もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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遅い時間の投稿になってしまい申し訳ございません。


十一話:真実を写す

 勇者たちが温泉旅館に泊まりに行った次の日、二喜はテレビをつけてニュースを眺めていた。

 

『先日の勇者のお三方の演武はとても迫力がありましたね。彼女たちがああして人類の敵であるバーテックスを倒してくれているというのは、本当に頼もしいです』

 

『ええ、そうですね。7・30天災以降、生きる希望を失ってしまった人たちにも活力を与えてくれたのではないでしょうか』

 

『そうある事を願います。同時に私たちもまた、諦めてはいけないのだということを実感しました。遠い長野県でも苦労を乗り越えながら生き抜いている人々がいるということですし、希望を失ってはいけません』

 

 ニュースではアナウンサーがそのように話を締めくくっていた。

 

 実際、バーテックスの存在により人生を悲観している人々には、勇者の頼もしさは力の源となり得る。

 二喜もそれは実感しているところだ。

 

 今まで、一般の民衆で勇者の戦いを見たことがあるのは、天災の日に直接勇者に助けられた人たちのみだった。

 

 四国に壁がそびえたって以降の勇者の戦いは、神樹様が作り出した異界の中で行われるらしいので、勇者が実際にあの化物とどう戦っているのかは直接見られない。

 

 故に、勇者が本当にバーテックスと戦っているのか疑っていた者だって四国にはいるだろう。

 二喜だって、演武を見るまでは彼女たちの戦い方など知らなかったくらいだ。

 

 しかし、そういう勇者への猜疑心を募らせていた者たちも、この前の演武でそんな気持ち吹っ飛んだに違いない。

 だって、どう考えても普通の人間にできる動きではなかったから。

 

 人間、信じられる何かがあると希望が持てるものだ。

 

 また、長野県、諏訪地方の存在も、希望の一助となっている。

 

 諏訪地方の生存者がいることが公表されたのは、勇者が初陣を勝利で飾ったことがメディアで取り上げられ始めた頃と同じ時期だ。

 

 自分たちと似た境遇の人たちがまだ頑張っているという情報も、四国の人々の心の支えになった。

 

「若葉は、諏訪の勇者を知っているんだよな……」

 

 四国と諏訪は今まで連絡を取り合っており、勇者が代表として通信していたらしい。

 若葉と諏訪の勇者との通信記録も一部公表されている。

 

 長い間やり取りを続けてきたわけだから、若葉も諏訪の勇者の事をよく知っている事だろう。

 友人になっているのかもしれない。

 

 今度、諏訪の勇者はどんな人なのか聞いてみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

===================

 

 

 

 

 

「お邪魔しますね、二喜さん」

 

「ああ、いらっしゃい、ひなた」

 

 二、三日した頃、大社職員から来客の知らせが来た。

 来客とは巫女のひなただった。

 

「なんか珍しいね、ひなただけで来るのは」

 

 ひなたはいつも勇者……特に若葉と一緒にいる印象が強かったので一人でいるのは新鮮だった。

 

「今日は先日行った温泉旅行のお土産を二喜さんにお渡ししようと思って来ました」

 

「ああそっか、帰ってきたんだね」

 

「はい。それで、他の皆さんは予定が忙しくなっていますので私が代表で皆さんの分のお土産を持ってきました」

 

 そう言って、ひなたは大きな袋を取り出した。

 

「そんな、わざわざそのために来てくれたの? ゆっくりでよかったのに」

 

「いえいえ、皆さんも早く渡したがっていましたから」

 

「ありがとね、ひなた」

 

 わざわざ勇者たちの分までお土産を持ってきてくれたひなたに礼を言い、お土産を受け取った。

 袋の中には置物やキーホルダー、お菓子などがいくつか入っていた。

 

「確かひなたも行ったんでしょ? 楽しかった?」

 

「ええもちろん。ちょっとした修学旅行のようでした」

 

 修学旅行。そういえば勇者たちとひなたは普段同じ学校の同じ教室にいるのだった。

 ならば確かに今回の宿泊は修学旅行のようだ。

 

「勇者のみんなも楽しめてたかな」

 

「気になりますか? では旅館での皆さんの様子をお見せしましょう」

 

 スマホの画面を見せてくるひなた。

 そこには大量の写真が収められたフォルダがあった。

 

「……旅行って確か、ほんの数日だったよね?」

 

「そうですね、一泊二日です」

 

「フォルダの中の写真三百枚は超えてるんだけど、旅行以外の写真も入ってるんだよね?」

 

「いいえ? 先日の旅行の写真だけですよ」

 

 何か問題が?

