「こんにちわ。見たところランサーとお見受けしますが…如何に?」
「如何にも。この身はランサーのサーヴァントとして現界している。そちらはセイバーとお見受けするが…」
「ええ、セイバーで合っていますよ」
ランサーの問いにセイバーは柔かな笑みで応える。
彼には一切の緊張も憔悴もない。あるのは余裕。
その余裕はどこから来るのモノなのか…それだけ自分の実力に自信を持っているという事なんだろうとランサーは判断した。
殺気を放ち睨みをきかせ、牽制するがセイバーは笑みを崩さない。
(……おい、クラスを明かす事を許可した覚えはないぞ)
(いいじゃないですか。聞けばセイバーのサーヴァントは最優のサーヴァントと評判らしいじゃないですか。この情報を知っていれば真っ当な魔術師なら警戒する筈です。そっちの方が貴方もやりやすいでしょう?)
(……まぁそれはそうだが)
ランサーを他所にセイバーと切嗣は未だに念話を繋いで会話をしていた。
切嗣は魔術殺しと言われるほど、魔術師の習性を理解しておりその戦い方は魔術師の裏をかく事に徹底している。
よってセイバーの事を警戒して拠点に引きこもってくれた方が切嗣としてもやりやすい。
そう納得して切嗣は黙る事とした。
そんな会話が行われているとは露知らず、ランサーは警戒を深める。
「さて、挨拶も済んだ事ですし始めましょうか」
「望むところ」
その刹那、剣閃が走った。
その一閃をランサーが一方の槍で受け、もう一方の槍で反撃する。
その反撃の槍をセイバーは素早い体捌きで避ける。
そこから始まるのは常人では目で追う事すら叶わない超高速の剣戟の嵐。
剣と槍が織りなす剣戟は両者とも音速を超えて繰り広げていた。
セイバーが素早い斬撃を繰り出しても、ランサーの持つ長槍と短槍を巧みに操りそれを防ぐ。
しかも守るだけのランサーではない。
ランサーは片腕一本で長槍を両腕と操っているのと遜色ない動きで刺突を繰り返す。
槍という武器の宿命として、連撃の際にはしばしば隙が生まれてしまう。
だが、その隙を突こうとするとランサーの左手に持つ短槍がそれを防ぐ。
正に変幻自在の槍術。
ランサーは槍の英霊に相応しい技量を持っていた。
"正面からやれば手強い相手だ。
とセイバーは冷静に判断した。
対するランサーは驚愕する。
手数ではランサーの方が上。傍目には押しているように見える。
だが、実際は逆だ。
現状では間違いなくセイバーの方が押しているからだ。
ランサーの刺突の数々を容易く躱し、捌き、撃ち落とされる。
隙を突かれたら短槍で迎撃しているが、いかんせん速度が違う。
隙への攻撃を迎撃したと思ったら奇襲をかけられ、奇襲を防いだらまた隙を突かれ、必死にそれを防ぐ。
その繰り返しだった。
“この御仁…強い…⁉︎"
ランサーはセイバーを類稀なる強者と確信した。
反応速度から体捌きまで、卓越という言葉が生温いほどに極まっている。
問題はその速度、魔力で強化しているにしてもあまりにも速い。
ランサー視点ではまるでセイバーが複数人いるかのような錯覚を覚えてしまうほどに極まった戦闘技術をセイバーは有していた。
正に強敵。ランサーの内に秘めた闘志に火が付き燃え盛り、槍を握る手に更に力と魔力を込める。
だが、解せない事があった。
セイバーはランサーと戦っている最中だと言うのに余所見をしている素振りが所々あったからだ。
戦いながら周囲を見渡し観察していた。
“何かある"と思いランサーは一時距離を取る。
「おや、どうしました?」
「解せないな…セイバー。貴様…さっきから何を余所見している?」
「バレました?貴方のマスターを探していました。いきなり私のマスターを横から奇襲されても困るので」
「ふざけるな。我がマスターがそのような卑怯な事をなさるか!」
言葉を交わしてもランサーにはセイバーの真意が分からない。
それどころかマスターを卑怯な事をすると小馬鹿にされたと思い少し激昂している始末だ。
そして二人は再び剣戟を繰り広げる。
だが、セイバーは先程の会話の中でランサーのマスターの居場所を割り出した。
(切嗣、到着しましたか?)
(ああ、到着した)
セイバーはランサーと戦いながら切嗣と念話で会話する。
(先程ランサーにマスターの話をした際に一瞬だけ視線が北東方向に向けていました。おそらくそこにマスターがいるかと)
(……よし、ターゲットを捕捉した。これより狙撃に…いやちょっと待て)
(どうしました?)
