もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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十五話:いい知らせ、悪い知らせ

「二喜さん、ありがとうございます」

 

 友奈が意識を取り戻した日の翌日。

 二喜のところへやって来たひなたは、病室へ入るなり頭を下げた。

 

「えっと、何の話だろう……?」

 

 唐突すぎて何に対する礼なのかわからず、二喜は頭の上に疑問符を浮かべる。

 

「若葉ちゃんの相談に乗ってくれた件です。聞きましたよ、若葉ちゃんから」

 

「ああ、その件か……僕ほとんど何もしてないけどね。最終的に若葉の悩みを解決したのは杏だし」

 

「それでも、若葉ちゃんの悩みを親身になって聞いてくれたことに違いないでしょう? それに、若葉ちゃんは二喜さんと杏さんの二人のおかげだと言っていましたよ」

 

「そっか、それじゃあ、ここはどういたしましてって言っておこうかな」

 

 いまいち自分のおかげと言われても実感するのは難しいが、自分の行いで誰かが助かっているのなら、それに越したことはない。

 

「そこはもっと胸を張って言ってくれていいのに……まあ二喜さんらしいですけど」

 

 ひなたはそう言うが、こればかりは仕方ない。

 

「それより、もう友奈には会ったのか?」

 

「もちろん。また元気な姿が見られて安心しました」

 

 若葉が立ち直ったこともだが、友奈が意識を取り戻したということも、大社本部から戻って来たひなたにはさぞかし朗報だったことだろう。

 

「大社本部から戻って来てばかりなのに、いいニュースでいっぱいだな」

 

「ええ、本当に。……逆に、私が向こうから持ち帰って来た情報は悪いニュースになってしまいましたが……」

 

「悪いニュース?」

 

 不穏なワードが出てきたため、二喜はオウム返しのようにその言葉を繰り返す。

 

「大社本部に行っている間、神託があったんです」

 

「神託……」

 

 確か、巫女が神樹の声を聞くことだ。

 この先起こることが様々な方法で巫女の脳内に思い起こされるらしい。

 

「それって、僕が聞いてもいいやつ?」

 

「聞いて意味があるかと言われたら、正直ほとんど意味はないでしょうね。巫女である私含め、勇者以外の人が聞いてもできることは限られていますから」

 

 聞いてもやれることがないのなら、聞くだけ無駄。まあ確かにそうだろう。

 

「ただ、それでも聞きたいというのなら、二喜さんには教えてあげてもいいと思っています。二喜さんはもう十分こちら側の人間ですし、今回の件ではお世話になりましたから」

 

 ひなたは神託の内容を聞くか聞かないかは二喜にゆだねてくれた。

 聞いてもほぼ無意味とわかっている以上聞かないも良し。

 それでも聞きたければ聞けば良し。

 

 二喜の答えは当然決まっている。

 

「そうか、それなら教えてくれ。神託で得た悪いニュースとやらを」

 

「二喜さんならそう言うのではないかと思っていました」

 

 ひなたは一瞬だけ可笑しそうにしたが、すぐに真剣な表情になって言った。

 

「近いうちに、バーテックスによる総攻撃が来ます。バーテックスの数は前回の襲撃時と比べてもはるかに多い」

 

「なんだって……」

 

 前回の襲撃というのは、友奈が大怪我をしたこの間の襲撃のことだろう。

 あのときも確か過去最大規模の襲撃だと言っていた。

 

 それよりもさらに多い数となれば、当然危険性もはるかに増すことだろう。

 

 前回ですら、勝利はしたものの友奈が重傷を負うなど、ギリギリの結果だった。

 だとしたら、次は複数人が大怪我、あるいは誰かが死んでしまうことだって考えられる。

 

 そんなことを勇者たちが知れば、どう思うか……絶望したっておかしくないほどのバッドニュースだ。

 

「勇者たちには……」

 

「当然、もう伝えました」

 

「それで、彼女たちの反応は……?」

 

 せっかく友奈が目を覚まし、若葉が抱える問題も解決したというのに、再び嫌な空気になっていたらあんまりだ。

 

