告白   作:96QX


オリジナル歴史/ホラー
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時は昭和三十六年。
主人公とKは鎌倉に遊びに来ていた。
そこでKは主人公にある告白をし...

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告白

私とKは竹馬の友だった。

幼き頃からの友であり、またライバルでもあった。

昭和三十六年の夏、私たちは江ノ島にいた。

当時二十二歳だった私たちは夏休みを有効活用して地方の大学から来たのだった。

持ってきたものは大学の課題だけだったが、やる気はなかった。

むしろ鎌倉へは遊びに来たのだ。しかし私たちは憂鬱だった。

折角鎌倉に来たのにも関わらず、昨今の猛暑のせいで観光客がひしめき合っている。

おかげで海水浴に行けるはずもなく、いつも旅館で寝ていた。

そのたびに「今日も行けなかったなぁ」とぼやくと二人で変わらず大きな笑い声をあげるのだった。

そんな頃、海水浴客が少なくなった日があった。

これは好機だと思った私たちは、早速海へと駆けこんだ。

猛暑といってもずっと海にいれば寒くなる。私たちは三十分ほどしたのち浜辺で寝転んだ。

そこでKは一切を私に告白した。

Kが同じ大学のRのことが好きであること、思いすぎて講義中までRの事を見てしまうこと、この気持ちをぶつけないとどうにかなってしまいそうなこと...数えればきりがない。

