ミヤコからの便りを、熟読する。
何度も何度も読むのは、頻度が少ないからである。
もっと書いてくれればいいのに。
ニエッキと私の2人だった頃は、私が報告作業を任されっぱなしだった。
まあ、しょうがない。
私は書くなと言われるほうが辛い人間だし。
カヅサ殿に軍事的助言をしていた件も不用意に伝えられては誤解を招きかねないから、自分の口から説明をした方が安全だったのである。
ニエッキはよく留守をまもってくれ、日本語も、私に負けないほどに習熟した。
ステファノーニへの指導も、しっかりやってくれているようだ。
手紙にはステファノーニが書いた部分も含まれているが、そろそろコンヒサンもできそうで心強い。
パードレなのに今までできなかったのか、とは酷だから言うまい。
短い報告ながら、カヅサ軍が今年、サイカを大軍で攻めたことが記されている。
オーザカより15レグワほどの距離を、陸路のみで進軍。
手こずったが、制圧したらしい。
オーザカの邪宗徒どもを支援する強力な一角だった。
ここの海賊衆をまるごと味方につけられれば、戦局も大きく好転するのだがな。どうだろう。
そんな交渉が可能な相手かどうかは、実際に見てみないと、わからないことだな。
布教については好調なようで、私が去って以降の新規洗礼が、500人を超えたようだ。
手紙では5000人と書いてあったが。ありえない。おちつけ。
それで、クラヴォを送ってほしいとの要請が付されていた。
ステファノーニが信徒へ音楽を教えられるので、ゆくゆくは楽団をつくりたい、という壮大な夢も語られている。
面白そうだな。カブラルが戻ってきたら、掛け合ってみるとしよう。
カブラルは、おそらく木枯らしが吹く季節までは長崎にいるだろうと、モンテは言っていた。
定航船の積荷は港の大倉庫に運びこまれ、ひと夏かけて市で競売される。
コンパニヤはこれの全権を統轄する責任を有し、ミゲル・ヴァスとアルメイダが専任の財務担当に就いている。カブラルは逐一それを監督しており、ことサリートリなどの転売などには目を光らせているらしい。
この件については、フナイへ着任したレイモンとゴンサロの両パードレから、異議が唱えられた。
「おかしいのでは?交易は、ポルトガル王室が全権を掌握しているはずです。
われらコンパニヤは聖職であり、商売への関与はそもそも戒律で禁じられている。
私たちの間でも、上陸してすぐに、これは大問題だと論争が起きました。
ヴィジタドールが来られれば、現在の日本布教区は金欲にまみれていると、厳しい裁定を下されるのではないかと思います。
パードレ・フロイス。あなたはどう考えられますか?」
ヴィジタドールとは、巡察師としてインディア管区の監査と指導を命じられて今年の来日組と共にエウロパからやって来た、パードレ・アレッサンドロ・ヴァリニャーノのことだ。
まだ40歳くらいだそうだが、ラウマの総長からも一目置かれている大人物で、28歳のレイモンは特に彼を尊敬している。心酔の域だ。
学識高く有能であることはもちろん、どんな相手にも慎重に礼儀正しく接し、深い慈しみをもって遇する。
たしかにカブラルとは正反対なところも、あるかもしれない。
しかし私は、ひとまず二人に言い聞かせた。
日本は戦乱に明け暮れる辺境の困難地であり、理想通りのやり方では生き抜いてゆけない。
メステレ・フランシスコ・シャヴィエルの開拓期、それからトルレス布教長の時代には、ただ耐えるしかない受難の日々に甘んじていた。
今は少し安定してきているからカブラルのような強い上長も必要であるし、我々も防御ばかりでなく撥ね返す力をつけねばならない段階だ。
ヴィジタドールが来られたら、カブラルがその旨を説明するだろう。そこで何らかの軌道修正も、ありうると思う。
だから今はひとまず、日本布教長であるパードレ・カブラルの方針に沿うことが正しいと認めるべきだ。
現に御主は我々を見ておられつつ、今の状態に御加護を下さっている。間違ってなどいないことは、明白である。
これで、いいだろうか。では各々の果たすべき役割に戻ってほしい。
すべては御主の導きのままに。アーメン。
出まかせを言ってみた。だが実際カブラルは商売に介入しすぎており、フナイにいてさえ黒い噂が聞こえてくる。
どうやら大規模な金融事業まで手掛けているらしい。
信徒となって長崎へ転居してきた者は、住処付きの仕事を見つけるか、自分で商売を始めなくてはならないが、当面は借金が必要だ。
ミヤコのレアンみたいな金貸しも、ナンガサキには大勢いる。
金貸し同士もいくつかの派閥を形成しているが、そのまま放置していたのでは抗争が勃発する。そこでカブラルが元締めとなり、それぞれに縄張りを守らせるという枠組がつくられている。
ミゼルコルヂヤに任せる場合もあるらしいが、そっちは穏当な互助会だから踏み倒しや逃亡で彼ら自身が借金を背負いやすい。カネの絡む話になると、用心棒とか、容赦なく取り立てを遂行できる体制というか人材は無くてはならぬものなのであろう。
ナンガサキはコンパニヤがつくった街だから、治安維持も経済振興も、我々が負うべき仕事だ。これも、トルレスの時代とは求められる性格が違うのである。
宣教師は説諭だけしていればよいわけではないのだ。
とはいえ、ここまで律儀に日本史で解説するものではない。
疲れた頭をほぐすため、外へ出て、伸びをした。
屋根に、一羽の鳥が止まっていた。
((( フロイス。
私の新しい友達だ。
どこか小陰で、休憩してもらえないか。)))
……ウルトラか。
君も随分と顔が広いんだな。どこに顔があるのか知らないが。
墓地のはずれに腰を下ろした。
鳥は、私の肩に止まった。
……でかい。
嘴で目を突かれたら、ひとたまりもないな。
鷹か。種類は、よくわからないが。
静かな、ときが流れた。
犬とも何を話しているのだかさっぱりわからなかったが、鷹だと、もっとわからない。
じっと、どこかを見つめているようだ。
やがて羽ばたいて、飛び去っていった。
((( ありがとう。
鳥の世界も、なかなか大変なようだ。
この付近に安全なねぐらを提供してあげられれば、よいのだが。)))
今のは、鷹かい?
カヅサ殿も、似たような鳥を、飼っていたような気がするが。
((( そうだね。誰かがオオタカと呼んでいた種類だと思う。
君は、カヅサ殿の鷹狩に同行したことは、ないよなあ。)))
ないね。あまり興味はなかった。
鷹に、兎や狸などを捕らせるんだろう?
そのくらいしか、知らないな。
((( 一度くらい、見ておいてもよかったかなと思ってね。
今後でも、機会があればだが。)))
ああ。いずれカヅサ殿がアキ国を平定すれば、その時にご一緒させてもらおう。
さっきの鷹も、加わりたいのかな?
君たちも、物好きだなあ。