もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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十三話:星空を睨む

 しばらくの時間、全員一言も喋らず特別治療室前にいた。

 その間は、凍ったような気まずい空気が流れ続けていた。

 

 しかし、やがてそれぞれ自分の病室へ戻っていった。

 まだ残された検査があるらしい。

 

 若葉が帰るとき、千景が傷だらけの友奈に視線を向けたまま、告げた。

 

「乃木さん……あなたが変わらない限り、あなたと一緒には戦えないという私の気持ちも、変わらないわ……」

 

「……」

 

 若葉は返事をしないまま出て行った。というより、返事ができなかったのだろう。答えが見つからなかったのだ。

 

 残るは千景と二喜だけになる。

 

 友奈をじっと見つめる千景の様子を見て、二喜は自分も病室に戻ることにした。

 先ほど千景と言い争ったことで、気まずかったのもあるが、それより今は千景と友奈を二人きりにさせてやりたかった。

 

「ねえ」

 

 扉を出ようとしたところで、千景が声をかけてきた。

 

「あなたが言ったこと、意味不明だと思ったことも、気持ち悪いと思ったことも事実だから、謝らないから」

 

「……あーそう」

 

 そんなことを言うためにわざわざ呼び止めたのか。

 これは、完全に嫌われたかなと心が重くなる。

 

 しかし、勇者同士の争いはとりあえずあれでいったん止まった。仕方のない犠牲と割り切るしかない。

 そう、無理やり自分を納得させようとしたところで、千景の言葉が続いた。

 

「でも……あなたを無関係の他人って言ったのは言い過ぎたわ……」

 

「え……」

 

「あなた、たぶん昨日からずっとここにいたんでしょう……? 高嶋さんのために。そんな人に言っていい言葉じゃなかった……ごめんなさい」

 

 相変わらず視線は友奈を見たままで、こちらに向けようとはしなかった。

 謝罪をするにしては、失礼な態度だったかもしれない。

 

 だけど、千景の言葉には、真剣な気持ちが乗っていた。

 

「いいよ、気にしなくて。怒っているときに言いすぎるなんて、誰にでもある」

 

 二喜は千景にそう告げると、今度こそ自分の病室に戻る。

 

 千景が二喜の事を他人ではないと、自分たちの関係者だと言ってくれた。認めてくれた。

 二喜の心は、さっきよりは軽くなっていた。

 

 

 

 

 

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 翌日、二喜は再び特別治療室前に来ていた。

 

「まだ、意識は戻らないか……」

 

 友奈は相変わらず包帯に巻かれたまま眠っている。

 昨日と違うのは、輸血のチューブが外されていたことか。

 輸血の必要はもうないと判断されたらしい。

 

「そういえば、君以外の勇者は今朝退院していったよ」

 

 検査の結果問題なしだったようで、友奈以外の勇者たちは病院を出て行った。

 今頃は丸亀城に戻って、教室で授業でも受けているのだろう。

 

「まさか、本当にたった一日で退院しちゃうなんて、正直驚いたけどね」

 

 昨日の時点では、特に若葉はまだまだ傷だらけに見えたが、退院したということは既に日常生活は遅れるくらいになっているということだろう。

 

 確か、この前球子が「勇者は傷の治りが早い」というようなことを言っていたが、どうやら本当だったらしい。

 これも神樹様の加護の一種か。

 

「でも、険悪な重苦しい空気は変わってないっぽかったよ」

 

 勇者たちの退院を見送ったのだが、彼女たちは同じ丸亀城に帰るのに、全員で一緒に病院を出て行くということをしていなかった。

 まだまだ気まずい関係のままのようだ。

 

「君がいれば、あんなことにはなっていないんだろうな」

 

 きっと、友奈が一緒だったら、あんな重い空気はすぐさま解消させていたことだろう。

 勇者は誰が欠けてもいけないと思うが、特に欠けてはいけないのが友奈だったということだろう。

 

 彼女たちの人間関係を上手く取り持っていたのが彼女だったのだ。

 

「早く、目を覚ましてくれ、友奈……」

 

