セイバーは剣術だけでなく魔術にも精通している。
基本的な魔術の他に錬金術や降霊術といった一風変わったジャンルまで一通り網羅してると言ってもいい。
だが、それはあくまでも知識としてだけで魔術のように咄嗟に使用出来るほど上達してはいない。
それにそれらを実践するとなると相応の設備がいる。
知識があってもそれを活用出来る場がなければ宝の持ち腐れという物だ。
あいにくと、その設備を用意する力がアインツベルンにはある。
セイバー陣営の拠点であるアインツベルン城の一室でセイバーは敵の居所を探るべく魔術を行使していた。
いくつもの試験管に少量の土を入れた物が、セイバーの前に並んでいる。
調合した薬水を試験管の中の土に垂らすと土が淡い碧色に発光する。
それを並べてある試験管に薬を次々と垂らしていく。
すると、どんどん発光が激しくなり全ての試験管が発光していた。
「やはりそこか。アーチャー」
セイバーが見つめるのは特に発光が激しい一つの試験管。その光は碧色ではなく黄金に輝いていた。
その試験管には遠坂邸とラベルがされている。
そう、試験管の中の土は全てセイバー自身が自ら汲んできたそれぞれの所定の位置から汲み取った土地の物。
魔術の痕跡を魔術師が追うように、セイバーはサーヴァントの痕跡を辿っていた。
サーヴァントはエーテル体で構成されている神秘の塊。
ならばその残滓を追うまでと思いつき実行した。
そして、汲み出した土にそれぞれラベルを貼り、反応が激しい所に目星をつける。
反応が激しかった遠坂邸は、冬木の聖杯戦争における御三家の一つ。
故に遠坂の魔術師がアーチャーのマスターであると当たりをつけた。
「ついでです」
次にセイバーは視線を別に配置してある試験管に向ける。
その試験管には水が入っていた。
その水は先ほどの土と同じようにそれぞれの所定の位置から汲み取ってきた未遠川の水。
試験管に薬水を落とすと、無色透明の水が錆色に濁った。
続いて試験管に薬水を落としていく内に試験管の水はどんどん濁っていく。9本目に至っては濁るというより完全に黒に染められていた。すると10本目から全く水が濁らなくなる。
濁っていた水の反応はただの汚れではなく魔術の残滓。
魔術というのは使用した後は跡形もなく消える訳ではない。
初歩の錬金術を扱えばその残滓を追う事が可能なのだ。
「なんとお粗末な…」
その反応を見たセイバーは呆れかえる。
セイバーが追っていたのはキャスターのサーヴァントとそのマスター。
本来のキャスターのサーヴァントならばこのような痕跡など残さない。
あの反応が意味する所はつまり今回の聖杯戦争におけるキャスターのサーヴァントは三流も良い所といった具合だ。
となると此度のキャスターはおそらく本来キャスターのクラスで召喚される事のないサーヴァント。あるいは適性が薄いサーヴァントなのだろう。
歴史上の英霊の中には魔術を扱った者、魔導書を使用したなどの逸話を持つ者がいる。今回のキャスターはその類いだろう。
何はともあれ敵の居場所が判明した。
その事はすぐにマスターに知らせねばならない。
すぐさまセイバーは切嗣の元に向かう。
「切嗣。アーチャーとキャスターの居場所が分かりました」
「よし、今すぐ討伐に向かう」
セイバーに敵の索敵を任せて切嗣はアイリスフィールと話していたようだ。
どうやら初めての戦場を目にしたアイリスフィールを切嗣は心配していたらしい。どのような会話が行われていたかはセイバーは知らないが大体予想がつく。
「どちらからにしますか?」
「そうだな…セイバー、君の見解を聞かせてくれ」
「アーチャーは強敵です。討伐するならば相当な覚悟が必要です。ですがキャスターの方は少々拙い。魔術の痕跡も消そうともしていない完全な素人です。おそらく逸話に魔術や魔導書を使った経歴があるのでしょう。ですのでやるならばキャスターの方が優先かと思います」
「分かった。まずはキャスターからだ。今すぐアイリと一緒に拠点に向かってくれ。僕も別行動で向かうから位置を教えてくれ」
「分かりました」とセイバーは言って懐から携帯電話を取り出し、少し操作した後、切嗣の持つ携帯からピピピピ!という音が鳴った。
