紫煙燻る黒狐   作:とろねぎ

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頑固な人は嫌われるよ?私は別にだけど

 

 

 

 

あーあ、『出会っち』まったな。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「...ぅべ...つかれたぁ...」

 

ベッドに解けるように倒れて、呻く。

 

「もうゲヘナ行きたくないよぉ...」

 

嬉しいことに、私の活動は別の地区まで噂程度には広まっているみたいで、たまにトリニティ以外の場所からも依頼が届くようになっていた。

 

それで今日はゲヘナでストラップを探してたんだけど...

 

「タコみたいなパンケーキが沢山居たし...お昼ご飯食べてたらお店が爆発したし...四六時中どこに行っても銃声聞こえるし...」

 

まさにゲヘナ(地獄)って感じ。

 

今どんな依頼が来てるか整理するためにメールを開くと、またベッドからひっくり落ちそうになった。

 

「また来てる!!財布を落としたぁ!?あんな所で財布落としたらもうダメだと思うよ!?他は...爆破してもいい場所?論外!!」

 

ゲヘナもうやだぁ...

 

「...寝よ...」

 

まあ...やるだけ、やってみようかな。

治安が悪いからお尋ね者にも困らないし、お小遣いチャンスって、考えれば...

 

何とか前向きに考えて、目を閉じた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

また後日。

 

結論から言うと、爆破する場所はまあもちろん見つからなかった。なんならあれカスミさんの奴だったし。

イタズラやめてね?

 

でも、財布は見つかった。

誰かが見付けて、近くのお店に預けてたらしい。

 

こういう所はしっかりしてるのなんなの?

 

無事に終わって良かったんだけど、今日もまたご飯中のお店が爆発して大変だった。

 

なに?なんなの?

 

私が人知れず起爆してるとかじゃないよね???

 

それともゲヘナのお店は床に地雷を敷き詰めてるとか...

 

...忘れよう。

 

それより今日は久しぶりに...ひっっっさしぶりに古書館行ける!

依頼も落ち着いてるし、今月はもうお尋ね者を探し回ることもしなくてよさそう。

 

「ふふっ...なにか、新しいの増えてるかな〜。」

 

インクの匂いがする空間に思いを馳せながら、歩みを進めた。

 

古めかしい扉を開けて、ほこりっぽい空気と紙、それからインクの匂いが入ってくる。

 

あぁ...落ち着く...

 

ウイさんは今休憩中かな?それなら挨拶したいんだけど...あ、本読んでる。

今ならいいかな...?

 

「ひ...久しぶりっ。」

 

驚かさないようにそっと声をかけて見たつもりだったんだけど、集中してたみたいで肩がびくって跳ねた。

 

「っ...あ、あなた、でしたか。」

 

一瞬ものすごい険しい顔をしてたんだけど、私だって分かったらいつもの温厚そうな顔に戻った。

 

「忙しかったけど、今は落ち着いたから久々に来たよ。」

 

「久々って...五日程度じゃないですか...?」

 

「五日は久々だよ!ただでさえ最近は混沌とした場所で仕事してたって言うのに、ここで息付く暇も無かったんだから!」

 

「混沌...?」

 

「ゲヘナ行ってた。」

 

「あっ......」

 

察してくれたみたいで、何も言わずに労ってくれた。

 

それにしても...やっぱり、気のせいじゃないよね?

 

「ねえウイさん?正直に言って欲しいんだけどさ...」

 

「は、はい?どうしまし...近くないですか...!?」

 

顔を近付けてみて、私の予想は確信に変わった。

 

「...私がいない間、誰といたの?ウイさんから、知らない匂いがする。」

 

「...はいっ!?」

 

「ヒナタさんでも、ハナコさんでもコハルさんでも、先生でもない。誰この匂い?」

 

ある程度面識のある人達と照らし合わせてみるけど、全員違う。

 

「これが誰の匂いかは分からないけど、これが私と同じ...狐の匂いってのは分かるよ?ねえ、教えて?怒らないからさ。」

 

「怒るやつじゃないですかぁ...!?」

 

「この浮気者!私が居ないからって他の子に手を出して!寂しかったなんて言わないでよ!聞くつもりもないから!」

 

「え、えっ!?ご、誤解が...」

 

