戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1576/007.hmos

突然の辞令を受け取った。

 

私がミヤコへ来たのは1565年だから、12年前になる。

ずいぶん、長くいたなあ。

 

シモへ戻り、ブンゴ国の地区長を任されることになった。

今年中に、後任のパードレがやって来るから、引き継ぎをしたらすぐに出立しろという。

 

セト内海はあいかわらず危険だが、オーザカからアワジ島までをくぐり抜ければ、そこより西はむしろ海賊は少なくなっていくみたいだ。

最近は、アワ島を南回りに進んでゆく舟便も増えているという。

だが波が荒いので、危険度はそう大幅には違わない。

舟賃も、どちらが高いかなあ。

今度来る後任者にも訊いてみよう。

 

方々へ、挨拶をして回る。

 

ツノ国タカツキでは、城主のジュスト殿が長期出征中のため、父のダリオ殿が領主の座に戻っていた。

思えばここも、王位継承を早めに行うことで柔軟な政権交代を円滑にした、お手本のような姿である。

 

来てみて、あらためて痛感する。

タカツキの繁栄ぶりはキナイの中でも独走状態にある。ミヤコなんて、目じゃない。

特に私は近年、戦場ばかり歩いてきたから、この町の平和をひときわ新鮮に感じる。

人々は当り前のように日々を過ごしながら、朝と夕には一斉に祈りを捧げ、主日には教会へ集い、休息をする。

こんな平和を早く日本全体にもたらさねばならない。

そのためには一日も早く、アキとオーザカを屈伏させねばならぬのだ。

もしかすると二度とキナイへ戻ってくる機会は無いかもしれないから。そう思えばこそ、しっかりとこの目に焼き付けておこう。

そんな覚悟に身を浸した。

 

思い出深い土地といえば、アマンガサキや、ジョアン・ナイト殿の居城があったヤキなども回りたかった。共に今は危険地帯だ。

ジョアン・ナイト殿はアラキが暴れていた頃、我々を非常にたすけてくれたが。今は流浪していると聞く。

オーザカの近くに、ジョルジ・ユキヤフエンシ殿の住むオカヤマという町があるが、彼も出征中であった。

サンガでは、私の滞在中にも多くの客人があり、なかなか離れがたかった。

サンティエゴ殿若かりし時代に、雪まみれになってナラへ行き、鹿におびえながら湯屋にひたったよなあ。

あれも今では、いい思い出だ。

 

サカイでは長逗留した。

12年前からずっとお世話になっているディオゴ殿は、まだまだ健在である。

ここでも世代交代は進められている。

すっかり大きくなったヴィセンテが、父の跡を継ぐべく、店の仕事を切り盛りしていた。

サカイでは坊主どもの勢いが大きくなる一方でデウスの教界は圧迫を被っているが、昔ながらの粘り強い信徒たちが支えてくれている。

モニカには、新たに男の子が生まれていた。

夫のソウサも、ディオゴ殿に言わせればまだまだヒヨッコだそうだが、商人として着実に地歩を固めている。

むしろ私だけは変わらないねと言われた。

ええ?そうかなあ。

 

 

次は北だ。オーミに入る。

コレトウ殿は夏、流行り病に罹り、戦場を離れてサカモト城へ帰った。

城内で家族にも感染させてしまい、引き続き隔離中とのこと。

挨拶だけ伝えて立ち去る。

 

会えるかどうか不安であったカヅサ殿とは、雪の降り始めた喜びの主日に、まだまだ建設途中のアヅチ城で、お別れができた。

積もる話は尽きない。

海戦で大敗したカヅサ殿は、アキ王およびホンガンジを武力で捩じ伏せる道をひとまず留保した。

最終的に勝てたとしても、兵力の激減は避けられない。

そこへ背後から襲いかかろうと多くの国が手ぐすね引いている。

ここでは、政治的な解決を模索せねばなるまい。

 

となれば、頼むべきは、ダイリである。

ダイリかよ。

 

実際のところ、すでにカヅサ殿は、元クボウやホンガンジよりも遙かに上の官位をダイリから授与されているのである。

元クボウなんてずっとその官位だけを口実に威張りくさってきたくせに、カヅサ殿に追い越されると、これを無視する。

間違っているのがどちらかは論ずるまでもないのだが、そんな分からず屋にも分からせるほどの権威をダイリが持っていないのも事実。

なのでカヅサ殿は、ダイリとクゲの連中が栄華を取り戻すよう、多大なる貢献をしてきた。

 

これがまったくのムダガネ。

溶けに溶け、跡形も無く、消え失せた。

 

カヅサ殿の落胆も果てしない。

ダイリもクゲの一部にも、やる気だけは無くはないのだが

何をどうしていいか分からず

具体的な目標や課題を与えても

そこから目をそらすことに、ひたすら精励し

期待に沿え得ないことへの弁解を

時間をかけた美しい詫び状で

送って寄越すばかりなのだそうである。

 

連中とこれ以上、付き合っていられない。

では、どうするか。どうすればいいのか。

これをカヅサ殿は今、小さな茶室へ籠もって考えている。

 

私がミヤコを去ることを、本心では残念がってくれていると思うのだけれど。

そんな態度はおくびにも出さず。

静かに、茶を淹れてくれた。

 

「フロイス。豊後国の布教長という立場で、豊後の軍は動かせそうか」

 

ブンゴ王とは13年前に一度会っただけですが。

あの時点でも1000挺を超える鉄炮隊を有していたことから、先見性を持った領主だと思います。

赴任して、半年くらいは情報蒐集が必要と思いますが、私にはカヅサ殿のもとで学んだ軍事的な知見があります。なんとかこれを活かして、西からアキ国へ侵攻させられないか。

そこまでは、考えていますよ。

 

「半年か。もう少し早いと、ありがたいがな」

 

さすがに、行ってみないとわかりませんけど。

でも私だって、時間をかけるつもりはありません。

 

「薩摩になら連絡員がいるが、軍を動かすほどの器量はない。

豊後が安芸を攻める間、背後から襲うことのないよう一応伝えてはおくが、期待はするな」

 

サツマですか。シモ島の、南の端ですね。

コンパニヤが最初に上陸した領国ですが、デウスの教えには否定的。

信徒は若干いますが、宣教師は常駐していません。

 

「薩摩は昔から内裏と交流が深い。

公家の一人に鷹狩の得意な変わり者がいて、昔からの縁で一年半ほど前から薩摩に住んでいる。

もし会うことがあったら、仲良くしてやってくれ。しなくてもいいが」

 

はあ。まあ、縁があれば。……クゲかよ。

 

「東と西から安芸を攻め、どこでそちと会えるか楽しみだな」

 

ええ。私も、楽しみでなりません。

必ずお会いしましょう。カヅサ殿。

そのままシモまで駆け抜けて。そこからエウロパへ旅立ちましょう。

どこまでも、お伴します。

 

ほんの、しばしの、お別れですよ。

 

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