戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1573/006.hmos

私の名は、ルイス・フロイス。

 

日本へ来て、10年を過ぎた。

マルチルとなる覚悟は、いつでもできている。

だが、まだ、生きている。

デウスに呼ばれれば、いつでも御許へ馳せる。

だが、まだ、その時ではないようだ。

生きてやる。その時までは、がむしゃらに。

 

 

カヅサ殿とクボウの勝負が、ついに決した。

ミヤコ中が戦慄する中、カヅサ殿はヒエノヤマからミヤコへと入ってきた。

昇天祭の前日だった。

祭具も無い、がらんとした教会で、私はミサを捧げる。

信徒たちが堅い表情で集まってくる。

自然と、厳粛で長時間のミサになる。

 

様子を見てきた者が、入れ替わり立ち替わり、情報をくれた。

カヅサ軍は、カミキョウの端から、テラに火を放った。

きわめて計画的に。冷徹に。順序よく。

クボウが無条件降伏するまで続けると、号令しながら。

 

刃向かう者など、いなかった。

むしろ王宮周辺から、クボウに集められた兵の姿はどんどん減っていく。

坊主どもは家財を運び出すのに無我夢中。

市民は固唾を飲んで見守り、あちこちから群れ集まってくる火事場泥棒をけしかけたり、戦利品をその場で換金してやったりなどして賑わっていたようだ。

だがクボウは、謝らなかった。

紅蓮の炎は、着々と王宮へ向けて、進んでいった。

 

王宮を包囲し、クボウの身柄を力尽くで押さえることは容易い。

なぜ一直線にそうしないのだろうと考えた。

クボウを自暴自棄にさせてはならない。

死体になって出てこられると、たとえ自殺であれ他殺であれ、カヅサ殿が攻めてきて殺したことになってしまう。それでは後々厄介だ。

クボウが自らの意思で降参したという体裁を演出することが必要なのだ。

攻撃はテラに絞っているし、坊主たちの怒りも、あきらめの悪いクボウに対して向けられる。

よく練られた作戦だと感心する。

クボウと側近どもは、どこまで気付いているだろうか。などと無意味なことまで考えた。

 

 

教会の外から、怪しい連中の囁く声が聞こえてきた。

 

「天竺人は、一人だけか?

まだいるか?見張っておけ。

逃げたら、追え。殺すな。

信濃様は、生け捕りを望んでおられる」

 

気味の悪い浮浪者が、何人も。入れ替わり、立ち替わり。

現実問題、それが難民・逃亡兵・求道者・盗賊のいずれであるかを、見た目で判断することは不可能である。

信徒たちが交代で見張りに立ち、時々は連中と言葉も交わす。

シナノというのが、かれらの頭領らしい。

大悪党アラキ・シナノカミが、この混乱に乗じて私を拉致しようとしている?

私は、避難することにした。

信徒たちが、全力で守ってくれた。

 

ミヤコの南外れまでやって来る。

ここにも浮浪者が大勢、徘徊している。

兵か盗賊かわからない、腕っ節の太い男たちが一軒一軒、怪しい者はいないかと、念入りに調べて回っている。

食糧や、家鶏、金目の物など遠慮無く奪っていくという。

私は、姿をさらさないようにして、信徒たちの家や納屋を転々とした。

 

雨が降ると、体が冷えた。

ある夜は、麦畑の中で虫にまみれて寝た。

携帯した生のコメ粒で飢えをしのいだ。

アラキ兵の暴力に屈した信徒が、私を突き出す可能性も考えた。

やむをえないと覚悟しておいた。

それでも無抵抗を貫こうと思った。

 

信徒は、せいいっぱいやってくれた。今まで、ありがとう。

そうはいっても足音が近づくたびに身構える。

早く楽になりたいという誘惑とも戦った。

兵だけでなく、坊主たちも怖かった。見つかれば終わりだ。

鉄炮の音を、すぐ間近で何度か聞いた。犬にも吠えられた。

水濠を潜って渡った。体が悪臭を放ち、浮浪者同然だった。

事実、浮浪者だった。

 

カミキョウの焼き討ちは、4日目で終了した。

クボウは、降参した。

武装解除され、カヅサ殿の前に出頭した。

死罪は間違いないものと誰もが考えていたが、カヅサ殿は、彼を赦した。

ただし、クボウを辞めて坊主に戻れと命じ、生まれたばかりの息子を人質として差し出させた。

掻き集められた兵はほとんどいなくなっていたが、正式に解散させられ、王宮に住まわされていた諸国の子息たちも、親のもとへ戻された。

 

守備兵を残し、すぐカヅサ殿はミヤコを発った。

その日のうちに、南オーミのロカク氏が、クボウへ協力したことを理由に、完全に解体された。

見せしめである。一族、ひとり残らず皆殺し。

今度こそ、本当に、退場か。

ロカクは誰よりもカヅサ軍の恐ろしさを味わってきた領主だし、たまたま通り道に住んでいただけとも言えるし、今回だって、好んでクボウに就いたわけでもなかったろうに。今まで、がむしゃらに生きていたんだろうに。

ただ運が悪いだけの人生だったともいえるかもしれないが、おつかれさま。

 

私はなんとか生き延びた。

そろそろ大丈夫そうです、と信徒に手を引かれて、お日様を仰いだ。

まばゆかった。あたたかかった。

教会へ戻ると、ペンテコステだった。

10日間?そんなことはないだろう。今年は、1574年じゃないかね。

もちろん冗談だが、私の記憶では40日くらい逃げ回っていたはずだ。寿命は数年分、縮んだ。

 

ジョアン・ナイト殿の家臣が、すぐに連絡をくれた。

ナイト殿はずっと私の身を案じ、ほうぼうを探してくれてたそうだ。

私を見つけ出そうと躍起になっていた兵の一部は、味方だったということかな。

そんなの、わかるわけがないよ。

 

教会は、信徒が守ってくれていたが、特に被害はなく。

怪しい奴らの姿も、それきり見なくなった。

何が起きていたのか、もはや、わからない。わからないけど、わからないからこそ、今後とも、気をつけよう。

 

ここは、日本だ。

一寸先には、インヘルノが口を開けている。

 

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