布教長は、いつまでキナイにいる気かな。
4年前って、ここまで息苦しかっただろうか。
ニエッキには、格別つらい日々だと思う。
当時私は、よくやっていると評価されている手応えがあったのだ。
前回はたしか、復活祭が終わったら帰っていったのだよなあ。
今年は、4年分の成長も監査の対象に含まれている。
まあ、そうだろう。
そして、カブラルは細かい。
私が前回言っていたことを私より覚えている。気を許すと、噛みつかれる。
組織にとっては優秀な管理職だと思いますよ。しかし、いやあ、きつい。
カブラルを連れて、私は、各地を巡回する。
ジョアン・ナイト殿のヤキ城では、70人近い家臣に洗礼を授けた。
次から次へと信徒が求道者を連れてくる有様で、次へ行けない。
この調子だと3000人という目標は余裕で達成するのだが、次の年にどれだけ引き上げられるかを考えると、おそろしくてたまらない。
信徒を増やしただけ、四旬節にコンヒサンをせねばならぬ人数も増えるのだ。今から憂鬱になる。
タカツキ城では、ダリオ殿の息子、ジュスト殿が城主となっている。
アラキの策略でワタ殿の息子が殺された。あの不幸な事件から、ちょうど1年が過ぎていた。
ジュスト殿は、きわめて聡明にして、曲がったことを憎む、強い倫理観をお持ちである。
悪人に対しての容赦の無さは少々厳しすぎるほどで、城下の人々の生活にもその法は浸透している。
カブラルは彼に、きわめて高い評価を与えた。
「幼少期からデウスの教えに忠実であったことが、今の自分をつくりあげてきた。これを、あまねく全ての人々にも学ばせたい。
エウロパからはるばる福音を授けにこられたパードレたちの来訪を、この上なく歓迎する。
可能な限り滞在され、一人でも多くの市民に救済を与えてほしい」
真剣すぎる瞳で私たちを貫きながら、ジュスト殿は語りかける。
これでは、この町から非信徒が一人もいなくなるまで帰れなくなりそうだと、私は気が気でなかった。
カブラルは、この町に専任の担当を置くべきだ、ロレンソはどうか、と私に問うた。
いいと思います。
ジュスト殿はこの提案を非常に喜んだ。
たちまち、城下に教会を新築する話が持ち上がる。
これまで日本では、すでにある物件を教会に転用する、という以外の選択肢が無かった。
唯一の例外は、私が来日したアジュダの丘にそびえていた教会が新築だったことだが、あれは日本様式の建築だったし、その年のうちに焼失した。
カブラルは、この機会を逃すような上長ではなかった。
日本初の、完全にエウロパ様式の教会を、タカツキに建設するべきです、と主張した。
ジュスト殿も、息を呑んだ。
日本人にとっては未知の要素ばかりである。
畳も使わない。説教者は立ち、聴衆は椅子に座る。
椅子すら、日本には存在しないのだ。
カブラルは設計図を引けるのか?その構造を、日本人に説明できるのか?
壮大すぎる難問に私は頭を抱えたが、布教長と城主の間では、堅い決意の絆が結ばれた。
妥協しないものがつくられるだろう。
私もそれを見たいと思うし、日本建築にエウロパの技術が導入されることを大歓迎する。
それにしても……夢のような、話だ。
カブラルと私は、図を描いて、日本人の職人に、エウロパの教会を説明した。
実際に取り組んでみると、ステンドグラスの窓などはつくれないし、基礎となる主柱はどこに配置されていたのだろうか等、難題が次々と出てきた。
やはり、エウロパの建築士を連れてこないと、ダメなようだ。
それでも、大まかな全体像や、室内空間の構成は、伝えた。
あとはこれを、日本人が、強度や重心などを計算した上で、図面にする。
ここで新しいことを知った。
日本では、地震が多い。
私は以前から、日本の建築には防火対策の概念が無いのかとしばしば言っていたものだが、なぜ木と紙だけでつくるのかといえば、まず地震対策ゆえにだとの回答だった。
石造りでは、揺れの力でヒビが入るのだ。
木なら柔軟に受け流せる。
その発想はなかった。
同じ理屈で我々の図も、そのまま見た通りにつくったのでは地震ですぐに倒れるだろうという。
柱の組み方や風通しなども、日本流に考慮を加える必要があるので、時間をもらいたいとのことだ。
脱帽した。
最後に、アラキの城を訪ねた話もしよう。
彼はジュスト殿の上長にあたる立場だ。
デウスの教えに耳を傾けさせることは叶わないだろうけれども、挨拶はしておかねば。
紹介状を書いてもらって、訪問した。
対応は丁寧だった。
事務的に、滞りなく。見事なものであった。
アラキの家臣もまた、一人たりと我々に関心を持たなかった。
無知な者に特有の、ただ尊大な態度ではない。
事前にある程度、我々のことを研究し、このように対応すべきと取り決めたところに迎えられた印象を持つ。
この点はカブラルも同意見。
アラキは放置しておいて構わないが警戒は緩めるな、という方針が定められた。
主君を殺してのし上がってきたアラキが今、ここまでの権力を与えられていることには恐怖を感じる。
カヅサ殿、くれぐれもご注意を。
彼をこれ以上、図に乗らせてはなりませんぞ。