私がなぜ私に言うのか聞くと、友達なのと、私がRのことを好きになっていると見えるからだといった。

確かにRとは同じ研究室だし、よく話はしている。

だが私はRのことを恋愛対象としてみてはいなかった。

私がその旨を説明すると、彼は正気に戻った。

「ところで、Rのどこが好きなんだ。」

「顔、声、髪、スタイル... 数えればきりがねぇよ。」

「そうか、私が告白してやろうか。」

そこで彼は私に飛びついた。

「それは死んでも嫌だ。俺の口から言うんだ。」

「ふられても知らないぞ。」

そういうと私は一足先に海水浴場から帰った。

夜、また同じ話題にふった。私ではない。Kがしだしたのだ。

「どうしようか、絶対にばれないようにしたいのだが。」

「俺がいい計画を立ててやろう。」

そういうと私は床に就いた。

実際のところ、何も考えていなかった。

彼がどんなに私に説明しようと、私は彼の気持ちがわからない。

そう思っているうちに、朝になっていた。

そこで私はいい計画を思いついた。

旅行へ行くんだ。

今なら夏休みでみんな暇だろうし、そこで告白させればいいのではないかと考えた。

「いい案が思いついたぞ!!」

その声でKは飛び起きた。

「なんだ、朝っぱらからうるさいな。」

「みんなで旅行へ行こう!そこで告白するんだ。」

「そ、そんなの無理だ。」

多分だがその時は私の方が狂っていただろう。

そりゃそうだ。突然朝から大声を出したと思えば旅行に行く?ばかげているのかと私なら思う。

しかしその時の私は狂気だった。

「早く荷物の準備をするぞ!!」

「落ち着け!いったん正気に戻れ!」

そういうとKは私の首裏を叩いた。

うっという声と共に私は六畳の部屋に寝転んだ。

それから意識が戻ったのは三時間ほどたった後の事だった。

「無理だ。」彼はそういうと私に茶を出した。

「でも、やるんだ。」私は底力(だがその時はかなり弱っていた)を出して言った。

「仕方ねえ、でも、これでどうなっても知らねえからな。」彼は言った。

「こちらこそな。」私はそういうと、その場で寝てしまった。

宿場には一つの黒電話があった。

そこで私はRに電話した。

「ねえ、今暇かい。」

「ええ、暇だけど何か用かな?」

「一緒に旅行へ行かないかい?」

えっという声がここからでも聞こえた。

「でも、そんなお金どこから...」

「私が持っている、なんてったって私は大地主だからな」

私はある有名な一族であり、その嫡男でもあったため大量の土地を持っていた。

その代金から使えば大丈夫なのではないかと思ったのだ。

「それはいつ?」

「八月十九日の八時に鎌倉駅で。」

「じゃあほかの友達も誘っとくね。」

「ファッ?ちょっと待ってくれ!」

そんな言葉が届かぬうちにRは電話を切ってしまった。

「明後日だぞ、早く準備するんだな」

「わかっとるわい」Kは絶対わかってなさそうな態度でそう言った。

明後日、起きた時の時計は七時を指していた。

「まずい!!しくじった!!」そう飛び起きた私は急いで支度をし、鎌倉駅へ向かったのだった。

鎌倉駅に着くと、Kはもう先についていた。

「なんでわかったんだ、第一起こせよ!!」

「お前の電話の時の声は大きいからな、あと起こしたが起きなかったのはお前だ。」

そういうと私は頭を抱えて笑った。

「あら、いるじゃない。」

そう言ってRは来た。そこにはRの友人Sがついてきた。

実は私はSが好きだったのだ。だが私にはKにさえ告白する勇気がないから言えずにいた。

その時私は決心した。

この旅行でSに告白すると。

私は電車に乗った。

「どこへ行こうか。」

「え、決めてなかったのかよ。」

「いや、行先は決めてるけど...」

「どこなの?」

「あ、熱海」

そういうとKもRもSもびっくりした目をして言った。

「え、熱海!?」

正直反発されるのはわかっていた。本当だったら大阪などへ行きたいだろう。

しかし私にはお金が足りなかった。父が土地を売却してしまったのだ。

「最高な旅になりそうだね。」とR。

「えっ」と私。

「そうだね、いい旅になりそうだね。」とS。

私は遠慮せずに声を出して泣いた。

なぜなのかは単純明快。単純にいいと言ってもらったのがうれしかったのだ。

「まあ、そう泣くなよ、電車の中なんだし。」とK。やっと泣き止んだ。

私は赤い目をこすりながら言った。「宿もいい宿を知ってるからそこに泊まろう。」

電車はガタンゴトンと音を出して走った。

かなり時間がかかったが、何とか熱海についた。

電車はガタンゴトンと音を出して走っていった。

そこから駅近くの豆腐屋で湯豆腐を食べ、温泉につかって町を巡った。

そして時は来た。

場所は宿の近くだった。

KはRを呼んだ。私もSを呼んだ。

そして二人同時に告白した。

「好きだ、付き合ってくれ。」

一ペアはあたり、一ペアは外れた。

私は当たりくじを引いた。

Kは外れくじを引いた。

つまりいうと、Kはふられたのだ。

彼の悲しみに満ちた顔は今でも忘れられない。

K曰く「すいません」だと。

対してSは「ありがとう」と。

今度はKが大声で泣き出した。

そして調子が悪いと言って先に帰ってしまった。

そうして宿も三人で泊まり、予定通り帰った。

「また会おうな。」と言ってさよなら。

しかし帰って見たKは変わり果ててしまっていた。

 

