戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1577/004.hmos

ブンゴ王は、48歳だという。

私より3つ歳上ということになる。

 

14年前に訪問したときの印象はすっかり忘れてしまったが、落ち着いた、聞き上手だ。

自分からはあまり話さず、家臣に喋らせる。

事前にしっかり打合せをした上であることが見てとれる。

何世代にもわたって仕えている古参家臣たちに囲まれていて、結束の固さを窺わせる。

長期安定政権といったところか。

 

当然、古くからの坊主たちとの付き合いも抜かりない。

フナイにもウスキにも、満遍なく各宗派のテラが存在する。

ただ、最大手はカスガとハチマン。

カミ・フォトケのうちの、カミ系だ。キナイではなかなかお目にかかれない序列である。

 

遠方なのに、だからこそか。ミヤコのダイリや元クボウとの交際も、まめにしていた。

シモにおけるブンゴ王の正統性は、ダイリによって保証されている。その権威を実態以上に崇拝したがるのも、遠方だからこそなのかな。

 

カブラルは、献上品を携えての訪問をかなり頻繁にやっている。

城内には虎や象の剥製が飾られており、派手な色の鸚鵡が日本語で挨拶をしてくれた。

これ、書いていいですか?と一応カブラルに尋ねた。

やめろと言われた。

はい、書きません。

 

私ならブンゴでの開拓はこれ以上望まず、不安定な情勢を抱えている他地域での活動に力を注ぎたいと思うところだが、布教長は何としてでもブンゴ王を屈伏させ、信徒にしたいという執念を燃やしている。

 

ブンゴ王の妻はナタという名で、ハチマンの主家筋から嫁いで来たそうだ。

そのせいか夫とは対照的で、我々へ敵意を剥き出しにする。

昔から手のこんだ妨害を重ねてきたことは、フェルナンデスやアルメイダからも聞いていた。

カブラルも、あの奥方をなんとかせねばな、と忌々しそうに言う。

 

このナタの兄弟がブンゴ王の側近に就いている。名は、タワラ。

そしらぬ顔を装って私にいろいろ質問をしてきた。

事前にカブラルから要注意だと言われていたので余計なことは喋らなかったが、緊張を強いられたので、くたびれた。

 

タワラは実子に恵まれず、ミヤコのクゲから養子を迎えている。

その子は、現在16歳。

3年前のこと。カブラルが、発狂して手のつけられなくなっていたゼン宗信者を優しく教え諭し、真人間に立ち返らせた。少年は、その噂を聞いてデウスの教えに興味を抱き、教会へやって来た。

たちまち福音の何たるかを理解し、入信を希望する。

心根のまっすぐな子供だから、親にもすぐに意思を伝えた。

 

タワラは激怒した。

すぐさま少年を田舎のテラへ送りこみ、監禁。

イルマン・コスモの父親と同じ思考回路だな。

だが、養父および叔母であるナタがどういう人間かを熟知している少年は、腹心の友を通じて、カブラルと文通を続けた。

 

カブラルは日本語が読めないので、ジョアン・デ・トルレスが一言一句を翻訳した。

私はその全部に一通り目を通してきた。

ここまで予習をした上でする、タワラとの対話。

なかなか痛快である。敵は我々を侮りすぎているので、はなから勝負にもならない。

それでもくたびれた。

目の前の愚か者に、正解を教えてやれないもどかしさというものは、つらい。

 

 

教会へ戻り、カブラル、そしてモンテとで、会議を行う。

耳を疑うような議題も挙がった。

ブンゴ領内では信徒もおだやかなのであるが、オオムラ領では、流血沙汰が珍しくないそうである。

坊主との抗争ばかりでなく、信徒同士でも日々ささいな発端から喧嘩が絶えない。殴る蹴るはもちろん、カタナや鉄炮まで持ち出されることに、住民も慣れっこだ。

 

オオムラ領主ドン・バルトロメウはデウスの信徒となったのであるから、坊主に便宜を図ったりなどはしない。

領外へ逃げ出したい坊主には好きにさせてやり、その財産や土地は信徒を領内へつなぎとめるために役立てられる。

この取り合いで信徒同士の抗争が激化するという側面が無きにしもあらずだが、坊主の撤退を完了させるまでは規制を強めない方がいいだろう。

問題があるとしたら、宣教師にも腕力と威厳がより大きく求められることであり、今いる人数でやりくりすることは確かに、かなり厳しい。

 

今月、ドン・バルトロメウの兄ドン・アンドレが天に召され、盛大な葬儀が執り行われた。

まだ邪宗徒である彼の息子が、父親の受洗に異議を申し立てている。コンパニヤに提供された土地と建物の返還さえ求めているそうだ。

小規模な軍隊であるとはいえ、嫡子が動かす以上は公権力だ。その威圧を撥ねつけるため、武装した信徒たちによる厳戒態勢が数日後まで解除できなかったという。

キナイでも、さすがにこんな状況はお目にかかったことがない。領主に逆らえるほどの信徒集団がそもそも、存在しなかったからだ。

 

この辺りの話も、書いていいですか?と問うた。

「慎重にな」と、今はそれだけ答えられた。

どこをエピローグにすべきだろうか。歴史を書く際の難題のひとつである。

どこかで区切りは必要なのだ。

翌日、豚臭いフナイ教会へと戻った。それから毎日、ミサが終わると書庫へこもり、資料整理に明け暮れる。

 

モンテから手紙が来た。

タワラの養子が、ウスキへ戻ってきたという。

ブンゴ王の娘と結婚するのだそうだ。

日本では結婚は親と周囲だけで決めるものなので、本人も帰ってくるまで知らされなかったそうである。

 

彼は夜中に家を抜け出して、教会へとやって来た。今すぐにでも洗礼を受けたいという。

その情熱はすばらしいが、大問題に発展することは明らかだ。

モンテは説教だけをして、一旦彼を家に帰らせた。

そしてカブラルに指示を仰ぐ。

 

ブンゴでも、流血沙汰の大喧嘩が起きるかもしれないぞ。これは。

 

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