もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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番外 :丸亀城の戦い

 ひなたから総攻撃が間もなく始まるという神託を聞いた若葉たち勇者は、戦いの気構えをして丸亀城の城郭へと立った。

 

 すると、周囲から音が消えた。

 外に目を向けると、風で宙を舞っていた枯れ葉が空中で静止している。

 時間が、止まったのだ。

 

 四国に敵が侵入してきたことを察知した神樹が、現実世界から遮断された結界空間「樹海」を形成する前兆だ。

 

 数秒して、景色はがらりと変わる。

 

 周囲は四国を囲む壁と同質の、巨大な蔦状の植物組織に覆われ、丸亀城のような大型建造物の一部分を残して完全に見えなくなる。

 

 若葉は後ろを振り向いた。

 先ほど神託を伝えに来たひなたの姿がない。

 巫女であるひなたを含め、勇者以外の生物は樹海内に入ってこられないようになっている。

 

 バーテックスから身を守る手段を持たない者たちが戦闘の余波を受けることがないようになっているのだ。

 

 しかし、それゆえに、侵入してきた敵は、樹海内に存在できる勇者たちだけで何とかしなくてはならない。

 

「それにしても、これが総攻撃か、なんて数だ……まさしく無数だな……」

 

 若葉は大社から支給されたスマートフォン、「勇者端末」の画面を見る。

 

 勇者端末にはマップ機能があり、そこには自分たちや敵の位置情報などが表示されるのだが、もはや敵を示すマーカーで画面が覆われてしまって敵の数が判別できない。

 少なくとも、千や二千ではすまない数であることは確かだ。

 

 遠目にバーテックスたちが来るのを肉眼で確認できるが、空を埋め尽くしている。

 

「そうだ、みんなでアレをやろうよ! 肩を組んで、行くぞーってやるやつ」

 

 バーテックスのあまりの大量さに勇者たちが圧倒されかかっていたとき、友奈がそんな事を言い出した。

 

「円陣のことか? いいかもしれないな」

 

 団結力と士気を高めるためにはちょうどいいと、勇者たちは皆で肩を組む。

 掛け声はリーダーである若葉が行った。

 

「四国以外でも人類が生き残っている可能性──希望が見つかった。希望がある限り、我々が負けるわけにはいかない」

 

 それに──、と若葉は続ける。

 

「もう一つ、私たちに大きな希望を見せてくれた奴もいる。ほんの数ヶ月前まで心を砕かれ眠っていた奴が、ああして立ち上がり、私たちのためにと未来を歩もうとしている」

 

 勇者たちが思い浮かべたのは、一人の少年だ。

 橋渡二喜──天空恐怖症候群のステージ4から回復し、人間は何度でも立ち上がれるのだと、その身を持って示したあの少年は、勇者たちが必ず勝利すると信じて待っている。

 

「ならば友として、その思いに応えてやらねばあるまい。そのために……この戦い、絶対に勝って四国を守り抜くぞ! ファイト──」

 

「「「「「オオーッ!!」」」」」

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 かくして、戦いの火蓋は切られた。

 

 総攻撃に際して杏の立てた作戦は、陣形を使ったものだ。

 

 今までは勇者がそれぞれ敵を見つけ次第各々で撃破していたが、今回はもっと効率よく敵と対峙しなくてはならない。

 そのため、バーテックスのやってくる丸亀城の正面に一人、そして囲まれることのないよう、東と西にも一人ずつ勇者を配置し、遠距離攻撃に秀でた杏は後方支援に専念する。

 残りの一人は交代要員として休憩しておく。

 

「よし……今のところ上手くいってる」

 

 前方の三人の勇者が討ち漏らした敵を自分の持つ連射可能な弩で撃ち抜きながら、杏は呟く。

 この作戦がバーテックスとの戦いにおいて上手く機能するかは、前例がない以上不明だった。

 しかし、今のところは成功している。

 

「タマっち先輩、地面スレスレから敵の一群が来てる、注意して! 友奈さん、少し突出ぎみです、もうちょっと下がったところで戦わないと囲まれてしまいます!」

 

 後方に下がったことで、杏は戦況を俯瞰的に見られるようになり、状況に応じた指示が出せるようになった。

 これがこの作戦の、今までとはもっとも異なる点だ。

 

 しかし、逆に言えば杏が指揮官としての役割を適切にこなせなかった場合、この作戦の有意性はかなり落ちることになる。

 

 自分の指揮がこの戦いの行方を左右する……そんなプレッシャーの中でも、杏は怖気づいたりしなかった。

 

(二喜さんは、私が悩んでいることに気付いて相談に乗ってくれた……自分だって天恐(トラウマ)と向き合っている最中で、大変なはずなのに……)

 

 そして、二喜が相談に乗ってくれたからこそ、杏はこの作戦に辿り着いた。

 

(単純な戦闘では一番弱い私だけど……二喜さんのアドバイス通り、他のことで役立つんだ! 私の作戦と指揮で、勝利につなげてみせるっ、絶対に!)