宿の前には何本もの酒瓶がありいくつかは割れていた。

ガラスを踏まないように気を付けながら入っていった。

そこで見たKは昨日とは全く違っていた。

顔を赤くして(それはすでになん十本もお酒を飲んでいるようでした)六畳の部屋に横になっていたKに私は話しかけた。

「帰ったよ。」

「うるせえうるせえ!!いいよなお前は、俺に言わなかったくせに告白しやがって、それに成功!?ふざけんじゃねえぞ!!」

何を言っているんだ、と私は思った。第一私がKに言わなかった理由はKを信用していないわけではなく、ただ単に私に自信がなかったから。

「俺の友は今では酒しかいねえ!!お前は早く地方へ戻って悲しい勉学でもするんだな!!」

もうあきれた。私は言葉通り地方へ帰った。

夏休みは終わり、講義が始まった。

しかしそこでもKはその時のまま酒におぼれ、そのくせ私に絡んでくるものだからついに私はKを殺そうともした。だが私は思いとどまった。

Kを殺したら私の唯一の友達が消えてしまう、しかも世間からの風当たりも強くなるし、しかも私は法学部の身だ。そんなこと法は許してくれない。

そんなこんなで私は踏みとどまったのだが、Kは相変わらず酒ばっかり飲んでいたから、ついには学校から放校処分を受けた。

正直仕方ないとは思ったが、私には情があった。

私は学長になんとか訴えかけて、私の唯一の友の放校処分を止めようとした。

しかし無駄だった。学長は頑固だった。

今では思うが、この放校処分こそが彼が死んだ一番の理由かもしれない。Kは孤独を感じたのだ。

そこからしばらく会わなかったが、二か月もした後彼は案の定変わっていなかった。

暗い部屋に一人、相変わらず酒ばっかり飲んでいたので部屋は酒臭かった。

「いい加減そんな生活やめてまともに職を探したらどうだ。」

「俺は放校処分を受けた身だぞ!!今更まともな職に就けるか!!」

「諦めたらできない、あきらめなかったら絶対できる、私のモットーだ。」

「そんなの知ったこっちゃねえ!!無理なもんは無理なんだ!!」

「なんだと!!」

私は今にも彼の喉笛に飛びつくところだった。しかし思いとどまった。

私には学校がある。仲間がいる。そう思ったのだ。

三カ月後...

そろそろ大学院に入学する頃なので、論文を提出する必要があった。

しかし私は勉学をしっかりしていたので、期限の四カ月前にはすべて完成させて提出していた。勿論ミスなどはなかった。

RとSは早めに嫁ぐらしい。

その話を聞いたときに私はSに言った。

「結婚しよう。」案外すぐ決まった。

家族は泣いて喜んだ。まあ所詮跡継ぎの事しか考えてないんだろうなとは思った(実際そうだった)。

ところでKだが、酒は百薬の長とか言ってまだ酒におぼれているらしい。

これでも友なのでよくKの家に行っているのだが、相変わらずの様子だ。言いたくもない。

ある雨の日私はまたKの家へ行った。酒瓶はもうおいてなかった。

彼にとっては悲しいことを私は言った。

「私、Sと結婚したんだ。」

そうするとKはそこら辺にあった酒瓶を私に向かって投げかけてきた。

怒りで傘を折ったKは怒り狂って襲い掛かってきた。おかげで大けがになりそうだった。

命の危険を感じた私は急いで家へ帰っていった。

帰りにびしょぬれになったおかげで風邪をひいてしまった。

風邪をひいているときはSが手当てをしてくれた。

「まったく、あんな人となんか縁を切ればいいのに。」

「いや、Kは私の唯一の友なんだ。」

「新しい友達を作ればいいじゃない。」

だめなんだ、と私は心の中で思った。彼は私の幼いころを知っている唯一の友だ。

そして風邪が治った後私はSと暮らすことにした。

そしてそのあと四カ月ほどKとは会わなかった。

なぜならもし会った後後をつけられてSに被害が及んだら非常に惜しいことになるからだ。

しかし転機が訪れた。昭和三十七年の四月であった。

なんと大学院の入学式でKがいたのだ。

「な、なんでKが!?」

「ああ、校長が機転を利かせて何とか入れてくれたようだ。これからは全うな生活を送ろうと思うからよろしく。」

私はその言葉に全く信用が持てなかった。つい四カ月前まで酒を浴びるように飲んで傘を折っていた人が何を言ってるんだか。

第一私はもうKに興味を持っていなかった。もうどうでもいいと思うようになっていた。それよりもSと幸せな生活が送れたらいいと思っていた。

でもまあ改心したのならいいかと思って握手した。

その握手は闇に変わった。

翌月彼は退学届けを自主提出した。いい仕事が見つかったらしい。

でも私はそれを信じなかった。急いでKの家へ急いだ。

相変わらず暗かった。そこにKはいた。

その時の彼は私が想像を絶するものだった。

 

