もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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九話 :勇者たちの演武

 冬も深くなって来た12月下旬。

 二喜は先日、杏の相談に乗った時のことを思い出しながら、大社職員と話をしていた。

 

「そういえば、最近勇者たちと話してる間、どこにいるんですか? 前は一緒に部屋にいましたよね、お目付け役みたいな感じで」

 

「今は扉の前で待っていますよ。以前にあなたが郡千景様と話して急激な回復を見せたとき、私はいませんでしたから、そのほうがいいのかと思いまして……大人が見ていないほうが話しやすい面もあるでしょうし」

 

「なるほど……でも、それだと勇者たちが間違って機密情報とか喋っちゃっても止められなくないですか?」

 

 もともと、そういうときに会話を止められるように同席していたはずだ。

 

「それについては、もう気にする必要がなくなりました。この部屋に移ったときに少しお話しましたが、橋渡さんの扱いは、もうほとんど大社内部の人間と同じになっていますから」

 

 二喜に機密を知られないように気を付けるという段階から、二喜から機密が外に漏れないようにするという対策に切り替えたということか。

 確かに、基本的にずっと病院にいる二喜からよそに情報が漏れることは考えにくいためそれでいいのだろう。

 

「まあ、念のため会話はこちらでも聞いていますから。ご心配なく」

 

「へえ、会話を……ん? どういうことです?」

 

「大したことではありません、事前に予定があるかないかに関わらず、勇者様との面会時の会話は私にも聞こえるようにしてあるというだけです」

 

「ええ? それ盗聴じゃあ……」

 

「気が引けるのは事実ですが、前回あなたが郡千景様とどんな会話をしたのか正確にわからなかったせいで、あなたの急激な回復の理由が不明のままですから。こんなことが続いてしまっては天恐の治療法の研究になりません。我慢してください」

 

「う……そう言われると……でも、事前に言ってくれてもいいじゃないですか」

 

「いや、病室を移した時に説明はあったと思いますが……」

 

 そういえば、そんなようなことをこの職員が言っていたような気がしてきた。

 あのときは千景のことで舞い上がっていてよく聞いていなかったかもしれない。

 

「もちろん、勇者様たちにもご理解いただいています。それに、機密や治療法に無関係な個人的な会話内容を私が他者に漏らすことは絶対にしませんので、そこはご安心を」

 

「まあ、あなたを疑ってはいませんが……普通に恥ずかしいし、緊張しますよ……っていっても我慢するしかないか」

 

 二喜は何から何までお世話になっている身だ。この程度の束縛は仕方がないだろう。

 

「それより、今日の予定ですが……」

 

 二喜が納得したことでこの話は終わり、次の話題に移っていくのだった。

 

 

 

 

 

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「よう! 二喜、入るぞ!」

 

「お邪魔する、ここが二喜の新しい病室か」

 

「そうだよ、驚いた?」

 

 その日の午後、球子と若葉が病室に来た。

 

「少しな。窓があるというのは本当なのだな。大丈夫なのか」

 

 やはりというべきか、二人も天恐の二喜が窓のある部屋で過ごしていることに心配を覚えているようだった。

 

「この通り、大きな問題はないよ」

 

「それでも自分から病室を移動するなんて、二喜は根性がある奴なんだな。ちょっとタマげたぞ」

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいよ。だけどすごいのは僕じゃなくて君たちさ」

 

 二喜としては自分がこうして天恐に向かい合えているのは勇者たちのおかげだと思っているので、素直にそう言った。

 

「何を言う。この件に関しては私たちは特にこれといったことはしていないだろう。頑張ったのはお前自身だ」

 

「そんなことは……」

 

「タマもそう思うぞ。二喜は何かあれだな、何事もあんまり自分の成果にしようとしないな。ある意味器が広いというか……」

 

「そんなんじゃないと思うけど……」

 

「いや、球子の言うことももっともだ。二喜はもっと自信を持っていいと私も思う」

 

 普段から勇者や巫女ばかりをすごいと言って自分への評価を特にしない二喜に、二人は励ましの言葉を語る。

 

