戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1577/010.hmos

イルマン・アルメイダが、サツマ国へ派遣されたと聞いた。

 

諸聖人の祝日にミサを終えたあと、私はフナイを発ち、そこへ向かう。

理由はいろいろあるが、会いたかったのだ。ミヤコで別れて以来である。つもる話も、たっぷりしたい。

願わくば、私が日本の地を踏んだあの頃の感情を思い出すきっかけを、つかみたい。

 

イルマン・ミゲル・ヴァスが一緒らしい。それも大きな原動力だ。

ミゲルは私に憧れて、コンパニヤへの入会を志願した。

今も私を英雄だと思ってくれているだろうか。恥ずかしいので自分からは言わないけれども、おだてて讃えてくれたりするなら、私は大いなる自信を取り戻せるだろう。

ま、それは、あまり期待しないでおくことにしておきたいものだなあ。

 

ヒュウガ国で何度か乗り継ぎながら、舟はカゴシマへ着いた。

サツマ王の城を訪れ、宣教師が宿泊している邸へと案内される。

アルメイダたちは歓迎してくれた。

ミゲルは落ち着いた中年になっており、礼儀正しく、私への感謝を述べてくれた。

やんちゃな船乗りだった昔の面影は消え失せており、頼もしいが、少し切ない。

この15年は日本布教区の財務担当に就いていた。はじめはアルメイダを補佐する立場だったが、アルメイダが老齢になったので、徐々にミゲルが主たる担当となった。

今年、大量の会士が来日したことで、人事にも大変更が生じた。

ミゲルも重責から離れる余裕ができたので、アルメイダがサツマへの旅に同行させたという流れだ。

 

「財務担当は、カブラルの裏金作りをすべて知り得る立場にあるからな。もっと、ものわかりのいい会士に専属させたいのだろう。

今年来たイルマンで、言われた仕事をただ黙々とこなすしか能のなさそうな坊やが一人いる。この子を、カブラル自身で仕込んでいるようだが。

さあ、使いものになるかどうかな」

 

50歳を過ぎ白髪もほとんど抜け落ちたアルメイダは、商売人の才覚で、日本で長年領主たちとの交渉役を務めてきた貫禄を漲らせつつビシバシと核心をえぐる。

 

「パードレにも1名、カブラルが特に目をつけた小利巧な適格者がいるんだが。どうやら病気を装させて今年の復便でアマカウへ戻らせ、そっちで財務担当に就かせるような工作もしているようだ。

気味のよいほどやりたい放題。

カブラルには、日本では怖いものなど無いからな」

 

バルタザールとミゲルが、自分たちは関わりたくない話題ですからと慣れた調子で先に就寝する。なるほど。

アルメイダって、いつもこんな調子なんだろうな。よっぽどカブラルが気にくわないらしい。

私が内通者だったらどうするつもりなんだろう。構わないさってか?

まあ、アルメイダにはそういう強さが、たしかにある。昔より偏屈なジジイに成長して、頼もしい限りだ。

 

ついでだからカブラルについて、もっと探ろう。

権力とカネを手にしたカブラルは、日本におけるコンパニヤの版図を着実に伸張している。

そのこと自体は立派な業績だし、これに代われる人物がいない以上、多少はぶつくさ言いながらでも組織員として我らは彼に歩調を合わせ、この波に乗るべきではありませんか。

それとも、なにか不都合でも生じますか?

 

「フン。パードレ・フロイスは、日和見のよくできるいい子ちゃんだな。ちっとも変わっとらん。

いいさ。おまえにはわからん」

 

ああ。ヘソ曲げられてしまった。

面倒くさいおじいちゃんだなあ。

 

ところで……サツマには、まだ、我々の教会は、無いんですよね?

今回の派遣は、どういった目的で、なんですか?

 

「サツマ王からの依頼だ。布教を許すから、サツマへもナウを寄越して交易をさせろとさ。

20年前からずっとそればかり言ってきて、その都度儂が来て家臣どもに説教するが、主君に命じられて来ているだけだからちっとも身につかん。

こんな連中は一回甘い汁を吸わせると、尊大になっていくからな。簡単に許可を与えてはならんのだ。

フィラド、ゴトウ、サツマ。シモの西側で、以前はチイナとの交易で栄えていた地方には、損得だけのこういった傾向が特に強い」

 

20年前というと、私が来日するより前ですね。

その頃にもここへ来てたんですか。アルメイダ。

実はですね。今、私は日本史決定版を執筆中なんですが。

サツマといえば、49年にメステレ・フランシスコ・シャヴィエルが、トルレスやフェルナンデスと共に日本初上陸を果たした記念すべき聖地なのです。

カブラルからは1年の猶予を与えられたのですが、全部書くのは無理だなと、すぐにあきらめまして。

で、ひとまずメステレがマラカで日本の漂流者を見つけたところから、52年にサン・ジョアン島で天に召されるまでを第1部として完成させ、第2部、第3部と、1年おきに仕上げていくならできそうだなと、構成を立てました。

それでサツマへ一度、来て見て回ってみたかったんです。

メステレの上陸した地点で土民たちに話を聞けるなら、是非、証言を集めたいなとも思っています。

そして第2部以降になるところではありますけど、イルマン・アルメイダにも、来日した頃の苦労話や日本で戦ってきた思い出の数々をお聞きしたい。

そう思って、やって参りました。

 

「……いま、1577年だぞ?

いったい日本史に何年かけるつもりだ。おまえ、気は確かなのか。

それからな。サツマ王は、まだ領内の住民への布教は認めておらん。怪しまれるような取材など、やめておけ。

実際、今もサツマの官吏は儂らを監視して、自分たちの国益に反する行為を発見すれば即、捕縛して尋問を行う気満々だ。やつらがそういう姿勢で居続ける限り、サツマに定航船をよこさせるわけにはいかんのだ」

 

あらあ。

いきなり出鼻をくじかれるとは思わなかった。

仕方ない。アルメイダたちからの話を聞くだけで、今回は帰るか。

 

ちなみに、アルメイダの初来日は52年。

イルマンになったのは、55年。

そして、私が上陸したのは63年である。

……たしかに、日本史完結までの道のりは、はるか先かな。言われてみると。

 

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