 また元気な笑顔を、二喜に、そして勇者たちに見せてあげてくれ、と二喜は祈るのだった。

 

 

 

 

 

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 夕方ごろ、二喜の病室にひなたがやって来た。

 

「二喜さん、こんにちは」

 

「やあ、ひなた」

 

「友奈さんの様子は……相変わらずでしたね」

 

「ああ、まだ目を覚まさないよ……そっちは?」

 

「こちらも変わりません。皆さん、まだ気まずいままのようです。教室でも、会話はほとんどありませんでした」

 

「そっか……それで、今日は何か用があって来たんでしょ?」

 

 勇者たちの様子を二喜と共有するためだけに病室に来たとは考えにくかった。

 

「それが……私に呼び出しがありまして、明日には大社本部に行かなくてはいけなくなりました」

 

「大社本部? それはまた、どうして」

 

「理由はなんとも……ただ、年が明けてからいろいろありましたから、おそらくそれが関係しているかと」

 

 いろいろ、というのは主に今回のことだろう。

 過去最大規模の襲撃、そして勇者の重傷。

 何かが変わり始めている。

 

「それで……私が離れている間、もし若葉ちゃんが自分でここに来るようなことがあれば、相談に乗ってあげて欲しいんです」

 

「相談?」

 

「若葉ちゃんは今、とても揺らいでいます。今まで自分を支え続けてきた戦う理由を否定され、進むべき方向を見失っているんです。自分の問題点とその解決策に気付かない限り、まっすぐ立つことすらできない」

 

 ひなたは胸の痛みを抑えるように続ける。

 しかし、そこで二喜は疑問に思う。

 

「ちょっと待ってくれ、何故、それを僕に頼むんだ? 君自身が相談に乗ってやればいいじゃないか。……というより、ひなたは若葉が抱える問題点とやらを知っているんじゃ?」

 

 ひなたは若葉とは幼馴染。彼女の長所も短所も、理解していることだろう。

 そして、若葉だって相談事があるなら真っ先にひなたに相談するはずだ。 

 

「はい、確かに、私は若葉ちゃんが抱える問題を言葉で教えてあげることはできます」

 

「じゃあ……」

 

「でも、それじゃダメなんです」

 

 ひなたは悔しそうに首を横に振った。

 

「私だって悩み苦しむ若葉ちゃんを見ていたくない。でも、答えを知っている私がただ言葉で教えるだけじゃ、若葉ちゃんの内心の根本的な部分は変わらない」

 

 微かに涙すら見せながら、ひなたは続ける。

 

「そしたらきっと、また似たようなことが起きる。今度は若葉ちゃんの命が危険にさらされることになるかもしれない。だから、若葉ちゃん自身が、自分で気付かなければ意味がないんです」

 

 ひなたは潤ませた瞳を二喜に向ける。

 

「でも、二喜さんなら、若葉ちゃんと一緒に考えてあげてくれる。共に答えを見つけてくれる……そう思うんです」

 

 そう言って、ひなたは二喜をじっと見つめる。

 すがるような目だ。ひなたのこんな目は初めて見た。

 

「……僕は、若葉のことをまだあまり知らない。バーテックスとの戦いのことも、そもそも彼女たちがなんで険悪な雰囲気になっているのかも、よくわかっていない」

 

「……あまりにも無茶で、無責任なお願いでしたね。過度な期待を背負わせるようなことをして、申し訳ありません……今私が言ったことは忘れてください」

 

 二喜の言葉から、断られたと判断したひなたは、無理を言ったことを謝罪しつつ、座っていた椅子から腰を上げようとした。

 しかし、二喜の言葉は終わっていなかった。

 

「でも──」

 

「え……?」

 

「それでも、若葉が本気で悩んでて、相談に来たのなら、僕はその相談に乗るよ、真剣に。事情がわからなかったら、わかるように聞く。そのうえで、一緒に解決策を探すさ。それは、ひなたに言われるまでもないことだよ。だって、僕は若葉の友達なんだから」

 