「乃木家の家訓に“何事にも報いを”というものがあるのだが、二喜の回復はまさに二喜自身の頑張りと諦めない心が報われた結果だ。誇っていいことだ、これは」

 

「それは……いや、ありがとう」

 

 確かに、歩行練習や外の正解を見る練習など、二喜自身もかなりの努力をしてきたのは事実だ。

 少しはそれを自分自身で認めてあげるのも必要なのかもしれない。

 

 そんなふうに考えていると、球子が突然ぽん、と手を叩いて話し出した。

 

「あ、そうだ、器が広いで思い出した。なんかあんずの悩みを二喜が解決してくれたんだって?」

 

「ああ、確かに杏がそんなことを嬉しそうに言っていたな。やるじゃないか、二喜」

 

 どうやら、杏がこの前病室に来たときのことを他の勇者たちに話したらしい。

 

「友達の相談に乗っただけだよ。大したことは……」

 

「ほら、それだよ二喜! あのとき杏はやたら興奮してそのことを話してたからな、大したことないなんてことはないぞ、絶対」

 

 また自分のしたことを大したことないと表現してしまった二喜を球子が指摘する。

 

「あ、ごめん……でも、そっか……杏が喜んでいたのなら、良かった」

 

「でも結局、何を悩んでいたのかは教えてくれなかったんだよなー。二喜、何を相談されたんだ?」

 

「え、いや、本人が話していないことを僕が話すわけには……」

 

「あー、それもそうか。すまん、忘れてくれタマえ」

 

 杏の相談事に関しては勇者たちに言いにくいということで自分に相談してくれたのに、それを二喜がばらしてしまっては意味がない。

 そういうことで追及は断ったのだが、球子がちゃんと引き下がってくれてよかった。

 

「それにしても、杏のあの様子を考えるに、かなり的確なアドバイスをしたようだな。私も何か相談事があれば二喜に持ち掛けてみるのもいいかもしれんな」

 

「ぼ、僕で力になれるのなら、いくらでも力になるよ」

 

 まさか、勇者たちに頼ってもらえるときが来るとは思ってもみなかった。

 正直、嬉しかった。

 

「それで、話は変わるんだけどさ」

 

 と、そこまで話したところで球子が話題を変えた。

 

「ん、何?」

 

「二喜ってさ、なんか空の写真とか映像とか見る練習、してるんだろ?」

 

「うん、それがどうしたの?」

 

「いや、それやってどうだった? 大丈夫そうだったのか」

 

「そうだね……最初はきつかったけど、今は映像なら空も問題なく見れるよ。実際の空は……昼間ならギリギリ視界に入れても大丈夫、かな」

 

 ちら、とカーテンの閉まった窓を見る。

 以前、太陽を見てもそこまで重大な影響は出なかったものの、やはりそれなりの負担はあったので、あれ以降はなんやかんだカーテンを開けていない。

 

「そっか……なら、テレビなら大丈夫なのかな」

 

「ああ、なるほど。あの話か」

 

「え、なになに、何の話?」

 

 球子が何の話をしているのかよく分からず、二喜は聞いた。

 若葉は何か知っているようだが……。

 突然二喜の空を見る練習の話をしてきたことに関係するのだろうか。

 

「今度の元旦、タマたちは“演武”っていうのをやることになったんだよ」

 

「えんぶ? 踊るの?」

 

 イメージが沸かない二喜だったが、若葉が解説してくれた。 

 

「いや、その演舞ではない。武道の武だ、皆の前で己の武を披露する……まあ、ようは公衆に、我々勇者がどのようにバーテックスと戦っているのかを見せるショーのようなものだ」

 

「ああ、なるほど」

 

 初陣以降、大社は勇者を英雄として取り上げることで、民衆から不安や絶望を取り除こうとしている節があるので、その一環なのかもしれない。

 

「テレビ放送もされるからさ、二喜にもぜひ、タマたちの活躍を見てほしいって思ってな。でも、外でやるからどうしても空が映っちゃうだろ? それで、もしかしたら見せないほうがいいのかなって」

 

「ああ、なるほど、それで……ちらっと空が映るくらいなら、たぶんもう大丈夫だよ。そこのテレビをつけて、ここから応援しているね」

 