 言外にそう言ってくるひなたの笑顔が怖い。

 

 一番怖いのは、半数以上が若葉の写真であることだが。

 

「まあいいか……お、美味そうな料理食べてるなー」

 

「はい、お値段を考えると少々怖くなりますが……あ、ほらこれ見てください! あまりの美味しさに頬を緩ませる若葉ちゃんです!」

 

「おーほんとだ。顔がとろけきってるよ、よくこんな瞬間撮れたね」

 

「そしてこれはトランプに白熱する若葉ちゃん、こっちは枕投げではしゃぐ若葉ちゃん、さらには負けてがっかりする若葉ちゃん、そしてこれは──」

 

 ひなたの若葉トークが止まらない。

 若葉のことになると、ひなたは割とすぐにこうなる。

 少々圧倒されるが、これはこれで楽しくはある。

 

 それにしても、若葉の写真の割合が多いのは確かだが、他のメンバーの写真だってかなりの数が撮られていた。

 そしてそのどれもが、被写体の輝く瞬間を華麗に切り取っている。

 ひなたには写真の才能があるようだ。

 

「これも見てください。温泉から出たあとの、浴衣姿若葉ちゃんです! 緩い恰好のはずなのに、きりっとしている感じがたまらないでしょう!?」

 

「あーそうだね、浴衣姿の女の子ってそれだけで魅力的──」

 

 ひなたに合わせるように若葉を賛美していた二喜が、急に押し黙った。

 

「二喜さん?」

 

 何事かと、ひなたは二喜の視線の行方を探す。

 二喜の目は、ひなたが指さしていた若葉の写真の、片隅に写る千景の姿にくぎ付けになっていた。

 

「────」

 

 写真の千景は、若葉と同じように浴衣姿で、風呂あがり故か、髪が少しだけ濡れたように艶が出ていた。

 

 とても綺麗だと、そう感じた。

 

「あのー、二喜さん?」

 

「え、あっごめん、なんだっけ、少しぼーっとしてたよ」

 

 ひなたに呼び掛けられ、正気に戻った二喜は、慌てて誤魔化した。

 

「もしかして、ここに写っている千景さんが気になりますか?」

 

「え、違っ……いや、そうだね……なんでだろう、少しだけきになる、かな」

 

「なるほど、そういうことでしたか……」

 

「えっ?」

 

 何かに納得したようにため息をつくひなた。

 二喜は意味が分からず困惑する。

 

「この間、杏さんが二喜さんの新しい病室に行った日、随分と楽し気にされていた理由がわかりました」

 

「え、何それ……僕にはさっぱりだけど、なんで杏が?」

 

「私の口からは何も。無粋な真似はしたくありませんから」

 

「なんだよ、気になるなあ」

 

 結局、ひなたはその後も若葉の話を続け、二喜の何に気付いたのかは教えてくれなかった。

 

 そして一時間以上が経過したのち、ようやく若葉の話は終わった。

 

「いやあ、少し物足りないですが、今日はずいぶん若葉ちゃんについて語れました。時間も時間ですし、そろそろ私は帰りますね」

 

 まだ語り足りないのか、と二喜は戦慄したが、それは置いておいてひとまずお礼を言った。

 

「今日はありがとうね、おかげでこっちも楽しかった。ひなたの写真のおかげでなんだか僕も旅行気分を味わえたよ。ひなたの写真はどれもすごくよかったよ、プロになれるんじゃない?」

 

「おやまあ、嬉しいことを言ってくれるじゃないですか。そんな二喜さんから見て、どの若葉ちゃんが一番よかったですか?」

 

 どの写真、ではなくどの若葉、ときたか。

 ひなたはどこまでもひなただなあ。と、そんな感慨を味わいながらも、二喜は正直に答えた。

 

「この“窓の前で外を眺める若葉”が一番いいかなあ」

 

「ほうほう、これですか」

 

「なんか気に入ったんだ。でもこれ、どこを見てるんだ? 部屋が暗いし、夜だよね」

 

「壁、でしょうね、四国を囲む。若葉ちゃんは丸亀城でもよくそうやって壁を眺めていますから」

 

 壁。四国を取り囲み、バーテックスを中に入れないようにする、神樹様が作り出した結界のための壁か。

 二喜は見たことがないが、四国全体を囲んでしまうくらいだから、さぞかし壮大なのだろう。

 

「いや、正確には壁のさらに向こう側でしょうか。遠くの、ずっと遠くの場所を思っているのかもしれません」

 

「ずっと遠く……」

 

 遠くの場所、最近どこかで聞いたような気がする。

 ああそうだ、確かニュースで言っていた。

 

「遠くって、もしかして諏訪だったりするのかな……?」

 

「っ! どうして……!」

 

 諏訪という言葉に、ひなたが反応した。

 なぜ、その場所が出てくるのか、という驚きだろうか。

 

「いや、この間ニュースで言っててさ、諏訪ではまだ生きて暮らしている人たちがいるんだから、四国も頑張らないとって。だから、若葉もそういう気持ちなのかなって」

 

「……ああ、確かに、そんな報道がされていましたね……」

 

 そう言うひなたは、何故だかすごく寂し気な表情をしていた。

 

「そういえば、若葉は諏訪の勇者と話したことがあるんだよね、今度どんな人なのか聞いてみようかなって思ってるんだけど──」

 

「あの、二喜さん」

 

 話の途中だったが、ひなたはそれを遮るように喋った。

 丁寧なひなたにしては珍しいことだった。

 

「すいません、若葉ちゃんには、諏訪のことは話さないであげてくれませんか?」

 

「え、どうして……?」

 

