感想、お気に入り登録、評価、誤字報告ありがとうございます。感想貰うと元気が湧きます。感想が私のモチベです。お気に入り登録数と評価が増えると感想が増えるので嬉しいです。あと誤字報告は純粋に助かります。何もしなくても作品の質が上がるって素晴らしい。
あ、今回は過去編です。
これは、平々凡々な僕が
好きこそ物の上手なれ、なんて言葉はある程度までしか通用しない法則だ。何事も、ある一定以上の水準を目指せば、自ずと「好き」だけでは乗り越えられない壁にぶち当たる。
作曲をするようになって3年。そして、それより前、ボカロに興味を持ち始めて、更にそれを作ることに興味を持った僕に、ボカロ大好き両親が音楽理論の教育を施した期間を合わせれば、9年。僕はボカロに向き合ってきた。
なぜなら、好きだから。
曲を作るのも、その勉強をするのも全く苦ではなかった。苦戦することはあれど、苦痛に感じることはなかった。なぜなら好きだから。
新たな知識を得る度に、僕の好きな曲の魅力を言語化できるようになっていった。新たな壁に当たる度に、僕は好きな曲を聴いて自分の曲に足りない所を探し、好きな曲の更なる魅力に気が付きた。
だから、僕の人生の大部分を費やした作曲の時間もその勉強の時間も、全く無駄ではなかったし、むしろそれは楽しくて有意義な時間であったと言えるだろう。
しかし、それとこれとは別だ。
高校に入り、やっと手に入れた僕のスマホには、エレメノピーのチャンネルが開かれている。そしてそこにある動画の再生回数はここ3年ずっと低迷している。
正直、堪える。
何も再生回数が全てとは言わないが、それは明らかな指標である。何よりも、曲を作った側の僕が感じているのだ。「この曲じゃだめだ」と。
コード進行だとかキーだとか音作りだとかじゃなくて、もっとそれ以前の大事な部分。それが足りない。なんというか、僕が作った曲は薄っぺらな曲だと感じてしまうのだ。
何がダメなのかもどうすれば良くなるのかも分からないけれど、漠然とダメなことだけはわかる。完全な手詰まりだった。
そんな、ある日のことである。
「……Untitled?」
スマホに、僕の知らない音楽ファイルがあるのを見つけた。
もしかして、インストールに一部失敗して名前が消失したボカロだろうか。そんなふうに考えて再生ボタンを押したのが、僕の転機になった。
身体が光に包まれる──
「こんにちは、蛭ケ谷響」
突然の出来事に思わず目を閉じてしまったところに、聞き慣れた声が聞こえてきた。
耳を疑い、思わず目を開けると、そこには見慣れた少女がいた。
「重音、テト……?」
「うん、そうだよ」
……え、なんで?
重音テトいわく。ここは「セカイ」と呼ばれる人の想いからできる空間らしい。
「響は少し、いや大分特殊でね。セカイの外、というか、プロジェクトセカイの外の人間なんだ。だから、もともとはセカイが用意されてなかったんだけど、あまりに想いが強すぎて特例としてこの特殊なセカイが生まれた」
セカイ。僕の想いからできている、空間。
周りを見渡してみれば、初音ミク等身大フィギュアがあったり、そこかしこにボーカロイドのファングッズやボカロが収録されたアルバムが置いてあり、セカイに置かれたスピーカーからは常にボカロ曲が流れている。
「僕の想い……」
なんだろう、なんて考えるまでもなかった。というか、このセカイの様子を見れば他人でも一発で分かるだろう。
「ボカロが好き、という想いか」
「まあ、正解。僕としてもそこまで好いてくれると嬉しいよ」
「うわぁ……今更だけど本当に重音テトが喋ってる。すげぇ……」
すげえ。可愛くて尊い。力強い女声だ。……もしかしてリクエストしたらおちゃめ機能とか歌ってくれるのだろうか。
「でもね、響。それだけじゃないんだ」
「……というと?」
「響の想いは、ボーカロイドへの想いだけじゃない。それは、響が意識的に封じ込めてる想い」
……そんな物があるのだろうか。
「だとしても、僕の意思で敢えて封じ込めてるなら、そんな物忘れてしまった方がいいんじゃない?」
「ダメだよ」
深く考えずに発した言葉は思ったよりも強く否定された。
「どんな事情があっても、想いを殺しちゃダメ」
「……といってもなぁ。それが、例えば犯罪を犯したいとかの社会に悪影響を及ぼす想いかもしれないよ?」
「だとしてもだよ。想いを無視するのは絶対ダメ。むしろ、そういう想いこそ正面から向き合って、自分の中で折り合いをつけなければならない」
「……そういうものなのかな」
「そういうものなのだよ」
結局、その日は重音テトとおしゃべりするだけしてお開きとなった。
本来なら、セカイというものは複数人が想いを持ちあって作るものらしいんだけど、何分僕は特殊らしく、このセカイを作った想いは僕一人の想いなのだとか。それだけボカロ愛が強いということだろう。誇らしいね。
ちなみに、普通のセカイには初音ミクを初めとし、リンレンやルカ、MEIKO、カイトなどがいるとのこと。……いやズルッ!僕のセカイにも来てくれないかな。
閑話休題
そんな事があってから、僕は自分の「想い」に対して鋭敏になりながら日々を過ごすようになった。
何故か漠然と、僕のその「想い」を見つけられれば、このスランプとすら言えない作曲の伸び悩みが解決するのではないかと思ったからだ。
「アイスが、食べたい」
うーん、これは想い……と呼べるものではないか。普通にただの食欲だ。
「学校行きたくない」
……いや、これも違うな。普通に早起きが嫌ってだけだ。睡眠欲だ。
うーん、想い、想いねぇ。
「おはよー響」
「……毎日瑞希に起こして貰いたい!」
「ええっ!?」
これだ!これが僕の想い……!