(アサシンだ…やはり生きていたか。狙撃をすればこちらが殺られる)
切嗣が熱感知スコープを使い、ランサーのマスターを捕捉し狙撃に移ろうとしたが、周回を注意深く観察してみるとそこに第四次聖杯戦争開始時に脱落した筈のアサシンを見つける。
切嗣やセイバーも見せつけるかのように脱落したアサシンに不信感を持っていた。
その予想が的中した。アサシンは脱落なんてしていない。
今、切嗣がランサーのマスターを狙撃すれば、アサシンに見つかってしまい始末されてしまう。
切嗣は優れた戦闘能力を持っているが、それでもサーヴァントには敵わない。見つかれば容易く屠られてしまうだろう
(アサシンはクレーンの上で待機している。こちらも一旦様子を見る。お前はそのままランサーの相手をしてやれ)
(了解しました)
故に切嗣は狙撃を中断し、ワルサーをランサーのマスターに向けながらセイバーとランサーの戦いを見守る形となった。
この場は、一種の膠着状態になりつつあった。
(そうだ。一つ確認したいのですが…)
(なんだ?)
事態を動かすとしたら、それは彼。セイバーに他ならない。
(別にランサーは、この場で倒してしまっても構わないのでしょう?)
既にセイバーはランサーを倒せる敵と認識していた。
側から見れば大言雑言と捉えられても仕方ない傲慢な自信に満ちた発言だ。
普段はそんな類い者の言葉など信用しない切嗣だが
(ああ、問題無い)
今回は''彼ならば信頼できる"と判断し彼に全てを任せる。
セイバーの能力は切嗣も認めている。だが、その彼の能力の全貌を知っている訳ではない。
セイバーから自身の宝具の詳細を口頭で伝えられているが、実際に目にした事は無い。
故にこの一戦でセイバーの力量を見極める。
「お手並み拝見だ。お前の力を見せてくれ、セイバー」
セイバーとランサーの対決は依然と拮抗したままだった。
ランサーはセイバーの力量に驚嘆しつつも主から宝具の開帳を許されていない今では攻めきれない。
対するセイバーはランサーと何度も打ち合いながらマスターである切嗣と念話で会話しながら戦っていたので全力を出せずにいた。
その状況を良しとしない者がいた。ランサーのマスターである。
『戯れ合いはそこまでだ。ランサー』
どこからともなく魔術師の声が響き渡る。
「ランサーの…マスター⁉︎」
突然響き渡った魔術師の声にアイリスフィールは目を見張る。
周囲を見渡すがそれらしい人影は見えない。
『これ以上、勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ』
『宝具の開帳を許す』
見えない魔術師の言葉にセイバーは微笑みを浮かべる。
「了解した、我が主よ」
「そういう訳だ。殺りに行かせてもらうぞ、セイバー」
ランサーは戦士としての表情を露わにして、改めて構えを取る。
「ええ、ではコチラも切り札を切るとしましょうか」
ランサーが構えを取ると同時に切嗣との念話を終えたセイバーが懐に手を伸ばす。
ランサーの技量は正面から相手にすると確かに厄介だ。だがこういうタイプは搦め手には弱い。
故に、狙うのはただ一つ。
「先に言っておきます。申し訳ありませんでした」
一瞬、ランサーがセイバーの言葉に呆気にとられている隙を突きセイバーは懐から素早くグロック17を抜き全弾を発砲する。
魔力によって強化された銃弾は音速でランサーへと迫る。
(銃だとッ⁉︎)
聖杯から与えられた知識からランサーは銃の存在自体は知っていた。だがサーヴァントが近代の武器を使ってくるなど想定もしていなかった。
だが、ランサーもまた人類史に名を刻んだ卓越した戦士。
銃弾程度脅威ではない。
長槍を回転させ全弾を四方に弾いた。
「ええ、貴方ならそうすると信じていました」
セイバーがそう呟くと同時にグロックを放り捨てて剣を構える。
ランサーによって弾かれた銃弾がゴムのように弾み幾何学的な模様を描きながら跳弾する。
そしてその跳弾した全ての銃弾の先にいたのは
『ぐわッ⁉︎』
ランサーのマスターだ。
セイバーの狙いは初めからランサーではなくそのマスターだった。
セイバーは銃弾をランサーに弾かせる事でランサーのマスターを狙撃したのだ。
当然、このような神業を超えた魔技とも呼べる銃技はセイバー自身の技量で起こした物ではなくセイバーの魔術による物だ。
跳弾する弾丸の場所さえ計算して撃ったセイバー自身の技量も相当な物だが、流石に跳弾による狙撃は精密さに欠けており、跳弾した弾丸はランサーのマスターの右肘と左肩だけにしか当たらず致命傷とはならなかった。
だが、それでいい。
仕留められずとも無傷であろうとも奇襲が成功した事実があればいい。
「マスターッ⁉︎」
突然のマスターへの奇襲にランサーは驚愕し、セイバーから意識を外してしまう。
「王剣──限定解放」
ランサーがセイバーから意識が一瞬の隙を突いてセイバーは自身の宝具を限定的に解放する。
ランサーの目の前に詰めていた。
セイバーの宝具は『
セイバーの持つ王剣には持ち主の王気を増幅させる効果を持っている。
要は持ち主のステータスを上昇させ、カリスマスキルが取得される。
本来なら持っているだけで所有者を強化する強力な効果だが
「
セイバーはそんな普通の運用はせずに少し工夫を入れる。
セイバーはクラレントの増幅効果を敏捷に全振りし己の移動速度を極限なまでに高めた。
真名解放をしてないので持続時間は一瞬しかないが、不意を突くならば限定解放の方が最適だ。
瞬間的に超強化された敏捷によってセイバーはランサーに気づかれる事無く距離を詰める事が出来たのだ。
セイバーッ⁉︎とランサーが驚きの声を口にする前にランサーの右腕はセイバーの剣によって斬り落とされていた。
それを皮切りに左腕、右脚、左脚、胴体、そして首と寸断していく。
身体を解体されながらランサーは憤怒の形相でセイバーを睨め付けていた。その表情は口外に“卑怯者め"とセイバーを蔑んでいた。
「“申し訳ありませんでした"と言った筈ですよ?」
それにセイバーは冷気のように冷たい目で見ながらランサーの顔面を両断した。
セイバーとランサーの対決はセイバーの勝利で終わった。
だが、ランサーのサーヴァントを倒した所でまだ確実な勝利とは言えない。
ランサーとの戦いを制したセイバーは素早く放り捨てたグロックを回収し、空になった弾倉を勢いよく弾き出し、新たな弾倉を再装填しながら切嗣へと念話を飛ばす。
(今です切嗣!ランサーのマスターにトドメを!アサシンは私が!)