彼の腕や足には数えきれないほどの傷があった。

「お前、どうしたんだ!!紙で切ったのか!?」

「いや、自分でやったんだ。」

「ふざけるんじゃねえぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

私は今まで出したことがないほど大きい怒号をあげた。

「これは親が大切にしてきたおまえ自身の体なんだぞ!そんなことしていいわけないだろ!!」

「いいんだよ!!俺の勝手にさせろ!!」

「いいわけないだろ!!」

私は深呼吸をしていったん落ち着いた。

「生物学科だったお前ならわかるだろ、人間が生まれるのがどんな確率なのか、どれだけ産むのが大変なのか」

彼は黙って聞いているばかりだった。

「そういうことをするんだったら、私はお前の友達をやめる」

そういってその日は彼の部屋を出て行った。

その日の夜、私はSに今日起きた一切を話した。

「もうやめちゃえばよかったのに、友達なんて。そんな絆で結ばれている友達なんて友達じゃないわよ。」

「今回は時間をあげただけだ。次はない」そういうとまた床に就いた。

その日からしばらく彼のうわさは聞かなくなった。それからも私は大学院へ通いながらSと幸せな暮らしを過ごしていた。

そんなある日、私は散歩がしたい気分になった。

そこでしばらく行ってなかったKの家の前を通ることにした。

相変わらずだった。

また彼の家の前には酒瓶が何本も置いてあり、いくつかは割れていた。

私の憶測だが、たぶん野次馬たちが割ったのだろう。

彼がそんなことをするとは思えない(でも実際は疑っていた。彼がしたのではないかと疑ったが、その近くに玄翁が置いてあった。そこにはKではない名前が書いてあったのだ)。

そしてまた恐る恐る扉を開け家の中へ入っていった(これを見て、不法侵入にとらえられるかもしれないが、そうではない。私たちの約束で、六回ノックをして返事がなければ入ってもいいといいルールを作ったのだ。無論毎回ノックはしているし、いちいちここに書く必要もない)。

彼は相変わらず酒を飲んでいた。前ほど酔ってはいなかったが、今日も何瓶か飲んだようだ。

「あ?なんだ、お前か。いやあ、相変わらず職は見つからないし、お酒で貯金は減るし、どうしようかなあ。」

彼は楽観的にとらえているようだが、私はそうではなかった。唯一の友の職がないとなれば、私の名も汚れる。それにそれが家族に知られたら、きっと断絶だろう。

「いいから職を探せ、行くぞ」

「へ?」彼は苦笑いに似た表情で私に向けて首を曲げた。

「ちょっと待て、もう職は見つかってるんだ」

「嘘つけ!」

「いや、本当なんだって」

「じゃあ、なんなんだ?」

「タバコ屋です」

「は?」私も苦笑いに似た表情で彼に向けて首を曲げた。

正直、彼の考えは私にばれていた。煙草を入手して、それでまた自分で使うつもりなんだろう。

「だめだ、タバコ屋はだめだ」

「なんでだ」

「どうせ仕入れた煙草を自分で使うつもりなんだろう」

「ちっ、ばれたか」

彼も策士だなあと思いながらも、私は彼に職を紹介した。

「研究者がいいんじゃないか、大学卒業者で生物学科出身なら道も出てくるだろう」

「わかった」

その日はそこで終わった。

帰ってまたSに一切を話した。

Sも納得したらしく、Kを応援してくれるようになった。

そういえばRは、と考えているうちにまた夜を越していた。

 

