俺が須美ちゃんと園子ちゃんの二人と知り合いになってからまだ間もない頃のこと。
俺はイネスでの買い物ついでに何か甘いものでも食べようとフードコートに寄った。すると、そこには銀たち三人が集まって何かを話し合っていた。
それにしても彼女たちは本当にいつも一緒にいるな……。
ここ何日かだけでもあの三人が共にいるところを数回目撃した。
もともと俺と銀は二人ともイネスによく行くので、そこでばったりと出会うことは珍しくないのだが、最近ではほとんど必ずと言っていいほど須美ちゃんと園子ちゃんも一緒にいる。
それはともかく、今日は何やら真剣に話をしているようだったので、邪魔をしては悪いと思って話しかけずに立ち去ろうとした……のだが。
「あ、メグさんだ~こんにちは~」
どうやら不要な気遣いだったようで、向こうのほうから声をかけてきた。
「やあ三人とも」
「こんにちは夢継さん」
「おお夢継、いいところに」
俺に話したいことでもあったのか、銀が歓迎の意を示した。
「なんだ? いいところにって」
「いや実はさ、そろそろ鉄男の誕生日じゃん? 今年は何かプレゼントでも渡してあげようと思って、二人と何がいいかなって話してたんだ」
そういえばもうすぐ鉄男の誕生日か。
「ああ、両親からじゃなくて銀からのプレゼントっていうのはいいな、初めてじゃないか? 喜ぶと思うぞ」
「だよな! 今年はあんまりかまってやれなかったし、それくらいは、と思ってたんだよね」
「それで、三人で話してみてどうなったんだ?」
「具体的にはまだだけど、須美と園子と三人で手作りのプレゼントをすることにしたよ」
「それは益々喜びそうだな」
「それでさ、夢継も何かプレゼント渡してやってくれると鉄男も嬉しいと思うんだ、お願いできるかな」
「そういう事なら、何か考えておくよ」
確かに、俺もいままで鉄男に誕生日プレゼントは渡したことはなかったな。
誕生日パーティーに出席したことはあったけれど、祝福の言葉を送ったり、遊んだりケーキ食ったりしただけだ。
「あ~そうだ、せっかくだから~」
過去の鉄男の誕生日を思い起こしていると、突然園子ちゃんが何かを思い立ち、自分の荷物を探り始めた。
「え~と、メグさんのお誕生日はいつですか?」
そう言って、園子ちゃんは分厚い本を取り出し、テーブルにどん、と置いた。
「俺の誕生日?」
「ああ、この前の昼休みにやってたやつか」
銀が言うには、数日前の昼休みに園子ちゃんが自宅から占いの本を持ってきて、それで三人を占ったらしい。
「へえ、銀はどういう結果が出たんだ?」
「え~っと、ミノさんは確か……正義感が強くて、やると決めたら絶対やる、猪突猛進にならないように注意、でも心の中は純情で一番乙女……だったかな~」
「うわあ! 園子、言わなくていい!」
「すごいな、そのまんま銀じゃん」
「そうかぁ?」
まさか銀の本質まで完全に言い当てるとは……ただの占いと思って甘く見てはいけないのかもしれない。
「俺は12月1日だよ」
「ふむふむ……となると~」
園子ちゃんがいろいろなページをあれこれ確認している。様々な要素から占い結果を導き出しているのだろう。
「え~っと……自分の身近なもののことがとても大切で、それを守るためならいつでも全力を出せます。しかし、逆に大切なものをなくした時はショックで立ち直るのに時間がかかるかも、そのときは周りを頼りましょう……だって~」
「すごいな、そのまんま夢継じゃん」
「そうかぁ?」
さっき見たようなやり取りが、俺と銀の間で繰り広げられた。立場は逆だけど。
「いやだって夢継って昔シャーペン無くしただけで三週間もへこんでたことあったじゃん」
「あれはお気に入りだったんだよ!」
「ほらそういうとこだよ」
「ぐぅ……」
そう言われてしまうと何も言い返すことができない。
「まあいいや、それで二人の占い結果はどんなだったんだ?」
「えっとねえ~」
「あっこら、そのっち! 私のはいいから!」
それから俺たちはなんてことのない会話をして過ごした。
須美ちゃんのたちの話。俺の話。それぞれの学校での話。別に特別でも何でもないただの世間話だ。でも、楽しい時間だった。
「おっと、もうこんな時間か……俺はそろそろ帰るよ」
「おう、さよならー。鉄男のプレゼント考えといてなー」
「さようなら夢継さん」
「ばいば~いメグさん」
三人から別れの言葉を貰いながら俺は席を立った。
====================
俺は家に帰り、買い物したものを整理し終えると早速鉄男の誕生日プレゼントについて考えた。
「去年は確か、ご両親からラジコンを貰ってたよな……」
あのときはかなり喜んでいたし、似たようなものがいいかもしれない。
「なら鉄道模型とかも喜びそうだな」
俺は手元のスマートフォンを操作して鉄道模型の値段を検索してみる。
「基本セットで1万6000円!?」
想像以上に値が張った。とても中学生の小遣いで変える金額じゃない。
「うーん、銀たちは手作りするって言ってたな、俺もそうするか……?」
しかし、俺は普段モノづくりなどしないから、何を作ればいいのかなんて全く思いつかない。
銀たちと被ったりしても悪いし、やはり何かおもちゃでも買ってあげるのが無難に喜んでもらえるだろう。