……いや、違うか。毎朝瑞希に起こして貰いたい想いでできるセカイってなんだよ。
「そ、それってつまり、ええと」
「ん?ああ、おはよう瑞希。ごめん、ちょっと考え事してて気づかなかった。それより今日もカワイイね」
「あ、ありがとう。考え事って何なの……!?」
高校に上がってからは学校でも瑞希の本当の姿が見られるようになった。今日も今日とて瑞希はカワイイ。
……いや、そうか。
僕の人生で感情を揺さぶられることなんて、ボカロ関係か瑞希関係しかないのだから、僕の想いというのは瑞希関係なのかもしれない。
「……ねえ、瑞希」
「なに、響?」
半ば無意識に呟いた独り言のような言葉に対し、こちらを見て首を傾げて返してくれる瑞希。
「可愛いね、今日も似合ってるよ」
「ちょ、なになに恥ずかしいんだけどっ」
思ったことをそのまま言えば、顔を赤らめて手をわたわたと振って恥じらう瑞希。
カワイイ。僕にはそれしか感想が出てこなかった。
キーンコーンカーンコーン。
あれから、色々と「想い」に関して考えたけれど、結局答えは見つからず時間だけが過ぎ、放課後になった。
部活に入っていない僕は、図書室で借りていた本を返せば後は帰るだけだ。一緒に帰る約束をした瑞希が下駄箱で僕を待っている。早足で歩く。
何だか待ち合わせというだけでデートみたいでテンション上がるなぁ、なんてくだらないことを考えていたら、耳障りな声が聞こえてきた。
「おい、あれって……」
「ああ、暁山か。そうそう、アイツ実は……」
「うっへー、まじ?パッと見分かんねぇじゃん。気持ち悪ぅ……」
思わず足が止まる。
瑞希を取り巻く環境は良いものではないと分かっていたつもりだった。ただ、最近は上手くいっていた。瑞希の問題に気にせず接してくれる白石だとか、そもそもショーのこと以外何も考えてなさそうな神代先輩だとか、性別関係なく瑞希をありのままで認識して、接してくれる人たちが増えてきた。
だから、油断していた。結局、この学校という箱庭には面白おかしいトピックが不可欠であり、瑞希のような話題性のある存在がいれば性根の腐った大多数はくだらない日常での話のネタとしてそれを悪意を持って消費する。
「あっ、響!本は返し終えた?」
こちらに気づいて朗らかに笑う瑞希は、きっとこの環境に慣れて、意識的に明るく振舞っているのだろう。
……こんなの間違っている。
ああいう輩にいちいち突っかかっても解決にはならないし、それをした所で返り討ちに会うのが関の山だ。
だけれど、瑞希がそれに耐える必要も、ましてや悪意に慣れてしまうなんてこともあってはならない。だって、瑞希は何も悪くないじゃないか。
「うん。……じゃ、帰ろうか」
だから僕は、見せつけるように瑞希の手を取って歩き出した。
「ちょ、響?何して……」
「エスコート」
「え、ええ?いきなりだね……」
瑞希は気持ち悪くなんてない。言葉で言っても聞かないクソ野郎共を、振り返り睨みつける。
きっと、アイツらにとっては僕も「気持ちの悪い陰キャ」でしかなくて、僕の睨みつけなんてなんの迫力もなくて、笑いものでしかないのだろう。だけどこれは、何かしらの反抗がしたかった僕の、ささやかなプライドだ。
握った手。僕よりも細くて色白な手が、握り返してくる。
拒絶されなかったことに安堵しつつ、やはり恥じらって顔を赤らめる瑞希の可愛さにやられて、鼓動が高鳴る。
「な、何か喋ってよ」
そっちから手を繋いできたんだから、と言外に匂わせて瑞希が言う。
気まずささえも心地よかった。
ただ、僕は「月が綺麗ですね」の一言すら君に伝えられない。だから代わりに言うのは。
「カワイイよ、瑞希」
「もう、またそれ……」
そう言う瑞希も可愛かった。
「何やってんだ僕は……」
帰宅後。布団にこもり悶える。はい、僕は失言&黒歴史メーカーですすみません。