そう思っているうちに彼女から電話がかかってきた。

「ねえねえ、一緒に都市へ行こうね、明日!」

「えっ!ちょっと待って」

また切られた。これが彼女の悪いところだ。

待合場所は近くの駅。

そこから少し大きな都市へ行って見物する予定だ。

「やっほー」と言ってRは駆け付けた。

それから新しいビル街を巡り、買い物などをしていたらあっという間に夕方になっていた。

そこでは様々なものを見た。

街頭にあったテレビとか、オリンピックに騒ぐ人たちとか、数えればきりがない。

それからまたさよならのあいさつをして別れた。

そう、ここまではよかった。ここまでは。

あくる日、また私は散歩に出かけようとした。

出会い頭にKと出会った。その手にはナイフが握られていた。

「な、何をする気だ」思わず劇風に言ったが、本気だった。

「お前...よくもやりやがったな」彼の声はそれ以上に本気だった。

「何のことだ」

「お前...Sと結婚してるくせにRとデートしやがって」

「えっ?」と裏で家事をしていたSが言う。

「違う、あれはデートじゃない」

「嘘つけ!」

「違うって言ってるだろ!友の言っていることを疑うのか?」

「疑うさ!お前のためにな!」

「なんだと!!」私は彼に飛びついた。その時私は後悔した。

彼は手にナイフを握っていたのだった。

起きたら病院だった。

SとRが私の枕元にいた。

「起きた...よかった」Sが急に泣き出した。

私にはわからなかった。Sはむしろ怒ってもよかったのではないかと思った。デートと疑われるようなことをした私を。

「ごめんなさい...私が勝手なことをしたせいで」Rも泣き出した。

「まあ二人とも、今回の件は私が悪かった、ところでKは>」

「Kなら警察で尋問を受けてるわよ、あいつ、友達を殺しかけたっていうのに全然悪びれてなかったのよ」

聞いたところ、彼は私が倒れた後も立ち尽くしていたらしい。

しかし私には、それが彼なりの謝罪だったとも感じられた。

しかし私は血の気が引いた。

私のせいで彼は捕まってしまうのではないかと。

その時の私もかなり狂気だった。自分の命よりも友を優先していたのだから。

結局彼の故意ではないということで不起訴になったのだが、その件のせいで私とKの間には深い溝ができ、しばらく会うことはなかったのだった。

それから二年の時が経った。

時は昭和三十九年十月、東京オリンピック開催である。

ちょうど開会式の日、私はまた散歩に出かけた。

家にテレビはあったものの、なぜか見る気にはなれなかったのである。

そしてまたKの家を通ると、なんだか煙臭かった。

また入ってみると、私の想像通り。彼は煙草を吸っていた。それも五ダース。

「なんてことをしてるんだ、酒はやめたのか?」

「酒はまだやめてない。煙草を始めただけだ」

確かに彼の周りには酒瓶が何瓶かあったが、前よりは減っているように見えた。

「職はどうした」

「まだ見つけてない、この頃オリンピック景気というけど、何かとやる気が出ないんだなあ」

「仕事を見つけるんだ、さもないと友達をやめるぞ」

「やめてもらって結構、そんな絆で結ばれた友達なんていらんのだ。」

そこで私は初めて自分の狂気に気が付いた。自分とKは今や歪んだ絆で結ばれていること、またそれが自分に不利益になっていること、それでも続けていること。

 

私は何も言わず、彼の家を去った。

それから一年の時が経った。

世の中は不況、私の給料は安定していたがほかの同級生たちはどんどん給料が減って困窮していた。

そんな中でKは何をしているのだろうと気になって、また散歩をすることに決めた。

そしてまたKの家を訪れると、以前よりも煙臭い感じがした。

案の定彼は煙草を吸っていた。しかも今度は十ダース。

「もう俺は煙草がないと生きられない、酒もないと生きられない、ああ私は何をすればいいんだろうか、ああ神よ、俺に御加護を!」

「職を見つけるんだ」

「職なんかない、だってこんな不況だろ、どこだって新規雇用なんて求めちゃいないさ」

「ある!」久しぶりに大きな声を出して言った。

「わが研究所の研究者になるんだ。」

「は?」彼は理解できなかったようだ。

それもそのはず、私は法学部の出であり、研究とは何ら関係はなかった。

だがその中で私は法を習った。そしてそれに倣って起業について勉強した。

そして私は研究所を建てた。実際に私が研究をするわけではないが、研究者を集めて大きな研究所に仕立て上げていた。

「どうだ、君も来ないか?」

「いや、たといやりがいがあろうとも、この俺には荷が...」

「給料、高いぞ」

こうして私は一人の生物学者を手に入れた。

そこからは最高の日々だった。

彼は研究をしてお金がたまる。それを浪費することもない。

私は家の財産を使って起業したから、親にいい顔では見られなくなり、絶縁手前...

あれ私にいいことなくないか?

