堕ちるときは、あっという間。
冬の午後は、一瞬で、夜のとばりを下ろすもの。
今年の初めには、シンゲンがミヤコへ向かってくるぞって、身構えていたのだよ。
遠い遠い、昔のことに感じるな。
だから来年の今頃には
日本は統一され、全土に教会が設置されてるなんて可能性も
あながち、夢ではないかもだ。
日記を読み返すと、驚くばかり。
未来にまさかこんなことが起きていようとは。
当時の自分は想像すらしていない。そのことを、思い知らされる。
十字架発見の日ころ、エチゼン王が死んだ。
聖ヴァーツラフ記念日ころには、北オーミの王も死んだ。
カヅサ殿の妹君は無事に救出され、いまは郷里でお子さんたちと、おだやかな陽だまりに包まれて過ごしている。
エチゼン国はカヅサ殿の領地となった。
北にそびえるカンガ国から領民を防衛するのは、これからはカヅサ軍の仕事だ。
イコ宗は、カンガ国の東隣エチュウ国も支配していた。
その先にエチゴという領国がある。
ここの王ウエスギ殿が、カヅサ殿と連携してエチュウ国を制圧した。
悪魔のふきだまりカンガ国は、今や、袋の中のドブネズミ。
どこかを食い破って出てくるかもしれないから油断はならないが、すでに、大きな脅威ではなくなったのだ。
15代目クボウサマ。
ああ、元、でしたね。
あいつはウヂェで土下座をしてみせたあと、カワチ国ワカエ城へ護送された。
そこの城主は大ミヨシドノの息子で、元クボウとは義兄弟なんだとか。
傷を舐めあうには、丁度いいお友達じゃないですか。
おとなしく陽だまりでお茶飲んでりゃ、よかったのにね。
カミ島の、西方面に、モウリという大名がいる。
アキという国を中心に、幾つもの領国を支配している、大物。
シモの諸領国とはしょっちゅう、戦争をしていた。
これまでキナイの抗争にはまったく絡んでいなかったが、だからこそなのか。
元クボウは、この人物を頼り始める。
「兵を出して、織田信長と戦ってくれ。
勝ったら、京の支配権を君にあげよう」
こんな条件を、提案したみたいだ。
モウリ殿は「困った人だなあ」と生返事をしたらしい。オトナだね。
「しかしまあ、あなたが京へ戻れるようには、取りはからってあげましょう」
そう言って、会見の場を設けてくれた。
ほんと、オトナの対応だね。
元クボウ、中立都市サカイにて、カヅサ殿の家臣と対面。
春のミヤコ騒乱で、元クボウの生まれたばかりの長男は、カヅサ殿に人質として取られた。すぐ返してもらえたけど。
夏にワカエへ追放されたとき、再び、この赤ちゃんは人質にされた。
カヅサ殿の城で、すくすくと大切に守られている。
「この子を、返してほしい」という親心は、まあ、わかるんだが。
その前におまえが今までしてきたことを考えてみろ。だよね。
「本気で反省しているかどうか、もう少し様子を見てからだ」
こう返事された元クボウは、カッとなって、つい言い返す。
「じゃあ、信長の息子を一人、人質に預けろ。
いっぱいいるんだから、ひとりくらい、いいじゃないか」
その場にカヅサ殿がいなくて、よかったね。
いや、むしろ、いた方が、そこで問題は消滅していたのか。
モウリ殿から派遣されていた立会人も、これにはドン引き。
カヅサ殿の使者に、平謝りしたらしい。
ほんと、その場にカヅサ殿が来てなくてよかった。無慈悲な戦争が勃発していたかもしれない。
カヅサ殿はその報告を聞いて、元クボウを問い詰めるべく、ワカエ城にサクマ殿を差し向けた。
ワカエ城に迫る軍勢を見ただけで絶体絶命を覚悟した城主のミヨシ殿は、ただちに切腹。
その後、部下が開城。
ばかばっかりなんですか。誤解も甚だしい。
元クボウは、逃げ出した。
なぜおまえが死なん。
日本中がそう思ってるよね。
私も、びっくりしているよ。
なんでこんな男が、日本の王なんて、していられたのだろう。
なんで私はこんな奴に、大事な機械時計なんて、差し出しちゃってたのだろう。
それはさておき。
私はいま、イセイ国へ来ている。
カヅサ殿に呼ばれて、船に乗って、やって来た。
極秘任務なので、カブラルへの報告には書かないよ。
東西1レグワ、南北2レグワほどの湾内に、無数の小島が浮かんでいる。
合計すると数万人の漁民が住んでいる。
一人のこらず、イコ宗徒。
悪魔だらけというわけだ。
4年前。オーザカの早鐘に呼応し、ここの漁民も暴れだした。
血に飢えた大群が対岸のコキエ城へ殺到。カヅサ殿の弟を殺した。
その後もひっきりなしの上陸・掠奪・人さらいが横行。
すっかり、手のつけられない無法海域となっている。
秩序回復のため、軍事制圧することまでは決定事項。
私は作戦の顧問として意見を求められ、ここにいる。
厄介なのは、敵の指揮系統が崩壊していること。
群島の中心にはガンショジという中枢のテラが存在するが、ここを潰しても問題は解決しない。
もとから住職は傀儡だった。司令塔はあくまでもオーザカ。
そのオーザカが停戦を命じているのに、効果がない。
制御を失った漁民は、突発的に群がり、一気に攻撃してくる。その行動は予測不可能だ。
領主のいる国の軍隊と戦うのとは、まったく異なる考え方が求められるのである。
とりあえず、大船主義は捨てましょう。むしろ、小舟がたくさん必要です。
否。
海水を産湯とし、言葉よりも波音を聞いて育ち、海の気まぐれさに揉まれ抜いている漁民たちに、操船術でかなうわけがありません。
かれらの海で戦うことは、自殺行為に他ならない。
かつ、かれらは最後の一人まで戦う気でいる狂信者。
いったい、どうすればいいのか。
来年への、宿題です。