 

 プレッシャーに負けない強い決心で、杏は見事、この戦場を支配してみせた。

 

 

 

 正面は若葉、東側は友奈、西側は球子、そして後方では杏がそれぞれ獅子奮迅の活躍を見せている中、千景は一人、もどかしさを感じていた。

 

 千景は最初の配置分担で、交代要員として杏のいる後方での待機となっていた。

 

(私は、一匹でも多く敵を殺さなきゃいけないのに……っ)

 

 同級生も、教師も、親からも、千景は故郷のあらゆる人間から「価値のない人間」として扱われてきた。

 しかし、勇者としてバーテックスを倒すようになると、皆が千景の価値を認めだした。

 

 バーテックスを倒せるからこそ、自分には価値がある──いつしか、そのような価値観が千景の中に生まれていた。

 

(こんなところで、じっとしていなきゃいけないなんて……っ)

 

 他の勇者たちの活躍を見ていると、焦りが千景の心を覆う。

 

 自分は本当に待機しているべきなのか。

 このまま何もせずに戦いが終わってしまうんじゃないか。

 ならば今すぐにでも前に出て戦闘に参加すべきなのではないか。

 

 自分の武器である大鎌を握る力が強くなる。

 

 そんな千景の焦りが伝わったのか、指揮を執る杏から声がかかる。

 

「千景さん、今はどうか力を温存していてください。焦らずとも、千景さんの力はすぐに必要になります」

 

「必要……」

 

 その言葉で、少しだけ落ち着いた。

 それと同時に、つい最近、別の人物から言われた言葉が頭をよぎった。

 

『信頼しているよ、千景』

 

「……」

 

 橋渡二喜。ほんの数か月前に知り合ったばかりの人物で、千景の母と同じく天恐患者。

 しかし、母とは違い自分の過去と正面から向き合って、克服しようという姿勢を崩さない。

 

 そして、千景がたまに会いに行くと、何故だかどこか嬉しそうにする、変わった男子だ。

 

(あの乃木さんでさえ、皆と足並みを揃えている……私が勝手なことをすれば、以前の彼女と同じね……それに、そんなことをすれば、橋渡君の信頼を裏切ることになる気がする……)

 

 自分でも理由はわからないが、あの男子の……橋渡二喜の信頼を裏切るのは妙に嫌だった。

 

「大丈夫よ伊予島さん。焦ってはいないわ……意気込んでただけ……」

 

 その返事を聞いて、杏も前方への支援へと意識を向け直す。

 

 千景も、自分の力が必要になるその時まで、戦況の把握に努めた。

 

 

 

 バーテックスは丸亀城の正面からやってきているため、必然的に若葉が担当する正面の配置が最も多くの敵と戦う場所だ。

 

「くっ、一瞬反応が遅れたか……」

 

 敵の一体が仕掛けてきた突撃攻撃をすんでのところで躱す若葉。

 当たったわけではないが、本来ならもっと余裕をもって躱せる攻撃のはずだっだ。

 

 若葉の動きが、ほんの僅かだけ鈍ってきていることの証左だ。

 

「だが、このくらいならまだまだ戦える」

 

「若葉さん! 交代です! 撤退してください!」

 

 若葉が戦闘を続行しようとしたそのとき、杏から交代の指示が下された。

 

「何っ、もうか!? 私はまだ──」

 

 自分が最初に交代するとは思っていなかったため、つい反射的に残って戦おうとしてしまった若葉であったが、二喜の言葉が思い出され、口を閉じる。

 

『なんでも一人でやろうとするな』

 

(ああ、そうだったな……)

 

「わかった、一度退く」

 

 若葉がそう返事をしたそのとき、後方から颯爽と千景が現れ、バーテックスを切り刻んだ。

 

「もし交代を渋るようだったら、ひっぱたいてでも下がらせるところだったわ……」

 

「出るときは出る、下がるときは下がる……だろ? ここは任せたぞ、千景」

 

「ゆっくり休んでいなさい……」

 

 若葉は千景とぎこちなくハイタッチして、そのまま杏のいる後方へと引き下がって行った。

 