それでも私は研究者の研究を見るだけでも最高だった。

彼は当時話題だった人工授精に関する研究をつづけた。

研究しているときの彼は本当に幸せそうだった。

ふられた時と比べたら大きな差だ。

私はそんな彼を昔の私に投影していた。

当時の私は嫡男だったが、両親にはあまり好かれておらず、むしろ弟妹の方が好かれているようだった。

そこに祖父が現れた。祖父は大地主で、財産をたくさん持っていた。

しかし祖父は私が十九の時に亡くなってしまったため、祖父の財産は父が受け継いだ。

そこからが地獄の始まりだ。

私の一族は分割相続だった。祖父も初めは小さな土地だったが、そこから土地を広げたそうだ。

しかし父は大学で勉強してるんだからと言って私に土地をよこさなかった。

その代わり弟妹には祖父が遺した大量の土地をあげたのだった。

そこから私は勉強に必死になって今に至る。

そんな祖父がいたころの私に、研究している彼を当てはめて楽しんでいたのだ。

しかしある日を境に、彼は研究所に来なくなった。

不審に思って彼の家に行くと、彼は倒れていた。

見てみると、何やら不審な薬が一粒。

私はすぐに病院へ連れて行ったが、寝ているだけだと診断された。

無駄にお金を使ったが、彼のためなら仕方ない、大事な研究者だから。

その後彼が起きてからすべてがわかった。

彼は睡眠薬を乱用していた。そして今の状況に至ったことも。

私は久々に大声を出して怒った。

彼曰くバルビツレートというものでかなり強力らしい。

「もう二度とするなよ」私はそう言って出て行った。

だがしかし、私のきいたところによると、それから何回も乱用していたらしい。

それに酒やたばこの本数も前より増えていったらしい。

実際、そのころから研究所を無断欠席することが増えてきた。

しかしところどころではあるが来ていたので、私は少し安心していた。

そんな日々を送っているうちにあっという間に一年がたった。

そこで事件が起こったのだった。

その日は十月の初めだった。その日は日曜日だったので私たちはKの家で二人でテレビを見ていた。

その中でニュースが入った。

彼が使っていたバルビツレートの販売が控えられたというのだ。

このニュースを見ていたが終わった後に彼はこう言って発狂した。

「ああ、もうだめだ、あれがなきゃ、俺はもうだめなんだ」

私は急いで隣の部屋に彼を押し込み、落ち着かせた。

ひと段落ついたところでSから電話がかかってきた。

買い物をしてくるから帰ってきてというのだ。

その時私は人生で一番悔やむべき失態を犯した。

彼を置き去りにしてしまったのだ。

彼を落ち着かせたと思い込んで私は家に帰ってSが返ってくるのを待った。

後に私が彼の家に行くと、そこで何か事件が起きている気がした。

実際、起きていた。

彼は手首を切って死んでしまっていた。遺書も残っていた。

彼の血は部屋中の畳に染み付きはがれなかった。

私はその時ひどく後悔した。悲しみもはがれなかった。

翌々日葬儀が行われたが、私は遺族に見せる顔がなかったため出席しなかった。代わりにSが出席した。

その後この事件を聞いた親族たちは激怒、さらに私が彼と長く付き合っていたことを知ると私は一族から絶縁させられたのだ(そもそも両親は私を後継ぎとしては考えておらず次男に任せる予定だったそうだ、それもそうだろう、じゃないと私に土地を与えなかったこととつじつまが合わない)。

しかも彼は酒、煙草、バルビツレートと様々に借金を残して旅立った。

しかも遺族が相続を断ったため、その借金は浮いている状態だった

そこに両親から最後の手紙として手紙が来た。

そこには「絶対に」Kの借金は相続しろと書かれていた。

その時私はかなり滅入っており、逆らう勇気もなかったため、仕方なく彼の借金を相続することにした。

しかしそれが私を破滅させるとは、その時誰も気づかなかった。

 

私は絶縁させられたものの、それなりに財産は持っていたので、返済はすぐに終わった。

しかし私は失態を犯した。Rにそれを言ってしまったのだ。

Rは友達だった。実際そうだった。

その話はすぐさまSに伝わり、誤解したSは家を出て行ってしまった。

おいてあった手紙にはこう書かれていた。

「すいません、好きでしたが借金暮らしでは私の顔がつぶれてしまいます。さようなら。」

普通の人ならこれを見て激怒するだろう。しかし私は彼女を許してしまったのだ。もとはといえば私が彼から目を離したのが原因なのだから。

しかも不況は続き、一番の稼ぎ頭だったKが死んだことによって研究所も赤字になり破綻。

今回の件は私にとってデメリットだった。

まず、世間からの風当たりが強かった。Kのニュースは全国へと伝わり、友人であった私も白い目で見られるようになった。

また私が目を離したのが原因だと近所に伝わると、人々は私と距離を置くようになり、誰も話しかけてくれなくなった。

家も失ったが、私にはKの家があったためそこで暮らしていた。

とはいえ職を失った私はもう生きるすべがないと実感した。

ただ一人、ロンリー・マン。

Kも失ってSも失って、私の懐に残ったのは絶望と悲しみだけ。

そこから一年経ってもお金は消えずとも心の明かりは消えていった。

私は悟った。

「もう戻れない。

私の人生は終わってしまったのだ。それもまだ二十七歳で。」

私は唯一の友を失った。人生で一番大切だといっても過言ではなかった。

そして妻も失った。私が勝手なことをしたせいで逃げられてしまった。

ああ、神よ。神の御加護もこんなもんか。」

すべてを悟った私は彼の一周忌に、同じ部屋で、同じ時刻ごろ、同じやり方で「自殺」した。

 

