もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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十九話:勇者の巫女

 陽が落ちる時間も少し長くなってきたなと感じ、カレンダーに目をやったらもう三月だった。

 

 勇者たちの怪我もすっかり良くなり、彼女たちは順調に退院。

 二喜は病院に取り残されることにほんの少しだけ寂しさを感じながらも、彼女たちの回復を喜んだ。

 

 ただ、そうなるとまた、勇者たちはすぐに戦いへと向かわなくてはならないのかと心配だったが、どうやらしばらくはお休みらしい。

 

 ひなたをはじめとした巫女たちの神託により、しばらくはバーテックスからの侵攻がないということがわかったからだ。

 

 以前の総攻撃でバーテックスも相当戦力を消耗させたのが理由だろう、というのが大社の見解だった。

 

 どうあれ、彼女たちが戦闘をしなくていいというのは嬉しい話だ。

 

 さて、そんな状況のある日、二喜の病室には巫女のひなたと、初めて見る客人がやってきていた。

 

「はじめまして、私、安芸(あき)真鈴(ますず)。普段は大社本部のほうで巫女をやっているわ」

 

「はじめまして、橋渡二喜です。巫女の安芸様ですね、よろしくお願いします」

 

「あはは、そんなにかしこまんなくていいよ。同い年だしね」

 

「そう? じゃあ普通にさせてもらうね」

 

 遡ること昨日、二喜は大社職員から、ひなた以外の巫女と会うことになってもいいかと質問された。

 

 詳しく聞いてみると、ひなたが二喜に紹介したい友人がいると言ってきているそうだ。

 そして、その友人というのが巫女であるとか。

 

 そういう事なら、と二喜は了承した。

 もとより断る理由もないし、ひなたが紹介したいと言っているのを無碍(むげ)にはしたくない。

 それに、ひなた以外の巫女とも話してみたかったから、ちょうどよかった。

 

「あれ、安芸真鈴さん……? その名前どこかで……」

 

 自己紹介された名前に、どこか聞き覚えがあった。

 

「もしかして、球子と杏の知り合いだったりする?」

 

「そうだけど、もしかして私のこと聞いてたり……?」

 

「うん、球子が以前話していたんだ」

 

「へえ、球子が……じゃあ知っているかもしれないけど、私は天災当時、球子と杏ちゃんと行動を共にした巫女なの」

 

 やはりそうだったか。

 球子が天災当時の話をしていたときに確か名前が出ていた。

 

 つまり彼女こそが、球子と杏という二人の勇者を見出した巫女というわけだ。

 

「やっぱりそうだったんだ。それで、今日はひなたが真鈴さんを紹介したいって話だったと思うけど……」

 

 ちら、視線を向けると、ひなたはにこりと笑って話し出した。

 

「はい、といっても、安芸さんの方から二喜さんに会いたいと言って来たんですけどね」

 

「そうなの?」

 

 ひなたの言葉が意外で、思わず真鈴に驚きの表情を向ける。

 

「実はそうなんだ、私から頼み込んで上里ちゃんに紹介してもらったの」

 

「それは、なんでまた……」

 

 わざわざ面識のない巫女のほうから二喜に会いに来る理由がわからず、困惑する。

 

「実はね、今日は君に感謝を伝えたくて会いに来たんだ」

 

「感謝……?」

 

 二喜はよりわけがわからなくなった。

 当然、初対面の真鈴に何かをしてあげたことなどない。

 何に対する感謝なのだろうか。

 

「話すと少し長くなるんだけど……説明するね。私、弟がいるんだけど……実は、天恐なの」

 

「っ! そう、なんだ……」

 

 天恐、まあ確かに、今の四国において、身内に天恐がいるというのは珍しくないのかもしれない。

 

「私が大社の巫女になったのも、そうすれば弟の治療が優先されるって聞いたからなんだ」

 

 天恐は、その患者の多さのせいで病院で専門的な治療を受けられる人が限られている。

 特に、ステージ2以下の比較的軽度な症状だと、入院を断られるケースがほとんどだ。

 彼女は自分が巫女として従事することで、弟が確実に治療できる環境を確保したということだろう。

 

「だけど、巫女になったことで弟の傍にいてあげることができなくなって、本当にこれでよかったのかなって悩むこともあった」

 

 何事もすべてうまくいくということはない。

 

「でも、天恐の治療に勇者や巫女の存在が有効であることがわかって、私もまた弟に会えるようになった。しかも、そのおかげか、弟の症状が少し良くなってきてるの」

 

「それはよかったね、本当に」

 