「ふ、二喜さん……っ!」

 

 ひなたの瞳に光がさした。

 

「ただし、本当に若葉が相談に来たらの話だからね? さすがに本人が求めていないのに、わざわざ病室に呼び出して“お前の悩みを話してみろ”なんて言うつもりはないよ」

 

 そんなことをするくらいなら、その場限りの対処でも、ひなた自身が若葉の悩みを解消してやる方がマシなはずだ。

 

「はい、若葉ちゃんが自分だけで答えに気付いたり、二喜さんでなく他の皆さんの手を借りて解決策に辿り着いたのなら、それはそれでいいんです」

 

 ただ──、とひなたは続ける。

 

「若葉ちゃんは、ここに来ると思いますよ。何となく、ですけどね」

 

 ひなたは少しだけ微笑んで、そう言った。

 

 

 

 

 

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 次の日の午後、おそらく学校が終わってすぐであろう時間帯。

 本当に、若葉が二喜の病室を訪ねてきた。

 

「まったく、もはや恐ろしいなひなたは……」

 

「ん? 何か言ったか、二喜」

 

「いや、何でもない」

 

 ひなたに対して思わず畏怖の声が漏れ出た。

 最初は本人が若葉に、二喜の病室に行くよう誘導したのかとも思ったが、若葉の様子を見るにそういうわけではないようだ。

 ただ単純に、ひなたが若葉の行動を予測してみせたということだろう。

 

「それで、今日は面会の予定は入っていなかったけど、どうしたの?」

 

「あー、いや、友奈の様子を見てな、意識が戻っていなくて心配だ」

 

 友奈の意識はまだ戻っていない。しかし、バイタルは安定しているようで、もういつ目覚めてもおかしくないようだ。

 

「ついでに僕の見舞いに来てくれたの? ありがとう」

 

「ああ、それもあるのだが……その、前に杏が二喜に悩みを話したら解決した、と言っていたのを思い出してな、うん」

 

「何か悩み事があるんだね、若葉。友奈の怪我や、あのとき千景が言っていたこと関係?」

 

「ッ! ああ……そうなんだ、よくわかったな」

 

「そりゃわかるでしょ。ひなたには相談しなかったの?」

 

 念のため、そう聞いてみる。

 

「ひなたは……相談してみたが、答えてくれなかった。そして朝起きたら、すでに丸亀城を出て行ってしまっていたよ……」

 

 若葉の声のトーンが、わかりやすく落ち込んだ。

 どうやら本当にひなたは若葉を突き放したらしい。

 甘やかすタイプかと思っていたが、その実スパルタだ。

 若葉はひなたに見限られたと、相当ショックだったことだろう。

 

「そうか……まあ、何はともあれ、教えてくれないか。君たちに何があって、若葉はどう悩んでいるんだ」

 

「相談に、乗ってくれるのか……?」

 

「当たり前だろう。何を遠慮しているんだ」

 

「だって、二喜はバーテックスとの戦いに関係ない一般人で、しかも良くなっているとはいえ、天恐患者だ。バーテックス関係のいざこざに巻き込まれる必要なんかない。本来なら、そうならないように私たちが守るべき存在じゃないか、二喜は」

 

「────っ」

 

 一瞬なにか、チクリ、と二喜の心に小さな棘のようなものが刺さった感覚があった。

 

「二喜?」

 

「……いや、何でもない。若葉、そんなこと、僕には気にしなくていい。それよりも友達の悩みは聞いてあげたい」

 

「そう、か……ありがとう、二喜」

 

 そして、若葉はぽつり、と事情を話し始めた。

 

 若葉は、7・30天災の日、クラスメイトをバーテックスのせいで喪ったらしい。

 それも、かなり無残な方法で。

 

 以降、若葉は憎しみ、怒り、復讐心を理由にバーテックスと戦ってきた。

 昔から“何事にも報いを”という信条を心の柱として生きてきたからだ。

 友の、そして死んでいった多くの人類に報いるために、若葉は刀を振るってきた。

 

 今までは、その“バーテックスへの怒り”で、敵を切り倒し続けていた。

 

