ミヤコのある、ヤマシラン国。
その北西に隣接する、タンバ国。
ここに領地を持つ、ジョアン殿という貴人がいる。
元の名前は、ナイト・ヒタノカミ・タタトシ殿。
ジョアンを霊名に選ぶ信徒は特に多いので、ジョアン・ナイト殿とお呼びすることにしよう。
タカツキ城の、ダリオ殿からの紹介で求道を始め、洗礼を認められた。
認めたのは私だ。
ジョアン・ナイト殿は2000人近い兵を引き連れてミヤコ入りした。
賦役が終われば希望者を置いていくので、洗礼を授けてほしいという。
大口契約はありがたいのだが、教会の収容力を超える。
タンバまで、こちらから誰か派遣します、と答えておいた。
15代目クボウが、あちこちから兵を掻き集めている。
おかげでカミキョウの王宮周辺はとんでもないことになっていて、道はまた穴だらけ。
雑兵同士の小競り合いで治安も悪く、すでに戦争状態である。市民の我慢も限界突破。
ジョアン・ナイト殿は、教会の祭具など貴重品をタンバの領地へ避難させることを提案してくれた。さっそく、移してもらっている。
ミヤコでの戦闘は避けられなさそうな雲行きになってきたから、一日でも早い方がいい。
距離的にはサンガより近いのもありがたい。
サンガにも、いまニエッキとロレンソが行っていて、同じように分散保全しているのだけれども。
ナイト殿からは、タカツキ城で起きたばかりの政変を伝えられた。
ワタ殿の戦死後、その息子アイギク殿がタカツキ城へ逃げ延び、城主となってここを守った。
まだ若い彼を補佐するのが、それまでタカツキ城主だった、ダリオ殿である。
街道の反対側に位置するアークタンガワ城は敵に奪われており、臨戦態勢が続いていたが
いつのまにやらタカツキ城は
政治的に、敵の手へ陥ちていた。
ワタ殿を殺したアラキ・シナノカミが実権を握り、アイギク殿とダリオ殿を仲違いさせるという工作を仕掛けていたらしい。
つい数日前。とうとう城内で、刃が抜かれた。
そこに至るまでの詳細は、不明。
アイギク殿は重態で、現在は家臣によってミヤコへ運びこまれている。
ダリオ殿も深手を負い、これを機に息子のジュスト殿へ地位と財産を継がせる方向に進んでいるとのこと。
憎むべきは、アラキである。
この男については、どこまでも悪い噂しか聞かない。
ソウダイともつるんでいると言われる。
15代目と一緒に滅ぼされてしまえばいいのに。そう願ってやまない。
ジョアン・ナイト殿の母君は先月亡くなられたが、邪宗徒のままだったので、ゼン宗の方式で葬儀を行ったそうだ。
デウスのやり方に基づいて、葬儀をやり直すことはできないだろうかと請われた。
残念だが、不可能だ。
つらいことだが、今からでは、母君のアニマを救済することはできない。
それでは、クボウに人質として預けている、ナイト殿の息子はどうか。
万が一、殺されても、パライゾへ行けるよう今のうちに手を打っておくことはできるか。
まだ生きているならば、不可能ではない。
教えを学び、デウスへの忠誠を誓い、邪宗の誘惑をすべて拒絶したことが証明できれば、洗礼を受ける機会がなくとも赦しが認められ、パライゾへと辿りつけるだろう。
だが本当は、戦争など永遠に終わってしまい、家族のもとへ戻ってきてからしっかり学んで霊名を授かり、しあわせな一生を全うするのが良いことは、論ずるまでも無いのである。
その希望は、あきらめてはならない。
カヅサ軍の動きは、オーミの端までで止まっている。
不気味な静けさだ。
ミヤコに陣する軍勢は、徐々に増えてきている。
早いとこ終わらせてほしいし、できるなら、ナイト殿の兵が来る前に、片付けていただきたかった。
このままでは、また、街のいたるところが死体だらけになってしまう。
悪い奴だけが退治されてしまえばいいのに。
そう願ってやまない。