 本当は現地へ行って直接見たかったが、さすがに元旦までにそのレベルまで症状を回復させるのは無理だろう。

 残念だがそれは仕方あるまい。

 

「おう! タマのカッコイイ姿を見逃すなよ!」

 

 どん、と胸を叩いて球子が自信満々にそう言った。

 確かに、球子のこういうところは二喜にはないところだ。見習ったほうがいいかもしれない。

 

「その演武っていうのは勇者のみんながやるの?」

 

「いや、タマと若葉と、あと千景の三人だけだ」

 

「杏と友奈は見物客の前に立つのが気恥ずかしいらしくてな。そもそも急な話だったし、参加しないと言っていた」

 

「杏はともかく、友奈が……?」

 

 友奈が参加しない理由には、少し違和感があった。

 

 杏はわかる。恥ずかしがり屋なところがあるから。

 それに、この間二喜が「勇者にもそれぞれの役割があっていい」というようなことを杏にアドバイスしたから、それで無理して参加する必要はないと考えたのかもしれない。

 

 ただ、友奈が人前での演武を恥ずかしがるのはちょっとイメージと違った。

 友奈はそういうのは進んでやるものだと思っていた。それも、皆を元気付けるためのものなら、なおさらだ。

 

 まあ、二喜も友奈のことをそこまで知っているわけではないし、本人がやらないと言っているのならそれでいいか。

 

「まあいいや、それにしても、千景もやるんだね、それもちょっと意外だな」

 

「そうか? 若葉が出るんならそりゃ出るだろ、今の千景なら」

 

「む、そうか? 私も少し意外だったぞ。千景はこの手のショーは嫌うと思っていたのだが、すぐに参加を決めていたから驚いた」

 

「おいおい、若葉、もっと仲間を見てやってくれタマえよ」

 

「善処する……」

 

 正直、二喜も若葉と同じ印象を受けたが、球子は違ったらしい。

 球子はこれで他人の内面に敏感なところがあるから、何か二喜や若葉とは違うものを感じているのかもしれない。

 

「ま、それはいいや。二喜、タマたちの活躍から目を離すなよ」

 

「もちろん、当日は頑張ってね」

 

 それから、軽い世間話をしてこの日はお開きとなった。

 

 

 

「そっか、千景も出るのか……」

 

 二人が帰った後、二喜は今から元旦が楽しみになっていた。

 

 思えば、勇者のみんなと友達になったものの、戦う姿などは当然見たことがない。

 どんなふうに彼女たちが戦うのかは、興味が尽きなかった。

 

「頑張れ、三人とも」

 

 友人たちの晴れ姿に思いをはせながら、二喜は元旦の日を待つのだった。

 

 

 

 

 

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 そして、元旦。

 

 テレビ画面では三人がそれぞれの武器を使って、藁の束や看板など、バーテックスに見立てたものを破壊していく様子がカッコよく映し出されていた。

 

 皆、勇者として戦うときの服、勇者装束に着替えており、普段のみんなとは違って迫力満点だった。

 

 若葉はシンプルな日本刀で、それゆえに洗練された居合を披露していた。

 

 球子は円盤状の武器を射出し、遠くの目標を打ち倒しているのが爽快だった。

 

 千景は見たことないような大きな鎌を振り回し、華麗に目標をなぎ倒していく様が美しくすらあった。

 

 間違いなく言えるのは、三人とも輝いて見えたことだ。

 

 ただ唯一引っ掛かったことがある。

 これは中継ではなく録画の放送だったのだが、やたらと若葉ばかりが映し出されていた。

 

 若葉は昔から居合を習っていたらしく、場慣れもあってか、確かに洗練された動きをしていた。だが、他の二人も負けず劣らずカッコよかったのだから、もっと映して欲しかった。

 

 目立ちたがり屋の球子は、これを見て残念に思うだろうなと、二喜はほんの少しだけかわいそうに思った。




読んでいただきありがとうございます!

感想や評価も是非お願いします。

それでは次回「仲のいい友達」もお楽しみに!
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