 

 

「よし、若葉さんはとりあえずOK、次に注意しなきゃいけないのは友奈さんかな……」

 

 友奈の戦う東側の様子を見て呟く杏。

 

 東側の敵の数は正面より少ないものの、そもそも友奈の武器はリーチの短い手甲。

 自分の攻撃が届く距離が、そのまま敵からの攻撃が自分に届いてしまう距離でもあるため、集団戦は向いていない。

 

 どうすべきか杏が思案しているところに、球子の声が響く。

 

「あんずー! こっちはいいから、友奈の援護に集中してくれー!」

 

「タマっち先輩……わかった! 任せるよ!」

 

 球子の方も決して楽な状況ではないはず。

 しかし、杏は球子の言葉を信じて、後方支援を一時的に友奈へ集中させた。

 

 一方、友奈は複数の敵に対して拳を撃ち放っていた。

 

「やあっ! たあ! てりゃあああ!」

 

 自分めがけてその大きな口を開きながら突進を繰り出してくるバーテックスたちに対して、友奈は回避と攻撃を同時に行う。

 

 友奈の拳はバーテックスたちを貫き、そのまま消滅させる。

 すると、周囲にいた他のバーテックスが数体、矢に撃ち抜かれて一緒に崩れ去っていった。

 

「アンちゃん! ありがとー!」

 

 後ろを振り向かなくてもわかる。杏が支援してくれたのだ。

 正直、かなり戦いやすい。

 

 戦闘スタイルが集団戦向きでない友奈だからこそ、杏の立てたこの作戦の効果がより実感できる。

 

 というより、この皆で支え合う空気そのものが、友奈にとってはありがたかった。

 皆の絆が、以前より明らかに強くなっているのを感じる。

 

「もしかして、二喜くんのおかげだったりするのかな」

 

 友奈が病院で意識を取り戻し、自分が数日に渡って眠っていたことを知ったとき、最初に心配したのが、他の勇者たちの現状だ。

 自分の怪我が原因で勇者たちが喧嘩でもしていたら、と思うと不安だった。

 

 そして、聞いた話では、実際に友奈が心配していたことは起こっていたらしい。

 しかし、それを必死に止めてくれたのが、二喜だったのだとか。

 

「私がいないときに、二喜くんが頑張ってくれた……なら、二喜くんがいない今、私はその分頑張る!」

 

 杏の援護で敵の動きが乱れた瞬間、友奈は相性的不利を感じさせない猛攻でバーテックスを次々になぎ倒していく──。

 

 

 

 戦場の西側では、球子が自らの武器──旋刃盤で敵を倒しながらも、苦笑いを浮かべていた。

 

「こっちはいいから、友奈の援護を……か、ちょっと強がり言ったかもな……」

 

 友奈よりは自分のほうが集団戦に向いているのは事実なので、判断そのものは正しいはず。

 当然後悔もしていない。

 しかし、バーテックスの量自体は西も東も大差ないので、ハッキリ言って余裕はなかった。

 

「こりゃあ、タマも二喜に感化されてるのかもしれないな……」

 

 球子は二喜に会って最初のほうは、どこか二喜を弱いと感じていたような気がする。

 

 嫌いではなかった。むしろ友人として好感が持てる奴だった。

 だけど、やはり天恐のこともあって、少なくとも心は自分たちよりも弱いのだろう……そう思っていた。

 

 けれど、見当違いもいいところだった。まさか、あんな根性を見せてくるとは思わなかった、それも、自分たち勇者にメッセージを伝えるためだけに。

 

「あんなにカッコつけられちゃよぉ、こっちだってカッコつけたくなっちゃうのも仕方ないよなあ!」

 

 球子はその小さな体で旋刃盤を振り回し、周囲の敵を一気に蹴散らしていく。

 

 

 

 こうして、勇者たちは幾度も交代を繰り返し、ほとんど無傷で三時間ほど戦い続けた。

 

 そして、ついに戦況が大きく動きだす。

 

「ッ! 気を付けてください、敵が集まり始めました」

 

「進化体か!」

 

 バーテックスは複数体が集まって、姿も特性も全く違う一つの個体へと合体することがある。

 こうした個体は進化体と呼ばれ、今までは十体以上のバーテックスが合体するのが常だった。

 

 しかし、今まさに合体しているバーテックスは百体を超えている。

 そして、その姿が現れる。

 

「でかい……形は蛇に似ているが……」

 

 蛇型バーテックスはまず若葉に襲いかかって来た。

 