 そんな二喜の不安を、表情から読み取っていたのだろう。

 ひなたは、二喜が何を考えているかわかったうえで、安心させるようにそれを否定した。

 

「皆さん、これっぽっちも悲観的にはなっていませんでしたよ。前回より厳しい戦いであっても、絶望なんかしていませんでした」

 

「そう、か……よかった」

 

「私もそれを心配していたんですが……若葉ちゃんの精神的な成長が、他の皆さんにも良い影響をもたらしているようですね。だから、ある意味二喜さんのおかげです」

 

 冗談めかしてそんなことを言うひなたに、二喜はツッコむ。

 

「それはさすがに言い過ぎだろう。いくら何でも勇者全体に影響するようなことはしていないよ」

 

「そうですか? 少しは皆さんへの影響にもつながっていると思いますが……まあ、それはいいとして、とにかく、皆さん前を向いていました。希望となる情報もありましたからね」

 

「希望となる情報?」

 

 先ほどは悪いニュースだけみたいに言っていたが、どうやらそれだけではないらしい。

 

「神託を受けたのは先ほどの総攻撃の件ですが、それ以外に、大社本部にいる友人から、四国外の情報を聞きまして……」

 

「どんなこと?」

 

「新たに、人が生存しているかもしれない反応があったそうです」

 

「ど、どこ!?」

 

 それは確かに希望となるニュースだ。

 大社がそんな反応をどのような方法で検知しているかはわからないが、ひなたがこうして人に話すということは、でたらめな話ではなさそうだ。

 

「詳しい場所までは……ただ、北方の大地と南西の諸島とだけは聞いています」

 

 北方の大地と南西の諸島……確かにあやふやだが、ひとまず日本と考えると、北海道と沖縄あたりだろうか。

 

「諏訪の状況が芳しくない今、新たな人類の生存地帯の発見はきっと若葉ちゃんたちの支えになってくれます。だから──、」

 

「え?」

 

 ひなたの口から、不意に二喜の知っていることと違う情報がこぼれ、つい反応してしまった。

 

「あ……っ!」

 

 その反応を見たひなたは、すぐにハッと口を手で押さえる。

 

「今、諏訪の状況が芳しくないって……」

 

「今のは、その……」

 

 珍しく、ひなたが言い訳を探そうと焦っている。

 よほど言ってはまずいことだったのだろう。

 

「そういえば、いつだったか言っていたっけか、諏訪の話題を若葉の前でしないでくれって。それがその理由?」

 

「……」

 

「言いたくないなら、もう聞かないけど……」

 

 それを頼まれた日も、理由は教えてくれなかった。

 それほどまでに、ひなたにとって二喜に教えるべきではない情報なのかもしれない。

 

 しかし──、

 

「……いえ、この機会に、言っておいた方がいいのかもしれません。話題にしないよう頼んでおきながら、理由を説明しないままというのも二喜さんに失礼でしたし。ただ……」

 

「ああ、若葉の前で話題に出さないのは継続するよ」

 

「……感謝します。では、お話します」

 

 それから、ひなたは諏訪に関する真実として、いくつかのことを語ってくれた。

 

 若葉たちの初陣の勝利と同時に、大社は諏訪の生存者たちの存在を公表したが、実際にはその時点で諏訪との通信は途切れており、安否も不明になっているということ。

 

 しかし、四国内の人類の精神的な支えとするために、大社は諏訪との通信途絶の事実は報道せず、現在も諏訪は健在であるかのように公表しているということ。

 

 若葉の前で諏訪の話題を出さないように言ったのは、諏訪と直接やり取りしていたのが若葉であったため、諏訪との通信途絶に最もショックを受けているのが若葉だからだ。

 

 その理由を二喜に黙っていたのは、万に一つも外に漏らすわけにはいかない情報だったのと、諏訪が滅んでいるかのように言いふらすのは若葉に悪いと思ったからだそうだ。

 また、ひなた自身、諏訪との通信途絶の事実をまだ受け止め切れていなかったからとも言っていた。

 