(ッ⁉︎…ああ、分かった。そっちは任せたぞ)
セイバーの意図を理解した切嗣はすぐに観察をやめ狙撃に意識を切り替える。
狙いはランサーのマスターとその近くにいる従者らしき者。
ランサーを失い、動揺した今が好機。その好機を逃す手はない。
スコープを覗き、狙い定める。
標的は二人。
切嗣はトリガーを引き、ワルサーから火が放たれた。
切嗣が狙撃すると同時に、再装填が完了したセイバーもまた拳銃による狙撃を敢行する。
狙いはアサシン。場所は切嗣から教えてもらった。クレーンの上に狙いを定める。
チャンスは一度。
銃と弾丸に全力の魔力を込めて、銃口をアサシンへと向ける。
するとアサシンが自分に銃口が向けられている事に気づいたようだ。
「遅い」
アサシンがその場を離れる前に既にグロックから火は放たれた。
だが本来ならば銃弾の速度はおよそ音速程度。その程度ならばサーヴァントにとって脅威ではない。故に魔力を込める必要があった。
セイバーの魔力を込められた銃弾は、グロックに込められた術式の作用が働いて更に強化される。
弾丸は本来の速度を振り切り、その速度は音速の約五倍。
徹甲弾並みの速度と威力を叩き出した9x19mmパラベラム弾は、アサシンの頭部を綺麗に吹き飛ばした。
同時に切嗣の放った弾丸が自身のサーヴァントが負けた事と負傷が重なりプライドが傷つき憤慨していたランサーのマスター【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト】の頭を撃ち抜き絶命させる。
直後、そのケイネスの突然の絶命に驚愕したケイネスの婚約者である【ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ】は呆然としている間に放たれた二発目の弾丸を躱す事が出来ず、ケイネスと同じく頭を撃ち抜かれ絶命した。
「……」
ターゲットは仕留めたが切嗣に喜びは無い。あるのはただの虚しさだけ。
本来ならサーヴァントを失った時点で脱落となりケイネスは第四次聖杯戦争から降りなければならない。
だが、魔術師の生態をよく知っている切嗣には分かる。
ああいうプライドの高い魔術師は後々に逆襲の機会を伺ってくる。よってサーヴァントを失ったからといって大人しくなる物ではない。
だからこそ此処で仕留めておくのが最善だ。
そう自分を納得させ、切嗣は自身の中で暴れる切嗣の良心を押し殺す。
(見事な腕ですね、切嗣)
(君の腕前を見せられてからそう言われると嫌味にしか聞こえないぞ、セイバー)
戦いは決した。
セイバー陣営とランサー陣営の戦いはセイバー陣営の勝利で終わった。
全国のディルムッドファンとケイネスファンの方々、申し訳ありませんでした
おまけの宝具解説
『燦然と輝く王剣(クラレント)』
・ランク:B
・種別:対人宝具
・レンジ:1人
・最大捕捉:1人
「如何なる銀より眩い」と称えられる白銀の剣。
王位継承の際に与えられる儀礼用の剣。
本来の王として使用されたクラレントは輝きを放ち、持ち主の王気を増幅させる効果がある。
具体的に言えば全ステータスの上昇とカリスマスキルの所得である。
その効果の応用として、そのステータスの上昇効果を一つのステータスに集中させる事でウーサー自身を超強化出来る。
なのでウーサーの本来のステータスは
筋力B++
耐久B++
敏捷B++
魔力B++
幸運B++
宝具B
という感じになってる。
ただしどれも状況に応じて一つずつしか扱えず、宝具のステータスは強化する事は出来ず、ランクも変化しない。
また幸運のステータスも増幅させてもウーサー本人も何が起こるか分からないので、あまり使いたがらない。