もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

35 / 46
十四話:友の目覚め

 朝目を覚ましても、二喜の部屋は暗い。

 もちろん真っ暗闇とまでは行かないが、遮光カーテンがかかった窓からは日光はあまり入ってこない。

 

 いつもは電気をつけるためのリモコンを探すところから1日が始まるのだが、今日は違った。

 

 二喜は、日光を遮るカーテンに手を伸ばし、それを掴んだ。

 

「待ってください」

 

 その時、近くからそんな声が聞こえて、二喜はカーテンを掴んだまま動きを止めた。

 

「起きて早々何をやっているんですか、橋渡さん」

 

「……おはようございます」

 

 二喜は声のした方向を向き朝の挨拶をする。

 声の主は大社職員だった。

 

「ずいぶん朝早くからいるんですね」

 

 普段大社職員が二喜の病室に来るのは朝食が終わってからだ。

 今日は二喜が起きる前からすでに病室にいた。

 

「誰のせいだと思ってるんですか、まったく……それより、()()()()()()はひとりでやらないようにと言ったでしょう」

 

「すいません、今のはちょっと寝ぼけてて」

 

「別にやるなとは言いませんが、せめてやる前に私か他の職員、あるいは病院スタッフを呼んでください。また()()()()()()なりたいんですか?」

 

「申し訳ないです……」

 

 昨日、星空を見上げながら“勇者と共に戦う決意”を決めた後、天恐によるストレスからか、吐いてしまった。

 決意を新たにしたというのに、何とも情けないスタートを切ってしまった。

 

「誰もいないところで急変でもしたら本当に危ないんですから。あまり続くようだと、また窓のない病室に逆戻りです。気を付けてください」

 

「はい、肝に銘じます」

 

「よろしい、ではどうぞ」

 

 大社職員の許可を得て、カーテンを開ける二喜。

 すると、まばゆい光が病室の中に入ってくる。

 

「まぶしっ」

 

 直射日光ではなかったが、電気を消した室内との光量差で目が痛い。

 だが、それだけだった。

 

「気分は大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫です。思ったよりずっと」

 

「なるほど、もう窓越しに昼の外を見るくらいなら大きな負担にはならないようですね」

 

 あくまで日中に限定した話ではあるものの、これならカーテンを開けたままの部屋でも生活はできるだろう。

 

「このペースなら、あと数ヶ月もしないうちに外へも出られるようになるかもしれませんね」

 

「数ヶ月……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何も。それより、今日の予定って何かありましたっけ」

 

「午前に検査があるだけです。まあ、いつも通りですね」

 

「そうですか、なら検査が終わったらまた友奈のところに行ってきます」

 

 大社職員が「ご自由に」と言いながら、体温計を差し出す。

 入院をしていると、一日の始まりはだいたい体温を計るところから始まる。

 今日もこうして二喜の一日が始まった。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

「おはよう。今日はいい天気だぞ」

 

 ガラス越しの人物に向かって、二喜は話しかける。

 当然、返事はない。

 

「今日の病院食は美味しかった。といっても、安定の定食みたいなやつだけどね」

 

 しかし、構わず二喜は語りかけ続けた。

 

「それでさ、情けない話なんだけど、昨日病室で気分悪くなって倒れちゃったんだよね。ちょっと無理をしすぎたかもしれない」

 

 昨日のことを思い出しながら自分の手のひらに目を向ける。

 

「でも、その無理の分、何かしらの結果は掴んでみせるよ」

 

 今は空っぽの手のひらだ。

 しかし、このままでは終わらせない。

 二喜はぐっと手のひらを閉じ、握りしめる。

 

「若葉もいろいろ悩みながらも頑張っているみたいだし、僕がいつまでもこのままでいるわけにはいかないからね」

 

 自分が何かを掴むことができたのなら、彼女たちにも見せよう。

 だって、それは彼女たちの頑張りによって生まれた平和の産物でもあるのだから。

 

「だから、そのときが来るまでには起きていてくれよ友奈……って、ん?」

 

