もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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四話 :接近する関係

 勇者、高嶋友奈の口から出てきた完全に予想外の提案に、二喜は衝撃のあまり固まってしまった。

 空いた口が塞がらないとはこのことか。

 

「あれ、橋渡さん? おーい」

 

「はっ」

 

 高嶋の問いかけによって二喜の止まった時間が動き始めた。

 

「た、高嶋様、友達に……ですか? 貴方たちと僕が?」

 

「うん。あっ、もしかして嫌だったかな?」

 

「嫌だなんてとんでもない! そう言ってくれて嬉しいです、光栄です。ただ、光栄すぎるというか、僕なんかがおこがましいといいますか……」

 

「そんなことないよ、私、昨日出会ったばかりだけど、橋渡さんと友達になりたいって思ったもの。それに、みんなだって賛成してくれたよ?」

 

「え……?」

 

 自分だけの意見ではないという高嶋のその言葉を聞いて、二喜は他の少女たちを見る。

 その視線に答えるように、乃木が話し始める。

 

「ああ、私も賛成だ。いい案だと思う」

 

「若葉ちゃんの言う通りです。仲良くするに越したことはありません」

 

「もともと交流を続けるつもりだったんですから、自然と友人関係になっていたかもしれないですしね」

 

「遅かれ早かれってわけだな、どうせならタマは早いほうがいいゾ!」

 

「私は……まあ、高嶋さんが言うなら。私の言ったことがきっかけだし……」

 

 本当に皆、高嶋の意見に同意のようで、うんうんと頷いている。

 郡は少し様子が違うが。この様子だと、近しい人以外とは話しにくいと言ったのは郡のようだ。

 なんとなくそんな気はしていたが。

 

 とはいえ、勇者たちがそういう考えなら、とうとうこの提案を断る理由がない。

 二喜も嬉しく感じているのは本当なのだ。

 

「わかりました。そういうことなら……その提案、喜んで受けさせていただきます。これからよろしくお願いします。勇者様方」

 

 自分を友人として迎えてくれたことに感謝して、二喜は勇者たちに頭を下げた。

 

「うーん……」

 

「ど、どうかしましたか、高嶋様」

 

 むこうからの要望に応えたはずなのに、なぜか顎に手を添えながら首をかしげる高嶋。

 

「いや、なんかね、様付けってあんまり友達同士で呼ぶときの呼び方じゃないなって思って」

 

「え、まさか……」

 

「橋渡さん、もう友達なんだから、私のことは好きに呼んでもいいんだからね?」

 

「好きに、とは……」

 

「そうだなあ……例えば友奈って呼び捨てで呼ぶとか」

 

「呼び捨て!? それは、さすがにまずいんじゃあ……」

 

 二喜はちら、と大社職員のほうを見た。

 勇者たちに普段から敬意を示している大社からすれば、一般人の二喜が勇者を呼び捨てるなど、言語道断だと考えると思ったからだ。

 

 むしろ、今そう言ってくれれば、接し方に悩む必要なくこの話も終わるから都合がよかった。

 

 しかし、大社職員は二喜の予想とは違う答えを返す。

 

「勇者様が良いとおっしゃるのなら、私からは特に何も」

 

「あ、そう……ですか」

 

「なーんだ、そんなことを気にしてたんだ。もしかして、呼び方だけじゃなく、敬語を使ってるのも私たちの立場を気にして? だったら無理に敬語使う必要もないよ」

 

 高嶋はそう言うが、彼女たちに対して敬語を使うことに違和感などない。

 なぜなら──、

 

「いや、まあ確かに立場的にもですけど……それ以前に、僕は皆さんより子供ですから……」

 

 年齢的に、呼び方も話し方も丁寧になるのが普段通りだと、二喜は訴えた。

 

「「「え?」」」

 

「え?」

 

 しかし、二喜の言葉に、その場にいた二喜以外の全員が疑問符を投げた。

 その疑問の意味が分からず、二喜も首をかしげる。

 

 皆が疑問で固まっているなか、伊予島が恐る恐る二喜に訊ねる。

 

「あ、あのー、橋渡さんって私たちより少し上か、同世代くらいって聞いていたんですけど……」

 

 他の勇者たちも、頷き合っている。

 

「はい? あ……」

 

 一瞬、伊予島が言ったことの意味が分からなかったが、すぐに自分の思い違いに気付いた。

 

「今が2018年で、誕生日の7月は過ぎてるから……そうか、僕もう十五歳なのか……。ずっと病院だったから、忘れてた……」

 

 十二歳の誕生日、つまり小学六年生の頃に天災に遭って以来ずっと入院生活で、さらに天恐の症状のせいでここ一、二年の記憶はほぼ残っていなかったため、自分の感覚ではまだ小学生の気分だった。

