side 瑞希
エレメノピー、もとい響とニーゴのリアルでの交流があった翌日。今日は土曜日で補講もないから、動画制作の作業に集中する予定だった。
それで、作業の合間の休憩の時、ふと響のことを考えた。昨日、勢いで響を抱きしめてしまったことを思い出して、少しやりすぎたかと後悔して。そしてそこから、響がエレメノピーであった事実へと思考が移って、ふとエレメノピーの動画を眺め始めた。
ズラリと並ぶサムネイル。この動画も全部、響が作ってるんだよね……。そう思うと何だか不思議な感覚だ。エレメノピーの出す曲は殆どチェックしていたけど、それと響が結びつかない。
「ん?こんなの出してたんだ」
そこでふと、1つの動画が目に止まった。動画のタイトル欄にエレメノピーの代表曲とも呼べる重音テトの曲名と『selfcover』の文字が並ぶ。
ボカロ原曲至上主義の響がセルフカバーを出すということに違和感を感じつつ、再生ボタンを押した。
そしていっそ押さない方が良かったと後悔した。
『君の髪のピンクが目に焼き付いて離れない』
ああ、そういえばこんな歌詞だったけ……。
動画は一度再生されれば途切れずに垂れ流される。響の声で、恋のうたが歌われる。
『勉強会、君に見惚れてしまって筆が進まない』
……どおりで、響がボクに自分が作った曲を聴かせてくれないわけだ。
『どうせダメと諦めつつ希望を捨てきれない僕はきっとどうしようもなく君のことが好きなんだ』
「……っ!〜っ!ああもうほんと、もうっ!」
『伝えられない想いでもいい。僕は君といるだけで幸せだ』
「……っ。……はぁ……ほんと、なんで……」
一人ベッドの上で悶える。まさか想い人がボクへの愛の告白を全世界に垂れ流しているとは思わないじゃん……。
残念ながら、ボクは響ほど鈍感じゃない。ここまで明らかな好意を歌に乗せられたら、伝わってしまう。ピンク髪だとか勉強会だとか、流石に勘違いしようがないほど、ボクに向けた歌だってわかる。
コメント欄でピンク髪に対する考察が盛り上がっているけど、それ、ボク……。
ボクは、人が隠している本心を読む能力に長けている。そのせいで余計なことを言ってむしろ空気を悪くさせちゃったりすることもあるけど。とはいえ、そんなことが起きるくらいにはこの「本心を見抜く力」に自信がある。
そんなボクが、普段の日常生活での響を振り返ってみて、その本心を考えてみると。
「絶対ボクのこと好きじゃん……」
もはやボクでなくともわかる程、というかむしろそれでよく隠せている気でいるなと思う程、響の好意は筒抜けだった。
「……どうしよう」
胸がバクバクうるさい。こんなの作業に手がつくわけないじゃん。
カワイイピンク色の生地のかけ布団の上に丸まって、うずくまる。
『どうしようもなく君のことが好きなんだ』
「〜〜っ!ばか!ほんっとばか!」
頭に残る曲のフレーズがボクを苦しめる。足をバタバタと暴れさせて悶える。
こんなの、明日から次の週からどんな顔して会えばいいかわかんないじゃん……。
「好き、か……」
その想いに、答えてもいいんだろうか。
響は、ボクの想いを受け入れてくれるんだろうか……。
side 響
あの後、よく考えてみたんだよね。例のあの曲について。
ひとまずその曲を聴いてみて、コメント欄を見て思ったんだ。
「これ、弁明できるよな……」
そう。コメント欄を確認してみれば、
『髪が綺麗でえっちなのをピンクって色にして例えるの天才では?』
『いや、普通に重音テトの髪色を言ってるだけじゃないの?このMVのテトちゃんの髪色ならピンクと言えなくもないし』
『エレメノピー「なるほどそういうことだったのか」』
『草』
このようにピンク髪に対する考察がなされていて、しかもそのどれもが納得させられるのだ。
そもそも、歌詞に出てくる人物の性別さえわからないような抽象的な歌詞ばかりだし、それを瑞希個人に繋げるのは無理がある。
僕は完全に瑞希に宛てたラブソングとしてこの歌を書いたけれど、それを聴いてどう感じるかはまた別物だ。
仮に瑞希が「これ、ボク意識して書いてる……?」とか思ったとしても、それを直接僕に言ってくることはないだろう。あるとしても、それとなく確認してくるとかだろう。
それに対し僕は白を切ってしまえばいいのだ。なんなら「その時やってたギャルゲーのヒロインがピンク髪だったんだよね笑」とか言って誤魔化すこともできる。
つまり、僕がすべきことは堂々としていることなのだ。僕の日常に何一つ異常はなく、なんの問題もないように振る舞えばいい。それだけで瑞希は「なーんだ、ボクの勘違いか」と思ってくれるはず。
そんな訳で、月曜日。いつものように元気に登校する。
瑞希は休みだった。
……いや、うん。瑞希は割と学校サボりがちだし、まだ焦る時間じゃない……。そう、だよ……な?
ピンク髪なんてごまんといるし、セーフやな!