 手のひらから視線を外し、再び友奈のほうを見た二喜の動きが止まる。

 動きというより、思考が止まった。

 

 だって、目が合っていたから。

 

「あ、れ……私……」

 

「ちょ、あれ、これ……っ!」

 

 フリーズしてしまった脳が、慌てて動き始めるのを感じた。

 

「ちょっと、誰か……! 友奈が起きてる!」

 

 二喜のその叫びによって、病院内の様子が慌ただしく動き始めたのは言うまでもないことだった。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 その後、友奈は慎重に検査され、意識もはっきりしており、状態も安定していたため、特別治療室から二喜と同じ病棟の、一般病室へ移動になった。

 

 フロアも二喜と同じ階だったので、移動が完了し、一段落ついたところで二喜は友奈の病室へお邪魔しに行った。

 

「やあ、友奈。病室移動のドタバタは落ち着いた?」

 

「うん、お見舞いに来てくれたの? 二喜くん」

 

「まあね。いつもとは立場が逆になっちゃったな」

 

「あはは、なんかおかしいね」

 

 くすくすと明るく笑う友奈は、以前と変わらぬ元気さだ。

 その様子から、二喜はホッと胸をなでおろした。

 

「とりあえず元気そうで安心したよ。あんな大怪我だったから、みんな心配していた。もちろん僕も」

 

「そっか、心配かけちゃってごめんね。でも、病室移動前の検査でも問題なしだって言われてるから、大丈夫!」

 

 友奈の言う通り、検査の結果は問題なしだった。

 体中のあちこちに負った傷も、後遺症が残るようなことにはならないと診断されている。

 

「逆に、すっごく心配させておいて何事もなかったのが申し訳ないくらい」

 

 えへへ、と頭を下げながら冗談めいて笑う友奈。

 

「何言ってんのさ、問題ないのが一番だよ」

 

 目覚めてくれてよかった。二喜が思うのはそれだけだ。

 他のみんなだってそうに決まっている。

 

「それにしても、勇者には驚かされるな……本当に傷は大丈夫なの?」

 

「うん、まだちょっと痛むけど、問題ないよ」

 

 まださすがに包帯やガーゼが残っている部分はあるものの、それにしたってあれだけの大怪我をしたにしては驚くべき回復速度だ。

 

 しばらく入院とはいえ、一か月もしないうちに傷跡もほとんど残らず完治する見込みだそうだ。

 

 むしろ、勇者のこの回復力をもってしてもまだ傷の残る友奈は、本当に甚大な怪我を負っていたのだと考えるべきか。

 

「それで、ちょっと聞きたいんだけど、いいかな二喜くん」

 

「ん? もちろんいいよ。何でも聞いて」

 

「他のみんなの様子はどうだった? 私が寝てる間、何かあったりした?」

 

 まだ意識を取り戻して間もないというのに、仲間の心配をするあたりが、友奈が勇者たる所以(ゆえん)なのかもしれない。

 

「うーん、実はちょっと、空気が悪くなっている感じはあったよ。昨日までは」

 

「え……どうして? まさか、私が怪我をしたせい?」

 

 友奈の表情が曇る。

 自分の怪我が原因で仲間同士が険悪な雰囲気になるのは友奈からしたら絶対にあって欲しくないことだろう。

 

「友奈のせいっていうか……」

 

 二喜は友奈に、昨日までの勇者たちの様子と、その原因について説明した。

 

「そんな……」

 

 友奈は自分の怪我のことよりも、そちらのことを気にしていた。

 そんな友奈を安心させるように、二喜は告げる。

 

「大丈夫だよ、言っただろ? 昨日まではって」

 

「え?」

 

「昨日、杏が若葉を街に連れて行っていたんだけど、あの様子を見る限り、大丈夫だ。今頃はみんな元通りだよ」

 

「……? よくわかんないけど、みんな仲良しに戻ったの?」

 

「ああ、直接確認はしていないけど、僕はそう確信している。まあ詳しくは本人に聞くといいよ」

 