「来るか──だが、甘い!」

 

 いつもより集合元の数が多いとはいえ、進化体の相手自体は散々してきた。

 若葉はその攻撃を難なく躱してみせ、返す刀で胴体を真っ二つに切ってやった。

 

 しかし、

 

「若葉さん、まだ!」

 

「──ッ」

 

 杏の声で、若葉は反射的に飛び退き、回避行動をとる。

 すると、先ほどまで若葉がいたところに()()()蛇型が挟み撃ちで攻撃していた。

 杏の声が無かったら、手傷を負っていたことだろう。

 

「切断したところから分裂して増えた……!? 私の刀では相性が悪いか……っ」

 

 若葉に切られた蛇型は、その切り口から通常バーテックスを吸収し、それぞれが元の大きさに戻りつつある。

 もっと細かく切り刻んでやれば再生できなくなるやもしれないが、もしその分だけ増えてしまったら厄介だ。

 

「しかしどうする……?」

 

 斬撃が効かないとなると鞘での打撃くらいしか若葉にできることはないが、その程度の攻撃ではおそらくダメージを与えられない。

 

 若葉が攻めあぐねていたその時、後方で休憩していた球子が大声で言い放った。

 

「──来い、輪入道!」

 

「なっ、切り札!?」

 

 驚いて球子を見る若葉。球子の姿──身に着けた勇者服がわずかに変化している。そしてそれ以上に、武器である旋刃盤はもはや別物というほどに巨大化し、周囲に炎を纏わせている。

 

 切り札──勇者が意識を集中させ、神樹の中から精霊という概念的な力を引き出して戦う状態のこと。

 自分と相性のいい精霊の力しか引き出せないものの、その力は絶大だ。

 

「しかし、使った後は反動でまともに動けなくなるぞ、今使って大丈夫か!?」

 

「でも間違いなく、ここが切り時だ! 行けぇ!」

 

 球子はその自分の身長をはるかに超えた巨大な円盤を、思いっきり投げつけた。

 

 炎を纏いし円盤は、自由自在に空を舞い、蛇型バーテックスを二体まとめて焼き尽くした。

 全身を、一度にだ。

 

「す、すごいな……あれを倒すなんて……」

 

 あまりの攻撃力に、若葉も圧倒される。

 

「……いや、どうやらこれからがヤバそうだぞ」

 

「え……?」

 

 今、強敵を倒したばかりの球子が、額に汗を滲ませながら指を差す。

 その方向を目で追った先には、この戦場の全てのバーテックスが、一か所に集合して、巨大な塊を形成しようとしている姿があった。

 

「くそ……あの蛇型でさえ過去最大だったんだぞ……あれより、はるかに大きい……」

 

「おーい、みんなー!」

 

「どうするの、アレ……ッ」

 

 友奈と千景もやって来て、勇者全員が集う。

 

 若葉は敵を観察し、あることに気が付いた。

 

「……あの巨大な進化体、奴は急ごしらえで身体を作っているせいか、脆い部分がいくつかあるみたいだ。そこを一気に叩けば……」

 

「脆い部分……あっ本当だ!」

 

「確かに、何か所かあるわね……」

 

「じゃあ、みんなでその各箇所を一斉に攻撃しましょう!」

 

「よし、そうと決まれば急いで近づくぞ! みんな、タマの旋刃盤に乗れ!」

 

 輪入道の力で巨大化し、空中を自在に飛び回る今の旋刃盤になら、人が複数人乗れる。

 これなら、巨大進化体が完成する前に接近できる。

 

「よし乗ったな、行くぞおおおお!」

 

 球子が咆え、勇者たちの乗った旋刃盤はみるみるうちに巨大進化体の形成現場に近づいていく。

 しかし、その途中である問題に気づいた。

 

「集まっているバーテックスが多すぎるわ!」

 

「これじゃあ攻撃が届く場所まで接近できないよ!」

 

 そう、形成が途中であるからこそ、その周囲には超大量のバーテックスが跋扈している。

 こんな状況で攻撃可能な距離まで近づいたら、逆に囲まれて殺されてしまう。

 

「……みんな、奴への一斉攻撃の方は任せたぞ」

 

 そんな中、若葉一人武器を構え、集中する。

 

「なるほど、その方法がありましたね……! では周りの通常個体はお願いします! 皆さんは大型への攻撃の準備を!」

 

 杏が、若葉のやろうとしていることに気が付き、皆に準備を促す。

 他の者たちはまだすべてを理解していなかったが、仲間を信じ、素直に杏に従った。

 

