毎日、ひっきりなしに、相談者が訪れます。
兵士のみならず。漁民に、地元の賦役人に。
遺体の処理や、飯の煮炊きに従事している、邪宗徒たち。
私は鼻の大きなエウロパ人。ミヤコ訛りの日本語を話す。
珍しい体験だと思います。
しかし却ってそれが、大虐殺という非日常の連続を説明するひとつの象徴として、意外な効果を発揮しているみたいです。
泣きじゃくる老若男女へ、私は優しく語りかけます。
あなたたちを救うために、私はここへ来たのだよと。
魚影は濃く、それを狙う鳥たちも群れ集まってくる。嘴や翼は、着水すると朱く染まる。
殲滅対象区域の住民は、打ち上げられた魚しか食べるものがないはずだから、食べていると思う。
周辺海域で、カヅサ軍への協力を求められている善良な漁民は、もう魚を食べる気になれないと、涙を流す。
カヅサ殿は、そんなかれらに、山の幸を届けて回る。
いつまでも続けられる態勢ではありません。早く終わらせて、人々の記憶から、この光景を、消し去らねば。
あとには、退けないのです。
だからせめて必要以上に引き延ばさせては、なりませんよね。
ミカワがどこまで耐えられるかも気がかりです。
早く、早く終わらせねば。
私たちは、全力で取り組んでいます。
第1段階では、血気逸って舟で仕掛けてくる悪魔どもを、逃げ回って岸へ引きつけ、鉄炮隊で退治する。これが、基本戦術でした。
やがて、敵も、攻めて出ることをしなくなります。
たちまち、食うものに困ります。
夜、掠奪隊が繰り出されるようになります。
監視船は、松明で合図を送りあいながら、逃げます。
海上での戦闘は、原則禁止です。とにかく逃げろ。
陸に上がらせてから、仕留めるのだ。
この戦術も、やがて、敵の知るところとなります。
敵は殺気立つし、我々には隙が生まれます。
待ってても現れない日々が続くと、どうしても気が抜けます。
逆に、窮鼠の襲撃は、より残忍になります。
味方の間に厭戦気分が強まっていきます。
周辺の漁民だって、疑問を感じて、悩み始めます。
それを受け止めるのが、私の仕事です。
念のため言っておきますが、ここでは洗礼は、しません。
受洗を希望する人は多いのですが、理由その1として、時間的余裕がありません。
この戦いが終わったら、ヲアリ国にはコンスタンチノという老人が住んでいるから、訪ねてみるといい。そんな風に説き伏せます。
理由その2。
信徒にしてしまうと、私はコンヒサンを聴く義務を負います。
次から次へと人が並んでいる状態で、ちゃんとコンヒサンすることは、不可能です。
求道中の者へ説教をしているだけだから、即席の流れ作業でも何とかやっていられるんです。だから、なんの実績にもなっていないと批判される御意見もあろうかと思います。
けれども、私は全力でたたかっているのです。
ちゃんと考えての行動です。
ご理解を、いただきたい。
その3。
兵士に対し、殺すのを躊躇させるような言葉を、今この場でかけるべきではありません。
私は、悩みを棄て去らせることのみに論点を集約し、かれらを現場へ返します。
敵どもを人間と思うな。
動物ですらない。悪魔だ。
1人殺せば1点もらえる。そんな、ギッチョウのような遊戯だと思いなさい。
でも、真剣にやらないとだめだよ。
かれらは、背中から襲いかかってくることもあるし。
海に飛びこまれる前に致命傷を与えておかないと、あとでとんでもないお返しをくらうからね。
さあ、今日は何点かせげるかな。
そんな前向きな希望に転換させるのです。
信徒になってからだったら、もっと穏便な言葉を使うつもりですよ。
以上の理由により、私は朝から夜中まで猛烈に働いておりますけれども、敢えて、つとめて、信徒を増やさないようにしているのです。認めてもらいたいな。
島内の全漁民が無条件降伏すると宣言する拠点も出てきました。
この場合、特殊部隊が乗りこんで、島民を一堂に集めたのち、家々をすべて焼きます。
伏兵が隠れていないことを確認する必要ももちろんですが、イコ宗徒が縋っていた偶像を破壊し尽くすのが狙いです。
島民が心から邪宗と訣別しているかどうか。
迷いが表情に顕れた者はその場で殺します。
この作業が終わったのち、島民を舟に詰め込ませ、かれら自身で漕がせて、まだ抵抗を続けている島へ送りこみます。
干乾しを更に加速させるためです。
中には、心からの棄教者もいるでしょう。
かれらは元イコ宗徒を憎み、また、現イコ宗徒からも憎まれているはずですから、淘汰もますます加速します。
私たちは、急いでいるのです。
もうこんな戦争こりごりだ。早く平和が来てほしい。
だから、効率を徹底的に追求します。
甘えはゆるされません。ゆるしません。
最後の島が、陥ちました。
悪魔どもは、本来の姿を現しました。
骨が浮き上がり、髪も抜け、這いつくばりながら念仏を唱える、巨大なフナムシ。
ガンショジは、焼かれました。その炎の中へ飛びこんでいく群れも大勢いたようです。
残った800匹ほども、舟で対岸へ運ばれ、そこで、とどめをさされました。
1匹のこらず……と言いたいところですが、何体かは味方を盾にし、武器を奪って兵を殺害し、山へ逃げのびました。
どこにそんな力が。
いったい、何を食べて、この日に備えていたのだろう。
やはり、悪魔ですね。
おそろしい、おそろしい。
私は、教会へ帰ってきました。
カブラルは、シモへ帰ったあとでした。ほっ。
出てから3箇月も経ってないだと?信じられない感覚だ。
しばらく、休息をいただくぞ。
ニエッキ。信徒獲得業務は、ひきつづき、君に任せる。