酷く焦ったような顔をしてわたわたするものだから、少し気の毒になって、またそれ以上に愉快な気持ちになってきた。

 

「...くす...くすくすっ...なんてね。昨日のドラマの真似してみたの。びっくりした?」

 

ネタばらしして見せると、ウイさんはほっと安心したように肩の力を抜いて、椅子に深くもたれかかった。

 

「でも知らない人の匂いがするのは本当だよ?でも、純粋な好奇心で知りたいだけなんだ。もしかしたら仲良くなれるかもしれないし!」

 

「あ、あ〜...それは...どうでしょうか...」

 

なんでか答えを渋るウイさんを横目に、あれでもないこれでもないと匂いを色んな人に合わせていると、扉がきいと音を立てて開いた。

 

「あっ...また来た...」

 

どうやら今来たのが、この匂いの人らしい。

 

「歓談中にすまないね。今日もまた『交渉』に来たよ。今日は君でも無視出来ない話を持ってきたんだ。話ぐらいは聞いてくれるだろう?古関図書委員長?」

 

なんだか妙に棘のある声色のその人は、かつかつ音を立てて、やって来た。

 

金色に近い髪色と白い服装がなんだか眩しい。

ふと直感的に、『あ、この人偉い人だ』って分かっちゃった。

 

「...むぅー...」

 

それはそれとして睨み付けるけど。

 

しっかり耳も引き絞って威嚇もしちゃう。

 

「な、何をされても、絶対に渡しませんからねぇ...!」

 

ウイさんったら小動物みたいに本を抱え込んで、シャーって威嚇してる。

 

でもそんなことは気にせず、匂いの人は懐から一つのカードを取り出すと、置いた。

 

「ティーパーティーの書庫を自由に出入り出来る物だ。これで...」

 

「はい???ちょ、ちょっと待ってください。」

 

今ティーパーティーって言った?

 

一応住んでいる自地区のトップぐらいは私でも知ってる。

 

個人の名前は知らないけど...

 

「あぁ、これでも不十分なようだね。それもそうか、書庫には珍しい物が一通り揃っているとはいえ、世界に一つだけのものでは無い。君ほどの者なら凡そ見知ったつまらない空間だろうからね。」

 

「いや...職権乱用じゃないですか...?」

 

「なんだ、そんなことを気にしていたのか。ナギサには許可を取ったよ。君の書物への向き合い方は、彼女も一定の評価を下しているらしい。さあ、どうだろうか。」

 

匂いの人...この呼び方なんか失礼だな...ティーパーティーの人、ウイさんに何して欲しいの?

 

もし良くないことをさせようとしていたのなら、ティーパーティーだろうと...

 

「...そう睨まないでくれないか。初対面の人間にここまで敵意を向けられるのは、珍しさこそ無いがそれでも愉快では無い。」

 

「嫌だよ。今のあなたの印象、最悪だもん。」

 

威嚇の姿勢は維持しつつ、低く唸る。

 

「はあ...さて、どうだろうか。」

 

しばらくの間、ウイさんを見つめるティーパーティーの人を睨んでいると、ウイさんがそのカードを手に取って...

 

「...何度も言いますけど、お断りします。」

 

ティーパーティーの人に、返した。

 

「......そうか。」

 

なんかティーパーティーの人、見るからにしょぼくれてる。

 

へにゃりと力無く倒れる耳を見ていると、今度は私、なんだか可哀想に思えてきちゃった。

 

「ウイさん...?あの人誰...?何しに来てるの...?」

 

「...うぅ...ティーパーティーの、セイアさんです...ここ最近ずっと来てるんですよぉ...」

 

泣きそうな声で返事をされて、やっぱりティーパーティーの人で間違いなかった。

 

百合園セイア...どこかで聞いた気もするけど、思い出せない。

 

「ここで保管している...まあ古文書レベルに古いものを読みたいって...」

 

「誤解があるようだね。私は確かにあれを読みたいが、君はあれの翻訳済みの写本を渡そうとしてきたじゃないか。私は原本が読みたいのだよ。」

 

「......あんな感じです。」

 

「何も君の翻訳を疑っているわけじゃない。むしろ逆、限り無く精度の高い物だと理解しているからこそ、自身の解釈で読みたいのだよ。」

 