確認するとメールが来ていた。
メールの内容は特に無いが一枚の写真が同封されていた。
その写真は冬木市の細かい地図。
その地図には複数の×マークがついていた。ご丁寧に(アーチャー)や(キャスター)などの解説付きで。
「驚いたな。お前もうメールまで使えるのか」
「勉強しました。便利な時代になったモノですね」
そう軽口を叩きながらセイバーは懐から新たなに取り寄せた銃を取り出し動作を確かめる。
セイバーが取り出した銃はマテバ2006カスタム。
本来のリボルバーと違い銃口が下の方についている奇怪な銃だった。
これは前に切嗣が出来るだけ起源弾を消費しない為に取り寄せたモノで切嗣が自分用にカスタマイズした物だ。
キャリコが手に入ったのでお払い箱になったが、ここに来て出番に恵まれたようだ。
「それにしても本当にマテバで良かったのか?装弾数なら前のグロックの方が多かっただろうに」
「装弾数が多くても弾詰まりを起こしたら意味が無いですよ。これなら弾詰まりは起こらないので安心出来ます。私はもう自動拳銃は信用出来ません…」
どうやらこの間ウェイバーを狙撃しようとして2回も弾詰まりを起こした出来事が彼から自動拳銃への信用を地に落としたらしい。
「まあいいさ。舞弥、車を回せ!」
「はい」
切嗣は近くに待機していた舞弥と共に現地に向かう。
「アイリスフィール様。そういえば車の運転をやりたがっていましたが、この際ですしお任せしても?」
「ええ!切嗣仕込みの運転を見せてあげる!」
セイバーからしてみればただの親切心だった。
普段から何もせずに守られてばかりでは彼女が自身を重荷に感じてしまうのではないかと不安だったからだ。
よって移動手段だけでも活躍すればその心配も薄れると思ったのだ。
数分後、爆走する車の中で地獄を見る事をセイバーは知らない。
ピピピピピピ!
「セイバーか。所定の位置に着いたか?」
「着きましたけど…その…切嗣。アイリスフィール様の運転について話があります」
「…どうした?何があったセイバー?」
「何もなかったと言うべきか…色々ありすぎたと言うべきか…とりあえずアイリスフィール様に後で貴方から車の運転についてちゃんと指導してあげてください。命が幾つあっても足りません…!」
「……?」
キャスターの拠点たる下水菅についたセイバーがまず先にやった事は魔術による索敵だった。
スキャナーのように特殊な音波を魔術を使って発生させて索敵する。
そして多くの生命体がいる事が分かった。
意を決して下水管の中に突入すると夥しい数の海魔がひしめき合っていた。
突入してきたセイバー達を異物として排除せんと襲ってくるが、そんな海魔達にやられるほどセイバーは弱くはない。
まるで腕のいい板前に捌かれる魚のように海魔達は次々と解体されていく。
だが、セイバーが幾ら解体しても海魔達の勢いは衰える事は無い。
「まずいですね。このままではジリ貧だ。アイリスフィール様、お頼みしても?」
「任せて!」
するとアイリスフィールは針金の束を取り出しそれに魔力を通す。
「それ!」
銀の針金が縦横に散らばり幾何学模様を描きながら後方に細かい銀の結界を作る。
形成された銀の結界に触れた海魔達は一体残らず細切れにされた。
アイリスフィールが形成した鋭い刃の結界は向かってくる海魔達を切り刻み次々と絶命させていく。
「セイバーはキャスターを!この程度なら大丈夫!」
「お任せします!すぐに片付けて戻りますので」
セイバーはこの場はアイリスフィールに任せて先に進む事を選択する。
前方から幾つか海魔が襲ってくるが一つ残らず斬り刻みながらキャスターの下へと向かう。
海魔達の肉の壁を超えた先に辿り着いたのは比較的に広い空間。おそらく貯水地だろう。
「なっ…⁉︎」
そこには"芸術“が置いてあった。
雨生龍之介は"芸術“を作っていた。
生きた人間の腸を鍵盤にした悲鳴が鳴る“オルガン"他には人間パラソルといった様々な悍ましい物体。
龍之介はそれを芸術と称し愛していた。その愛がどんなに歪で腐りきっていようとも。
あまりにも悍ましい所業を子ども達を材料に行っている龍之介は本来なら魔術師と呼ぶべき存在ではなく聖杯戦争に巻き込まれた一般人と呼ぶべき存在だ。