「うん、これは君がステージ4から目覚めて、天恐の治療法の研究に協力してくれたおかげ。ありがとう……っ!」

 

 真鈴は、少し涙ぐみながら、頭を下げて二喜に礼を言った。

 二喜は反射的に自分のおかげではなく、勇者やひなたの協力のおかげだと言いそうになったが、やめた。

 

 そういうことを言うと、目の前のこの少女を逆に困らせることになりそうだから。

 この感謝は、素直に受け取っておくべきだと感じた。

 

「……誰かのためになっているのなら、何よりだよ。真鈴さんと、弟さんがまた一緒に暮らせる日が来ることを、及ばずながら祈っているね」

 

「ありがとう、本当に、本当に……っ!」

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 あれから、少し話した後にひなたと真鈴は他の用事があるとかで去って行った。

 

 まさか、天恐の治療のことで誰かから感謝される日が来るとは思っていなかった。

 自分はただ、憧れの勇者や巫女たちと会う機会を貰い、友人になれたうえに、大社から天恐の治療のための手厚い待遇を受けている身だ。

 二喜も自分なりに努力したが、それは、こんなに良い扱いを受けさせてもらっている以上、自分も頑張らなければ、という一種の義務感があったからでもある。

 

 しかし、その努力が他の人の役に立っているのなら、これほど嬉しいことはない。

 今まではまるで実感がなかったが、面と向かって礼を言われると、やはり胸に来るものがあった。

 

「橋渡君、いる? 入るわよ」

 

 二喜が感慨にふけっていると、扉の向こうから千景の声がした。

 もうそんな時間か。

 

「いいよ、入って」

 

 以前千景が貸してくれたゲームをクリアし終わったので、千景に返却する約束をしていたのだ。

 本来ならこちらから出向いて千景に渡すのが筋なのだが、千景が来てくれるというのでお言葉に甘えさせてもらった。

 

「お邪魔するわね……」

 

「お邪魔しまーす!」

 

「あれ、友奈も一緒だったんだ」

 

 病室に入ってきたのは、千景だけでなく、友奈もだった。

 

「うん、この後ぐんちゃんとお出かけするから、ついでに一緒に来ちゃった」

 

「お、なんだよデートか?」

 

「ちょ、橋渡君、からかわないで。デートだなんて高嶋さんに迷惑を……」

 

「うん、デートだよー」

 

「ええ!? いいの!? 高嶋さん」

 

「えー、何がー?」

 

「いや、だって、私なんかと……いや、なんでもないわ……それで、橋渡君……」

 

 友奈のデートだよ発言に少々赤面していた千景だったが、ここに来た目的を思い出したのか二喜のほうを見る。

 

「ま、からかうのはこれくらいにしておくか……」

 

「あなたね……っ やっぱりからかっていたのね……」

 

「はい、これ借りてたゲーム、返すよ」

 

「もう、調子いいんだから……それで、このゲームは楽しめた?」

 

 ゲームの入った紙袋を受け取った千景は、二喜にそう質問した。

 

「うん、入院生活は何もすることがない時間が多かったからね。正直かなり助かったよ。内容も面白かったし、貸してもらえてよかった。ありがとうね、千景」

 

 はじめは千景との会話の種にとゲームの話題を出しただけだったのだが、その流れで貸してもらったこのゲームは、いまや立派に二喜の入院生活を支えてくれたものの一部だ。

 

「そう、ならよかったわ……まあ、いつか他のも貸してあげるから」

 

「ありがとう。千景の選ぶゲームは面白いから、楽しみだよ」

 

「あっ、二喜くんいいなー」

 

「高嶋さんにも、言ってくれればいつでも貸してあげるわ」

 

「そうなの? ぐんちゃん優しいね」

 

「そんなこと……」

 

 友奈に優しいと言われ照れる千景。

 あまり千景のこういう顔を見る機会はないので新鮮だ。

 

「それで、ゲームは返してもらったけど……他に何かある?」

 

 何か用事があれば、ちょうど病室に来ている今聞くけど、と千景が言うので、何もなかったよな……と頭を巡らせる二喜。

 

「あ、そういえば……用事とはちょっと違うんだけど、二人にも巫女っているんだっけ?」

 

「巫女さん?」

 

「どういう意味……?」

 

 二喜の唐突な質問が要領を得なかったのか、聞き返す二人。

 

「ああ、ごめん。さっきさ、安芸真鈴って子が来て話をしたんだ」

 

「安芸……どこかで聞いたことがあるわね」

 

「あ、もしかしてタマちゃんとアンちゃんのお友達?」

 