「……」

 

「というわけで、滅んだと決まったわけではないものの、諏訪地域の生存は怪しいところがあります」

 

 全てを聞いて、二喜はひなたが今まで理由を言えなかったことに納得する。

 確かに、これはそうそういえることじゃない。

 いくら二喜がある程度の機密情報を聞いても問題ないようになったとはいえ、この話の機密性は今までの比ではない。

 

 しかし、それゆえに、その情報を抱え込んでいたことは素直にすごいと思った。 

 

「すいません、やっぱり教えるべきではなかったですかね……」

 

 二喜が黙っているものだから、ショックが大きいと思ったのか、ひなたが謝る。

 

「ああいや、大丈夫だよ。むしろ、よく今までそんな情報抱え込んでたね。隠しているのも辛かったんじゃない?」

 

「あまり意識したことはありませんが……そういえば、二喜さんに話して少し心が軽くなったような……?」

 

「それはよかった。ひなたは隠し事が上手そうだから、気付かないうちに負担を抱え込まないようにしないとね」

 

 ひなたともそれなりに話すようになったが、いろいろなことを知っていがゆえに、それを誤魔化すのが得意という印象を覚えていた。

 

「そういう意味じゃ、さっきひなたが口を滑らせたのは珍しいとも思ったけど」

 

 そもそも、こんな話なったのは諏訪の状況が芳しくないと、ひなたが溢してしまったからだ。

 そのおかげで二喜はいろいろ知れたとはいえ、ひなたにしては珍しいことだったのも事実。

 

「そういえば、そうですね……なんででしょう、最近の二喜さんといると、どうも気が緩んでしまう気がします……」

 

「そうなの? それはなんだか嬉しいね」

 

 少しは頼りになるような感じにみられているということだろうか。

 それはそれはとても嬉しいことだ。

 

「まあ、その話はいいでしょう。話をだいぶ戻しますが、勇者たちは諏訪の状況を知っているので、新しい生存地域の可能性が出て来てくれたことは本当によかったです。他にもまだ頑張っている人たちがいると知って、皆さん四国を潰させるわけにはいかない、自分たちが死ぬわけにはいかない、と胸に希望を抱いてくれたみたいですから」

 

「ああ、そういう話だったね」

 

「はい。総攻撃が前よりも激しく、絶望的なものであるからこそ、皆さんには一つでも多くの新しい希望と、自分たちの行いの意味を実感できる何かが必要なんです」

 

「新しい希望と、実感できる何か……か」

 

 二喜は考え込むように顎に手を当てる。

 

「二喜さん?」

 

「ひなた、総攻撃っていつ頃になりそうなんだ? 友奈の退院は間に合うの?」

 

「……具体的にはわかりませんでした。友奈さんの退院についてはおそらく間に合うと思います。ただ、絶対とは言い切れません」

 

「そうか、じゃあ友奈の退院よりも前になってしまう可能性もなくはないんだね……急がなくちゃな……」

 

「急ぐって、何を……」

 

 ひとりごとのように呟いた二喜に、ひなたは質問する。

 

「もしかしたら、見せられるかもしれないんだ。希望と、勇者たちの行いの意味が実感できる何かってやつを。必要なんだろ? じゃあ、総攻撃の前までに見せなくちゃな」

 

「ああ、そういえば、若葉ちゃんが言っていました。面白いものを見せるって二喜さんが言っていたって。それのことですか?」

 

「うん、ひなたも待っていてくれ」

 

「……わかりました。じゃあ、話も終わりましたし、私はこれで失礼いたしますね。……二喜さん、無理をしすぎないでくださいね」

 

 そう言って、ひなたは病室を出ていった。

 最後に言った言葉は、まるで二喜がやろうとしていることに察しがついているようだった。

 

「察しがいいなあ、ひなたは」

 

 残された病室で、二喜はそう呟くのだった。

 

 




読んでいただきありがとうございます!

次回「一歩」
お楽しみに。
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