たまたまキャスターのサーヴァントの枠が空いていたのでたまたまそれっぽい儀式をしていた龍之介がマスターに選ばれ、キャスターを召喚。そして意気投合し第四次聖杯戦争に参加したという具合だ。
ただ龍之介は一般人と呼ぶにはあまりにも語弊がある。
龍之介は快楽殺人鬼だ。それも猟奇的な殺人鬼。
龍之介は人が死に至る過程。即ち命を弄ぶ事を至上の遊戯だと思っていた。
人を弄びながら殺し続けて場所を転々とし、冬木市に辿り着き、住宅街のとある民家での犯行を最後に冬木市から出ようとした時の事だった。
試しでやってみた儀式は成功し、キャスターのサーヴァント…“青髭"と名乗る男に出会った。
その青髭こそ龍之介は人生の師として尊敬した。
青髭もまた龍之介を認めまるで弟子のように扱った。
そして龍之介は今日もまた芸術の作製に懸命だった。
「うーん…“ファ"はコレでいっか…」
“鍵盤"を押すと子どもの悲鳴が鳴った。
「よし!完璧だ!」
その悲鳴を聞いた龍之介は手を叩いて喜んだ。
悲鳴を歌い、それらが奏でる協奏曲。
その物体に名をつけるなら“人間オルガン"と呼ぶべきだろう。
龍之介はそれを懸命に作っていた。
「さーて、次は“ソ"だ」
次の鍵盤を作るべく、龍之介は捕らえてきた子ども達の元へと向かおうとすると
「龍之介、侵入者が来たようですよ」
そこに龍之介が“青髭の旦那"と慕うキャスターがいた。
キャスターの侵入者という言葉に対しても「へー」と龍之介はまるで興味を示さなかった。
「おや、興味がありませんか?」
「無いよ。だって青髭の旦那がいるもん。またあのアイツら使って捕らえたらいいじゃん」
今まで侵入者自体は数回はあったがそのどれもをキャスターの操る海魔達が捕らえ、龍之介の“芸術"の材料にされてきた。
だが、今回はその今までとは事情が違った。
「サーヴァントとそのマスターです。これまでの素材とは比べ物にならない素材となり得るでしょう」
「へぇ…どんな感じ?」
龍之介は興味が湧いたのか詳細を聞こうとする。
「サーヴァントの方は金髪の男性。おそらくマスターの方は人形のように美しい女性でした。男性の方はともかく女性は良い。とても良い悲鳴を奏でる事でしょう。次の創作の材料にいかがです?」
「いいね…流石は旦那だ。目の付け所がいい」
龍之介の中では女性を使った様々な"芸術“の構想が湧いている事だろう。
さあ、さっさと“狩り"を終えて創作に取り掛かるとしよう。
龍之介が立ち上がる際にオルガンの鍵盤をつい勢いよく叩いてしまう。
鍵盤にされた子供達の悲鳴が龍之介達にとって心地良い音を奏でた。
「ふふふ、はははは!」
「アハハハハ!」
それを聴く外道達は笑う。
まるで楽しい談笑をする主従のように。あるいは良き友人のように。
その背後にある鮮血に目を向けて爽やかに笑っていた。
正に人を人とも思わぬ外道の所業を繰り返すキャスター陣営。
彼等の凶行はまだまだ止まらない。
「なるほど、よく理解できましたよ。どうやらとんだ素人のコンビだったようだ」
そこに、第三者の男の声が笑い合う二人の間に割り込んだ。
それは既に魔術を用いて姿を消して潜伏していたセイバーの声だった。
二人の分析を終えキャスター陣営の詳細を理解したセイバーはすぐさまマテバを抜き、発砲する。
セイバーの声と銃声にキャスターと龍之介が反応する頃には既に2人の目の前には弾丸が迫っていた。
「今すぐ滅びろ外道共」
その声が龍之介とキャスターに聞こえると同時にキャスターと龍之介の頭を弾丸が貫いた。
「『
そのまま『燦然と輝く王剣』による増幅効果を敏律に全振りする。
増幅された敏律による超音速で更にキャスターと龍之介を斬り刻む。
まずは首、次は腕、次は脚、次は胴体、次は…次は…
まるでマグロの解体のように丁寧かつ流麗に念入りに2人を解体し、次の瞬間にはまるでサイコロステーキのようにバラバラになった2人が床に散らばった。
散らばった2人に目もくれず、セイバーは"芸術“となってしまった者達に歩み寄る。
「すみません。私では貴方達を救えない」
「本当に…すみません」
悍ましい異臭を放つ“ソレ"にセイバーは謝罪する。