「……ごめんなさい、言えません。ですが、どうか──」

 

 言えない。

 それは機密的な意味だろうか。

 いや、確か二喜に対しては、すでにその手の制約なくなっていたはず。

 そしてそれは、ひなたも知っているはずだ。

 

 だから、機密情報だから言えない、というわけじゃない。

 ならば何故か。それは考えても仕方ないだろう。

 ひとまず、ひなたが真剣にこう言っているのなら、答えは一つ。

 

「わかった、若葉の前では諏訪の話題は出さない。約束するよ」

 

「──ご理解、感謝します。二喜さんは思いやりのある方なんですね」

 

 ひなたの表情に笑顔が戻った。

 二喜を信頼してくれたのだろう。

 

「そんなんじゃないよ、むしろ、思いやりがあるのはそっちでしょうに」

 

「え?」

 

 きょとん、としたひなたの表情。レアだ。

 

「だって、今日見せてくれた写真さ、空が少しも写っていなかったもん」

 

「!」

 

「これ、僕に気を遣って厳選したんでしょ」

 

「……そんなことありませんよ、旅館は当然屋内ですし、たまたまです」

 

「自由時間は外にも行っていたんでしょ、それに、バスで移動中の写真が何枚かあるけど、どれも窓すら写っていない。たぶん、窓や外が写っている写真は別のフォルダに移してくれたんでしょ」

 

 普通に考えて、バス内で写真を撮って窓が一度も写らないなんてことそうそう起き得ない。

 

 さらに、二喜は現在ひなたのスマホの画面に映っている“窓の前で外を眺める若葉”の写真を指しながら言う。

 

「その写真も、若葉が窓の外を眺めているのにその外が見えない構図になってる。たまたまそういう構図になった奴だけ残してくれたんだ、ひなたは。違う?」

 

 二喜が「外を見る訓練」のおかげで写真や映像くらいなら空を見ても大丈夫になったのは、ひなたも知っているだろうが、それでも見ないに越したことはないと思ったのだろう。

 

「……驚きました。まさか、気づいていらっしゃるとは」

 

「何となくね。君はこういうことしそうだなって思って」

 

「よく、見ていてくれてるんですね、私たちを」

 

「そりゃ、友達だからね」

 

 もっと言えば、恩人でもある。

 

「若葉ちゃんも……」

 

「ん?」

 

「若葉ちゃんも、遠くばかりではなく、もっと身近な友人に、仲間に目を向けてくれれば……」

 

 かすかに聞こえる程度の小さな声であったが、その声には強い心配が込められているように感じた。

 

「ひなた? 何か心配事?」

 

「あっ、いえいえ、これは若葉ちゃん自身が気付かなければいけないことですから。それでは、本当に時間になってしまいましたので帰りますね」

 

 そう言うと、ひなたはそそくさと病室を出て行ってしまった。

 

「大丈夫かな……?」

 

 少し、最後のひなたの態度は心に引っかかったものの、今日は写真を通してみんなの楽しそうな姿が見られてよかった。

 

 人類の危機と戦っている以上(つら)いこともあるだろう。

 しかし、そんな危険な目にあわされているからこそ、彼女たちの生活にはあんな風に笑顔になれるようなことが、(つら)いことよりも多く起きてくれることを、二喜は強く願うのだった。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 それから半月ほどしたある日、二喜が病院で千景に借りたゲームをしていたとき、廊下、というか、病院全体が騒がしくなっているのを感じた。

 

「……なんだ?」

 

 二喜は松葉杖を手に取り、廊下へ出る。

 どうもざわめきの中心は一階のようだ。

 

 二喜の病室は上の階にあるが、まだ二喜は階段が使えないため、エレベーターを使って下へ降りた。

 

 エレベーターの扉が開くと、ざわめきは一気に大きくなった。

 大社職員たちや医療関係者が、そろって不安そうにしている。

 

「急いで運べ! 早く!」

 

 どこかからかはわからないが、ストレッチャーの車輪の音と、焦る声が聞こえる。

 どこかで交通事故でもあったのだろうか。あるいは火災か。

 

 この雰囲気だと、重症患者が救急車で運ばれてきたのかもしれない。

 二喜のいるこの病院に運ばれてくるということは、その患者は大社関係者だろうか。

 

「あの……」

 

 二喜を担当している大社職員を見つけたので、声をかけた。

 

「っ、橋渡さん!? どうしてこんなところに……」

 

「そんなことより、何があったんですか?」

 

「それは……いや、どうせ橋渡さんにはすぐに伝わることか……」

 

 大社職員は口ごもったが、やがて二喜に話した。

 

「先ほど、バーテックスによる、四国内における過去最大規模の襲撃がありました。勇者様たちは勝利しましたが、全員が負傷。……特に、高嶋友奈様は意識不明の重体で、たった今、この病院の特別治療室に運ばれて行きました」

 

「え──」

 

 世界というのは、二喜の願いなど微塵も考慮してくれず、恐ろしい真実を写し出すのだった。

 




読んでいただきありがとうございます!

感想や評価等、よろしくお願いします。

次回「不和」お見逃しなく。
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