Kの遺書

「まず私の友に贈る。今まで本当にありがとう。

貴方のおかげで私は少なからず「生きる」ということを死ぬまで実感できたと思います。

そしてRに贈る。好きでした。

私はあなたと出会った時からずっと好きだった。あの時伝えられてよかったと思います。

そして両親に贈る。ごめんなさい。

ずっと迷惑ばかりかけていた私を育ててくれてありがとう。

ここでは友も知らないであろう私の最後の秘密について語ろうと思います。

単刀直入に言います。私は人を殺めたことがあるんです。

幼いころの記憶ではありますが、今でも脳裏に焼き付いてしまって離れないんです。

だから今こそ言います。私は意図を殺めました。

あれは七歳くらいのころ、まだ私が友に会う前の話。

私は「禁断の部屋」へ行ってみました。

私の家には「禁断の部屋」という絶対に行ってはいけない部屋があるのでした。

そこには大小さまざまなナイフが並んでいました。私の実家は料理屋だったのです。

そのうちの一つが友に突き出したナイフです。

私はそのナイフを手に入れたのはよかったのですが、帰り道で祖父に出会ってしまったんです。

怒ってきた祖父に私は反射でナイフを突き刺してしまいました。

私は死体を見るのは初めてだったので恐怖に怯えすぐ床へ戻りました。

翌日祖父の死体を長兄が発見、しかし犯人はわからずじまいで時効を迎えました。

その日こそ、私が酒に手を染めた日です。Rにふられた日です。

それまでは怯えていたんです。怖かったんです。世界が。

でもその日、気づいたんです。もう自由だと。

私の背中には翼が生えていると、そう実感して私は酒に手を染めました。

続いて私は自傷行為をし始めました。

なぜなら、私は私に価値はないと思ったからです。

しかし、すぐやめました。思ったより痛かったからです。

酒におぼれ、好きな人にふられ、でもそんな私をいつまでも思ってくれた友には感謝しかありません。

次いで私は煙草に手を染めました。

私は酒では満足しないようになったのでした。耐性がつきました。

そこで新たな依存先として私は煙草を選んだのでした。

あの時も同じです、友に職を聞かれた時も。

私はあの時友が言ったことと同じことを考えていました。

でも実際にはできませんでした。なので借金をしました。

酒を飲んでいた時から借金はしていたのですが、それは十円二十円程度でした。

でもその時から、何十万円と借金をしだしたのでした。

しかし不況で煙草の値段も高くなったので、私は新しい依存先を探しました。

私は睡眠薬という選択肢を選びました。

なぜなら、私のもう一人の友、Tが医師だったからです。

Tは私にバルビツレートを売ってくれました。

ただその時彼はこう言いました。

「使いすぎるな」と。

ただ私はその約束を破りました。使いすぎました。

そして研究所もろくに行かなくなり、研究に集中できなくなりました。

そして、一回病院に運ばれた時、Tからのバルビツレートの量が一気に減らされました。

そこで私は悲しみを感じるとともに、私が人間として失格だということがわかりました。

私は依存している、ということを始めて実感したのです。

私はもう戻れない、と思いました。実際、もう戻れなかったのです。もう破滅するしかなかったのです。実際、破滅しました。

Tからも「そろそろバルビツレートが使えなくなる」とは聞いていたものの、実際に聞いてみると私は発狂しました。

私は酒にも、煙草にも、睡眠薬にも、踊らされていたんです。

当時の私は背中に翼が生えていると思っていました。

でももう私の背中には翼なんか生えていません。

実際のところ私の足には鎖がかかっていたんです。

しかし、あの友でさえもその鎖は外せませんでした。

その鎖こそ、この罪悪感です。

実の祖父を殺し、酒に、たばこに、睡眠薬に手を出した、この罪悪感です。

なので、ここで私は一切を告白しました。

あの鎌倉の時も同じく。

友よ、また来世で会おう。

ディア・マイ・ラヴド・ワンズ

昭和四十一年十月二日」

 


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