「道は私が抉じ開ける! 来い──義経!」

 

 若葉は叫び、球子と同じく精霊の力を自らに降ろす。

 降ろした精霊は源義経。

 実在する歴史上の人物から名をとった精霊だ。

 

 その人物の逸話となっている力をその身に宿し、凄まじい機動力を得た若葉は、旋刃盤を飛び出し、邪魔なバーテックスどもを目にもとまらぬスピードで次々に屠り去って行く。

 

「ナイス若葉! 今ならいける!」

 

「総員、攻撃開始!」

 

 若葉の攻撃で邪魔だったバーテックスは消え去り、球子は旋刃盤を敵に最大限まで近づけた。

 そして、杏の号令で全員旋刃盤から飛び降りた。

 

「いっけええええええええええ!」

 

「そこっ撃ち抜きます!」

 

「切り刻む!」

 

「勇者ぁぁぁパアアァァァンチィ!」

 

 球子はそのまま旋刃盤を突っ込ませ、他の三人もそれぞれ巨大進化体の綻びがある部分に渾身の攻撃を次々叩き込む。

 

 脆い部分を抉られた巨大進化体は、身体をみるみる崩れさせながら、悲鳴のような音を出し、やがて消滅していった。

 

(やった、ぞ……)

 

 周囲の通常個体をすべて倒しきり、反動のせいで動けなくなった若葉は、空中から落下する。

 

 それでも、確かにその目で見た。

 仲間たちがあの巨大バーテックスを打倒する様子を。

 

(ああ、なんて頼もしい仲間たちなんだ……今までずっとそばにいたのに、私はどうしてそれに気付かなかった)

 

『若葉はさ、視点とか視線が遠すぎるんだと思うよ。もっと身近な人を見てみなよ、勇者の仲間とかさ』

 

「ふっ、まさに二喜の言う通りだったな……」

 

 友の言葉を思い出し、苦笑する。

 しかし遂に力尽き、若葉は落下しながらその意識を閉じた。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 若葉が目を覚ますと、すでに樹海化は解けており、若葉は丸亀城の敷地内の、桜の木の下で目を覚ました。

 

 寝ている間、子どもの頃の夢を見た。

 若葉が今までバーテックスと戦う唯一の理由にしてきた、奴らに殺されたかつてのクラスメイト達の夢。

 

 彼女らの無念を晴らすためという復讐心で戦ってきた若葉だったが、夢の中で、彼女たちは若葉をその楔から解き放ってくれた。

 

「あっ、若葉ちゃん! 皆さん! いました、ここです!」

 

「おっ、そこか!」

 

「よかった、若葉さんも無事だったんですね!」

 

「若葉ちゃーん!」

 

「まったく、心配かけさせるわね……っ」

 

「ひなた……みんなも……そうか、みんなも無事だったんだな、良かった……」

 

 仲間たちの姿を見て、安堵する。

 

「何を言ってるんですか、若葉ちゃんが一番ボロボロじゃないですか!」

 

「大丈夫だ、疲れて動けなくなっているだけ……大きな怪我はないはずだ」

 

「とにかく、みんな無事でよかったね!」

 

「まあ、また何日かは検査入院だろうけどなー」

 

「大社にも報告しなきゃですしね」

 

「報告は、病院に行ってからでいいんじゃない……? どうせ向こうから聞きに来るでしょう……」

 

 病院、という言葉で若葉はあることに思い至る。

 

「病院に行くなら……二喜にも報告をしないとな」

 

「はい、そうしてあげましょう若葉ちゃん、二喜さんはきっと今頃すごく心配しているはずですから」

 

「そうだね! 早く行ってあげよう!」

 

「まあ……どうせ病院にいくんだから……ついでに行ってあげてもいいけど……」

 

「よし! どうせならみんなで一斉に行ってやろう! 喜ぶぞーあいつ」

 

「喜びすぎて二喜さん泣いちゃいそう……」

 

 大きな戦いを制した勇者たちは、疲れ果てていた。しかし、それでも皆、笑顔だった。

 

 やがて大社の車がやって来て、勇者たちはそれに乗って病院へ向かう。

 

 精密検査の前に、彼女たちはある場所へと向かわせてくれと願い出た。

 彼女たちにとって、かけがえのない友人の待つ、その場所へ。

 

 彼の担当職員にそのことを話したら、割とノリノリで協力してくれたのは、また別のお話。




読んでいただきありがとうございます!

感想や評価もお待ちしております。

それではまた次回をお楽しみに!
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