任地を好きに選べるならば、ギフがいいな。
カヅサ殿のお膝元で町の人々と共に暮らし、人材育成と産業発展を応援し、見守りつづける。
これに勝るものはない。
しかしそんな自由など、望むべくもない。
増えすぎた。増やしすぎた。今も増殖中。
ミヤコと、周辺地域の、信徒たちをだ。
年に一回、かれらのコンヒサンを聴くだけでも重労働。予約がいつまでも減らない。
日本人は正確さを好む割に、デタラメだ。
時間も距離も、日照時間を基準にするから、毎日ずれる。予定が狂うのだ。
それでいてかれらは、きっちりとその流動的な時刻を守ろうとする。
私たちの方が、約束を守ってない、と責められる。
何を言っているのか判りませんよね。
要するに、忙しいのです。
もう何日も寝つけてない。誰かたすけて。つらすぎる。
私たちは分担を再編制した。
ニエッキとコスモには、ミヤコ教会を守ってもらう。
私とロレンソが、周辺諸国の信徒たちを訪ねて回る。
ひとまず今年の復活祭までは、これでやってみる。
その後はまた、組み合わせを替えるかもしれない。
ロレンソはもう高齢なのだが、だからこそ、できる限り自分の足で外を歩きたいという。
それに、これまで割と、ニエッキと組んでサンガへ行くことが多かった。
私と対話する機会も減っていたので、じゃあ交代してみよう、という流れで決まった。
一方でコスモくんは坊主からの果たし状に返礼したりなどの事務仕事が得意。盲目のロレンソにこれはできない。
そんなわけで、適材適所かもしれないな。
巡業生活というものは、悪くない。
ささやかながらも旅は旅。毎日が新鮮であるよ。
初対面の人と話す機会が増えた。
私は相手に応じて、カヅサ殿の味方になったり、敵になったりする。
中間的な人はあまりいない。誰しもがカヅサ殿に一家言持ち、社会全体に大きな影響を持つ巨大な存在として捉えている。
だから私は、つとめて慎重に構える。
失うものが無い人ほど、カヅサ殿の強さを絶賛する。とにかく既得権益をぶっつぶしてくれと期待する。
自分もアシガルになってカヅサ軍に入り一旗上げたい、と野心を抱く若者も多い。
そのためにはまず体力をつけておこうね。と私は教える。
相手を倒す腕力より、いざとなったら逃げ切れるだけの足腰を鍛えておくんだ。
カヅサ軍は意外と、退却戦が多いんだよ。
だから何度でも戦える。それが強さの秘訣なんだね。
カヅサ殿を嫌う人は千差万別であるが、比較的裕福な者や、気位の高い者ほど、その傾向が強いように感じる。
かれらの多くは、カヅサ殿の対極にいる存在として、ミヤコを逐われた元クボウに異様なほどの同情を寄せる。
いっぺん実物に会ってみればいい。百年の恋も醒めるから。
私はカヅサ殿を嫌う人とも、にこやかに対話をする。あなたの期待する通りの未来が訪れるといいですね、とやわらかく諭しておく。
実際、あなただって幸せになれる未来は、必ず来ますよ。
他ならぬ、カヅサ殿の力でね。
イコ宗に限らず、坊主とその予備軍になると、これはもうカヅサ殿が大嫌いで。
彼には必ず仏罰が下ると、罵り、叫ぶ。
話す余地もない。大変わかりやすくてよいことだ。
かれらは民衆に説く。オタ・ノブナンガを止めなくてはならぬ。このままでは仏法が滅び、デウスが日本を支配してしまうぞと。
お見事。その通り。事実です。だからね、早めに降参しちゃいなさい。
あなた、ノブナンガに勝てますか?
仏罰とやらに、どれほどの力があるものですか?
せいぜい願ってなさい。気の済むまで念仏を唱えなさい。
自称、坊主の頂点だったシンゲン。彼の死を世間の大多数はまだ知らない。
だから坊主どもは今も、シンゲン様こそがノブナンガに鉄槌を喰らわすだろうと期待している。
なんと愚かな。せつないことよ。
泡のような望みにすがって。耳も目も塞ぎながら吠え続けるだけで。
坊主はいつもそうだから、身の丈に合ったところにしかいられないわけですよ。
サクマ殿の部隊がオーザカへ派遣された。
殲滅戦なら面制圧。イセイ湾で培った戦術ですぐにも結着つけてくれるかと思っていたが、ずいぶん苦戦しているようだ。
カヅサ軍の疲弊と消耗は烈しく、回復に時間がかかっているため、更なる増援も難しい。
私は、悩める兵たちを精神面で支える任務を何箇月も担当してきた。今度も同じ仕事を求められたが、対案を提出して一旦断っている。
カワチ国ではイセイ湾と異なる要素がいくつかあるのだ。殲滅対象であるオーザカを囲む軍勢のうち、精鋭たるカヅサ兵はほんの一握りである。現地周辺の小領主たちを味方につけ、結束させて初めてこの作戦は完遂するのだが、なかなかこれが一筋縄ではいかない。
ただでさえ統一戦線に苦労しているところへサクマ殿がやって来て、大隊長に従うべしと号令をかけたりしても、無益な軋轢を生むばかりなのだ。
そこで、私は周辺領主とその兵たちに洗礼を授ける役回りを選んだ。イセイ湾では極力信徒をつくらなかったが、真逆の方針をとっている。
まず霊名を与え、コンパニヤへの忠誠を誓わせる。即席だ。それをしてから、サクマ隊の流儀に従わせる。
このやり方の方が、効率がよいように感じている。
むしろこうじゃなくちゃ、やっとられんのだ。
臨機応変、かつ合理的にいこう。
灰の日はサンガへ赴いた。その後、タカツキへと向かう。
タカツキの教会はおおかた完成していた。
日本家屋の建ち並ぶ中、そこだけエウロパへ戻ったような、不思議な佇まいだった。
この町ではジュスト殿が領民への広報を積極的にしてくれているため、求道者も桁違いに多い。
ありがたいことに教義が浸透済みである。
だったら即、授洗するのみ。
気合いが入って、8日間、朝から晩まで洗礼式を続けた。
教会にはヴィルトゥスが満ちあふれたはずだが、私にはそれが感じ取れない。
ひからびるほど、疲れ果てた。
その後、各地を行ったり来たりしていると、ニエッキから連絡がきた。
「カヅサ殿が、ミヤコへ来ているとのこと。戻られたし」
戻ろう。カヅサ殿に会いたい。