戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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カヅサ殿は、イセイ湾殲滅戦に全兵力を投入する準備をしていた。

 

敵は無数の小島をねぐらとする、いわばフナムシの群れである。

これを、這い出る隙間もなく包囲して、焼き尽くす。

だが、どんな暗がりにも素早く隠れるフナムシを一匹残らず焼き尽くすことは容易でない。

我々は静かに退却する。フナムシがまた姿を現すようなら、その一帯を再度焼き払う。

根気を要する作業なのだが、黙々と続けていかなくてはならない。

そんなことをしているうちに背後から襲いかかってくる獣も大勢いる。

油断はならない。

この作戦は、きわめて高難度なのである。

 

デウスよ。私をいじめるのは構いません。

どうぞ、気の済むまで、踏みにじって、唾まみれにしてやってください。

そのかわり、カヅサ殿の妨害だけはやめてください。

将来に禍根を遺さぬために。

こんなところでいつまでも時間をとられていられないのです。

まだまだ、しなければならないことが、この先にはあるのです。

日本へ永遠平和をもたらすためなのです。

どうか御慈悲をおかけください。

 

にもかかわらず。

大きな小競り合いだけでも、2戦線。

まずオーザカが挙兵した。

カワチ国に潜むミヨシの一部が呼応する。いくつかの拠点を奪われてしまった。

カヅサ殿は兵を出すが、いつもの勢いがない。

出し渋っている、という表現がふさわしいか。

イセイ湾で準備している部隊からは、削れないのだ。

跳ねっ返りどもは、カヅサ軍の力が衰えてきたと喧伝し、各地の村々に潜む信者どもを勢いづかせる。

 

カヅサ殿が本気を出したらどうなるか。もう忘れたのかね君たち。

せめてその程度の記憶力を持ち計算ができる敵だったと認めればこそ、自治権くらいは返してやっていたというのに。

イセイが片付いたら、オーザカも根絶やしにせねばならぬのだろうか。

それはいったい、いつになることなのやら。

 

2つ目の小競り合いは、東方。

また、シンゲンの息子だ。

ミノ国への侵入はあれ以降、にらみ合いから進まなかった。

カイ軍も、山から出て行けば狙い撃ちにされるとわかっているらしい。少しは知恵があるのかな。

主力は南へ向けられた。

前回、かれらはトトミ国からミカワ国の東半分まで侵攻して引き返したが、今年またそれを繰り返している。

一時は壊滅したミカワ王、ただちにカヅサ殿へ援軍を要請する。

 

カヅサ殿、ここでも出し渋る。

同盟関係に亀裂が入ったことを、シンゲンの息子も、オーザカも、その他小勢どもも、見逃さない。

今だやっちまえ、と鼻息を荒くする。

カヅサ殿は挑発に乗らない。だが私のもとに、一通の書状が届いた。

「君の力が欲しい」と。

カヅサ殿直筆の、切々たる想いが、力強く、したためられている。

私はカブラルに、行かせてくださいと懇願した。

 

決して武器をとるなかれ。

人を殺めることなかれ。

獣の道に陥るならむ。

君死にたまふことなかれ。

それだけ言われた。約束して、私は駆けつけた。

 

 

イセイ湾攻略の最終調整が行われていた。

オーザカ方面は現地守備隊に一任。

アラキは、その主翼である。

「あいつは手柄を欲しがっているから、さぞやいい働きを見せるだろう」

カヅサ殿はあんな男に全幅の信頼を寄せている。

私は、逆らわなかった。なぜなら。

蛇の道は、邪な蛇にこそ、ふさわしいから。

たしかにあいつになら、オーザカの相手は任せておけるだろう。

破廉恥な悪魔には、冷徹なる野獣を。

潰しあわせればよいのだ。

 

ミヤコの守りは、アケチ殿が任されている。

ウヂェの少し手前で街道をせきとめているそうだ。

こちらこそ、頼りになること鉄壁である。

万が一イコ宗が押し寄せても、迎撃以上のことはしない。

今おまえたちにかかずり合っている暇はないのだ。

 

ミカワ国へは援軍を一応派遣したが、消耗を避け、しばらく戦線を見て回らせたあとで、帰還させた。

ミカワ王は激しく落胆したそうだが、こう言ってきかせる。

 

「昨年の大敗北で、ミカワ軍の士気はこれ以上ないほど地を這った。

自分たちに国を守る力は無いのだと、失望感が蔓延している。

今またカイの脅威が迫ってきて、君たちはヲアリの兵を頼りにしているが、ちょっとまて。

同盟軍の力で、敵を撃退したとする。

そのあとで何が残る。

君たちは、今よりもっと無気力になってしまわないか。次はどうする。

かれらは、また、やってくる。

そのとき、君たちは誰をうらむ。

人に頼りきることでしか生きてこれなかった自分たちの歴史を恥じることになりはしないか。

それでいいのか?

考えてみよう。なぜ前回、あれほどの大敗を喫したか。

敵の罠に嵌まったからだ。

自国の地なのに、その土俵の上で、まんまと、策に落ちた。

愚かである。恥ずべきことである。

その土地の隅々まで知っているのなら、敵を誘い込み、一撃を喰らわせよ。

君たちにはまだ、その力があると見る。

君たち自身で敵を葬れ。

そこから、自信は生まれるのだ。

この国では、自分たちに勝てる者などありはしないと、胸を張れるようになるだろう。

私たちは、いったん退く。

力が借りたければ、もう一度言ってくれ。

しかし私たちがいなくても、君たちは勝てるよ。

そう判断したから、私たちは退く。

御免」

 

よし。損失無く戻ってきたな。それではイセイ湾の掃討にとりかかろう。

 

ヲアリ国とシマ国から掻き集めた漁民たちの舟600艘に、イセイ湾を封鎖させている。

円周5レグワ規模の大包囲網を形成。

対岸には、隙間なく鉄炮隊を配置。

敵を誘い出し、上陸してくるように仕向ける。

降伏は認めない。

かれらは悪魔に精神を喰いつぶされた狂信者であり、その涙は相手をかどわかすためにしか流れないのだ。

 

殲滅あるのみ。

叶う限り、すみやかに。

 

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