて時計に目をやると、短針が指すのは天辺を少し過ぎ、もうすぐ二時を指そうとしていた。

 

「やっちゃった…」

 

 早く布団に潜り睡眠を摂らなければ、明日の授業に差し障ってしまう。

 いそいそと布団まで這っていき、布団を顎まで引き上げると遠隔で照明を消す。

 

(明日はアニつどでお昼を食べる約束だ)

 

 LINEのグループ名〈アニソンのつどい〉、略して〈アニつど〉は自分が好きなアニメも歌い手も語れる友人で作ったグループだ。メンバーは自分を入れて三人。

 

 一人目は、アニメは自分以上に知っているのではないかと思う程のアニメオタク。

 高校一年生から文化祭のフリーステージに出場し、そこから三年間連続で出場。今では学校のアイドルだ(本人は頑なに否定)。その姿を見て、自分も三年生で出場を決めた。

 歌がとてもうまく、外見はクール系の綺麗な子。一人が好きらしく、周囲もそれを察してか、あまり人が近寄らない。しかし、一度話してみると気さくで、少し乱暴な言葉遣いもするが、優しい性格。ところどころ天然が見え隠れする可愛らしい人だ。祖父が京都出身の影響か、たまに京都弁が出ていて、全体的にはんなりしている。

 文化祭の件で、学内に少なくないファンがいるし、二年生の最後からは生徒会副会長。おもわず、「どこのアニメのキャラ?」と考えてしまうような、まさに高嶺の花。本人は普通の家庭と言うが、雰囲気がお嬢様なので、たまに「お嬢」と呼んでいる。

 

 二人目は、推しを同じくする同志。

 もう一人と同じく生徒会役員、役職は書記。彼女もとても歌がうまく、一緒に推しの曲を歌ったときは楽しかった。

 歌う時のハムボっぽい声と、おそらく女子にしては小柄だろう体躯と可愛らしい外見に、言動からどこか小動物をイメージする少女。

 とても人当たりが良く、見かけるといつも人に囲まれている太陽のような人だ。一緒にいると感じる優しげなオーラが、人が集まる所以だろう。彼女と話していると、なんだか浄化される心地になる。前世は聖女だろうか?

 絵も上手で、この前フォロワー千人を達成した時にはお祝いでルミーの絵を、そしてこの前の誕生日では自分でデザインして、業者さんに作ってもらったという缶バッジをくれた。とても嬉しかったし、缶バッジを作るという発想がすごい。

 二人と話していると、普段はできないコアなオタクの会話ができるのでとても楽しい。高校での生活は満足しているが、最後の学年の後半でさらに楽しくなった。

 

(明日はどんな話ができるかな。話してるのが楽しすぎて、食べるのを忘れそうになる。親父の作る弁当、量多いんだよな。今度、減らしてくれって頼んでみよう)

 

 そんなことを布団の中で考えていると、睡魔に誘われて夢の世界へ旅立っていった。

 

 †

 

 夢の中の自分は歌い手として活動する時のルミーの姿で、どこかの宿屋の息子として家を手伝っていた。

 

 昼は宿の店番をしながら、弟妹の面倒を見て。夜は酒場になる食堂で給仕。時々、小さなステージのような一角で歌を披露する。

 自分も周りも常に笑顔が絶えない、どこかの一家の日常の風景。

 

 こんな日常がずっと続いて欲しいと願う。けれど、どこかで自分は変化を望んでいる。

 

 歌が好きだ。声に自分の気持ちを込めて、音で伝えられる歌。

 酒場の小さな一角ではなく、大きなステージで、大きな声で歌ってみたい。

 そんなふうに思い、星を眺めていると、意識が離れていく。

 

 †

 

ピチチ、ピピッ

 

(鳥の鳴き声、朝………)

 

 そっと、掛け布団を足下に追いやり、緩慢とした動作で起き上がる。低血圧気味なので、朝の動作はゆっくりを心がけているのだ。

 次いで、いつものようにストレッチをしようと窓際へ寄る。カーテンを開けて朝の気持ちの良い光を浴びて覚醒を促し、体をほぐすのだ。

 いつも通り、カーテンを開けて見えたのは、いつもの風景……ではなく、煉瓦造りの家の屋根。少し離れたところには青々とした森。

 

(夢…?)

 

 頬に手を伸ばし、引っ張ってみると確かに感じる痛み。

 

(夢じゃ、ない?)

 

 ようやく目の前の現実が寝起きの頭に浸透したのか、次に口を開けた時に出た言葉は……

 

「はぁーーーーーー!?!?」

 

 絶叫だった。


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