 しかし、この前の過去最大規模の襲撃は、敵の数があまりにも多すぎた。

 若葉は、リーダーとして敵をより多く引き受けねばならぬという責任、そしてバーテックスに屈するわけにはいかないという考えで、仲間の制止も聞かずに一人突出していった。

 

 結果仲間と分断され窮地に陥るが、友奈がバーテックスの包囲網を強引に突破して合流。

 友奈が加わったおかげで敵を殲滅。

 若葉は生き残れたが、友奈が重傷を負ってしまった。

 

 つまり、若葉の戦い方が原因で結果的に友奈を危険にさらしたというのが、今の勇者たちに漂う悪い空気の原因ということだ。

 

「友奈がああなったのは私の判断ミスと思い上がりが原因だ。だが、千景は根本的な原因は戦う理由にあると言う……しかし、奴らへの復讐心を否定されたら、もう私には戦う理由が……」

 

 苦しそうに頭を抱える若葉。

 

「……否定されたっていうのは少し違うかもね」

 

「え?」

 

「千景が言ったのは、たぶん、それだけじゃダメって話だと思うよ。怒りだけだと冷静でいられなくなるから、そうならないために、別の理由が必要なんだと思う」

 

「別の、理由……そうだ、私には使命がある。人類の未来を切り開くという使命が」

 

「うーん、間違っちゃいないんだろうけど……そういうんじゃなくて……」

 

「他にか……? それはいったい……」

 

「それを僕が教えるのは難しいな。だって、その理由は若葉自身のものだから。でも、見つけるのはそう難しいことじゃないと思うよ。君が怒りや使命だけで戦っている人間には、ハッキリ言って見えない」

 

「しかし、私には思い浮かばないぞ……」

 

 首をかしげる若葉。

 こういう姿を見ると、そういえば若葉は年下だったと思い出す。

 

 若葉が気付くべきもう一つの戦う理由。二喜には何となくそれが見える気がした。

 若葉の昔の事情なんか今まで知らず、戦っていないときの若葉ばかり見てきたからこそかもしれない。

 

 それにしても、こういうことか。今まで、ひなたや球子が、若葉の弱点をたまにこぼしていたのを思い出した。

 

「若葉はさ、ちょっと視点とか視線が遠すぎるんだと思うよ」

 

「視点と視線が遠い……?」

 

「うん、過去よりもっと近い、今に目を向けてみるとか、あと人類とか、そんな広く遠い観点でものを見ないで、もっと身近な“人”を見てみなよ。勇者の仲間とかさ」

 

「近く……仲間……」

 

 二喜の言葉を受けて、若葉は呟く。

 何かを掴みかけているのかもしれない。

 

 どうすれば、身近なものに目を向け、もう一つの戦う理由に気づくことができるだろう。

 

 若葉自身の手で作り出した平和を体験することができれば、答えは見つかりそうな気がする。

 ならば、街に遊びにでも行けばいい気がするが、二喜はこの街のことなど何も知らない。

 

 街の人々が若葉をどう思ってるのか知らないし、案内なんてできるはずもない。

 そんな状態で街に遊びに行けだなんて、無責任なことは言えない。

 

(どうしたもんかな……)

 

 二喜が頭を捻っていると、病室の扉がノックされた。

 

「あの、伊予島です。若葉さんがここに来てると聞いたんですが……」

 

「杏?」

 

 扉の向こうにいるのは杏だ。

 

 若葉を探しているようだが、当の若葉に心当たりは無さそうだ。

 しかし、二喜は杏が若葉を探していたということに、何かを感じた。

 

 杏が、パズルの最後のピースを持って来てくれたのだと、直感した。

 

「ああ、若葉ならここにいる。入ってきてくれ、杏」

 

「失礼します。あ、若葉さん、探しましたよ」

 

「それはすまない。何か用だったか」

 

「はい、若葉さんこそ、もしかしてお取り込み中でしたか?」

 

 杏が出直そうとするが、二喜はそれは必要ないと言った。

 