セイバーの持つ技術では彼等は救えない。
治癒魔術を行使しても元には戻らないまでに彼等は滅茶苦茶にされていた。
アインツベルンの技術を用いれば可能性はあるかもしれないが、それをやろうとすると多くの時間を費やす事となるだろう。
この聖杯戦争で、そんな時間は無い。
「すみません」
それだけ言ってセイバーは彼等を“処分"する。
一閃。居合のような構えで放たれた一閃。
その一瞬に閃いた剣閃で彼等の命を刈り取った。
その一閃は、『燦然と輝く王剣』による増幅効果をただの一閃に全振りしたセイバーの最高最速の一撃だった。
その一閃で彼等は痛みも無く逝けた事だろう。
その反動で剣を振るったセイバーの右腕があらぬ方向に吹き飛んだ。
『燦然と輝く王剣』の増幅効果によるスピードにセイバーの肉体が耐えられなかった結果だ。
右腕が吹き飛び、激痛が襲うがセイバーは顔色一つ変えなかった。
これ以上の苦痛を彼等は味わった。それに比べればなんと軽い事か
そう思いながら、吹き飛んだ腕を拾い、治癒魔術を用いて腕をくっつける。
だが、それで終わりではない。
龍之介の“作品"は人間オルガンだけではない。
他にもまだまだあった。
「……すみません」
セイバーはそれだけ言って、先ほどと同じやり方で“作品"達の命を刈り取っていく。
せめて痛みが無いように
それだけの動機で、セイバーは自身の腕をたまに吹き飛ばしながら子供達を殺していく。
それが救済とは決して言い切れない。
それはセイバー自身も分かっている。
今、セイバーのやっている事は偽善に他ならない。
時間をかければ作品にされた子供達を救える事もできた筈だ。
だが、セイバーは聖杯戦争と子供達を天秤にかけて前者を選んだ。
何故ならセイバー達が聖杯戦争を優勝する事で全人類を救える筈だから。
全ての人類と哀れな子供達。その二つを天秤にかけてどちらを選ぶとなると、数の多い方に天秤が傾く。
よって数の少ない哀れな“作品"と成り果ててしまった子供達には犠牲になってもらうしかなかった。
セイバーのやっている事は切嗣のやっている事となんら変わらない。
「すみません」
それだけ言って、セイバーは子供達を
その様子は、殺人鬼にしか見えなかった
側から見れば死ぬ事でしか救われない子供達を救う正義の味方に見えるかもしれない。
だが、結果的にやっている事は救済と称したただの殺人だ。
今のセイバーは殺人鬼となんら変わりはない
勿論、そんな事はセイバー自身も承知している。
どれだけ綺麗事を並べても自分が殺人者である事に変わりは無い。
だからこそ、より一層の決意を固めるのだ。
もう二度とこのような地獄が起こらないようにする為に
全ての“作品"を殺した後、セイバーは龍之介とキャスターによって捕えられていた子供達を見つけた。
幸いな事にまだ生きていた子供が複数いたのだ。
一緒に連れてこられた子供がどんな目に合うのかその目で見ていたのかその瞳は皆揃って光を失い心が死んでいた。
「ありがとう」
無事で良かった…という言葉を飲み込み、子供達に魔術を行使する。
その魔術の内容は、記憶の消去。
ここで見た地獄を全て忘れてもらう。それが一番だ。
そう判断し、セイバーは子供達から記憶を消していく。
“作品"となった子供達の遺体も燃やして処理しておく。
燃える炎を見つめながらセイバーは言葉を発する。
「私は必ず聖杯を手に入れます。そしてもう二度と貴方達のような事が起きない世界を作ってみせます」
「ですからどうか…好きなだけ私を恨んでください」
まるで懺悔するように、神に祈りを捧げるように、子供達の魂の安寧を祈りながら此処であった事をセイバーは自身の霊基に刻み、決意を新たに前へ進んでいく。
全てが終わった後、セイバーはアイリスフィールを迎えに行った。
後に冬木市在中の警察署に匿名で情報が送られてきた。
それは行方不明となった子供達の居場所。場所は下水道ではなく殺人鬼が襲ったと思われる民家だった。
すぐさま突撃した警官隊に救出された子供達は皆揃って記憶を失っていた。
事件の詳細を思い出させようとすると子供達は激しく拒絶した為、冬木市を震撼させていた連続猟奇殺人事件は迷宮入りとなった。