「ん、わかった。じゃあ、あとで若葉ちゃんが来たら聞いてみるね」

 

「すぐに来ると思うぞ。若葉は友奈の怪我のことすごい気にしてたからな。まあ、それは若葉に限った話じゃないけど」

 

 そんなことを言っていたら、廊下から誰かが近づいてくる気配を感じた。

 

「誰か来たみたいだね」

 

「もしかして……」

 

 二人して、病室の扉を見つめる。

 すると、バン! と勢いよく扉が開かれた。

 

「友奈! 目が覚めたというのは本当か……って二喜?」

 

 そう声を上げながら入ってきたのは若葉だった。

 

「……」

 

「……」

 

「な、なんだ二人とも、私をじっと見て……あっ声が大きかったか? すまない……」

 

 しばらく黙っていた二喜と友奈だったが、やがて二人で顔を見合わせる。

 そして、耐えきれなくなったように吹き出した。

 

「アハハハハ!」

 

「若葉、君はタイミング完璧だな、本当に、あー面白い!」

 

「な、何なんだ一体……」

 

 困惑を隠しきれていない若葉を見ると、また笑いそうになる。

 しかし、このままではさすがに可哀想だ。

 

「ごめん、今、ちょうど若葉ちゃんがもうすぐ来るだろうって話をしていたから……」

 

「ほんと、言った直後だったんだよ、それでつい。すまんすまん」

 

「そういうことか……二人して笑い出すから何かと思ったぞ。だが、友奈が元気な姿をいち早く確認できたわけだし、いいとするか……」

 

 ため息をつきながらそう自分を納得させる若葉を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになった二喜だった。

 

「それじゃ、若葉も来たことだし、僕は自分の病室に戻るよ」

 

「うん、改めてお見舞いに来てくれてありがとうね二喜くん」

 

「どういたしまして」

 

 二喜はそう言うと立ち上がって廊下に出ようとする。

 しかし、若葉が何か言いたげだったので、立ち止まった。

 

「待ってくれ二喜、その……昨日は助かった。あの後のことなんだが……」

 

「いや、その話はまた後でいいよ。今の若葉を見て確信したから。……答えは見つかったんだろう?」

 

「ああ。二喜が相談に乗ってくれたおかげでもある。本当に感謝する」

 

 今の若葉に、昨日までの不安定さはない。

 杏と街に行って何を見て、どう感じたのか。具体的にはわからなくてもだいたいは伝わってくる。

 

「過去の、怒りのためだけに戦うのではない。今の平和を守るために戦う。それも“共に戦う仲間と一緒に”な。それが私のこれからの戦いだ」

 

 思った通り、若葉は自分の答えを見つけたらしい。

 もう、自分一人で突出するようなことにはならないだろう。

 

「そうか……なあ若葉、友奈も聞いてくれ」

 

「どうした」

 

「何? 二喜くん」

 

 若葉が答えを出したのなら、二喜だって何かしらの結果を出して見せよう。

 そのために、二人に宣言した。

 

「近いうち、友奈が退院する前に、面白いものを見せてあげるよ」

 

「何をだ?」

 

「詳しくは内緒。でも、楽しみにしていてくれ」

 

「そっか、わかった。待ってるね」

 

「ああ。それじゃ、僕は今度こそ帰るから。二人で話したいこともあるだろうしね」

 

 詳細は伏せつつ、二喜は自分の病室に帰った。

 二人に見せると宣言した面白いもの。

 

 それは、大社職員の見込みでは、あと数か月はかかるらしいものだ。

 でも──、

 

「数か月も待たせていられない」

 

 だからあえて宣言した。

 友奈が退院するまであとどれくらいだろう。

 

 おそらく数週間と経たないうちだろう。

 

「それまでに、外へ出られるようになってやるさ、君たちと共に戦うための、僕の覚悟の見せ所だ」

 

 二喜は改めて心に誓うのだった。

 




読んでいただきありがとうございます。

次回「いい知らせ、悪い知らせ」
お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。