「それより杏、若葉に用事っていうはもしかして、若葉を街に連れて行こうとしたんじゃないか?」

 

「え……そうですけど、なんでわかったんですか?」

 

 まだ何も言っていないのに言い当てられた杏は驚く。

 

「僕も、同じことを今ちょうど思いついたところだったんだ。でも、僕はこの街のことを知らないし、どうしたものかと思っていた。……本当に、ナイスタイミングだよ杏」

 

「へえ、それはまた、奇遇というか……そんなこともあるんですね」

 

「待て、何を言っているんだ二人とも、何を言っているのかさっぱりだぞ」

 

 目を合わせ頷き合う二喜と杏。そして困惑する若葉。

 

「どうやら、僕が力になってあげられるのはここまでってことだよ若葉。あとは、そこにいる頼りになる君の仲間に任せた」

 

「はい、任されました。さ、若葉さん」

 

「……なんだ?」

 

「ちょっと出かけましょう!」

 

「お、おい、杏!?」

 

 頭の上にいくつも『?』マークを並べながら、杏に手を引かれ立ち上がる若葉。

 

「若葉、近くに目を向けるついでに、自分から仲間を頼るってことを覚えてくるといい」

 

「え?」

 

「助けられるつもりがない人間を助けようとすると、強引で無茶な方法になってしまう。それで友奈は傷ついた。だから、もうなんでも一人でやろうとするな」

 

 病室の扉に手をかけ、二人が外に出て行く。

 だから、二喜は最後にこう言った。

 

「助けてばかりじゃダメなんだ。時には助けられる側も経験したほうが、きっといい」

 

 若葉は病室を出るその瞬間まで、二喜の話に耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 杏に連れられて若葉が出て行ったあとも、二喜はずっと若葉のことを考えていた。

 

 あれからしばらく経ち、すでに日は落ちた。

 きっと今頃、若葉は答えを見つけているだろう。

 そして、勇者たちの間に漂う険悪な雰囲気は消え去っているはずだ。

 

「……それにしても、助けてばかりじゃダメ、か。我ながら皮肉だな……」

 

 助けられてばかりの自分と真逆だ。

 だけど、ダメなのはどちらも同じだ。

 

『本来なら、そうならないように私たちが守るべき存在じゃないか、二喜は』

 

 若葉の言葉が思い出される。

 今の二喜は、ただ守られるだけの存在。

 

「若葉は、きっと自分の殻を破った」

 

 きっとこの先、若葉はもっと勇者としての存在を昇華させていくだろう。

 だとすれば、自分はこのままでいいのか?

 守られる存在でいるままで、本当に。

 

 否だ。断じて。

 

「なら、僕にできることは……」

 

 二喜はカーテンに手を伸ばす。

 途中で止まろうとする手を、もう一方の手で押し込んだ。

 カーテンの端を掴み、横に薙ぐ。

 

「──ッ」

 

 直後、視界に入るのは満天の星空。

 昔、確かに好きだった。きれいな空だ。

 

「ぐ……ぉえ……」

 

 その途端、急激な吐き気に襲われる。

 胃がひっくり返りそうになり、汗がだらだらと首筋を伝う。

 心臓の音が耳にうるさい。

 

 本能が、すぐにやめろと警告していた。

 逃げろ、空から逃げろ。恐怖でその身が飲まれるぞ、と。

 

「それ、でも……僕は!」

 

 二喜は、その恐怖に屈することなく、夜の星々を睨みつけた。

 

 顔は涙と鼻水、そしてよだれでぐちゃぐちゃだ。

 とてもみっともなく、みじめで、カッコ悪かった。

 

 それでも、そんなになっても、空から目を背けはしなかった。

 

「決めたぞ……!」

 

 その夜、橋渡二喜は決意した。

 ただ守られるだけの存在からの脱却を。

 

 どんな形であれ、“勇者と共に戦う”ことを、その胸に、確かに刻みつけた。




読んでいただきありがとうございます。

感想や評価もよろしくお願いします。

次回「友の目覚め」
お楽しみに!
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