<<< 圧倒的な、敗北でした。
シンゲン・ジュニアは戦力の大部分を喪失し、カイへ逃走。
トトミとミカワの被害も甚大ではありますが、カヅサの率いてきた兵は、ほぼ無傷といっていいでしょう。
強いていえば、弾薬の消費が激しかった。
ずいぶん気前よく、ばらまいたものです。>>>
((( そうみたいだね。
奇策を講じたと聞くのだが。
いったいカヅサは何をやったのだ。)))
<<< まず状況として、シンゲン・ジュニアの大軍勢がトトミを制圧し、ミカワにも侵攻していました。
ミカワは、以前よりは粘り強く抵抗しますが戦力差を覆すことができません。
今回は春を過ぎても退却は行われず、前線はE→Aへじりじり動いていきます。
シナノとカイの匂いはすっかり混ざり合っていました。
ここからはシンゲン軍と呼びますが、シンゲン軍内では一体感の醸成が強い推進力として訴求されていたと考えます。
ルーキーへの指導が手厚く、自信と責任感を与えてやり、勝てば皆で喜び讃え合い、失敗は皆で反省を促す、といったような雰囲気です。>>>
((( レッドの連邦を思い出させるな。
私は、あまり馴染めないねえ、そういうのは。)))
<<< はは。ともかく、シンゲン軍は高い士気を有し、ゆっくり着実に、ミカワの拠点を攻略し続けていきました。
カヅサがやって来なければ、そのままミカワを併呑していたであろうと想像します。>>>
((( 以前、君はシンゲン・ジュニアのリーダーシップに辛い評価をつけていたはずだが、その点にも変化はあったものかい。)))
<<< 俺が個体の匂いを特定できるリーダーはカヅサくらいですよ。
ミカワ王だってシンゲン・ジュニアだって、いつも大勢のヒトに囲まれていて判別できません。
ただ、その雰囲気込みでの印象ですが、シンゲン軍中枢でも、一体感の強化が綱領に据えられていたようです。
つまり、先代の実力には及ばないが、それでも全員が一丸となってこの若王を支え、マウンティングの頂点を目指そうという、そんな意識の共有が認められました。>>>
((( それをカヅサが完膚なきまでに叩き壊したわけか。
痛快でたまらないな。)))
<<< 今回、カヅサはおそらくミカワ王からの救援要請でやって来たと思うのですが、ずいぶん遅かったですし、得意の機動力を活かそうとしていませんでした。
後方で、じっと様子を窺っていた。
シンゲン軍の側からすると、カヅサはビビっているのだろうという憶測につながるわけです。>>>
((( そんなシンゲン軍が愚かだとしか言えない。
なぜ斥候に偵察させ、その真意を探らないのか。)))
<<< それなんですが、カヅサは、シンゲン軍の斥候隊をほぼ全員捕まえて、逃がさなかったみたいです。
俺も、カヅサの陣所には近づけませんでした。罠が張り巡らされているんですよ。
何をしていたのかがわかったのは、大戦闘が終わってからです。>>>
((( 兵士に材木を担がせて行軍させたと聞いているが、あれか。
相当大掛かりな罠を作ったのだな。
そこで、防御兵器である鉄炮を、ふんだんに使った。)))
<<< その通りです。
補完しますと、カヅサは大迷路を作りました。
見通しの悪い、入り組んだ低湿地帯で、勢いにまかせて飛びこんだシンゲン兵は、まず一斉掃射されます。
次の隊は、味方の死体の山を見て、反対方向に集結します。そこを狙われます。
その次の隊も、死体の無い所へ集まります。
カヅサ側の鉄炮隊は、ルーティーンに従って動き、準備し、弾を撃つだけです。
ちなみに当日は早朝から濃霧で、これに絶え間ない硝煙が被さり、犬でもヒトでも、入ったが最後出てこられない迷宮と化していました。
俺も、戦闘中は近寄らなかったですね。>>>
((( 高湿度なのに鉄炮が使えたのか? )))
<<< カヅサ軍は、雨の中での決戦も想定していたみたいですよ。鉄炮隊が控える柵の内側には、天幕が張ってありました。
火薬を湿らせない工夫も、入念に対策していたと思われます。
むしろ、シンゲン軍が油断した。カヅサは鉄炮を使えない、と読んだ。
ついでに、その戦場は周辺よりも低地で、繁みや崖も多く、流れの速い川沿いで足場も悪いと。およそ機動戦には不向きすぎたんです。
カヅサの強みはまったく活かせないはずだ。その先にカヅサたちは縮こまっていると、シンゲン軍は予測して、罠とも思わず飛びこんだ。準備していたら雨が上がってきたので、モヤが晴れる前に突撃しようと、今回はシンゲン側が血気逸って踏み込んだのですね。
こんな心理戦まで計算済みだったなら、カヅサはまさにバケモノです。>>>
((( 計算済みに決まっている。
カヅサは焦っていないんだろう。
エチゼンで先頭に立ったときより、ずっと余裕をもって臨んでいるじゃないか。)))
<<< やっぱり、そうなんですか……。
俺は、未だに、その事実が呑みこめなくて。
先輩がやらせているなら納得するんですが。
どうしてヒトに、ここまでのことができるのかと、不思議なのです。>>>
((( 断っておくが、私は何ひとつ干渉していないよ。
一部の情報はヒトから聞こえてきていたが、主要な点は今君から初めて聞いた。
シンゲン側に敗因を指摘することは容易だ。斥候が戻らないことをもっと重要視すべきだった、とかね。
だが決定打は、君が言うように、カヅサがバケモノだという点にあると思うよ。
推測を語ろう。
カヅサは前回の対エチゼン戦と逆のことをした。天候を利用して攻撃を仕掛ける敵を迎え撃つポジションで、同じ状況をひっくり返してみせたわけだ。
なぜ、こんなことを思いついたと考えるかね? )))
<<< エチゼンの、逆を、やった。……まさか、カヅサは、前回敗れたエチゼンの立場に身を置いて、攻守逆だったらどう防衛するか、を……考えていた? >>>
((( おそらく、その通りだ。
一度勝利体験を得るとそれに拘泥してしまう者は多いが、カヅサは予測可能な前例がもたらす危険も知っているのだろう。
相手側が多少攻略を変えても、臨機応変に対処していたと思うよ。
それにしてもシンゲンはまんまと術中に嵌まったな。)))
<<< なんてこった……俺は、対等な条件でカヅサと戦うことになったら、勝てる気が、しません……。>>>
((( 対等な条件でなら、そうだろうね。私だって苦戦するよ。
現実にはそんな対称戦なんて、まずありえないけれどね。
しかし、いい教訓になった。ヒトにもこんな能力を持つ者が現れ得るという知識を得たわけだ。
我々はそれを前提に、さらにその上を飛ぶことを、考えよう。)))