 

 そのせいで、勇者たちが中学生だと知ったときに、第一印象で年上だと思ってしまい、その時の印象が残ったままだった。

 

 でも、よく考えたらそうだ、あれから三年が経っているのだから、自分は十五歳で、順当にいけば中学三年生になっている年齢じゃないか。

 

「……何やら、誤解をしていたようだな」

 

「え、あっはい……」

 

 しばらく固まっていた二喜だったが、乃木が声をかけてきたので返事する。

 

「橋渡さんは、今まで同世代の友人たちと話す際に、普段から敬語を使って話すタイプではなかった、ということでいいかな」

 

「それは、そうですね、普通にため口でした」

 

「まあその、なんだ、呼び方や話し方は当然自由だが、友奈の言う通り、我々の立場や年齢を気にして無理に丁寧な話し方をしているのなら、その必要はないぞ、なあ、みんな」

 

 乃木が同意を求めると、勇者たちは次々に頷いた。

 

「もちろんだよ!」

 

「若葉ちゃんの言う通りです。遠慮はいりませんよ」

 

「7月で十五ということは、千景さん以外はむしろ年下ですしね」

 

「タマも、様付けだとむず痒かったんだよなー」

 

「……」

 

 勇者たちが口々に賛同する様子を見て、二喜の心に暖かい何かが宿る。

 

 そういえば、友達なんて関係にも三年以上出会っていない。

 かつての友人たちが今どうしているかなんて気にしている余裕はなかったし、医療関係者くらいとしか会話もしてこなかった。

 

「友達、か」

 

 口にしてみると、懐かしさすら覚える言葉だった。

 

「他の者たちもこう言っていることだし、気楽に話してみてもいいんだぞ? もちろん、無理強いなどはする気はないが」

 

「そう、ですね……皆さんが、いや、みんながそう言ってくれるなら、昔、学校の友達と話していたような話し方にしようかな」

 

 まだつい敬語で喋ってしまうところがあるが、せっかく二喜を思ってこんな提案をしてくれたのだ、彼女たちの言葉に甘えさせてもらおう。

 

「あ、そうだ! 逆に、私たちからこう呼ばれたいっていうのある? 今まで通り橋渡さんって呼ぼうか?」

 

 うっかり聞くのを忘れてた、という感じで高嶋が二喜にそう質問する。

 

「あ、いや特にこれといった希望はない……かな、こっちも好きなように呼んでくれれば……」

 

「そっか、じゃあ私は二喜くんって呼ぶね!」

 

「うん、その……よろしく、友奈」

 

 高嶋改め、友奈のことをそう呼ぶと、彼女はぱあっと笑顔になった。

 

「こちらこそ、よろしくね、二喜くん!」

 

 友奈が元気よく返事をしたのを聞いてから、二喜は気持ちを新たに、みんなの名前を呼んだ。

 

「若葉、ひなた」

 

「ああ、改めてよろしくだ橋渡さ──いや、せっかくだし私も二喜と呼ばせてもらおうかな」

 

「まあっ、積極的ですね若葉ちゃん。それじゃあ私も、よろしくお願いします、二喜さん」

 

 二喜が名を呼ぶと、彼女たちは挨拶を添えて呼び返してくれた。

 これから二喜を呼ぶ際の呼び名で。

 

「球子、杏」

 

「おう、よろしくな、二喜!」

 

「改めて、よろしくお願いしますね、二喜さん」

 

 球子と杏とも同じような流れをやり、次に郡千景の名を呼ぼうとしたのだが、ふと、呼び方や敬語の話になったときの彼女の様子を思い出す。

 

 他の者が好きに呼んでくれていいと言っているなか、彼女だけ無言だった。

 

 確か彼女は勇者の中では一番年上だし、もしかしたら丁寧に話して欲しい派だったのかも、そう思い、配慮する。

 

「郡さんも、改めてよろしくお願いします」

 

「……ちょっと」

 

「え、なんですか」

 

 もしかしたら、むしろ様付けのままのほうがよかったか、そう思った二喜だったが、その逆だった。

 

「なんで……私だけ名字でさん付けなの? それに、敬語だし……」

 

「えっと、さっき若葉に無理して丁寧な話し方はしなくていいって言われたとき、一人だけ何も言わなかったから、そういうの気にしてるのかなって……」

 

「……別に、そういうわけじゃない……むしろ、私だけ違う扱いをされるのは、なんだか嫌だわ」

 

「そ、そっか、じゃあ……千景?」

 

 恐る恐る名前で呼んでみると、千景はこちらに視線は向けないまま答えた。

 

「ま、それでいいわ……それじゃ、よろしく橋渡君、私は名前で呼ぶとか柄じゃないから、こう呼ばせてもらうわね」

 

