戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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メステレ・フランシスコは、マラカで、3人の漂流者と出会った。

 

かれらは瞬く間に言葉を覚え、自分たちは北東の海からやって来たと告げた。

その賢さに感動したメステレは、3人にパウロ、ジョアン、アントニオという霊名を授けた。

こうしてかれらは人間となった。

 

日本という王国に住んでいたという。

話をきけばきくほど興味をそそられたメステレは、布教探検隊を組織し、荒波をものともせず突進し、かれらの祖国である黄金郷を発見した。

メステレはただちに布教を開始した。到着までに3人から、日本の言葉を学んでいた。

創造主デウスは大日。

アニマは魂。

インヘルノは黄泉。

3人は聖書の教えをわかりやすい日本語に訳し、メステレが読めるよう、ラウマ文字で綴った。

 

未信徒ばかりの日本人を前に、メステレは、日本語で福音を伝えた。

……はずだった。

今ならば、わかる。そこに、悪意は無かった。

 

しかしデウスの教えは、この日本にはびこっていた邪宗の、新しい一派にすぎないと思われてしまったのだ。

メステレたちは、テンジク坊主と呼ばれていたそうだ。西方からやってきた、邪宗の使徒という意味を持つ。

こんな屈辱が、あってたまるか。

 

日本の邪宗は、数々の名で呼ばれ互いに争っているが、もとはひとつだ。

1000年前、テンジクという国からもたらされた。

シャカという俗人が、我ヲ教祖トシテ讃エヨという精神論を説いた。

これが日本まで伝わり、もとがデタラメなものだから分裂に分裂を繰り返して現在に至っている。

 

南インディアにも、似たような偶像崇拝の生き残りがいたように記憶する。だが、少なくとも私のいたゴアやバサインでは、危険視すべき勢力ではなかった。

モーロ人のほうがずっと脅威だったし、インディア原住民は怠惰なことで有名だから、反抗してもすぐに潰せた。

しかしシャカ教は極東で、日本人を虜にすることによって、はるかに強大な力をつけてしまっている。

私も今では、日本への遠征に明るい展望だけを見るような愚かさを抱いてなどいない。

ポルトガル王国が、否、カウトリカが総力を賭して挑まなければ勝てる見込みのない、最終総力戦の只中にいるのだと自覚する。

メステレの涙は、真理を突いていたのだ。

 

フェルナンデスによると、誤解に気付いた時点で、日本語訳の全面見直しが始められたそうだ。

すでに3人の元漂流者はいなくなっていたが、日本で新たに獲得した信徒たちとなんとか知恵の限りを尽くし、より正確な意味を伝えるための日本語化が、模索された。

結局、デウスはデウス、アニマはアニマ、インヘルノはインヘルノと、そのままの音に落ち着くのだが、この悪戦苦闘を経てフェルナンデスは、日本人の言葉・習慣・倫理意識に、どれだけ邪宗が染みこんでいるかを徹底的に学び取ることとなった。

 

「坊主の宗派にも、手強いのと、無視してよいのとある。パードレ、聞きたければ語るが、どうかな?」

 

……ううむ、今日はやめておこう。すでに頭が混乱気味だ。

でも、坊主との論戦が実際どんなものなのか、あまり難しくない程度の参考例があれば、知りたいな。

 

「例、ねえ……じゃあ、パードレ。あなたはメステレを演じてくれ。私が坊主だ」

 

承知した。

 

「ほほぅ、おまえが天竺坊主とやらか。五百年ほどぶりだな。覚えておるか」

 

……なんだいきなり。あなたは頭がおかしいのか。

 

「あのとき、おまえは、私に絹を売りつけたな。その絹を私はもっと高く他の者に売りつけ、いい稼ぎになった。礼を言う。

ところでおまえはあいかわらず貧乏そうだ。よっぽど前世からの行いが悪いようだ。私の寺で下僕からやり直すなら、使ってやってもよい。好きにしろ」

 

……止めてくれ。

本当にこんな会話をしたのか?

 

「止めよう。実際、私も心が荒んでくる。

かれらの言い分によると、人は決して死なず、肉体が滅びても、魂がすぐ幼子の体を手に入れて新しい生を歩むのだそうだ。

通常、その度に記憶は失われる。だが徳の高い者なら、すべての記憶を保持できる。

その坊主は、何千回もの人生を歩んできて、どんな出来事もたちどころに思い出せるのだと言っていた。一方的にそんな話をして、帰っていった」

 

頭がおかしすぎる。グレーシア人でもここまで無茶苦茶は言うまい。

 

「言っておくがパードレ、私はこんな坊主と何千回も戦ってきたし、今のは笑えるうちだ。怒らせるとカタナを抜いて振り回す坊主も珍しくない。それだけの覚悟は、しておいてほしい」

 

胃が痛くなってきた。今日も、ベゾアールを舐めて寝た。

 

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