「パードレ・フロイスよ。長きにわたるミヤコ勤務、大儀であった。日本布教長として、君の働きには大いなる評価を与えたいと思う」
カブラルとの、最初の面談。
身構えていたのに、拍子抜けをした。
「カヅサとは、直前までずいぶんと親しくしていたようだな。私も二度会ったが、今はどんな風なのだ。聞かせてほしい」
好意的な感触である。
カブラルがキナイを巡察したとき、一度目は、雪の中をギフに訪ねた。
二度目は、ミヤコで会見して、サリートリの取引を申し出た。
カヅサ殿を勝利させるために軍事援助をするべき。
カブラルも積極的に推し進めてきた戦略だ。
ここは腹蔵なくすべてを明かしておいた方が、話も早く運ぶだろう。
カヅサ殿は昨年、オーザカの再挙兵と、元クボウに唆されたアキ王の軍勢とによって、海商路を断たれました。
我々はこれに支援の手を差しのべるべきです。
アキ国を、西側より突きましょう。
「パードレ・フロイスよ。何の話をしているのだ。
私は、オタ・カヅサ・ノブナンガがどういう人物であるか、ということを聞いているのだぞ」
ん?いきなり結論へ跳びすぎたかしら。
ええと……カヅサ殿の……人物?
カヅサ殿は……布教長も、御存知でしょう。
決断が速く、無駄なことを嫌います。
すみやかに本題へ入ることを好みます。
作戦指揮も素早いですが、戦犯を裁くときは優しすぎる一面もあります。
それが今回の反乱を許したと考えております。
「短気で、直情的。ケダモノのように襲いかかる……
そんな性格かな?」
え?いや……ちがいます。
彼は常に、冷静沈着です。
理性的で、礼儀正しく、若いアシガルにも助言を惜しまない。
愚か者には厳しいですが、それでも、優しすぎるほどの処遇をされる方ですよ。
「フム……聞いている評判と、だいぶ違うな。
それは、相当深い仲まで寄り添った者だからこそ、言える真実かね?」
そうだと思います。
評判というのは、おそらく坊主どもが流しているのでしょう。
かれらはカヅサ殿から、さんざん痛い目に遭ってますから、カヅサ殿が憎くて憎くてたまらないことは理解できます。
しかし我が身を省みず、その原因を撒き続けているのは、坊主たちの方ですよ。
「ひとまずわかった。
その上で、パードレ・フロイスへ命じる。
今後は、オタ・カヅサ・ノブナンガを擁護するな。
今ここでその口から出たような言動を繰り返すことを、堅く禁じる。
デウスにかけて誓え」
え? ……ええええええ?
どういうことですか。
「これから、私と一緒にブンゴ王への表敬訪問をしてもらうが、ミヤコから来たといえば、根掘り歯掘り、いろんなことを訊かれるだろう。
オタ・ノブナンガのことも、天下の行く末に関わる話だから、王も家臣団も、どんな情報でも欲しがっている。
そこへ軍事作戦にまでどっぷり深入りしていた筋金入りの信奉者が現れて、今のような熱弁をふるってみろ。
お前も私も、生きて出てこられると思うか」
はっ。たしかに……そうです……ね。
おそろしい。私は、ここぞとばかり張りきって、一日も早くブンゴ王に、アキ国へ攻めこんでもらいたい、と説得をするくらいのつもりでいました。
も、もう少し、おちついて、考えてみないと。
「ブンゴ王は、我々に良くしてくれているが、実は誰に対しても同じだ。
ウスキには、古くからのコーリア人やチイナ人の居住区もある。
坊主の宗派も分け隔てせず、すべてを受け入れる始末だ。
我々の説教は聴いてくれるが、王も家臣も未だ邪宗徒であり、むしろ坊主の味方だと考えておらねばならんぞ。
したがって、かれらにとってオタ・ノブナンガこそは、最大の怨敵だ」
ひゅううううう。
まさか。まさか、そんな。
敵、ですか。そこまで言いますか。
その発想は、ありませんでした。
「現時点でオタ・ノブナンガは、日本で最も殺戮を重ねてきた、血に飢えた悪鬼だ。
コンパニヤがその行為に加担しているなどという流言飛語は、たとえ噂でも、あってはならぬ。
言うまでもないことだろう?」
は、はい。現時点では……たしかに……その通りです。
まちがい、ありません。
「坊主たちに、我々を排撃する口実をみすみす与えるような愚か者ではないだろう君は。わかるな?」
はい。わかります。
私たちはデウスにつくられ、イエズスにならいて、スピリツサントスとともに、この地上を再び楽園とするための、使命を帯びています。
清く、正しく、美しく、聖務を果たし、福音を伝え、赦しを与える。
私は生涯を捧げます。誓います。
「オタ・カヅサ・ノブナンガは、おそるべき悪魔だ。復唱しろ」
……え?
「口から自然に流れるまで訓練しろ。嘘はすぐばれる。
オタ・カヅサ・ノブナンガはおそるべき悪魔だ。復唱しろ」
オタ・カヅサ・ノブナンガはおそるべき悪魔です。
「まだ堅いな。毎日、繰り返せ。もっと応用力もつけてから、城へ行くぞ」
はい。……オタ・カヅサ・ノブナンガは、おそるべき、悪魔です。
「それから、今後の指示も出しておく。日本史を、執筆してもらう」
日本史……ですか。
「コンパニヤの日本布教史を総括的に、編年体でまとめよ。
フナイの教会にはメステレ・フランシスコ・シャヴィエル時代からの書翰や報告書類の写しが保管されているが、積み上がるばかりで整理する者もおらん。
近年はお前の書いたものが圧倒的に多いから、適任だろう。
エウロパに送り、出版し、我々の栄光の歩みを歴史に刻む。
大事な仕事だ。聖務と並行して進めよ」
はい……わかりました。時間はいかほど、いただけますか?
「とりあえず、1年やる。
日本人は使うな。やつらは何でも盗んでいくし、ポルトガル語を読めるやつだって少なくない。
油断するな。部屋の鍵も、こまめにかけろ」
はい……わかりました。
「念を押しておく。オタ・ノブナンガを格好良く描くことは許さんぞ」
はい。
オタ・カヅサ・ノブナンガは、おそるべき、悪魔です……。