「ああ、うん、もちろんいいよ。よろしく」

 

 どうも、千景は少し難しい性格のようだ。

 会話の際に機嫌を損ねるようなことを言わないように気を付けなければいけないな、と二喜は思った。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 その後、二喜と勇者たちは軽く会話を続けた。

 お互い、普段どんな生活をしているかなど、他愛もない話だ。

 

 勇者が拠点としているのは、丸亀城だ。

 丸亀城は現在、その内部を改装され、学校としての機能を持たせているらしい。

 勇者たちはそこで、日々訓練や授業に精を出しているのだという。

 

 授業というのは、基本的には普通の義務教育と同じ内容のものだ。

 それに加えて、バーテックスや神樹、勇者、巫女などといった、彼女たちの使命に関わるものについての勉強もするそうだ。

 

 その詳しい内容については、さすがに大社職員からストップがかかってしまったため聞き出せなかったが、勇者というのは、ただ戦うための訓練だけしているわけではないというのはわかった。

 

 つくづく、すごい子たちだ、これで自分と同世代とは改めて驚きだ。

 

 逆に、彼女たちに聞かれた二喜の生活は、頻繁に検査がある以外は、基本的に病室の中にいるか、病院内の場所を覚えるために車椅子に乗せてもらって巡るくらいだ。

 まだここに来てから日が浅いので何とも言えないが、これからは暇な時間が増えていくのではないだろうか。

 

 少し、情けなさを覚えた。

 

「む、いつの間にか時間が経ってしまっているな、二喜、今日の予定は?」

 

「午後にまた検査があるかな、確か」

 

「そうか、では友奈、今日のところは二喜と友人になることはできたわけだし、ここまでにしよう」

 

「うん、そうだね。あっ、そうだ、大社の職員さん、いっこ聞きたいんですけど……」

 

「はい、なんでしょう」

 

「大社の方で決めてくれた面会の予定時間以外にも、お互い特に予定がない時間だったら、今日みたいに二喜くんに会いに来ていいですか?」

 

 ちら、と大社職員が二喜を見る。

 その視線に、二喜はこくり、と頷いた。

 

「はい、特に予定の入っていない自由時間であればかまいません。しかし、橋渡さんの状態にもよりますから、その際は事前に必ずご一報ください」

 

「わかりました、ありがとうございます! じゃあ、二喜くん、面会の日以外にも、こうやってたまに来るね」

 

「うん、もちろんいいよ、ありがとう」

 

 きっと友奈は、会う機会が増えれば、それだけ二喜の天恐も良くなると思ってこんな提案をしてくれたのだろう。

 その優しさが胸に沁みた。

 

「それじゃあ、二喜さん、今日はこれで。次からは全員ではなく、もっと少人数で来ることになると思います」

 

 皆が帰る準備をし始めると、ひなたがそう言った。

 

「ああ、僕もそう聞いてるよ、全員の予定を合わせるのも大変だろうしね」

 

「はい、私は巫女ですし、他の人たちもそれぞれ事情がありますから」

 

 勇者全員とひなたがそろっての面会は最初だけだと、二喜も事前に聞かされていた。

 予定の調整以外にも、二喜への負担も考えてのことらしい。まあ、今日みたいに予定のない訪問ならば当てはまらないが。

 

「それでは、私たちはこれにて失礼する」

 

「さようなら」

 

「またね!」

 

「じゃあな!」

 

「失礼します」

 

「それじゃ」

 

「うん、みんな、さよなら」

 

 大社職員も皆を送っていったため、一人になった。

 人数が急に減ったので、病室が一気に静かになる。

 

「友達か……」

 

 最初、彼女たちに会うことになったときは緊張で頭がいっぱいだったが、今は次に会うのが楽しみな気分だった。

 

 

 

 

 

 その後、二喜は午後の検査を受け、その結果が夜に出た。

 

「検査と問診の結果が出ましたよ」

 

「どうでした?」

 

「橋渡さんは今まで暫定的にステージ3とされていましたが、この結果を見るに、ステージ2と考えていいでしょうね」

 

「本当ですか」

 

「ええ、驚きました。かなり症状が回復しています」

 

 油断はできないものの、とりあえず喜んでいい結果だった。

 

「皆さんと勇者たちのおかげですね」

 

「まだ勇者様方と症状回復の因果関係ははっきりしていませんが、無関係ではないでしょうね」

 

 大社側もこの結果を見て、天恐の適切な治療法の発見に希望を見出しているようだ。

 やっぱり勇者たちは凄い、と改めて思った。

 

 次に会ったらお礼を言おう。

 二喜は心の中でそう決めたのだった。




読んでいただき、ありがとうございます。
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次回「彼岸花の勇者」

お楽しみに。
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