戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1575/004.hmos

圧勝だったらしい。

 

キナイ周辺諸国から掻き集められ、ミカワへ従軍した兵たちが、溌剌とした笑顔で続々と凱旋している。

カヅサ殿は、現在はギフへ帰国しているそうだ。

ミノ国東端の山にカイ国の兵どもが未だに籠もっている。この勢いに乗せて、今度こそ根絶やしにしてくれよう。

その指揮を執るためであるらしい。

国を支える柱となるべき精鋭が地上から消え失せたカイ領主に、もはや頼るべき存在はいない。

これ以上の抵抗は誰にとっても無益なことよ。そうカヅサ殿は諭すであろう。

すんなり投降するかな。

しなくても私には関係ないことだが。

詳細はそのうち、カヅサ殿より聞けるであろう。

 

妙な気分である。心に、ぽっかり穴のあいたような。

カイ軍が、滅んだ?

強敵であった。

カヅサ領全域より広大な土地を支配下に置き、百戦百勝、負け知らず。あらゆる坊主の頂点にも君臨し、妖術で人の心を操る。

そんな怪物と呼ばれたシンゲンの威光は、息子には引き継がれなかったということか。

 

ちなみにシンゲンの死は、ようやっと公式に発表された。

先月、カイ軍がトトミ国へ侵攻する直前、秘匿を解いたという。

賢明なことだ。ただ、遅きに過ぎた。

バラバラになっていた家臣たちの思惑を息子ひとりに集約させるには、もう少し早い方がよかったのではないだろうか。

ともあれ決戦は終わり、かれらは滅んだのだ。

私には関係ない人達だし、邪宗徒のまま死んだのだから祈る言葉も持たない。

さようなら。知らんけど。

 

 

帰還兵から聞いた話。

トトミ国はミカワ王の領地であったが、ここに北からカイ軍が押し寄せた。

北西からと北東からの2隊にわかれ、4年前の大進撃よりも巧妙に、ミカワ軍の拠点をめがけて襲いかかった。

いくつもの城が陥とされた。

今回、最終決戦場となった川辺の少し上流に、ナカシノという城がある。ここも狙われたが、崖の上に聳え立っていてなかなか攻めにくい。

カイ軍は周囲の砦を片端から制圧し、ナカシノを包囲して飢えさせる作戦をとった。

鉱山職人を大勢連れてきて、地下から穴を掘っていったりまでしたらしい。

丁度この頃、カヅサ殿と若兵の群れが到着した。

 

運命の風向きは、ここで逆転する。

 

カヅサ殿は、カイ兵たちをおびき寄せる戦術を選んだ。

トトミへ派遣されたカヅサ兵は、ひとり1本ずつ、木材を担がされていた。

長槍の代わりにこれを武器にして戦えというのだろうか、と彼らの多くは不安でたまらなかったという。

 

到着後、泥だらけの窪地で、この木材を使って柵をつくらされた。

馬が飛び越えられない高さの障壁だ。

要所要所では二重三重に組み、その中間に落とし穴も掘る。

できあがってみると、それは敵の襲撃を一点に誘導するための道筋に沿う配置になっていた。

各中隊長は、指示に従って、この迷路を正確につくる。

連日降り続く雨の中、3日ほどかかったという。

その間、小戦闘も何回かあった。カイ軍は、ミヤコから来た兵たちがこの台地で陣地を構築している、ということは知っていた。

そこで、以下のように考えたと察せられる。

 

「敵の陣地は、川に沿って南北に広く長く伸びている。

ということは、攻撃を一点に集中すれば、突破は容易い。

馬防柵を作っているらしいが、そこは低い窪地だ。

ばかめ、高地を取るのは戦場の基本なのに。三河も美濃も、平原での戦いに慣れてないのか。

それ以上進むと我々が待ち構えているから、妥協してそこを選んだか。

陣地の東が川幅広く、その手前が平原になっていて、ここには敵兵がいないだと。

なら我々は、そこに集結しよう。

一気に大軍で攻めこむぞ。うまくすれば、信長の首をとれる。

信玄公にもできなかった偉業を、我らが実現するぞ」

 

そう思わせることが、まさしく、戦略家カヅサ王の仕掛けた罠だった。

決戦は、半日で終わった。

その日は晴れていた。

とはいえ、朝のうちはモヤでまったく視界がきかなかった。

 

突撃を開始したのはカイ軍だそうだが、私にはひとつの疑問がある。

なぜ、カイ軍は、雨の日を選ばなかったのか。

雨ならば、敵も味方も、鉄炮を使えなくなる。

鉄炮の数では、両軍の間にはかなりの開きがあるから、これを封じることで、戦局を更に大きく有利にできたはずだ。

なぜ晴れてから、わざわざ敵が万全の態勢で待ち構えている目の前に、飛びこんでいったのか。

カイ軍は、そこまでヤキが回っていたのだろうか?

それが、ちょっとした疑問である。

 

高地から勢いよく駆けおりて、泥濘にはまり渋滞を起こすカイ軍の兵たち。

穴に落ち、柵に邪魔され、開けた場所へ駆けこむと、そこへ鉄炮隊の一斉射撃がお見舞いされる。

モヤが晴れぬうちは、逃げる方向さえ定まらない。

敵は柵の向こうから出てこない。音を立てたり、動いている影を見せれば、たちどころに撃ちこまれる。

カイ兵には、同士討ちの恐怖すらつきまとう。

私だったらその場で死んだふりをするね。それしか、できなかろう。

 

カヅサ軍側から見ると。

視界がひらけてくる頃には鉄炮隊の仕事は終わり、柵の向こうには、おびただしい泥まみれの死体の山ができている。

次は長槍隊が、死体をひとつひとつ突いて回る。

2割か3割は生き返る。

とどめをさすのは、弓や刀を持つ兵だ。この連携をカヅサ軍では徹底的に教える。

 

3日の土木工事と半日の戦闘で、新兵もたちまち一人前に鍛えあげられる仕組みである。

生きる喜びを知り、自信をつけて戻ってきた帰還兵たちの瞳は、輝いている。

カイに生まれた兵たちには気の毒なことかもしれないが、生き残ってさえいれば君たちにだって、この戦闘から得られた経験はかけがえのない財産のはずだ。

学べばよい。考えればよい。

なぜ、敗れたのか。何が間違っていたのか。

それこそ、私が聞きかじって講釈を垂れるよりも、君たち自身で訴えるほうが説得力もあるだろう。

二度とこんな悲劇を繰り返さないために、無益な抵抗は今後一切やめることをお薦めしたい。

 

坊主と手を切り、カヅサ殿の描く未来に随いたまえ。

その先にはパライゾが待っている。

 

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