 その名前を聞いて、ピンときたらしい友奈が、二喜に聞く。

 

「そう、天災当時、球子と杏と一緒に行動していた巫女さん。それで、ふと思ったんだ、若葉に対するひなた、球子と杏に対する真鈴さんみたいな感じの人が、友奈と千景にもいるんだっけ、って」

 

「ああ、そういう事……」

 

 どうやら、さきほどの二喜の質問の意味が伝わったらしい。

 千景は少し考えるような仕草をしていたが、友奈はすぐに答えた。

 

「そういうことなら、私はいるよ。横……じゃなかった、烏丸(からすま)久美子(くみこ)さんっていって、カッコいい年上のお姉さんだよ」

 

 友奈の巫女は年上なのか。高校生くらいだろうか?

 天災当時に行動を共にしたということは、奈良県から四国までの長い距離をバーテックスから逃げながら来たということ。まさに共に死線を潜り抜けた戦友と言ったところだろうか。

 

 それにしても、すぐに答えた割にはどこか言い淀んでいたのが少し気になった。

 

「私は……そういう人はいないわ……そもそも、私のところには当時バーテックスの襲来はなかったから」

 

 そう話すのは千景だ。

 7・30天災の直接的な被害を受けていなければ、確かに一緒に行動を共にする巫女もいないか。

 

「ああ、でも……私が大社に勇者として呼ばれたとき、私が勇者であると見出した巫女がいるとは言っていたわね……」

 

「へえ、千景はその人のこと知らないの?」

 

「いや、そういえば一度、会ったことがあるわ……確か、7・30天災の日……そのときはまだ巫女だなんて知らなかったし、一度会って話しただけだけど……名前は、はなもとよしか、さんだったかしら……」

 

 昔を思い出すように、頭をひねる千景。

 

「はなもとよしか……」

 

「ええ、そういえば、ちょっと読みにくい漢字を使っているからか、私が名前を言い当てた時は凄い驚いていたわね……」

 

「どんな漢字なの?」

 

「名字のほうは普通に植物の花に読む(ほん)花本(はなもと)、そして下の名前が美しいに、にんべんと上下に土土で美佳(よしか)だったと思うわ」

 

「へえ……花本美佳、か……確かに、僕も知らなかったら名前のほうは『みか』って呼んじゃいそうだ」

 

 千景が言い当てて驚くということは、今まで自分の名前の読み方を一度でわかってもらった経験がなかったのだろうか。

 

「それにしてもぐんちゃん、凄いね! そんな難しい読み方を一度で当てるなんて」

 

「僕も思った、よくわかったね、それで『よしか』って読むなんて」

 

「それは……私自身、名前を間違えられること多かったから……いろいろな読み方のパターンを調べてたことがあったから……」

 

 ああなるほど、と二喜は納得した。

 すると横では、友奈が頭をかいていた。

 

「そういえば、ごめんねぐんちゃん。最初に名前間違えて……」

 

「いいの、前も言ったけど、高嶋さんになら、そう呼ばれるのも嬉しいから」

 

「本当? ありがとぐんちゃん!」

 

 やはり、友奈が千景のことを『ぐんちゃん』と呼ぶのは『(こおり)』を『ぐん』と読み間違えたことが由来だったか。

 

 まあ、千景自身、嫌ではなさそう……というよりあだ名みたいで嬉しそうだから結果オーライというわけか。

 

「とまあ、私が知っていることはそれだけよ、橋渡君。あなたの知りたいことが答えられていなかったのなら、ごめんなさい」

 

「いやいや、そんなことないよ。むしろ、僕の個人的な興味に付き合ってくれてありがとう。友奈も、教えてくれてありがとうね」

 

「また気になったことがあったら何でも聞いてくれていいからね、二喜くん」

 

「ありがと、それじゃあ二人とも、引き止めちゃってすまないね。これから出かけるんだろ? 楽しんできなよ」

 

「もういいの? じゃあ、そうさせてもらうわね」

 

「じゃーね、二喜くん」

 

 二人を見送ったあと、二喜は巫女について考える。

 

 二喜は今まで、ひなた以外の巫女など知らなかったが、考えてみれば巫女は勇者より多いのだ。

 今日話に出た巫女はあくまで勇者と関わりのあるごくわずかな巫女。

 実際にはもっとたくさんの巫女たちが、神託を受け取ってくれているおかげで、大社はどうにかバーテックス侵攻の中で四国を維持できている。

 

 二喜は改めて勇者、そして巫女たちの頑張りに感謝し、自分ももっと頑張ろうと決めたのだった。




読んでいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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