「だから...!あの子は丁寧に保管しないと壊れてしまうんですって!ましてや外に持ち出すなんて無理に決まってるでしょうって、何回言えば分かるんですかね!?」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのか、額に青筋をビキビキ浮かべて声を荒らげるウイさん。

 

いつぞやか、ヒナタさんが貴重な本を壊した時みたいな顔してる。

ちょっと怖い。

 

「第一...そんなに読みたいなら、お得意の権力でも使って差し押さえたらいいんじゃないんですか?いや、私が言うのも変だとは思いますが。」

 

「随分な言われようだな。私はティーパーティーの百合園セイアでは無く、知的好奇心に満ちた一生徒の百合園セイアとして来ているんだ。」

 

「......写本とか原本とかよく分からないけど、翻訳前の写本は無いの...?本当に、ただ写しただけのやつ。」

 

専門外の私がだけとか言うのもちょっとおこがましいけど、気になったから仕方ない。

 

「勿論要求したとも。ただ...」

 

「...無理です。」

 

「ご覧の有様で。」

 

「あるっちゃあるんだね?なんで無理なの?それ渡した方が早いでしょ?」

 

「一身上の都合で無理です。」

 

「なんで?」

 

「信念の関係上無理です。」

 

「理由ぐらいは聞かせてくれてもいいじゃないか。」

 

「宗教上の理由で無理です。」

 

「「最初とだいぶ変わったね?」」

 

ついハモってしまった。

 

「ねえどうするこれ?」

 

「ここまで頑固だとは思わなかった。もっとも、他から見た私も大して相違は無いのだろうな...」

 

さっきまで睨み付けていたこと、睨まれていたことを忘れてしまったかのように顔を向き合わせてため息をついた。

 

「理由を話してくれたら、この人...えっと、セイアさん?も納得してくれるんじゃないかな。」

 

「...いつからあなたはそっち側に回ってるんですか...?」

 

恨めしそうに見てくるけど無視無視っ。

 

「やけに友好的じゃないか。」

 

「悪い人じゃなさそうって思っただけ。他の人とは違って性格悪くなさそうだし!」

 

「耳が痛いな。」

 

まあ大半は単純に理由が気になるだけなんだけどね。

 

ウイさんがここまで隠そうとするのも珍しいから。

 

少し意地悪かもしれないけど...たまにはいいよね?

 

「...もう用が無いなら帰ってください...さぞ、お忙しい事でしょうし...」

 

「ふむ...確かにその通りだ。だが、彼女はどうかな?」

 

「私は今日一日暇なんだ〜。だから、ウイさんが喋るまで、ず〜っと隣に居るからね?」

 

「なっ...だからなんであなたはそっち側なんですか!?なんでそんなに仲良くなってるんですか!?初対面ですよね!?」

 

「結果を共有したいから連絡先交換しよ。」

 

「喜んで。」

 

「無視しないでくれますか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『二時間ぐらい隣で笑ってたら

喜んで教えてくれたよ!』

 

 

セイア

『世話をかけさせたね』

 

 

『なんか、そのまま写したのは活動を始めたての頃で

今よりもかなり下手だから

人に見せるのが恥ずかしかったみたい』

 

 

『明日用意しておくって!』

 

 

セイア

『何から何まですまないね

ナギサ...知人が許してくれるなら、

明日の朝にでも向かおう』

 

 

『...過保護なの?その、ナギサって人』

 

 

セイア

『心配性なだけだよ』

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

あとがき

 

タマちゃん最初はやんのかステップで距離取ってたのに、ふと良い人判定したら即近付いてくるの可愛い。

瞬歩か?

 

セイアもセイアで、ガンつけられてる間『狐坂妹こわ...』とか思ってたら嬉しい。

セイアはタマちゃんがワカモの妹なの知ってると思うんだ。

 

二人は小さい本好き狐って事でまあまあ共通点はある。

 

セイアの149cmって耳含むでしたっけ。

有志が調べた感じ、耳含んで149、耳が14cmとかあるらしいですね。

 

タマちゃんは耳抜きで142cmのつもりで書いていたので、あれ?タマちゃんの方が...

 

 

 

 

 

 

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