戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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私の名はルイス・フロイス。

今いるここは、タク島。

 

南の対岸にフィラド島が見えます。大きい。

そこには邪宗と結託し、頑ななまでに坊主どもを守ろうとする、悪しき領主がいます。フィッシュと呼ばれる人物です。

かつては、パードレ・トルレスがフィラドで布教をしていました。なので今も、熱心な信徒が大勢暮らしています。迫害に耐えています。

行ってなぐさめたいところですが、かないません。

 

フィッシュの家臣に、ドン・アントニオという貴人がいます。

彼が、信徒を守ってくれているのです。

有能な人物なので、フィッシュも彼には逆らえません。

まったく、格の違いは明らかです。

 

ここタク島は、40戸ほどの住民しかいない小さな島ですが、ドン・アントニオの故郷でもあり、島まるごとの統治を任されているそうです。

全住民が一人のこらずデウスの信徒という、すばらしい環境であり、かわいい十字架が建ち、邪宗の偶像は一つ残らず焼き棄てられています。

畑が耕され、種が播かれたあとは、水と肥料と日光をふんだんに与え、豊かな実りを待つだけです。

ここを、フィラド本島もうらやむ理想の楽園に育てていこう。

私の新たなる、出発地です。

 

ノッサ・スニョラ・ダ・アジュダから、従僕をひとり連れてきました。ジョアンくん。14歳。

アマングチで、生後すぐパードレ・トルレスに引き取られ、ずっとパードレたちと共に過ごしてきた少年です。

ラテン語のドチリナや聖歌を完璧に唱えます。ポルトガル語と日本語を同じくらい使いこなせます。

トルレスのヴァレンシア訛りがほんのり混じった、かわいらしくて、とても愛らしいポルトガル語を話します。

 

現在は、アジュダにいた頃より少し余裕のある生活を送れています。

聖務は私とジョアンが担当し、イルマン・フェルナンデスには日本語辞典の作成にとりかかってもらいました。

合間をみて、いろいろと教えてもらいます。

日本語はとてつもなく厄介な言語です。

 

「ポルトガル語なら、基本構造は主語-述語-目的語だ。日本語は、主語-目的語-述語が基本となるが、主語は省略されることが多い」

 

述語が最後にくるとなると、日本語は最後まで聞かないと、相手の意図が判明しないということになるのかな?

 

「述語も省略されることが多い。だから日本人を相手に会話をして、意図を理解することは、かなり難しい」

 

ちょっと待ってくれ。目的語だけで会話が進む……ということになってしまうのか?

 

「厳密にいうなら、副詞だけで充分なんだ。日本語には副詞が異様に多い。パードレは、シトシトとか、ザアザアとか、二音節を2回繰り返す日本語を耳にしたことはないか?」

 

ああ。幼児語のような……でも、大人もよく使っているかな?

 

「あれらは、たいてい、副詞だ。シトシトもザアザアも雨の降り方を表現する単語だが、日本語には雨の降り方だけでも百を超える種類がある」

 

……いったい、何のために、それだけの語彙が必要なんだろう?

 

「パードレは、日本人の家族が自分たちの家の中で雨の日にどう過ごすのかなんて、見たことがないだろう。

かれらは、一日中ずっと家の中で、雨の音だけを聞いて、楽しんで過ごすことができるんだ。

百を超える雨音語から適切なものを選び出す作業が、かれらの楽しみであり、かれらにとっての音楽でもあるんだ。

日本人というのは、そういう民族なんだよ」

 

……理解できない。ん?待ってくれ。

日本語の辞典には、それらを全部入れないといけないものなのだろうか?

 

「日本人を理解し、対話を成立させるには、省くべきでないと思う。ただ、これらに一つ一つエウロパの言葉で説明をつけていこうとすると、果てしなく虚しい気分にとらわれる。

まるでフルガトウリヨだ。いつかは終わると、わかってはいても」

 

しかし……坊主との宗論をするための日本語は、もっと、理性的な言葉が使われるはずだろう?

そちらを優先することの方が、私たちには必要ではないかとも思うのだが。

 

「おお、パードレ。坊主もまた、この副詞を駆使して、我々の質問をはぐらかすのだ。

かれらは主語も述語も明確にしない。ひたすら副詞をつなげていって、何かを語り証明したかのような素振りをする。それだけで、私たちを論破したと勝手に満足して、唾を吐いて立ち去っていくのだ」

 

どこまで傲慢な連中なのだ。

なんだか日本語そのものまで、坊主が坊主による民衆支配のためにつくりだした悪魔の発明なのではないかという気がしてくるよ。

 

「そこまでは言わないし、実際のところ、わからない。ただ、日本語の多くに、邪宗徒たちの専門用語が深く根付いていることは疑いがない。

ダイニチの話をしておくべきかな。その前にパードレ、ちょっと休憩させてほしい」

 

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