暑い日だった。
フナイ教会に、来客が現れた。
パードレ・ペドゥロ・レイモンと、パードレ・ゴンサロ・ラベロ。及び、従僕5人。
今年の定航船で上陸したばかりだという。
もちろん、日本語は話せない。
しかしカブラルはただちにパードレ・レイモンを、フナイ地区長に任命した。
私はブンゴ国上長に昇格だが、来たばかりのかれらに指導もせよというのか。
それにしても驚いたのは、今年の上陸人数である。
パードレ8名、イルマン7名。
さらに20人以上の、従僕および奴隷が、こぞって日本へやってきた。
4年前、41名ものコンパニヤ会士がインディア管区を目指してリジボーアを出帆したらしい。
そのうちの日本派遣団第一弾が、かれらなのだそうだ。
宣教師は、大半が30歳前後。
ゴンサロは35歳。レイモンは28歳で、もっと下もいる。
ふたりとも何から話せばいいのか迷っている風だったし、私も何から尋ねてよいやら分からず、ちぐはぐな対話を重ねた。
「パードレ・ルイス・フロイス。お目にかかれて光栄です。あなたの日本王国記は、エウロパ中で熱狂をもって読まれていますよ」
……え?はい?何ですと?
え、まだ書いてる途中ですがソレ。
「パードレ・フロイス。おちついてください。
あなたは、アジュダ港に上陸し、原住民の襲撃を受け、炎の中をかいくぐって信徒を救出した。がめつい領主を屈伏させたのち、この王国の首都担当へ抜擢された。
それからも幾度となく生命の危難にさらされながら、最高の臨場感を込めて、報告を送り続けてくれていたでしょう。
あれが、出版されているのですよ」
なななななんだってえええええ?
え、私の名義で、出版されているのですか?
「イエズスのコンパニヤとして出版されているので、パードレ・フロイスの報告書そのままではありませんよ。
しかしフロイスという人物はメステレ・フランシスコ・シャヴィエルに次いで多く出てきますし、コインブラ学院の中では、原著者たるパードレ・フロイスの名を知らぬ者はおりません」
はあ……そ、そうですか。
私が書いた報告書を、まとめたものなんですかね。
そのままだったら怖いけど、きっと、読みやすく編集されていることでしょうね。
私の両親は、喜んでくれていたり、してますかねえ?
「え?いや、それはちょっと、わかりませんが。
しかしラウマではインディア管区への注目度が途轍もなく高まり、教皇猊下からの要請もあって、ポルトガル王室より今回の宣教師大派遣団が編成される運びとなったわけです。
パードレ・フロイスの、おかげですよ!」
教皇のお耳にまで……いえ、それは、なんとも、恐縮してしまいますね。
そうですか……実はいま、その集大成となるような日本史を、あらためて書いていたところだったんですけどもね。
「なんと!それはまた、すばらしい。
今度は、ルイス・フロイス著という名義になるのですかね。
御両親も、さぞや喜ばれるでしょう」
あ……でもしかし、カブラルの命令で書いてるものだし、エウロパへ送る前に、相当、カブラルの手直しが入ってしまうだろうな。
カヅサ殿を悪者にするのは、私には耐えられないのだが、そうすると私の名義でない方が、むしろ、良いかも?
あの。
お二方に、お尋ねしたいのですが。
その日本王国記では、カヅサ殿、登場してましたか?
どんな風に描かれてましたか?
「最後の方に、日本では鬼と呼ばれている大悪党として登場するんですよね。
我々コンパニヤの使徒は果たしてこんな悪魔が暴れまくる日本王国で、デウスの教えを広められるのだろうか?という、ゾクゾクするような余韻で幕を閉じます。
その続きをこの目で見たくて、私たちは志願したようなものです」
ううむ。鬼か。
カヅサ殿と初めて会った頃、たしかに私、そんなことを書いたような記憶があるなと思うのだけれど。
カブラルは、最後まで悪党にさせたがっているのだよなあ。
悩ましいところだなあ。どうにかできないものか。
まだ、考える余地はあるなあ。
……そうだったのですね。
カヅサ殿は、現在もキナイの覇者ですが、まだまだ全国制覇までの道は長いです。
ミヤコには今、ニエッキ・オルガンティーノとジョワンニ・ステファノーニの2人、パードレがいますが。今回そちらへも増員が派遣されることになるのでしょうか?
「ああ。そうなると思います。
人事は布教長のパードレ・カブラルが決定することになりますが、私たちは、そこまで聞いてませんね」
なるほど。
それにしても、パードレとイルマン合わせて15名ですものね。
日本での布教はこれまで慢性的な人手不足に悩まされ続けてきましたから、これで一気に情勢は好転してゆくと思われます。
御主への感謝は尽きません。
「私たちの団長である、パードレ・ヴァリニャーノとはゴアまで一緒でしたが、インディア管区の統轄をせねばならぬため、1年か2年は当地にとどまる予定です。
その後、日本へも巡察に来られますので、ぜひ話をしてみてください。
すばらしい先生です。我々は、パードレ・ヴァリニャーノが来られるまでに、この王国を完璧に地均ししておく任務を負っています。
その上で、第一に心掛けるべきは何でしょうか、先輩」
心掛け……かあ。何と答えたら、いいものかな。
そうだな。最初だし。一点に絞ろう。
この王国には、まだまだ坊主の脅威が根強い。
日本人は、素質だけならエウロパ人すら凌ぐほどと言ってよいのだが、坊主という小悪魔どもがすべて腐らせてしまう。
布教が進まない理由のひとつも、ここにある。
完全な地均しを手際よく行うためには、害虫を今のうちから徹底的に潰しておくことが必要。
さいわいシモでは、まだかれらの脅威度は低い。
こじらせる前に、無力化しておくべきだろう。
そんなところだね。
「わかりました。
坊主には容赦しないこと。
徹底抗戦ですね。
心掛けます!」