私がキナイを離れていた間の、よしなしごと。
カブラルは、ジョアン・デ・トルレスとしか話したがらない。
次がイルマン・コスモ。および、イルマン・ロレンソ。
その次にやっと、パードレ・ニエッキが登場する。
しかし、ニエッキは来日時よりもポルトガル語を忘れている。
今ではすっかり、日本語が中心だ。
寝言まで日本語なので、ほんと大したものだと呆れる。
これでは、カブラルと意思疎通がはかれない。
むしろ、はかりたくないから、わかっても、わからないふりをする。
カブラルはますます彼を罵るが、その言葉も伝わらない。
ここでシモから書翰が届いた。
定航船、無事入港。
今年来たパードレが、これまたイタリヤ人だという。
カブラルは、みっちり教育してやらねばと言いながら帰っていった。
みんな、おつかれさま。
ヂシピリナで疲労を回復してくれ。
高利貸しのレアンが来て、カブラルと対面していた。
猛暑の日だった。300クルザード相当の銀を台車に載せてきて、コンヒサンを請うた。
ロレンソが、やさしく諭した。
カブラルに、とても優秀な信徒ですと紹介した。
レアンは、感激のあまり泣きじゃくったという。
カブラル「この銀は、教会を建て直すために、有益に使わせてもらう」
レアン「もっと必要ではないですか?」
カブラル「もちろん足りないが、君が心配することではない。君は、デウスの導きのままに、正しい人生を歩むこと。それ以外のことを考えるべきではないのだよ」
カブラルも瞬時に理解して、レアンをうまく手懐けたわけか。
さすがだなあ。
具体的な目標を与え、余計なことは視野に入れさせない。これこそが、人をやる気にさせ、まっすぐ前へ進んでいかせる最大の秘訣だ。
私もイセイ湾で、それを学んできましたよ。
次はもっともっと、効率よく指導していこう。
レアンの寄付は、今後も重要な収益源だ。教会改築にどれだけの費用が必要か見積もっておき、あと幾らだよと毎回奮い立たせてやるのも面白いぞ。
予測できていた問題もあった。
人手不足もあって、たまにカブラルも出てきて手伝う。
洗礼の秘蹟は最高に盛り上がる。
堂内の空気が張り詰め、誰もが跪き、厳かな感動に満たされる。
終わると必ず、こんな声が起こる。
「私は、ヴィレラ様より洗礼を受けましたが、紙に墨で書かれた十字架を前に、塩水をピッピってかけられて、瞬く間に終わってしまいました。布教長様に、やり直ししてもらえませんか?」
堅礼式という形で二度目の洗礼を授けることができなくはないが、次から次へと希望者が殺到することは目に見えているし、そもそもカブラルは出来ることなら日本人の相手などしたくないのだ。
ちゃんと言いくるめろ、と命令され
「あなたにはすでに充分量のヴィルトゥスが蓄えられてますよ。これをゼロからやり直すことは、お薦めしません」
みたいに説明するのは日本人イルマンたちの仕事だ。
カブラルは信徒の前に出ることを、ますます嫌悪するようになる。
ミヤコでは肉を食えないのも苦痛の種だったらしい。
私の戻りが遅すぎると、日に日に怒りっぽくなっていたそうだ。
これでまた評価を下げられてしまうのかな。
せつないな。
肉といえば前回、ミヤコのカワラモノをナンガサキへ移住させられないかという宿題を与えられていた。
私は回りくどい方法ながら、カワラモノたちの耳に入るような形で噂を流す、地道な努力を重ねていた。
「西へ向かえ。君たちを待っている人がいる」と。
これの効果か定かではないが、最近ナンガサキでは、ミヤコから来た集団が養豚業を始めたらしい。
まだ高価だが、肉料理を提供する店も誕生したという。
よし。その店の名も、噂に織り交ぜよう。
情報は具体化すると、より強くなるからね。
競争させると価格も下がっていくだろうから、これこそ誰もが得をする、いい仕事だ。
競争といえば、イセイ湾の掃討がひとまず成功したことで、カヅサ軍には余裕ができた。
オーザカの戦いがまだ終わってないので、そこへ援軍を差し向けた。
はびこるフナムシを根絶するコツを学んだ兵たちだ。
アラキたちとは、格が違うよ。
カヅサ殿は毎日、オーザカの戦局を気にかけていた。
進捗を毎日のように報告させ、また、イセイ湾での試行錯誤も細かく報告をつくらせ送信させた。
私はその一部しか知り得る立場になかったが、多角経営のあり方というべきものを、実地に学んだ。
貴重な経験をしたと思う。
離れているからこそ、熱い視線を送り続けてやる。
手紙がきたら熟読し、真剣な返事を送ってやる。
とことん具体的な質問や、指摘を重ねる。
質問が的を射ていることはとても重要だ。
それは信頼を、何倍にも高める。
現場で顔を見ながらであれば、上意下達でもいいと思う。
しかし遠隔地に対しては、何よりも信頼の維持に心を砕かねばならない。
所詮、言葉でしか伝え合えないのだ。
疑うことも容易だし、苦しいこと、辛いことほど、言いにくいものだ。
だからこそ、心のこもった必要以上のいたわりを、示し続けなくてはならない。
その大切さを、カヅサ殿は知っていた。
さすが天下人である。
日本統一など、ほんの小手調べ。
ゆくゆくは海を渡って、ラウマの教皇に謁見する。それだけの実力を有している人物である。
私も、お伴をしたい。
その日のために、今できることを、すべてやってやる。