「そういえば、この間鉄男が……」
俺はこの前、鉄男が特撮作品を見ていたときのことを思い出す。
『うわー! やっぱロボかっけー!』
あの日鉄男は、目を輝かせながらそう言っていた。
俺は再びスマートフォンを使って調べ始めた。
「あった……! これだ」
あの日、鉄男がかっこいいと言っていた特撮作品の巨大ロボット。そのおもちゃが売っていた。
「値段は、これならギリギリ……」
自分の所持金を確認する。安くはないが、なんとか買える金額だ。
「これなら喜んでくれる……よな」
初めてのことなので、やはりどうしても不安がある。
しかし、いつまでも悩んでいても仕方のないことだ。
「よし、決めた」
そう言って、俺は購入ボタンをタップした。
====================
誕生日当日
軽いパーティーをやった後、まず俺からプレゼントを渡すことになった。
俺は少し緊張しつつ、プレゼント用に包装したおもちゃの箱を鉄男に手渡した。
「誕生日おめでとう、これは俺からのプレゼントだ」
「プレゼント!? 開けてみてもいい?」
「もちろん」
鉄男は包装を丁寧にはがすと、出てきたものを見て大喜びした。
「うわーこれ欲しかったやつだよ! ありがと夢継にーちゃん!」
笑顔で大はしゃぎする鉄男を見てほっとした。そして同時に、なんだか心が温かくなっていくのを感じた。
そうか、プレゼントというものは渡すがわも嬉しいものなんだ。
さて、次は銀たちのプレゼントだ。
「よーし鉄男、次はアタシたちからだ」
俺も結局、銀たちが最終的に何を用意したのかは知らされていない。
だから、俺にとっても銀たちのプレゼントは楽しみだった。
「アタシと須美と園子の三人からは全部で三つのプレゼントをやろう!」
銀は三本の指をたてながらそう言った。
「すっげー、三つもくれんの!?」
「そうだとも! 全部、姉ちゃんたちの自作だ」
弟の素直に喜ぶ顔を見た銀の表情は明るい。
それにしても、三つも手作りしたのか。てっきり三人でひとつだとばかり……。いったいどんなものを作ったのだろうか。
──それから出てきた三つのプレゼントは、とても小学生だけで作ったとは思えないような、クオリティの高いものだった。
まず一つ目は「ケン玉」
木材でできたそのケン玉はかなり丁寧に磨かれており、形は店で売っているものと何ら遜色はない。
それどころか、玉が皿や剣先に乗るのに合わせて、音がなったりバイブレーションが起こったりしていた。
ギミックに関しては、もはやそこらのおもちゃ屋さんで売っているそれを超えている。
鉄男には好評で大はしゃぎだったが、俺はむしろ驚きでいっぱいだった。
しかし、なぜか俺と一緒に銀と須美ちゃんまで驚いていた。
どうやら園子ちゃんが単独で付け足したギミックだったらしい。
乃木家といえば、俺でも知っているような規格外の大金持ちの家系だが、子どもの工作もまさに規格外だった。
二つ目は「ボードゲーム」
西暦の時代の戦争をモチーフにしたオリジナルのボードゲームで、ゲームデザインは須美ちゃんが一人で考えたそうだ。
ルールや遊び方の節々に戦争に関する知識深さを感じるゲームで、須美ちゃんの真面目さがわかるものだった。
彼女が旧世紀の戦争に興味があるのは少し意外とも思ったが、不思議としっくりくるあたりやっぱり面白い子だと思う。
そして三つめは、銀が中心になって作ったという「絵本」だ。
タイトルは『三匹の仲良し子ヤギ』。
──あるところに「わんぱくさん」、「まじめさん」、「のんびりさん」という三匹の子ヤギが仲良く暮らしていた。
でも、わんぱくさんはいつも他の二匹に助けられてばかりで、自分も二人の役に立ちたいと思っていた。
そんなある日、とても狂暴なオオカミが三匹のもとへやってきた。
洞窟へ逃げてその入り口を塞いで隠れようとする三匹だったが、洞窟は狭すぎて二匹しか入れない。
そこでわんぱくさんは他の二匹を洞窟へ押し込んで入り口を塞ぎ、自分はオオカミを追い払うため外に残って戦った。
ボロボロになりながらもオオカミを追い払ったわんぱくさんは、危険な行動を二匹に怒られたけれど、その後も三匹は誰も欠けることなく、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。
まとめると、そういう物語だった。
皆の前で読み聞かせを行った銀はとても恥ずかしそうにしていたが、鉄男はいたく気に入ったようで、なんだか興奮していた。
実際、俺も素晴らしい内容だったと思う。制作陣として事前に内容を知っていたはずの須美ちゃんですら感動して泣きそうになるほどの傑作だ。
子ヤギたちのモデルが銀と須美ちゃんと園子ちゃんであることはすぐにわかった。
絵本の中で、「三匹が一匹でも欠けてはいけない」というフレーズがあったのだが、俺はこのフレーズが心に残った。
これは、この三人がまさに思っていることだろう。
知り合ってまだ数か月。たったそれだけの時間で大親友と呼べるほどに仲のいいこの三人。
俺も心の底から祈った。
この三人が絵本の子ヤギたちのように、いつまでも仲良くずっと一緒にいられますように、と。
読んでいただきありがとうございました。
次回、序章2話「喪失の実感」
感想、ご評価等お待ちしております。