流石に友達とはいえ、高校生が手を繋いで歩くとか恥ずかしいだろ。瑞希も恥ずかしそうだったし。迷惑だったよな……。
「……でも、可愛かったな……」
握った瑞希の手の感触が、握り返してくれた手の感触が、いつまで経っても鮮明なままだ。
「……はぁ、やっと分かったよ、僕の想い」
あんなに悩んでいたのに、答えは馬鹿馬鹿しい程近くにあった。
布団から抜け出し、荒れた髪の毛を整えてからUntitledを再生する。
僕の身体は光に包まれてセカイに飛ばされる。
「こんばんは、響。その様子だと、自分の想いが掴めたみたいだね」
「……ああ」
こちらに話しかけてくる重音テトが着ている服は、いつも見る軍服ではない。
初めから気づくべきだったのだろう。このセカイが僕の想いでできているのだとしたら、このテトが来ている服もまた、僕の想いの結晶だなのだと。
「……僕は、無意識下で瑞希をアイドルか何かだと思っていた。でも、実際は手を伸ばせば届くし、当然話せるし触れる」
カワイイカワイイと言って無理やりそこで思考を止めていたけれど、結局のところ僕の「想い」のまあなんて単純なことか。
「僕は瑞希が好きだ」
こんな想い、瑞希からしたら迷惑だし、きっと伝えてしまえば僕も瑞希も大切な「友達」を失う。だから、僕からしても要らない想い。そんなふうに考えて、無意識に見ないようにしていた。
「本当に、やっと気づけたんだね。それで、響はどうしたいの」
「僕は瑞希が好きだ。そして、この想いは伝えない。僕は瑞希が好きだから、瑞希といられさえすればそれでいい」
「……そっか、それが響の出した答えなんだね」
「やっと、僕の曲に足りてないものがわかったよ」
芸術の定義は「人の心を揺さぶるもの」だ。そして、人の心を揺さぶるのもまた、人の心だ。要は、「真心を込めて作る」とかいう小学校家庭科の授業で学ぶことを僕はできていなかったから曲に魅力がなかったのだ。
自分が強く想うこと、本心を曲にする。うん、今の僕ならできるはずだ。
「ねえ、テト。僕の曲ができたら君が歌ってくれないか」
「僕が?……響は、初音ミクの方が好きなんじゃないの?」
……何この子すげぇいじらしくてかわいい。
「まああれだよ、初音ミクが好きなのは否定しないけど、それは推しキャラとか推しアイドルとかと同じで、単純な好意とは別枠だし」
「単純な好意なら瑞希が一番のくせに」
「それは……まあうん。だってその想いで生まれたのが君だろ?」
まあつまり。
「重音テト、君は僕の分身で、相棒みたいなものだろう。僕はそんな君に歌ってもらいたい」
「……つまり、相棒としてなら、僕が一番ってこと?」
「ああ」
「ほんとに僕でいいの?」
「テトがいいんだ」
「実は31歳でも?」
「年齢なんて飾りだからね」
「性別''キメラ''でも?」
「それ僕に聞く?僕の想い人は性別''瑞希''なんだけど」
「決めゼリフが''君はじつに馬鹿だな''でも?」
「最高にクールじゃん」
「存在自体が偽物でも?」
「だからこそ
「……ふふ、そうかもね」
あっ、デレた。可愛い。そういば、重音テトは公式設定でツンデレなんだっけ。
さあて、俄然作曲にやる気がでてきたね。
そんな経緯を経て、僕のスマホのUntitledは例の瑞希に向けて作った恋の歌に変化したというわけだ。
◆おまけ 重音テトが有能だったセカイ線
「本当に、やっと気づけたんだね。それで、響はどうしたいの」
「僕は瑞希が好きだ。そして、この想いは伝えない。僕は瑞希が好きだから、瑞希といられさえすればそれでいい」
「何言ってんだクソボケ。さっさと告ってくっついてこい」
重音テトいいですよね。最近だとオーバーライドとかライアーダンサーとか人マニアとか。昔だとおちゃめ機能がなんやかんやとても好きです。他にも吉原ラメントはもちろん、右に曲ガールとかだめにんげんだ!も好きです。(早口オタク)
・カウンター狙い最低な日々 「劣等上等」より引用